軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百七十九話 救助をしよう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第六十七階層

「うわぁ」

風音が思わず呻いた。

風音たちの目の前にはゴーレム馬であった土塊が散乱していた。それは 金翅鳥(こんじちょう) 神殿への探索の途中、第六十九階層へ向かう途中でのことであった。

「トラップが追加されてる……みたいだね」

風音がそう口にする。ゴーレム馬ヒッポーくんを破壊したのは、床下から急激に飛び出してきた石棘であった。ヒッポーくんはその勢いのままに突き刺さり、破壊されていたのだ。

「もしかすると馬などの高速移動するものに反応するタイプだったのかもしれんが……通路のズレといい、拡大期が始まっているのかもしれんな」

「けど、先行でヒッポーくんを走らせたのは正解だったってことですね師匠」

弓花の問いにジンライが頷く。彼らの目の前に散乱しているヒッポーくんの残骸は、罠対策として先行で走らせていた囮であった。それが見事にひっかったのだから、そのもくろみ自体は成功していた。

とはいえ、念のためという意味合いが強かっただけに、白き一団一同肝の冷える思いをしたのは間違いなかった。

なお、今の白き一団の配置だが、囮用ヒッポーくんを、歩幅を開けて四体前に走らせながら、風音はユッコネエ、ジンライはシップー、弓花はクロマル、ライルと直樹とジン・バハルはタツヨシくんケイローン、タツオはタツヨシくんツインソード、レーム、ティアラ、エミリィはアダミノくんに乗り、メフィルスは自力飛行しての移動となっていた。

「まあ、一度通った道とはいえ、気を付けながら進めた方が良さそうってことだね。そんじゃあヒッポーくんには申し訳ないけど、また作り直して囮の馬生を全うしてもらおう」

そう言って風音が、風音の虹杖を振って崩れた土塊を再びゴーレム馬へと生成していく。

「あ、待って。風音、ちょっとあっちの方」

そしてヒッポーくんも元通りになり、先へと進もうとした風音に弓花からの待ったがかかった。そして全員が弓花へと振り向くと、弓花は進むルートとは別の方角の通路を指差していた。

「どうした?」

ジンライが弓花に尋ねると、弓花は「血の臭いがします」と返す。それを聞いて風音が眉をひそめつつも鼻をクンクンさせると「んー、本当だ」と呟いた。

「結構離れてるし、気付かなかった。よく分かったね弓花」

風音の言葉に同じくスキル『犬の嗅覚』を持つユッコネエとタツオもにゃーくわーっと鳴いて返す。どうやら気付いたのは弓花だけのようでクロマルもウォンッと鳴いて(すげーぜ姐さん)という顔をしていた。

「さすが 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の名前は伊達じゃないね」

血に餓えた狼は血の臭いに過敏であるのだ。

「ちょっと待って。それ関係ないからね。ほら、今は銀狼将軍って名前変わってるしね? ね?」

カシャンと狼仮面を被りながら弓花が言うが、知名度は 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の方が未だに強い。銀狼将軍は見た目だけだが、 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) は実話に伴ったふたつ名であり、特にゴルディオスの街以外では銀狼将軍はほとんど知れ渡っていなかった。

なお、完全武装の弓花と並び立った姿からタツヨシくんツインソードが黒竜将軍と呼ばれ始めていることをまだ風音たちは知らない。なので、どちらも将軍でもなんでもないというツッコミも出てこなかった。

「けど、確かに……集中すれば分かるか。あれ、この匂い、知ってる人だ」

「え? あ、これって、あの騎士団の人の? ちょっと危なくない、これ?」

風音の言葉に弓花が眉をひそめる。匂いからして出血量はそれなりのものだと感じられたのだ。それに風音も頷きながら、ひとまずはその匂いの元へと急ぎ向かい始めたのである。

*********

「か、神の助けか……まさか、あなたたちが通りがかってくれる……とは?」

「動かないで。治療魔術をかけるから」

そして風音たちが向かった先にいたのは、ダインス自由騎士団の副官ラオンと、騎士たち四名であった。

「そちらは……もう」

内一名はすでに亡くなっていた。そのことに気付いた風音の瞳に動揺が走ったが、それもすぐさま落ち着きを取り戻して、何も言わずに他のメンバーの治療に当たっていく。

「ふむ。召喚馬で走ったな」

ジンライがその惨状を見ながら指摘する。それには治療を受けているラオンが悔しそうな顔で頷いた。

「一度、通った道でしたので……騎馬召喚を行って急ぎ戻ろうとしたのです。が、ここで罠にかかりました。来るときには……なかったはずなのに」

その眉間に皺を寄せながら言うラオンの言葉が確かであれば、それは恐らく風音たちが先ほど見たゴーレム馬の惨状と同じことが起こったのだろうと予測は付いた。

「運がなかったな。恐らくは拡大期に入り始めている。まだS級にまではならんだろうが、ダンジョン自体が活性化しているようだ」

「なんと……しかし、それに気付けない我らが未熟ということではありますな」

そう返すラオンではあったが、治療している風音の顔色は晴れない。

「おかしいな。ある程度は治ってるはずなのに、回復しない?」

「あ、ああ。そうだ。すみません。今の我々は……もう、かなり弱っておりまして……何かしらの病か呪いを」

ラオンの言葉を聞いて全員の表情が強ばる。そして、その原因に心当たりのあった風音が口を開いた。

「呪いって……もしかしてラオンさんたち、第七十階層に行ったの?」

「は、はあ……そうです。奇妙な場所に入りまして……その」

「まさか、他の連中は全滅したのかよ!?」

ライルの言葉にラオンは首を横に振る。

「いえ……ですが、もう動けない状況で、備蓄はあるので残して……まだ症状の軽い我々が、地上に……助けを、ハァ」

その言葉を聞きながら、風音はとあるものを目撃する。

「ラオンさん、あれ何?」

転げた鞄の中から、何かの結晶体が出ていたのだ。それに対して風音のスキル『直感』が警告を発していた。

「その……七十階層で発見したのです。よく分からないが、結晶体のようで。何かしらのヒントにでもなれば……と」

それを風音は鑑定メガネをかけて観測する。

フューチャーズウォーエリアのものは過去にも存在していたために鑑定メガネでもどういったものかを調べることは可能らしいと風音は聞いていた。そして、そこに表示されていたのは……

名称:イシュタリアの呪力結晶体(仮)

レア度:C

効果:ダンジョン内での特殊地域でかかる呪いの発生源と思われる結晶体。

※当アイテムは指定監視対象品です。ダンジョン外への持ち出しを禁止しています。

「嘘でしょ」

風音の顔が完全に強ばった。達良くんの話によれば、それはナノマシンが集合してナノマシン製造装置と化したナノコロニー体と呼ばれているものである。つまるところ、それこそが汚染源であった。

「ファイア・ヴォー……いや、スキル『水晶化』!」

風音が一瞬の判断で、破片が飛び散りそうなヴォーテックスの使用を止め、水晶化で封印していく。

「な、何を……」

それを呆然とラオンが見ているが、風音はラオンを睨みつけ、だが何も知らぬだろうと思うと、罵声を口にしようとしたのをとどめて尋ねた。

「これ……呪いの、大元なの。鑑定すれば分かったはずなんだけど。鑑定メガネはなかったの?」

「無茶を言うなカザネ。鑑定メガネというのは商人専用のシロモノだ。ワシから見ても今の結晶体には邪悪なモノを感じなかったが?」

後ろからジンライのフォローが入る。風音の持っている鑑定メガネは商人ギルドに加盟した商人だけが扱えるアイテムで、誰でも持てるものではないのだ。

またダンジョン内での危険かどうかの判断は、発生する魔力から良からぬモノを感じるか否かで普通は行う。ナノマシンが散布されているか否かなど、この世界の住人では判別できない。

「そっか。なら、仕方ないけど……ええと、ラオンさん?」

風音がラオンの顔を改めて見ると、ラオンの顔色は真っ青を通り越して、もはや真っ白になっていた。それは体調が悪化したということではなく……

「だ、団長たちのところにも集めた結晶体が……ある」

助けを待っている仲間たちの絶望的な状況を理解したからだった。