軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百一話 反撃に出よう

ドクロ魔人となった直樹が、周囲を見回す。

白の館の中庭は今や散々たる有様だ。ドラゴンになりかけているアカが黒い杭に串刺しにされていて、クロフェもまたドラゴンの姿ではあったが、アカと同じ黒い杭を何本も突き刺されて倒れている。

そしてライルが吹き飛ばした戦士たちはすでに起きあがっていて、人化した空竜ふたりにライアンと黒い男、それにドラゴンイーターの臭いを放つ女が直樹たちを警戒した顔で見ていた。それらに視線を外さないようにしながら、直樹がソルを優しく撫でながら声をかける。

『ソル、少し待っててくれるか? ちょちょいと片付けてクロフェさんもすぐ助けてきてやるからさ』

「にゃー」

そのソルの鳴き声を聞いた直樹は、狂骨の闇魔王剣エクスの柄に付いた 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) に力を込めると、ソルをその場から短距離転移させた。

「お前。幼竜をどこへやった?」

睨みつける女に、直樹が目を細めて睨み返す。

『お前たちの手の届かない遠くへ……だよ』

実際の転移先は、白の館の地下にあるグレートキャットカテドラル内部。つまりは真下の空間だ。だが、ライアンたちはその建物の存在を知らない。また、唐突に直樹たちが出現したことも含めてライアンたちは目の前のドクロ魔人こそがポータルを生み出した転移魔術の使い手であろうと判断し、ソルがすでにこの付近にはいないという言葉も一応信じたようだった。

「アンテ。それをクロフェたちに近付けるな。場合によっては逃げられるかもしれん」

「はい」

ライアンにアンテと呼ばれた女が、ドクロ魔人化直樹と、直樹の前にいるライルを睨みつけながら頷いた。その視線を感じながらライルが直樹に尋ねる。

「で、ナオキ。どうする?」

『ソルを救助できたのは運が良かったが……やることは変わらないな。まずはクロフェさんとアカさんの安全確保だ。そのためにライル、頼むぞ』

直樹の言葉にライルが「応ッ」と返し、ジーヴェの槍をライアンへと構えた。

「ふん。ハイヴァーン次期大公ライル・バーンズか。お前も討伐リストに入っているぞ。こちらとしては手間が省けたというものだ」

「やってみろよ。行くぞ。ジーヴェ!」

『ォォオオッ!』

ライルの怒声に応えてジーヴェの槍が唸りを上げる。そしてライルが竜気を発すると、装着している鎧がそれを吸収し、変異し始める。それはバキバキと金属音を鳴らしながら、ライルの全身を覆っていったのだ。

「なるほど、より蜥蜴の姿に近付けるか。人の姿のままでは殺すのも躊躇われるからな。ありがたいぞ」

そう言ってライアンが笑う。

そしてライアンの言葉通りに、ライルの鎧はよりドラゴンに近しい姿へと変化していた。その頭部を竜頭の形をした兜が覆い、翼と尾が生えて、それらはライルの意志によって自在に動いていた。

それはライルが、己の余りある竜気を扱うためにはどうしたら良いかと考えて出した結論だった。

ヒントはこれまでにもあったのだ。風音の鬼皇の竜鎧や弓花の神狼の甲冑、直樹の狂骨の王衣や竜気を注がれたことで 竜骨騎士(ドラゴンスカルナイト) へと変化したジン・バハルの姿など。

ライルは人型のドラゴンとでも言うべき存在だが、その肉体は小さく、鱗もなく、己の強大な力を扱うのに適した身体ではなかった。どれだけのパワーを秘めていようとも、その蛇口が小さければ力を存分に奮えないのは当然だった。

であればどうするか。その答えがジーヴェの鎧を使うことであった。それこそが肉体に宿すには大きすぎる竜気を代わりに受け入れるに足る器であったのだ。

「竜騎士ライル・ジーヴェ・バーンズ。推して参る」

弾丸のように竜装化したライルが駆けていく。

放つのは突撃技『竜閃』ではなく、竜気をさらに研ぎ澄ました竜騎士槍術『竜牙』。

操作しきれない竜気を鎧に宿し、ジーヴェの魂と連携してその制御を行うことでコントロールも可能となった。

そして、そのまま一直線にライルがライアンへと突き進み、その姿を見たライアンが笑いながら口を開く。

「なるほど、そちらもジーヴェか。ならばお前が構ってやれジーヴェ」

「ッォオオオオオオオンッ」

その言葉に反応して黒い男が躍り出て、突撃したライルへと黒剣を振るって激突し、その場でライルの突進が止まった。

「止められた……だって?」

そして、完全に押し止められたことにライルが驚愕する。それからライルは対峙する黒い男の顔を見て、それがアカに似ていることにも驚きをあらわにする。

「こいつ、まさか」

姿だけではない。竜気の質までもがアカや、そして自分に近いのだ。その事実を把握したジーヴェの槍が結論を口にした。

『なるほど、我の原型同様の再生体か。どこのダンジョンで捕獲したかは知らぬが、どうやら我はよほど使い勝手が良いと見られているようだな』

「そういうことかっ。にしてもだ」

再生体ジーヴェが黒剣を振るい、ライルの槍が弾かれる。その圧倒的なパワーにライルは2メートルは弾き飛ばされたが、そのまま着地して再生体ジーヴェへと再び構えた。アカを倒したほどの相手だ。いかにライルがパワーアップしようと膂力においてまだ及ばないのは、今のやり取りからだけでも把握できていた。

「だけどなッ!」

もっともライルはひとりではない。すぐさま駆けだして、再度再生体ジーヴェと打ち合うとライルが叫ぶ。

「ジンさん、頼む」

『行きますぞ!』

そのやり取りにはさしもの再生体ジーヴェも第三者の存在に気付いた。白の館の入り口から飛び出る気配を感じたのだ。

だが、今度はライルもガッチリとその場に留まって、再生体ジーヴェをその場に押さえつける。

『喰らえぃ!』

そこに放たれるのはライルと同じ技、竜騎士槍術『竜牙』。 竜骨騎士(ドラゴンスカルナイト) ジン・バハルの強烈な一撃が再生体ジーヴェの脇腹を貫いた。

「骸骨の騎士か。まったく楽しませてくれるが、手間取り過ぎだな」

そのライルたちの様子を見ながら、ライアンがクロフェの前で大剣を振り上げる。

『させるかよ』

「お前たち。ライアン様の邪魔をさせるな」

ドクロ魔人化直樹が駆け出し、それを見てアンテが空竜たちを直樹とライアンとの間に割り込ませる。もっとも、それで直樹を止められるかと言えば否であった。

「な、消えた?」

直後にドクロ魔人の姿が消え、アンテが驚きをあらわにする。そして、その次の瞬間に闇の魔人はライアンの後ろに現れたのだ。

「速い? いや、今のは」

ライアンは舌打ちしながら、クロフェへと振るおうとした剣の軌道を強引に曲げて直樹へと向けた。

『効くかよ』

その攻撃を直樹はそのまま『すり抜けて』、一歩前に出てバツの字斬りでライアンの身体を切り裂く。

「ぐぉっ!?」

『チッ、再生が』

ライアンの鎧の一部が破壊されて血が吹き出した。一方で、直樹の方も切り裂かれた部位の再生が追いついてはいないようだった。

ライアンの持っているのは神滅の大剣と竜滅の大剣。どちらもそれぞれの力を持った存在に特化した剣ではあるが、それでも魔剣の類はアストラル体にもダメージを通すのだ。

『だが、耐えられないほどではないッ』

直樹は苦しい顔をしながらも、そう言って再び剣を振るってライアンと打ち合う。

「闇の精霊? まさか、あのナーガと子を為した淫売の新たなる使い魔か?」

『テメェ、殺す!』

ライアンの言葉に直樹の中で何かが切れ、魔剣を変化させた飛竜が舞い、直樹はそれらをも操りながらライアンと戦い続ける。

そして、直樹とライルがそれぞれに肉薄して敵と戦っているために、その場にいるアンテたちは迂闊に手が出せないでもいた。その様子を見たライアンが、直樹と打ち合いながらも声を張り上げる。

「何をしているアンテ。他のメンバーが来る前にクロフェを仕留めろ」

「は……はい。ただいま」

その指示に、アンテが戦士と空竜を連れてクロフェの元へ向かい始めた。それを見た直樹の焦りを感じたのか、ライアンの口元がつり上がる。

『させるかよ』

「ソレはこちらのセリフだ」

直樹がライアンから一瞬離れたと同時に、短距離転移を行った。その行き先はアンテたちの元だ。同時にライアンが剣を投げる。

『なっ!?』

そして、転移した直樹の背に神滅の剣が突き刺さった。そのまま剣はドクロ魔人の身体を突き抜けて地面に落ちたが、直樹の受けたダメージは大きく、アンテたちにたどり着けず、その場に崩れ落ちた。

『な、なんで……転移先が分かったんだ?』

「そりゃあチョイチョイと力の一端を見せられたからな。経験の差だ。お前程度の動きを読むことなど容易いんだよ」

その言葉を聞きながら、ドクロ魔人化が解けた直樹がその場で膝を突いた。さすがに限界であったのだ。

「クッ、ソ……姉貴に頼まれたんだ。俺は……こんなところで」

薄れる直樹の視界には、アンテたちがクロフェに近付き、また再生体ジーヴェがライルとジン・バハルを押さえている姿が見えた。

それらを見ながら、なおも立ち上がろうとする直樹にライアンがゆっくりと近付いて、竜滅の大剣を振り上げた。

「なるほど。人間が化けていただけか。ひとまず手足でも落としておくか」

そのままライアンの刃が直樹に落ちようとした次の瞬間である。何かが直樹へとぶつかって、その身体を吹き飛ばしたのだ。

「貴様……」

「あ、あんた!?」

そして、直樹が己がつい数秒前までいた場所へと視線を向けながら叫んだ。ライアンも驚きの顔でそれを見ている。そこには直樹の代わりに竜滅の大剣を受けて立っている男がいたのだ。

「ふ、ふふ。無事……のようですね」

その、肩口から竜滅の大剣に切り裂かれている男は、パーティドッグソルジャーのリーダーにして風音たちと同じプレイヤーのひとり、トールであった。