作品タイトル不明
第七百八十九話 竜体化を試そう
◎ミンシアナ王国領 名もなき草原
「スキル・竜体化!」
「にゃっにゃーーー!」
ゴルディオスの街よりかなり離れた草原に、ズシンとした地鳴りが響いた。
それは風音とユッコネエが竜となったために起きた揺れであった。
ダインス自由騎士団の救助を行いダンジョンより帰還した翌日、ゴルディオスの街よりかなり離れた場所へ転移でしての白き一団の早朝訓練の始まりは、風音とユッコネエの、スキルアップの効果の確認も含めた竜体化対決となっていた。
「また、でかくなったなぁ」
「15メートルくらいか? 見た目はそれほど変わってないみたいだけど」
『母上もユッコネエも凄いです』
ギャラリーから感嘆の声が漏れる。その場に出現したのは猛禽類の巨大な黄金翼を持つ青い水晶竜と、八尾の黄金の水晶竜であった。
そして、青竜である風音ドラゴンが『スキル・戦艦トンファー』を発動させると、その場で20メートルの戦艦二隻が現れた。風音ドラゴンは出現した戦艦のマストを握り、その場でビュンビュンと戦艦トンファーを振り回す。トンファー使いとしての才能こそないようではあったが、日々の訓練の成果により風音のトンファーさばきはそれなりの腕前となっていた。
なお、風音は『竜体化』のスキルレベルが5になったことで、変化後の姿が15メートル級の成竜とサイズアップし、さらにスキルセット数が四つに増えていた。
その中で風音がセットしたのは『直感』『マテリアルシールド』『猿の剛腕』『戦艦トンファー召喚』の四つ。未だドラゴン時の身長よりも大きな戦艦トンファーではあったが、スキル『猿の剛腕』の力を借りることで、風音は『戦艦トンファー』を本来の役割通りに使うことがついに可能となったのだ。
対してユッコネエも風音のスキルを使用しているために15メートル級への変化が可能となり、そのスキルセット数も同じではあったが、スキル構成は『身軽』『白金体化』『最速ゼンラー』『タイタンウェーブ』としていた。それは、猫であるときの機動力を再現すべくユッコネエが決めたスキルであった。
『いくよユッコネエ』
『にゃーーーー』
そして、両者が対峙する。
先に仕掛けたのは機動力の大きく上回るユッコネエドラゴンだ。水晶の外殻が鎧判定のためゼンラー率50パーセントではあるが、それでもなお『最速ゼンラー』の速度上昇効果は有効であり、その上に『白金体化』をかけることで全体の性能を上げ、 白金(プラチナ) 色に輝きながらユッコネエドラゴンは加速していく。
『にゃああああああ!』
ユッコネエドラゴンは、さらに加速しながら『タイタンウェーブ』を発動させることで、大地を疑似的に揺らし続けて相手の動きを鈍らせる戦法を取っていた。その上に 黄金の高熱ブレスを(ゴールド) 身に纏っての突撃(ブリット) をかけて敵を打ち倒すのが今のユッコネエドラゴンの必勝パターンだ。
『速いね。けど』
その戦法は確かに脅威ではあった。だが、それは地上を歩くことしかできない相手にのみ通用するものだ。
『甘っいーーー!』
風音ドラゴンが叫ぶ。そのまま風音ドラゴンは攻撃が届く前に 円錐(コーン) 型マテリアルシールドを張り、ユッコネエドラゴンの攻撃を逸らした。
『にゃっ?』
『隙あり』
その次の瞬間、無防備となったユッコネエドラゴンのわき腹に戦艦トンファーがぶち込まれる。
『ぎにゃーーーーーーーー!?』
対狂い鬼時には有効だった『タイタンウェーブ』も、風音には竜属性の『空中跳び』があるために意味はなかったのだ。
風音が踏み込むのは、揺れる地面ではなく空中であった。故に安定性を保ったまま戦艦トンファーを振るうことができ、そのまま繰り出される全長20メートルの戦艦トンファーの連撃に、最初の一撃を受けて速度を落とされた時点で、ユッコネエドラゴンはもう避けることができなかった。
「ほあっちゃーーー」
そのまま六度目のトンファーの打撃により、ユッコネエドラゴンは大地を転げて突っ伏し、そこにすぐさま接近した風音ドラゴンにのし掛かられる。
『にゃぁ!?』
『ストップ。これで終了だよ』
そして、風音ドラゴンがユッコネエドラゴンに戦艦トンファーを突きつけたところで勝敗は決したのであった。
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「プハーーー」
模擬戦終了後、ハチミツレモン水を飲みながら風音が息を吐いた。他のメンバーは風音たちの戦いが終わったために、すでに早朝訓練を開始している。それを見ながら風音は再びハチミチレモン水を飲んでいく。
「ユッコネエにカザネよ、お疲れさまなのじゃー」
「にゃー」
「ふにゃぁ」
そして、風音たちのそばにクロフェとソルがやってきた。
なお、ユッコネエは子供の前でボコボコにされたため、少しだけふてくされていた。とはいえ、にゃーにゃーと近付くソルに顔を背けてはいても一応尻尾を振るって応対はしているようである。
「またドラゴンの力が増したようなのじゃー」
「まーねー。ダンジョン内でも色々あったし。クロフェさんから見てどお? なんか気になることとかあった?」
風音が、本日の早朝訓練にクロフェを呼んだのは現役ドラゴンの視点での評価が聞きたかったためである。そして、その問いにクロフェが少しだけ目を細めながら答えた。
「そうなのじゃーな。今までよりも力が増した……という感じなぐらいではあるのじゃーが、あの龍神の大剣を使えば……」
それからクロフェは少しだけ黙って考えた後、言葉を続けた。
「今の竜体であれば、神竜に至るだけの器にはなっているやもしれんのじゃー」
それには風音も少しだけ驚いてから、なるほどと頷いた。
実のところ、神竜という区分は単純に成竜の上位というわけではない。黒岩竜ジーヴェのように神竜にならずともソレに近い力を有するドラゴンもいれば、タツオのように成竜どころか未だ幼竜であっても、神力を宿せれば区分としては神竜に該当することになる。
つまりは、必要なのは神力を持っているか否かなのだ。
「自らのものではないとしても短時間でも神力を扱えれば、或いは可能になるかもしれんのじゃー。まあ、どの程度の負荷になるかもわからぬ故に少しずつ試して見た方が良いと思うのじゃーがな」
その言葉にも、風音は素直に頷いた。
弓花の例もある。神力を扱う際には十分に注意せねばならぬことは風音にも分かっていることだった。
「それとその鎧なのじゃー。竜の心臓がはまっておるし、どうやらジーヴェの魂の一部も宿されておるようなのじゃー」
そのクロフェの言葉に、鎧が少しばかり赤く光って反応した。
「うん。昨日話した通り、魔生石を変化させて竜の心臓に変えたみたいだね。狂い鬼とは協力しあってないみたいだけど」
風音はそう言って苦笑した。
ダンジョンより戻った後に一度狂い鬼を召喚してみたのだが、竜の心臓からのエネルギー供給により狂い鬼のパワーがアップはしていたが、ジーヴェの出現はなかったのである。
「どうも鎧のこことここらへん……かな?」
「一方が黒くて、一方が赤黒いのじゃー」
「装甲ごとに分かれて暮らしてるみたいなんだよね。赤っぽいのがジーヴェ領ってところかな」
「なるほど、この暴れん坊め。最後の最後で童心に返ったというところなのじゃー」
「ん、どゆこと?」
クロフェの言葉に風音が首を傾げる。
「ジーヴェは、元は東の竜の里で生まれたドラゴンであったのじゃー。こやつがいた当時は人間との協力関係に入り始めた頃で……そのことで仲違いして、人と協力するドラゴンをも憎んでおったようなのじゃー」
「ああ、そういう経緯だったわけか。あれは……」
風音もその説明で、ようやくジーヴェのいまわの際の言葉の意味が理解できた。人間との協力関係は許せなくとも、神竜帝ナーガへの敬意は失われてはいなかったということなのだろうと。
「ふむ。ともあれ、ジーヴェは今は喚び出せんのじゃー。こやつは今、魔力体となった己の構成を変質させておるようなのじゃーからな」
「それが終わると召喚できるようになるの?」
「そうなのじゃー。もっとも、恐らくはその指輪と同じ要領で喚べるようになるのじゃー」
クロフェはそう言って風音の指にはまっている虹竜の指輪を指差した。
「旦那様と?」
風音の問いにクロフェが頷く。
「甘えったれのガキなのじゃーから、父親同然であったナーガに倣った形になりたいようなのじゃー」
「旦那様の子供同然!?」
風音が驚いているが、それは東の竜の里出身の多くのドラゴンにとって共通した思いであった。どれだけ生き方が違ったとしても、力には敬意を払うのが竜種の考えであるのだ。
「まあ、鎧のキャパの問題もあるのじゃーから、そうせざるを得ないということもあるのじゃーが、いずれ鎧がさらに進化をすれば、完全なる形で喚び出せるかもしれんのじゃー」
「うーん。進化っていってももうギリギリだとは思うけどね」
風音がそう言って己の鎧を見る。様々なモノを取り込み、今やこの鎧は風音以外では触ることもできないような恐るべきモノと化してきている。将来的にも風音に代わって着れる者など存在しようもないくらいに。
「ま、であるかもしれんが、どちらにせよしばらく待つのじゃー。まだ、たかだか一日なのじゃー。醸成するにはしばらくかかるのじゃーからなー」
「ふむ。了解」
そう言って風音は、再びグビッとハチミツレモン水を飲んだ。
これから街に戻れば、ダンジョンの後始末などの色々な問題と直面せざるを得ないことは確定している。だから、もう少しここでのんびりしていたいなーと逃避気味に思いながら、風音は仲間たちの訓練を眺めているのであった。