軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百二話 出撃をしよう

直樹が呆気にとられた顔で目の前の光景を見ていた。

そこには直樹を庇って、ライアンの竜滅の大剣を代わりに受けているトールの姿があった。

「あんた、なんで?」

トールはジンライを陥れて殺そうとした男だ。ただその一点だけでも直樹にとっては心の許せる相手ではなかった。そのトールが今、直樹に代わって斬られて、肩から血を噴き出していた。

「ふふふ。ちょっとした……点数稼ぎ、ですよっと」

そう言ってトールの腕がムカデのようなものに変化し、ライアンに向けて振るわれる。

「チッ」

それをライアンが後ろへと跳んで避けた。そのまま神滅の大剣の落ちている場所まで下がると、大剣を蹴り上げて掴み、再び両手に大剣を持って構える。それからトールを見て笑った。

「まさかの再会だが……お前が人助けとはな。似合わないぞトール」

「まったくですが……こちらも直樹くんを殺されては風音さんに合わせる顔がありませんので。あなたとは敵対させていただきますよ」

トールがそう口にして、ライアンは風音の名に眉をひそめる。その反応にトールが笑みを浮かべるが、そこまでであったようである。そのまま血を吐き出しながらトールの身体が崩れ落ちた。

「トールさん!?」

そこにやはりかなりのダメージを負っている直樹が這うように駆け寄って、トールの身体を支える。その様子を見ながらライアンが「キメラ種の弱点だな」と口にした。

「取り込んだ魔物の弱い部分も吸収するのだから、弱点も増えていく。強くなるたびに弱みも増えていくのだからお前も大変だな」

「トールさん。大丈夫なのか?」

直樹の言葉に、トールが弱々しく笑う。

「大丈夫とは言い難いですが、それよりもライアンから目を離さないでください。あれはまだ本来の力を出していません」

その言葉に直樹が目を見開くが、ライアンの方はすでに戦力としての頭数から外れた直樹とトールへの興味をなくしたのか、視線を別のところに向けた。そして、舌打ちしながら忌々しそうに呟く。

「お前も邪魔をするのかオロチ」

そのライアンの言葉の通り、視線の先にはオロチがいた。クロフェとアンテたちの間で、己の武器である雷神の双鉄球を持ってオロチは仁王立ちしていた。その姿を見てアンテが驚きの声を上げる。

「あなたは、チェインマン……オロチ」

チェインマン、あるいはチェーンマスターはオロチのふたつ名だ。その言葉にオロチが目を細めながら口を開く。

「どうも。同じ竜狩りの一員だ。こちらもあなたのお名前は聞かされているアンテ。ドラゴンイーターを取り込んだキメラ種であるとまでは知らなかったがね。しかし、考えたものだ。そちらの人化したドラゴンもあなたの支配下にあるということか?」

その言葉にアンテが眉間にしわを寄せて、空竜ふたりを前に立たせる。その周囲に竜牙衆の戦士たちも囲んでいる。

その様子を見て、この場においてもっとも問題なのはライアンではなくアンテであろうとオロチは感じた。

「であれば、どうすると?」

そして警戒心を露わにするアンテに対して、オロチは鉄球を構えながら後ろのクロフェへと視線を向けた。突き刺さった竜楔の黒杭はすでに起動していて、このまますぐには抜けそうもない。

そもそもが竜楔の黒杭というアイテムは、竜狩りにとっては竜種に対しての切り札とされているものだ。本来成竜でも上位のドラゴンに一刺し使うか否かという代物で、現時点においてオロチもそれを抜くすべを持たない。

それは同時に、離れた位置で倒れているアカにしても対処できるすべがないということでもあった。

「すみませんクロフェ様。今は耐えていただくしかありません。ここは俺と……」

そう言ってオロチが上を見上げた。その視線の先をクロフェが、そしてアンテも見た。白の館の屋根の上にはオロチとトールをここまで連れてきた金毛の魔獣が立っていたのだ。

「あいつが護りますので」

『ユッコネエか……ふふ、我が嫁だけはあるな』

獰猛な表情で眼下を睨むそれはユッコネエであった。

ここまで気付かれなかったのは、スキル『インビジブルナイツ』でここまで姿を隠していたためだろう。

だがアンテはともかく、ライアンの方はすでにその存在には気付いていた。凄まじい殺気が己に放たれていたのを感じていたのだ。それを察知できないほどライアンも鈍くはない。

「ユッコネエ。ありゃあ、ブチ切れてるな」

『 番(つがい) のクロフェ様をあそこまでいたぶられたのですから、仕方ありますまい』

離れた位置で、再生体ジーヴェと対峙しているライルとジン・バハルがそう言い合う。続けざまに黒剣を振るわれ、彼らは防戦一方となっていた。

再生体ジーヴェは強い。ふたりにしても、全力以上の力で挑んでギリギリというところで、残された体力ももうわずかであった。だが、次々と仲間たちが揃っていく状況に闘志が湧き、今は笑みを浮かべる余裕すらもできていた。

「にゃーーー!」

そしてユッコネエが咆哮しながら屋根を飛び降り、そのまま『毛根殺し』で己が体毛を抜きながら、黄金の高熱ブレスを吐いて全身に纏っていった。

「体毛が金の炎に変わった……だと?」

ライアンが若干見当外れな言葉を口にしたが、予想される状況は変わらない。黄金を纏う禿げ猫が中庭に降り立って、ライアンを睨みつけた。

「しかし、気配を隠す力があるならば不意打ちでもなんでもしてれば良いものを……ぬっ!?」

その次の瞬間には、ユッコネエの姿が消えた。ライアンの目が見開かれる。そして、先ほどの直樹を思い出した。

「また転移か? いや」

ライアンが気配を感じて剣を振るい、視界外から飛び出してきた一撃を受け流す。

「にゃっ!」

「速い! くっ!?」

攻撃を流されて跳び去ったユッコネエが地面に着地すると、すぐさまUターンして再びライアンへと攻撃を仕掛けていく。

そのゼンラー率100パーセントの『最速ゼンラー』による驚異的な速度にはさすがにライアンも付いていけない。完全に防戦にならざるを得ず、また受け流せても高熱ガスブレスの影響によりその身が灼かれ続けていた。

「にゃぁあああああ!!」

「なるほど、強い。だが」

ライアンがウェストバッグから何かを取り出して、その場に投げつけた。それが空中で一気に広がると、飛びかかるユッコネエが絡まった。それは捕縛用の鎖網だ。そしてユッコネエは全身を鎖に絡め捕られながら地面を転げていく。

「にゃぁあああああっ!」

だがユッコネエもただ巻き付かれているだけではない。スキル『竜体化』のブレス発生により、猫の身で黄金の高熱ガスブレスを吐き出し鎖を溶かし始めた。

それにはライアンも驚きながらも駆け出していく。

「ドラゴンのブレスも耐える鎖を溶かそうというのか。だがな」

ライアンが突撃し、鎖を溶かしきってライアンへと飛び出したユッコネエへと剣を振るった。

「ぎにゃああっ!?」

そしてユッコネエが悲鳴を上げて、吹き飛ばされる。

「速ければ、それを利用すれば良いだけのこと。直線で来るのならば、そこに剣を振るえばよいのだ」

「ユッコネエ!?」

直樹がユッコネエを助けようと立ち上がろうとして、それをトールが身体を震わしながら「待ちなさい」と止めた。

「なんでだ?」

「あなたの……ダメージも相当なものだ。今はあの猫に任せ……るんですよ。正直に言って……あの猫は召喚獣だ。あれが倒されても復活はできますが……あなたは違う」

そう口にするトールの顔はかなり青ざめていた。

それを見ながら直樹は英霊フーネを召喚すべきかと考えていた。

直樹たちは、そもそもが風音からの緊急メールの指示により急遽訓練場から転移で戻ってきていた。実はアダミノくんも一緒に戻ってきていて屋上ラウンジにいるのだが、転移による魔力不足で今は待機中となっている。

そしてメールでの指示は風音と弓花の準備が整うまでの時間稼ぎであった。

一方で実際に対峙したライアンの実力は直樹たちの予想以上。その上にまだドラゴンを人化させたまま控えさせている。

(今、フーネを出せば……後で何かあったときに呼び出せないか)

今ここでサポートとして英霊フーネを呼んでも、直樹たちには成竜クラスのドラゴンを倒すすべがない。だからこそ彼らに求められたのはクロフェたちの救出と時間稼ぎであったのだ。

そして、その後の風音たちの戦闘を考えれば、英霊フーネは温存させておくのが正解だ。だが、今この場で自分の代わりに死にかけている男を救うためならば……と直樹が英霊召喚の指輪を見たとき、トールが口を開いた。

「ああ、あなたのお姉さんがきますね」

その言葉に直樹の目が見開かれる。

「私、キメラなのでそれなりに感覚が鋭敏なんですがね。なるほど、隠し玉……ですか。これは恐ろしいものを用意したものだ」

そう言ってトールが冒険者ギルド事務所のある街の中央へと視線を向けると、釣られてて直樹の顔もそちらに向けられた。

そして、直樹の瞳に街の中から白き光の柱が天へと伸びている姿が映し出されたのだ。それはタツオの水晶角や、龍神の大剣、麒麟化弓花から発せられていたものと同じ神力の輝きであった。