軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百三話 神竜で行こう

◎ゴルディオスの街 商業区

「ば……かな……」

そう口にしながらジドーがその場に崩れ落ちていく。

ゴルディオスの街の人々が賑わう商業区で始まった争いは、瞬く間に終結していた。

周囲でおっかなびっくり見ていた者たちも、倒したのが白き一団のジンライだと理解すると一斉に歓声を挙げ始めた。何しろ、常日頃から恐れられている白き一団の中でもジンライという存在は唯一の良心として知られていてシップーと共にグッズ展開もされている、言わば街のヒーローだ。

それがシップーに乗りながらまるで演舞のようにバッタバッタと敵をなぎ倒す様は、彼らの目にはまるで英雄のようにも映っていた。猫騎士ジンライの名が、よりいっそう彼らの中に刻まれた瞬間であった。

『余らの出番がないの』

メフィルスが呆れ顔になっている。

勝負を挑まれたジンライがまず行ったのはジドーとの決闘ではなく、周囲にいた竜牙衆の戦士たちの排除であった。シップーに乗り、風のように駆け抜けて情け容赦なく打ち倒し、それを追ってきたジドーもわずかに打ち合っただけで、すぐさまジンライによって地べたへと這わされた。メフィルスたちが動くことなく、一切合切をジンライが片付けてしまったのだ。

(とはいえ、出番があったとしても周囲の被害は抑えられんかったか……)

メフィルスは周囲を見ながらそう考える。

例え竜牙衆だけであっても、メフィルスたちだけでは対抗するのは難しかっただろう。

エミリィとレームの戦闘力がない今、メフィルスはまだしも、他の 炎の騎士(フレイムナイト) たちでは竜牙衆の相手をするほどの技量は持ち合わせていない。このまま混戦にでもなれば、ティアラたちの身の安全の確保は難しかっただろうというのがメフィルスの想定であった。

だからこそ、ジンライは最初に周囲の排除を優先したのだが、それにしても早すぎた。それは人並みの才能と身体能力しかなかったジンライが、相手の力を利用して打ち払うカウンター使いとして研鑽し続けた故に可能だったことだった。

(ま、それにしてもという気がするがの)

目の前の男は明らかに強過ぎる。その上にシップーと言う機動力を手に入れてからは手に負えなくなっている。だからこそ、そのジンライを唖然として見ているジドーには、メフィルスも若干の哀れみを感じざるを得なかった。

「なんという強さか。あの槍聖王ライノクスにも勝るとも劣らぬほどに……ここまでの相手であったとは」

そして、全身を打ち据えられ、その腕も突かれてほとんど動かなくなった身体をどうにか槍で支えながらジドーはジンライを見た。

「ふん。ドラゴンなどとばかり戦ってるから、そうなるのだ。人とやれい。人とな」

「な、なる……ほど」

ジドーがジンライの言葉に呟き、ふらつきながら、その場に倒れた。その姿を見て、確実に意識を断ったと確信したジンライが周囲を見回す。

「さて、むぅ」

この場に敵対する存在はもういない。であれば、どうするか……とジンライが視線を向けた先、冒険者ギルド事務所のある方角からは白い輝きが満ち溢れていた。

「なるほど。『アレ』になったか。竜牙衆、それほどのものであったということか」

その輝きをジンライは知っている。すでに何度か早朝訓練で見ていて、実際にジンライも戦ってもいた。だからこそ、その実力をジンライは知っている。

「ふむ。間に合えば良いがな。メフィルス様、この場はお願いしてもよろしいですか?」

『まあ、捕らえて護衛団にでも渡しておくだけだから問題はないが……どちらに行くのだ?』

メフィルスが問う。この場以外で起きている戦闘は二ヶ所ある。その言葉にジンライは「白の館に」と返した。

「冒険者ギルドのアレはカザネたちでしょう。アレで挑むのであれば、あの場はもう問題ないということ。アレが白の館に向かうのであれば、やはり敵は白の館にいるということ。どちらにせよ、ワシが向かう場所はひとつです」

そう言ってジンライが白の館へと視線を向けた。

「ジンライさん」

そしてティアラが慌てて背後から声をかける。それに振り向いたジンライに、

「ご武運を」

とティアラは声をかけ、他の仲間たちも頷いた。それにジンライも深く頷き返すと、再び白の館へと視線を向けからシップーの頭を撫でた。

「ではっ、行くぞシップー」

「なーー!」

ティアラたちの前でジンライの乗ったシップーが駆けていく。その速度はまさしく疾風の如し。ゴルディアスの街はそれなりに広いが、シップーの足ならば目的地に到達するのはそうかかるものではなかった。

◎ゴルディオスの街 冒険者ギルド事務所 訓練場

そして、トールと直樹がその存在を確認し、ジンライが白の館に向かった時、すでにドラゴンたちと冒険者の戦場となっている冒険者ギルド事務所の後ろ手にある訓練場では、巨大なドラゴンが顕現していた。

『すごいです母上』

タツヨシくんツインソードの中からタツオがそう口にする。

そこにいるのは、二十メートルを超え、水晶の鎧を纏った青きドラゴンだ。伸ばした水晶角は以前に比べ肥大化しており、その内部には真白い神力の輝きが灯っていた。

そして、右手には竜族専用の召喚剣『黄金の黄昏』が握られているが、放たれる輝きはいつものものと違っている。それは、この『黄金の黄昏』が龍神の大剣を核として召喚したためで、刃から発せられるのは黄金の輝きのみならず、神力の白き輝きも混じっていた。

また、反対の左手に握られているのは、龍神刀『雷火』と融合し刃身一体化した弓花が変化したもの。新たなる姿となった麒麟の神刀『 雷火・弓花(らいかゆみか) 』なる巨大な刀だ。

二振りの刃から供給される神力を受けながら、巨大なドラゴンは黄金の翼をはためかせて空へと舞い上がった。

その頭部には竜騎士の如く水晶角を掴まえて乗っているタツヨシくんツインソードの姿があった。もっとも、その身から黒炎の漆黒の装甲はすでに剥がれ、本来の宝石装甲が姿を現していた。

そして浮かび上がるドラゴンの姿に、冒険者ギルド事務所前で暴れていたドラゴンや、対峙していた冒険者たちが驚きの顔で見上げていたが、風音ドラゴン、改め風音ゴッドドラゴンはそれに見向きもせずに白の館へと己の身を向けていく。

龍神の大剣と麒麟の神刀を得て、さらに友情タッグによる強化を施すことで、風音ドラゴンは神竜化に成功していた。それはぶっつけ本番で出したものではなく、何度か訓練を行い、完成のプロセスを構築したものだ。

アモリアの王都での反省を生かし、街中でドラゴンと対峙するためにはこの形態となることが風音たちにとっては必須条件であった。

『弓花。分かる?』

『うん、いるね。私たちとクロフェさん……以外の神竜の存在を感じる』

ポウッと風音ゴッドドラゴンの横に精神体の弓花が浮かんで口を開いた。その姿をタツオが不思議そうに首を傾げて見ながら、くわっと鳴いて尋ねた。

『ユミカ、なぜ裸なんですか?』

『え、嘘? なんで?』

その言葉に弓花が驚きの顔で己の姿を見た。光り輝き、半透明ではあるが、確かに弓花は全裸であった。

またその姿が見えているのはタツオだけではないようで、下の戦っている冒険者たちから「オォォオオオオオ」という声が上がってきた。

『お約束だねえ』

『じょ、冗談じゃないわよ。見られて……いや、やだ。ちょっと。えと、こ、こうかー』

慌てた弓花がイメージを固めると、フリフリの服を着た格好にその身が変化した。どうやらイメージを固めて服を着た姿に変えたようである。

「ざっけんな。もっとパーッと股開かねえと見えねえだろ。あ、パンツー。パンツはー見えたかー?」

下から下品な声が聞こえてきた。その声の主はギャオであった。ギャオは目も良いのだが、どうやら肝心の部分は見えなかったようだった。その声を聞きつつ弓花がプルプル震えながらギャオを指差す。

『風音、あれを燃やして。今すぐ』

『いや、今撃ったら周りの人も巻き込んじゃうから』

風音がそう口にしてから、ギャーギャーとわめく弓花を無視して視線を再度白の館へと向けた。

『殺気の混じった視線を感じる。さっさと行かないと飛びだしてきちゃうかも』

『あーもう。最悪。けど、グズグズしてらんないわね。風音、アレは後でブン殴るとして今は行くわよ』

涙目の弓花精神体の言葉に風音ゴッドドラゴンが頷き、黄金の翼をはためかせる。そして、白き輝きの軌跡を残して巨大な竜が街の上空を横断していった。