作品タイトル不明
第七百八十八話 ご褒美をもらおう
一閃。
英霊ジークの振るった龍神の剣はロクテンくん阿修羅王モードバーストを上回る斬撃で黒岩竜ジーヴェの首を切り裂き、ソレはそのまま宙を舞って地面へと落ちた。
「今度こそ、やった……かな?」
「二度目のやったはフラグにはならぬだろうからな。恐らくは」
そして、首を刎ねられたジーヴェの胴体が崩れ落ち、英霊ジークが大剣をさらに振るって血を飛ばして地面に突き刺した。それから英霊ジークが少しばかり目を細めながら、刎ね飛ばした首の方を見る。
「しぶといな」
英霊ジークの言葉に、その場に落ちていた首から笑い声が漏れる。
『くくく、誠に見事というべきか。なるほど、同じ剣を持ってはいたが……あの男と貴様は別人なのだな』
「ふん、そうか。で、まだやるか?」
鋭い目つきの英霊ジークに『無理であろうな』とジーヴェは口にする。
『さしもの我もこうなっては開けるのは口ぐらいよ。ソレももうじき終わるが……その前に……そこの小さき人間よ。ひとつ聞かせよ?』
その言葉に風音が「何?」と返す。
『お前……のその指輪。まさか、神竜帝ナーガを討ったのか?』
「いやいや、そんなことするわけないじゃない!」
ジーヴェの問いに風音が声を荒げるが、状況証拠的にジーヴェはそれ以外の可能性が考えられずに首を傾げた。
『その指輪、それに首飾りからは神竜帝ナーガの気配を感じる。その放たれる竜気の濃度を考えれば、それはあの方の核でしかありえない。であれば……』
「旦那様は今、別のコアを付けてるよ。壊れちゃって使えなくなったコアの方を私は加工してもらったんだよ」
その風音の言葉にジーヴェが『旦那様?』と眉をひそめたが、敬称のひとつだろうと考えて、納得した顔で頷いた。
『なるほどな。それはいい。小さき人間よ、名は何という?』
「ん……風音。由比浜風音だけど?」
『ではカザネよ。ひとつ、頼みがある。何、お前にとっても……損のない話だ』
「何?」
眉をひそめて警戒しながらの風音の問いに、ジーヴェは話を続ける。
『我を神竜帝と……共に戦うことを……許せ』
「どういうこと?」
ますます意味の分からないという顔の風音に、ジーヴェが弱々しく笑う。
『警戒はするな。ただ、我が幼き頃の夢を……思い出しただけのこと。それを叶えたいのだ。あの我らドラゴンの王と共に生きる選択肢を……手放した我が、再び……叶え……たいと』
「よくは分からないけど……」
「汝よ。決断は急げ。もう、まもなく命が尽きる」
背後からの英霊ジークの言葉に、風音はうなる。今この場で言われただけの言葉では、さしもの風音もどう判断して良いかは分からない。良しとは言えない。
『我は……』
そして風音が迷っているうちに、目の前のドラゴンの命の炎が消えた。
「あ」
「遅かったか」
風音と英霊ジークの前で黒岩竜ジーヴェの瞳が閉じ、ジークは首を横に振った。どうやら風音の決断は間に合わなかったようであった……と風音も英霊ジークも思ったときであった。
その首と、さらには倒れた巨体が赤い光となって消え始めた。
「消える? こいつ、召喚体だったの?」
「いや、無理に呼び寄せた結果だろう。その反動で構成が崩れ始めたのだろうが……む、気を付けよ汝よ」
「え、ええ?」
風音と英霊ジークの周囲を黒岩竜ジーヴェであった赤い光が集まっていく。そして、その光は風音の前へと集まり、ドラゴンの形へと変じた。
『誓うまでもなかったようだ。すでに我は汝に屈服し、従っている。我が名は黒岩竜ジーヴェ。そして、汝が名も黒岩竜ジーヴェ』
その言葉に風音の鬼皇の鎧が輝き反応し、それに応えるように赤い光は風音の周りを回りながら鎧の中へと吸収されていった。
「これは……鎧が変化して、魔生石が竜の心臓に?」
そして光がすべて吸収されると、風音が己の着込んだ鎧がさらに刺々しく、禍々しく、堅く変質していた。さらには胸部にあった魔生石が竜の心臓へと変わったことに風音は驚きを露わにし、またウィンドウが開いてレベルが上がったことにも驚きの目で見ていた。
「ふむ。戦闘用にと維持を考えずに造り上げたものであったが、消失せずに……そういう変化をするか」
そして唐突に風音の背後から声が聞こえた。それには風音が、英霊ジーク、ユッコネエ、狂い鬼が振り返って構える。
「カルラ王。また出てきたね」
スキル『犬の嗅覚』でも察知できなかったことから、たった今出現したのだろうと風音は考えながら警戒の視線を送る。だが、カルラ王は気にせずに言葉を続けていく。
「同質の魂で、受け入れあう意志あらば同化も可能ということだな。なるほど。面白いものが見れた」
そうにこやかに笑うカルラ王を、風音が訝しがりながらも尋ねる。
「えーと。もしかしてご褒美ってジーヴェを喚んでこの鎧に吸収させるのが褒美ってヤツ?」
その言葉にカルラ王は「え?」という顔をした後、少し考えてから「それもある」と頷いた。
実のところ、ここ最近の近辺でのダンジョンで出現した強力な魔物を検索してジーヴェが出てきたから使っただけ……などということは決してなかった。
そのカルラ王の反応に風音が首を傾げたが、カルラ王はコホンと咳払いをして足下を踏むと、そのカルラ王の足下を中心に周囲が揺れ始め、さらに地面が押し上がり始めたのである。
「上昇してる?」
「ああ、その通りだ。今我々は上へと上がっている。仲間の元へと戻りたいだろう? それと、これを見るが良い」
そう言ってカルラ王が足下を再び強く踏むと、上昇を続ける地面の中心から何かがせり上がって出現していく。それは中心に宝玉が埋め込まれた3メト-ルはあろう柱であり、その全貌が見えたところで、さらに柱の周囲に魔法陣が浮かび上がってきた。
「えっと、これは何?」
風音がそう口にする。もっとも、その魔法陣から風音はそれが何に使われるものなのかを大体推測はできていた。同一のモノではないが、近しいモノを風音は知っているし、何より己自身の手で造り上げていたのだから、それも当然ではあった。
「これは、お前の作ったものとは違う、かつて存在していた本物のポータルだ」
「やっぱり。冒険者が素材欲しさに壊しまくって、出なくなったっていう」
ダンジョンポータル。それは初期ダンジョンには存在していたが、素材を手に入れるために冒険者によってポータルが破壊され続け、最終的にダンジョンから配置が停止されたというものであった。
「お前が作り出したポータルの存在を認識したダンジョンが使用の許可を出したのだ。もっとも、かつてのように有象無象に取られぬようにこうして深い階層でしか使えぬようにはなっているがな」
「つまりは?」
「これを使えば地上には帰れるだろう。だが戻ってくることはできない」
カルラ王の説明に風音は「帰還用?」と尋ねる。その言葉にカルラ王は頷きながら、補足の言葉を告げる。
「現在はそうだな。だが八十、九十階層の扉が開ければ、その先に用意したポータルとも繋がるはずだ」
そしてカルラ王の言葉の終わりと共に上昇していた床が止まる。
「風音ぇえええ」
そこはどうやら緑光の壁があった入り口らしき場所の前だったらしく、弓花や直樹、それに騎士団たちがすぐさまその場に飛び込んできた。
「弓花、直樹!」
「姉貴、そいつから離れろ、そいつは姉貴とふたりきりになろうと画策している変態ヤロウだ。殺さなければいけない存在だ!」
その直樹の言葉にカルラ王は「やれやれ」と肩をすくめ、風音は顔を赤くしながら直樹に「うるさいよ」と叫んだ。
そして弓花と直樹、それにクロマルが風音とカルラ王の前に立って構え、その後ろにダインス自由騎士団が並び立つ。それから弓花がカルラ王への視線を逸らさずに風音に尋ねた。
「風音、これは何?」
「ポータルだってさ。これを使うと地上に帰れるらしいよ」
「じゃあ、これがカルラ王の言っていた褒美ってやつなの?」
弓花がそう口にして、直樹が「そういうことか」と頷いた。その言葉にはダインス自由騎士団の面々も「ォォオオ」と声を上げる。
英霊フーネによって体力こそ回復した彼らではあったが、このダンジョンの中で閉じこめられ続けていたことによるストレスも限界に近い。すぐさま帰れるのならば……という思いが強いようだった。
「いや……」
しかしカルラ王はダンジョンポータルの前まで歩いてから、柱の前に置いてある宝玉を手にとって風音に視線を向けた。
「褒美はこれだ」
それからカルラ王が宝玉を風音へと投げた。そして、その宝玉を受け取った風音が、それを眺めると途端に目の色が変わった。
「これはまさか!?」
「ふふふ、分かったか」
風音の反応にカルラ王が満足そうに笑う。
「そう温泉珠だ。ラジウム温泉の湯が出るタイプのな。今のお前は炭酸温泉、硫黄温泉、魔法温泉、塩化物泉を所有していると聞く。であれば、このラジウム温泉を加えることにより、そのレパートリーはさらに増えるのではないかな?」
恐ろしく得意げに言うカルラ王に、風音が「スゲーー」と声を上げている。だが弓花や直樹の反応は微妙であった。また、ダインス自由騎士団は意味が分からず、まったくついていけていない。
なお、炭酸温泉はゴルディオスの街で湧いている温泉で、硫黄温泉はアモリアで手に入れた温泉珠から出るもので、魔法温泉は風音魔法温泉街の温泉で、塩化物泉はオルドロックのカザネ双竜温泉のことであった。
「ここより下層には、さらに別の温泉珠がふたつ用意してある。ふふふ、お前がこれから手に入れるであろう温泉珠はいったいどのような湯が出てくるのであろうな。まったく、楽しみなことであろうカザネよ」
そう言ってカルラ王が笑いながら消えていく。
「カルラ王……まったく、こちらの望むものをよく熟知してるみたいだね」
してやられたぜ……という顔で風音はそう口にしたが、他のメンバーたちは「えええーー」という顔をしていた。
ともあれ、彼らはダンジョンポータルという帰還の手段を得た。
そして一行は、ひとまずはビル周辺の探索だけ行うと、それからすぐに転送によってダンジョンの入り口へと戻ったのであった。