作品タイトル不明
第七百八十話 機械兵と戦おう
「時間がないね。救出メンバーは私、弓花に直樹。それと案内にラオンさん。他のメンバーは地上に急ぎ戻って、そっちの三人を治療してあげて」
ラオンよりダインス自由騎士団のピンチを聞いた風音が決断したことは彼らの救助であった。もっとも現状で先を急ぐのであれば少数精鋭が望ましく、ソレを考慮した答えが今の風音の指示であった。
「ふむ」
それに眉をひそめたのは地上帰還メンバーとなったジンライだ。
風音たちの中でも最大戦力のひとりであるジンライは、今回帰還メンバーを指揮する役回りであった。ジンライもそれ自体には不満はない(当然付いていきたい気持ちはある)が、問題は風音たちの方である。
「カザネ、そちらは大丈夫なのか?」
ジンライの問いに風音が眉をひそめながら頷いた。
「うん。メンバー的に考えると、戻りにジンライさんを外すのは厳しいし、手持ちに抑制剤はないから見つからなかったら直樹のフーネを使うしかないからね」
ラオンたちも使用目的は分からなかったようだが、わずかばかりの抑制剤は所持していた。だがそれも同行するラオンと汚染率が高い状態のようだった騎士に飲ませて無くなったため、今はもう手元にはひとつもない状況だ。
なので風音たちはひとまず七十階層に向かい、ダインス自由騎士団の元に向かう途中に抑制剤が見つかれば良し、なければ直樹の英霊フーネの浄化で対応するという予定で風音は考えていた。
「冒険者ギルドには、北から送られてきた抑制剤がいくつかと、カンナさんたちの持ち帰ったものがあるはずよ。三人にはそれを投与するか、癒術院か教会で浄化を頼めば助かるはずだから。私たちも救助できたらひとまず抑制剤を探して持ち帰るように動いてみるよ」
「止むを得んな」
その風音の判断を妥当と考えたジンライも頷く。それから風音がその場にあるヒッポーくんを指さして言う。
「一応このヒッポーくんはそっちで使って。さすがにこの短期間でさらに罠が増えているとは思えないけど、念のために」
「確かに、ないと思っての……この有様だからな」
ジンライがラオンたちに聞こえないようにボソリと言う。
ともあれ状況は刻一刻と進んでいる。風音の判断によりパーティはこの場で一時分断となった。
仲間たちと分かれた風音は新たに造ったヒッポーくんを先頭に配置し、自分はユッコネエに、弓花はクロマルに、直樹とラオンはタツヨシくんケイローンに乗せて、急ぎ第七十階層へと向かい始めた。
それからジンライたちと分かれてから約半日後に、風音たちは第七十階層へとたどり着いたのだった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十階層
「ここが七十階層。なるほど、廃墟の摩天楼って感じだね」
驚きの顔の風音がそう口にし、弓花と直樹もその光景に呆気にとられていた。風音たちが出てきたのは地下鉄の出口……らしき場所だった。
また、出てきたその周囲には巨大な、崩れた四角い建物が立ち並んでいた。つまりは破壊されたビルディングが立っていたのである。
周囲には十階程度の建物ばかりだが、離れた場所には高層ビルも存在していた。そこは確かに荒廃した近未来の街という感じのフィールドであった。
「崩れてはいるけど、達良くんの譲渡クエストに街並みが近いかも……」
「ああ、確かに」
そろそろ譲渡クエストにも再度挑もうかと考えていた直樹が、風音の言葉に頷く。
「それじゃあ、ここから……いや、ちょっと不味い」
風音が一歩踏み出そうとして、そして止まった。
「風音? む!?」
弓花も何かを察知したのか槍を抜いて構え、ユッコネエやクロマルも鳴り声を上げて周囲を見回す。その状況にラオンが焦ったように口を開いた。
「ああ、まさか……これは『同じ状況』だ。となると五十五階層の石像と同じ……待ち伏せがあります」
「む、来たッ!」
ラオンの言葉と同時に風音が叫んだ。
崩れた壁、ビルの窓、建物の陰から一斉に人型の兵士が立ち上がって銃口を向けてきたのだ。それはカンナが持ち帰った機械兵と同じ形をしたマシンナーズソルジャーで、それらが風音たちに向かって一斉に撃ってきたのだ。
「うわ、いきなりかー」
その銃撃に対して風音のスキル『暴風の加護』が自動的に反応して周囲に風の壁が発生するが、風音の『直感』はそれだけでは不足と感じていた。
(数が多い。こりゃあ、抜けられるね)
そう考えた風音は 円錐(コーン) 型の『マテリアルシールド』を目の前に張る。そして大部分の弾丸が『暴風の加護』によって弾かれる中、何発かの銃弾が風音の壁を通り抜けたがすでに張られていた『マテリアルシールド』によってあらぬ方向に飛んでいった。
そして連続斉射が終わると風音たちは建物の陰へとすぐさま避難した。それから風音が眉をひそめながら口を開いた。
「弾数が多い。逸らすのが目的の『暴風の加護』じゃあ防ぎきれない。それに臭いがしないから場所の特定が難しいね」
「まあ、相手の位置は補足できたし……風音、私出るけどいい?」
弓花が周囲を睨みながら、そう口にする。すでにスキル『ゾーン』は発動させているようで、その瞳は何もかもを見通しているかのような輝きがあった。実際に弓花は先ほどの銃撃により、今現在のマシンナーズソルジャーの位置をほぼ把握してもいた。
「いいけど、足下には気を付けてね。地雷もあるらしいってカンナさん言ってたから」
「了解。そんじゃあ、クロマルにユッコネエも行くわよ」
ウォン、にゃーと鳴き声が返り、弓花は狼の仮面を被って一気に飛び出していく。銃声が響き渡るが、弓花は壁を蹴り上げ、シルフィンブーツで空中を蹴って進んで完全に射線上を把握しながら避けていく。
そのまま弓花は道路に降りずにビルの中へと飛び込み、マシンナーズソルジャーたちとの戦闘を開始していく。
「速い。あんな重装甲でなんて機敏な動きをするのだ!?」
「ああ見えて、あの鎧の着心地って軽装甲並らしいからなあ」
ラオンの驚きの言葉に直樹がそう言いながら、自分も飛竜を飛ばして攻撃を行い始めた。
弓花の現在纏っている神狼の甲冑は麒麟化弓花を経て強化されたものである。その装甲は厚くなり、より覆う場所が多くなってはいるが、着心地そのものは以前と変わりない仕様だ。そのため、ラオンが驚くような動きを見せて戦闘を行うことが、例え変化せずとも今の弓花には可能であった。
そして、その弓花がマシンナーズソルジャーを追って入ったビルの中で爆発が起きた。
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「爆発力はまずまず。問題なのは魔力なしのただの爆発ってことか」
ビルの中で弓花はそう言って目の前の爆発を観察していた。
ビル内部には足が吹き飛ぶ可能性すらもある程度の威力の地雷が仕掛けられていて、弓花はそれを石で弾いてわざと発動させたのである。その観察の結果、設置されているのが純粋な爆薬による地雷であることを弓花は把握していた。
(これだと 魔力抵抗(レジスト) に意味がない)
弓花が眉をひそめる。この世界において、魔術や魔法、例えばドラゴンのブレスにしてもすべては魔力によって構成されたものである。闘気や神力、神聖力、竜気などといったものにしても波長のようなものが違うだけで本質は同じものだ。
そして人間を含む生物は、それに対する 魔力抵抗(レジスト) を持っているがためにそうした攻撃を受けても見た目よりもダメージは少なくて済む。それがただの火薬の攻撃となると、純粋な物理現象であるために 魔力抵抗(レジスト) は機能せず、見た目通りのダメージを受けてしまうことになるのである。
(これ、想像以上に厄介かもしれないわね)
ゲーム的なことはともかく、弓花はここまでの戦闘経験から戦いに関しては当然玄人の域にいた。故に目の前のトラップの厄介さに眉をひそめたのだが、外で風音たちが驚きの顔をしているのに気付いて、手を振って無事であることを伝える。しかし、その次の瞬間には通路の奥から足音が響いてきた。
「と、お客さん早いわね」
そう口にしながら、弓花はすぐさま通路から目の前に入り口がある部屋の中へと飛び込んだ。
(壁は特に特殊な素材でもないみたいだし、壊すのは問題なさそう。なら)
そのまま埃にまみれた机の上を跳びながら、弓花は足音の元へと直線的に向かっていく。
「壁の先。そこだッ!」
壁に向かって弓花が放ったのはバーンズ流奥義のひとつである『大震』。大型の魔物を倒すために生み出された破砕技が正面の壁へと直撃し、その先にいたマシンナーズソルジャーたちをも同時に破壊していく。その威力は外壁にまで及び、三体のマシンナーズソルジャーがその技によってバラバラになりながら建物の外へと投げ出された。
『grsrgwr? っskpskg!?』
『fghdとk;!』
そして、技の影響範囲から離れていて残っていたマシンナーズソルジャーは二体。残されたマシンナーズソルジャーたちは、弓花の姿を認めるとすぐさま腕の銃を手放して、近接用のナイフを取り出した。
そのナイフの刃先が赤く光り、それが熱を帯びた危険なものになったことを弓花は察知する。
「ま、当たらなければどうということはないッて言うしね」
もっとも、近接戦で今の弓花に勝つのはそれこそ容易なことではない。弓花はそれらにまったく恐れを見せずにそのまま正面から突撃する。
「てやっ!」
わずか一瞬。二体のマシンナーズソルジャーが踏み込んできたと同時に弓花は最速の槍術『閃』を二回放っていた。それはほとんど同時にしか見えない一瞬の技。マシンナーズソルジャーはコア部分を破壊されてその場で爆発した。
「ふーむ。やっぱり、駄目か」
その爆煙の中で、プラチナオーヴァーコート、不滅のマント、さらには神狼の甲冑によって全身を護られている弓花は平然としていた。
そしてマシンナーズソルジャーから奪ったヒートナイフを見ながらそう口にしたのであった。そのナイフはすでに刃先から熱が消えていた。銃同様に機械兵でなくては扱えない代物だと弓花は理解すると、さっさと諦めて捨て、再び他のマシンナーズソルジャーを倒すべく動き出す。
そうして戦闘自体はつつがなく終了となった。
その半数以上を弓花が、残りをユッコネエ、クロマルに直樹の飛竜が仕留め、風音もメタルカザネJでスキル確保用に一体は倒した……のだが、今回風音はスキルを手に入れることができなかった。
「あれ?」