作品タイトル不明
第七百八十四話 扉を開こう
「カルラ王、久し振り……っていうべき? とは言ってもずっと見てはいたんだよね。なんでもダンジョンと一体化したとかそんな感じって聞いたけど」
その風音の言葉にカルラ王が、薄く笑いながら頷いた。
「まあ、見てはいたな。手を出すような野暮はしていないがね」
「フューチャーズウォーの舞台なんてものを用意しておいて?」
眉をひそめる風音にカルラ王が「その通り」と答える。
「ここについては私も知られていること以上のことは知らんよ。このダンジョンというモノ自体、正しく世界に知らされる前に封印されたものらしい……とだけは聞いている。が、その実体はダンジョンマスターである私たちでも把握できているとは言い難いのだ。まあ条件にあっていたので使わせてはもらっているがね」
(正しく世界に? それって……もしかして正式リリース前……とか?)
風音は眉をひそめながら、カルラ王の言葉の意味を考える。
自分たちの知らない自動生成ダンジョン。それはまだ実際にオープンされてはいなかった、例えば正式リリース前のベータ版であったとしたならば……突拍子もない話だが、であればバランス調整が微妙であることも頷けはすると風音は考えた。
もっとも、それもただの推測だ。それに風音の推測が事実であったところで今の状況が好転するというわけでもない。
そして目の前にはダンジョンマスターがいる。少なくとも平和な用事ではないだろうと風音は考え、カルラ王を睨みつけた。
「カルラ王? ではアレが」
その風音の背後でモーリアがそう呟く。
「はい。この 金翅鳥(こんじちょう) 神殿のダンジョンマスターです。とは言っても多分あれは分身体で、本体はここにはいないでしょうけど……それでも強いですよ」
その弓花の言葉に、モーリアやラオンは「なるほど」と頷き、さらに警戒を強めていく。そんな彼らの前で風音が尋ねた。
「で、何の用? また試練を受けさせるっての?」
「そうだな。そちらの騎士団には受けてもらおうとは思っている……が、あいにくとお疲れのようだ。それはまた、後ほどとしよう」
カルラ王の言葉に風音の眉がひそまる。どうやらカルラ王の意図はそこではないようだった。そして、警戒する風音を安心させるような口調でカルラ王は言葉を続ける。
「何、以前に言っていただろう。七十階層に扉を用意してあると。あれについて説明をしに来たのよ」
その言葉に風音は「ああ……」と頷いた。
それはカルラ王が地上を訪れた最後の日のことだ。温泉のお礼として、第七十階層、第八十階層、第九十階層のそれぞれに設置してあるという扉の鍵を風音は渡されていたのである。
「鍵は持っているな?」
「うん。これでしょ」
風音がアイテムボックスから複雑な形をした黄金の鍵を取り出して見せた。それにカルラ王が満足そうに頷くと、床を指差して口を開く。
「それは、この建物の地下にある。褒美だ。しかと受け取れよ」
「褒美って……何があるのさ?」
その風音の問いに、カルラ王は肩をすくめる。
「それは見てのお楽しみだ。実際にお前の目で確かめるといい。カザネならば気に入るだろうと私が考えたモノを置いてある」
「まさか……温泉?」
最初に風音が思い浮かべたものは温泉であった。この世界にやってきて短くはない期間を過ごした風音は、今では温泉を強く求めるようになっていた。当初そこまで好きではなかったはずなのだが。
モーリアたちが風音の答えに首を傾げたが、カルラ王は特に返答はせずに笑いながら「では、伝えたぞ」と言って、その身を黄金の炎へと変えて消失した。
「消えた……あれもダンジョンマスターなのか?」
そしてカルラ王の姿が消え、周囲から気配も消えたのを確認すると、モーリアがそうボソリと呟いた。
「モーリアさんたちはA級ダンジョン攻略者だったよね? ダンジョンマスターと会ったことはないの?」
「いや、あるにはあるが……あのように会話ができる相手ではなかった。マンイーターキングという巨大な植物の化け物でな。人食い植物が多くいたダンジョンで、冒険者もかなりの犠牲があったのだ」
「へぇ……そうなんだ」
ルネイもまともに会話ができるダンジョンマスターは珍しいと言っていたのを思い出しながら、風音は頷いた。
「まあ、カルラ王がせっかく出てきて説明してくれたんだし、ちょっと見てみようかな」
「風音、罠かもしれないわよ?」
眉をひそめた弓花に、風音は首を横に振る。
「んー、でも温泉のお礼でしょ? なら問題はないよ。アレのお礼なんて、きっと素晴らしいものだよ」
風音は温泉のお礼と言うことで、全面的にカルラ王を信頼しきっているようだった。それに弓花と直樹が顔を合わせて「どうしようか?」という感じの表情を向けあったが、風音はモーリアの方へと視線を向けて尋ねた。
「モーリアさん。ここって下に降りる階段とかないの?」
「階段か。それならば奥に……ああ、その前に、せめてもの礼としてこれをもらってはくれまいか」
「これは?」
そのモーリアが差し出したモノを団員たちが「天使ならば」と口々に言い合って納得して頷きあっていた。どうやら、先に話し合っていたようである。
「この建物にあった隠し部屋で見つけたものだ。ひとまず、我らが今出せる礼はこれぐらいしかないのだが、受け取ってほしい」
そう言ってモーリアが出したもの、それはゴーグルであった。
「ふむ? なんだろ?」
風音はそれを受け取って、かけてみた。すると目の前に何かが表示されたのだ。それは周辺の簡易マップと動体反応、それにいくつかの情報が表示されたウィンドウだった。
「地図や表示が見えるね。これって……」
ゴーグルに映し出されている表示は、どことなくゼクシアハーツのウィンドウにレイアウトが似ていた。そして風音は知らぬが、それはフューチャーズウォーのモニタ画面表示と同じモノだったのだ。
フューチャーズウォーではARゴーグルを変更することで、画面上の表示の変更や追加を行っていた。その中でも風音がかけているゴーグルは、メインシナリオ後半に使用するコマンダーゴーグルと呼ばれるアイテムで、それなりの性能を誇るモノだったのである。
(うーん、周辺マップがすぐに表示されて、そこに敵味方の反応が分かるのは利点か。まあ、マップウィンドウと私のスキルで大体代用できてるモノばかりだけど……いくつかの表示は有用かもしれない)
そんなことを考えながら風音は、モーリアに尋ねる。
「モーリアさん、これ本当にもらっちゃっていいの? 多分、凄く有用なものだと思うよ」
それはウィンドウの力に頼れないこの世界の住人にとっては、非常に使えるアイテムではあるはずだった。
だがモーリアは「だからこそ、受け取って欲しい」と言葉を返す。彼らは騎士であり、すでに心の上では天使教信者でもあった。であれば、その選択に団員一同、後悔などあるはずもなかったのだ。
それから風音たちは、モーリアたちに案内されるままに地下階へと進んでいく。エレベータは当然のように動いておらず、エスカレータも瓦礫に埋もれていたため、風音たちが降りるのに使用したのは非常階段であった。
そして、地下駐車場の最奥の床からすでに盛り上がって出現していた隠し通路を経て、目的地へ風音たちはたどり着いたのである。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十階層 ???門
「なんか、えらく厳重な扉だね」
風音が目の前にある巨大で分厚そうな扉を見ながら、そう口にした。そこにあったのは巨大金庫か、核シェルター入り口のような扉であった。
「我々もここまで訪れはしたのだが、開ける手段がなく、結局地上に戻ったのだ。まあ、それからはずっと隠し部屋に閉じこもっていたし、もう保たぬと判断して外に出た途端にあの様だったのだがな」
モーリアがそう言って苦笑する。戦闘前の時点ですでにモーリアたちは全滅直前だった。もはや限界だと悟った彼らは、不調の原因くらいは探ろうと動き、マシンナーズソルジャーに発見されていたところに風音たちがやってきたというわけだった。
「それで風音。そこに鍵を差すわけ?」
「うん。そのはず」
弓花の指差した先にある穴を見て、風音が頷く。
( 無限の鍵(インフィニティ・キー) でも開けそうかな。でも普通に鍵持ってるしなぁ)
風音の持っているアーティファクト 無限の鍵(インフィニティ・キー) ならば、黄金の鍵なしでも開けられるかもしれない。そうも思ったが、今は正しい鍵を持っているのだからそちらを使うべきだろうと風音は考え直し、黄金の鍵を再度アイテムボックスから取り出した。
(ああ、そういえば弓花が銃を手に入れてたね。あれのロックの解除は試してみても良いかな)
風音は鍵をプラプラとさせながら、敵の持っていたライフルのことを思い出す。
電子制御のためにロックがかかっていて使用はできなかったが、 無限の鍵(インフィニティ・キー) があればその解除も可能かもしれなかった。 無限の鍵(インフィニティ・キー) は大っぴらには使用できぬモノ故に地上では自重していたが、自分たちで銃を入手に入れた今ならば、試してみても良いだろうと風音は考えたのだ。
「風音ー?」
「え、ああ……ごめん。ちょっと考え事。そんじゃあ開けるよ」
訝しげな顔をした弓花の問いに、風音がそう返しながら黄金の鍵を無骨な扉の鍵穴へと差し込んだ。
そしてその鍵をひねると、風音たちの前で巨大な扉が開いていく。それにその場にいた全員が驚きの声を上げ、風音が「こりゃあ凄いね」と言いながら一歩踏み込んだ瞬間だった。
ブゥン
という音とともに、扉のあった場所を境に風音と外のメンバーとの間に緑光の壁が生まれたのは。