軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百八十七話 全力でぶつかろう

『イッケェエエエエエエ!』

『グォォオ!?』

ロクテンくんの一撃がジーヴェを切り裂いた。

スキル『直感』によりジーヴェの一撃を避けた風音は、ロクテンくんに龍神の大剣を振るわせて、ジーヴェのわき腹を切り裂いたのだ。だがその感触は硬く、風音は顔をしかめた。

『小癪なッ』

『くっ!? 攻撃は通用する……けど、こちらのパワー不足か』

風音が切り裂いたわき腹が思ったほど深く傷ついてはいないことに気付いたところに、ジーヴェが叫びながら尾を振るった。

『危ないッ』

それを風音が 円錐(コーン) 型マテリアルシールドを使って逸らし、そのまま『ブースト』で一気に間合いを詰めながら、ジーヴェへ続けて攻撃を仕掛けていく。

『ぬぅ、全身が武器だとでもいうのか?』

両腕の大剣が一、背の刀が六、トンファーが二、足下の仕込み刀が二の併せて十一の同時攻撃がジーヴェを襲い、さしものジーヴェもそれらすべて避けることはできない。だがジーヴェにはそれを受けきる強固な鱗があった。

『しかし、手数だけか。温いわ貴様ッ!』

龍神の大剣こそ鱗を斬り裂けるが、それ以外の攻撃は数撃であればジーヴェは受けきれた。そして無数の傷を鱗に付けられ、また耐えきれずにいくつかの鱗を削りきられ、さらには大剣によっていくつもの傷を負ったジーヴェであったが、そんなことを意にも介さぬかのように力を込めた体当たりをロクテンくんへとぶつけていく。

『っ!?』

そして吹き飛んだロクテンくんが地面に激突し、その巨体が転げていく。

『うわぁあああ』

『死ねぃ、人間!』

そこにジーヴェが追撃をしようとするが、そのジーヴェの背に迫る気配が三つある。

「こちらも忘れてくれるなよ」

「グガァアアアアアッ!」

それは英霊ジークとネイキッド狂い鬼と、

「にゃぁあああ!」

毛なしの哀れな姿のユッコネエであった。

それはスキル『毛根殺し』と『最速ゼンラー』を併用したユッコネエの現時点での最強形態。元より高機動タイプであったユッコネエだが、100パーセントの『最速ゼンラー』効果によりもはや目では捉えられないほどの速度を発揮していた。

さらにその上に黄金の高熱ブレスを『竜体化』スキルで発生させ、己の身に纏ってジーヴェへと攻撃を仕掛けていく。

『ぬぅ、速い?』

その速度にはジーヴェも目を見開く。変化時のドラゴンとしての格はジーヴェに劣るユッコネエだが、黄金の高熱ブレスだけはジーヴェのソレを上回る威力であったのだ。故にゴールドバレットと名付けられたその突撃はジーヴェですらも防御せざるを得ないほどの火力を秘めていた。

一方で風音は、その光景を見て(ああ、毛をむしられた何かの丸焼きのようだね)と少しだけ思ったが、ユッコネエの名誉のためにもひとまずは口には出さなかった。

そして風音もロクテンくんを起こし、再びジーヴェへと向かっていく。それにより戦いは四対一となったが、体格差、防御力の差、回避率の違いによって双方ともに決定打が欠けた状況が続いていく。

(しっかし、硬い)

そうして続いていく戦いの中で、風音は眉をひそめながらジーヴェを見る。追加されるダメージの多くは英霊ジークの大翼の剣リーンとロクテンくんの龍神の大剣であったが、ネイキッド狂い鬼とユッコネエの攻撃も何度か繰り返すことで鱗をはがすことには成功していた。

一方で黒岩竜ジーヴェの攻撃は、英霊ジークにはほとんど通じず、ユッコネエと狂い鬼のネイキッドコンビの加速についていけてない。炎の一撃もそのほとんどを英霊ジークが天鏡の大盾で受けて止めている。

その流れからして必然的に、攻撃の多くは一番当たる確率の高いロクテンくんに集中していたのだが、風音はマテリアルシールドで受け流し、また攻撃を食らってもロクテンくんの防御力により、どうにか耐えていた。

つまり状況は黒岩竜ジーヴェが鱗と体力を削りきられるか、或いはロクテンくんから崩されていくかの構図となっていた。

(けど……ま、この分ならジークの召喚終了までに決着はつくかな)

そう考える風音の前では、ジーヴェは苛立ちを露わにしながらさらに攻撃を繰り出してくる。爪や角、牙、尾、それにブレスなどを次々と仕掛けるジーヴェではあったが、その手応えのなさに次第にストレスを溜めてきたのか、瞳の中の怒りの炎が満ちていった。

(鱗の隙間から炎が見えた。となると、そろそろか)

そして風音が『直感』で次の行動を予測し、英霊ジークと視線を交わす。同時にジーヴェが叫び声をあげて全身を赤く輝かせた。

『引き裂かれろ、虫どもがっ!』

『ジークッ!』

「応ともよ。天鏡の大盾『ゼガイ』よ、我らを守れ!」

次の瞬間には英霊ジークが一歩前に出て天鏡の大盾を発動させ、盾の表面に浮かぶ文様を肥大化させてジーヴェを覆っていく。

「包み込めぇえ!!」

それがジーヴェを覆い尽くすと同時に、ジーヴェの全身の鱗が周囲に放たれた。

『おっと』「にゃー」「うがぁっ」

以前のように放たれた鱗の攻撃のほとんどがその文様によって受け止められ、防御フィールドを抜けたいくつかの鱗がロクテンくんの鎧に突き刺さりこそしたものの、それは大したダメージではなく、『最速ゼンラー』の力で加速していたユッコネエと狂い鬼もそれらをすべて避けきっていた。

『問題はここからだね』

鱗の刺さったロクテンくんの動きに支障がないことを確認した風音は正面を見据える。

『ッォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

そして、黒煙の中からジーヴェが遠吠えと共に炎に包まれた姿で飛び出してきたのだ。ジーヴェは鱗がはがれた表皮から噴き出した血液を燃え上がらせ、その身に炎を纏っていたのだ。

『離れてっ! 近付くだけでダメージを負うよ』

風音が叫んだと同時にジーヴェがその場で回転し、周囲へと炎をばらまいた。

『嘘、こんな攻撃もあったの!?』

それを風音とユッコネエは『暴風の加護』で、英霊ジークは天鏡の大盾で防いだが、ネイキッド狂い鬼はそうはいかなかった。

「グガァアアアアアッ!?」

『最速ゼンラー』の効果により高速で逃げ出そうとしたがネイキッド狂い鬼であったが、しかし逃げきれず全身に炎を浴びて転げていく。風音はそれを見て苦い顔をしながらも、英霊ジークへと指示を飛ばした。

「ジーク、お願いッ!」

『分かっている。大翼の剣・解放モード!』

英霊ジークの大翼の剣リーンが可変し、八つの光を放ち始める。するとジーヴェが忌々しそうに叫んだ。

『またもやその光か。だが、させるかッ!』

同時にジーヴェが英霊ジークに向かって突撃する。だが今回も英霊ジークの必殺技『ゼクシア・レイ』が放たれる方が早かった。

「滅びよぉぉおおおお!」

『ぐぬぉぉおおおおおお!』

ジーヴェが雄叫びを上げながら、ゼクシア・レイの光と激突する。

『そんじゃあ仕上げだね』

その様子を見ながら風音がマナポーションをがぶ飲みし、さらに柩に飾るローゼのチャージ能力を使って 紅の聖柩(クリムゾン・アーク) へも魔力を補充していく。

「ゲップ」

そして二本目のマナポーションを飲み終えた風音が、ゼクシア・レイを受けきったジーヴェに向かって手をかざした。

『スペル・カイザーサンダーバード! そして旦那様フルバースト、ゴー!』

『馬鹿な、あれは神竜帝ナーガだと!?』

ロクテンくんの背後に出現した巨大なクリスタルドラゴンの姿に驚きの声を上げるジーヴェに、雷の巨鳥と無数の七色の光が放たれて、その場で大爆発が起きた。

その中でジーヴェの悲鳴が木霊し、風音が思わず『やったかな?』と声を出した。

「それはフラグだ、主よ」

その英霊ジークの呆れた風な言葉の通り、煙の中からは未だに健在の炎のドラゴンが現れる。その炎は先ほどよりも弱々しくなっているようではあったが、風音たちを睨みつけている瞳からは油断ならぬ殺意が込められていた。それを見て風音が眉をひそめる。

『これでも倒しきれないか。前回は、ホワイトファングはともかくジャッジメントボルトが強力だったからね。そこまでダメージが届いてないってことだね』

ルイーズの奥の手『ジャッジメントボルト』はまさしく必殺の魔術であった。だが、そのルイーズももうパーティからは離れ、今はこの場にいない。

『けど、あと一息』

『ォォオオオオオオオオ!!』

闘志を燃やしたジーヴェがロクテンくんに向かって駆けだしていく。鱗のないジーヴェの動きは、さきほどよりも数段速かった。

『まだこんなに動けるなんて!?』

風音はトンファーからのファイア・ブーストで急加速してそれを避けながら叫んだ。

『ちょこまかと』

苛立ちの声がジーヴェから漏れる。もっともジーヴェはすでに死に体に近く、もう体力はほとんど残ってはいないようだった。そのジーヴェに「クケェエエエ」と声を上げながら、ポッポさんが煙の中から再度の追撃を仕掛けた。

『ガァアアッ!?』

次の瞬間にはジーヴェのわき腹にポッポさんのクチバシが突き刺さり、雷がその身を貫いた。

『ナイス、ポッポさん。けどもう戻って!』

ジーヴェがその衝撃に転げていくのを見ながら風音は召喚解除を指示すると、酸欠気味な顔であったポッポさんがその場で消滅していく。それから風音は再び立ち上がろうとするジーヴェを見ながら、英霊ジークへと龍神の大剣を投げた。

『そんじゃあ、トドメだよ。ジーク』

「応ッ!」

英霊ジークが龍神の大剣を受け取り、構えた。

その龍神の大剣はアースブレイカーほどではないにしても、直接攻撃力だけであれば大翼の剣リーンの威力を大きく超えているシロモノだ。また、スキル『武芸千般』により己の身長の倍以上もある大剣だろうと英霊ジークは扱うことが可能であった。

そして龍神の大剣を手放した風音はロクテンくんの胸部ハッチを出て、素の状態でジーヴェへと向かって飛び出していた。

『鎧を捨てただと!?』

ジーヴェが目を見開き叫ぶが、それは当然勝つための行動だ。風音の右手には風音の虹杖が握られていたのである。

「グリグリの羽根よ。暴風を起こせ!」

驚きのジーヴェに対して、風音は鷲獅子竜グリグリの羽根の力を発動させた。それは『暴風の加護』を任意に発生させる付与魔術。それがジーヴェを包み込んで身に纏っている炎を吹き飛ばしていく。

『ゥゥオオオオオ!?』

それにはジーヴェが叫ぶが、もはや力の尽きたジーヴェの身体から追加の炎が出てくることはなかった。

「にゃあああ」「ウガァアア」

その直後に左右からユッコネエの 高熱ブレス突撃(ゴールドブリット) と狂い鬼のベヒモスホーンクラブの攻撃が同時にぶつけられジーヴェが苦痛の悲鳴を上げる。

『貴様ら、貴様らぁあ』

血を吐き出しながら叫ぶジーヴェに、さらに真正面から巨大な剣を持った英霊ジークが駆けていく。それを見て、ジーヴェが忌々しそうにうめいた。

『怨敵めッ、貴様だけでもッ!』

「オォォオオオオオオオオッ!!」

そして飛びかかる英霊ジークに対して、ジーヴェが己の角を突き出そうと首を動かしたが、

「だめ押しの一手」

風音がポイッと投げたものをジーヴェはつい見てしまった。わずかな一瞬だがジーヴェの視線はそれに向けられてしまった。その風音が投げられたモノの正体は『知恵の実』。見るモノを魅了するという禁断の果実はジーヴェの視線をも釘付けにし、そのわずかな一瞬がどうしようもなく致命的な隙となった。

そして次の瞬間には、横を向いてしまったジーヴェの首へと龍神の大剣が振り下ろされ、その首が宙を舞ったのである。