作品タイトル不明
第七百七十四話 黄金の瞳を手に入れよう
「十五、いや十六か……うーん。結構な数だね。みんな、紅蝶のアミュレットはちゃんと持ってる?」
スキル『犬の嗅覚』により周囲の状況を把握しながら風音が尋ねると、仲間たちも自分の首にかけた紅蝶のアミュレットを確認しながら頷いた。ゴールデンアイは相手を金縛りにさせる能力を持っている。こうした相手への対策として、風音たちはアモリアへ行き、紅蝶のアミュレットを手に入れたのである。
「それでどういう状況だ、カザネ?」
そしてジンライが槍を握りながら風音に尋ねた。
正面は左右に分かれた丁字路で、通ってきた背後の道は少し下がった場所で右に曲がっていた。それらを順に見回しながら、風音は冷静に説明を行う。
「正面右の通路から三体進行。左に六体、それに後ろからは七体来てるね。他の魔物は組んではいない……けど」
「何かあるのか?」
「一匹以外はみんな天井を歩いてる。そいつを狙って攻撃しようとすると多分他の個体が天井から落ちて攻撃するつもりなんじゃない?」
「ふーむ。こすい手だな」
そうジンライは口にするが、気付かずに接敵すれば敵が一気に飛び込んできて危険な状況になるのは間違いなかった。ともあれ、現時点で看破できているのだから風音たちにとって問題はないが。
「そんじゃあ左は私とジンライさんが仕掛けよう。右は弓花とクロマルに、そんで後ろから来ているのは遠距離組の一斉掃射で仕留めようか」
「まあ、堅実な選択ではあるな」
風音の指示にジンライも特に不満もないようだが、直樹が少しばかり思案してから挙手して風音に尋ねる。
「姉貴、遠距離攻撃はいいんだけど、威力は結構なものだろ。素材採りできないんじゃないか?」
「まあねえ。眼球の中心が素材に使えるらしいんだけど、今回はそれを採るのはジンライさんと私だけにするよ。みんなはひとまずは倒すことを目標に、そんで弓花は相手の強さを大体計ってみて次の戦闘の参考にしてくれる?」
「了ー解。そんじゃそろそろ近付いてきてるし」
「うん、気を付けて」
弓花がカシャンと狼の仮面を装着させて一歩前へと出た。方針を決めている間にも敵の気配が近付いてきている。弓花はスキルセットした『犬の嗅覚』で、担当している右通路のゴールデンアイがもう間近に迫っているのを把握していた。
「行くよクロマル」
「ウォン」
そしてプラチナのオーヴァーコートを靡かせた弓花と、龍神刀を咥えて白い炎と雷を纏って麒麟化したクロマルが駆け出していく。
「男前だな」
「ああ……」
直樹とライルがそう言い合っているが、仮面を被った弓花は確かに銀狼将軍と呼ばれるに相応しい威容を放っていた。そして二人の様子から 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) の名前を銀狼将軍で塗りつぶそうとしている弓花の狙いもそこそこ成功はしているように思われた。
「ではワシらも行くか」
「直樹、そっちは頼むよ。出し惜しみは特にいらないから一気に殲滅しちゃって」
「分かった。任せろ姉貴!」
その直樹の返しに風音は手だけを降って、そのままユッコネエに乗ってジンライの乗ったシップーと共に駆け出していった。
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「で、どうする?」
そして走り出したシップーの上で、ジンライが風音に尋ねる。素材を手に入れると言った手前、いつも通りにオーヴァーキルしてしまうわけにはいかない。
「そうだね。私が捕まえるからジンライさんはコアを潰してくれる? ええと、コアの場所は……」
続けて風音が遠隔視で先にいる相手の姿を確認していく。
(ゴールデンアイの魔力が集中している場所……あそこかな?)
風音はスキル『直感』を使って判断し「目と触手の付け根かな」と答えるとジンライも「分かった」と返して頷いた。そして、自分たちの視界にもゴールデンアイの群れの姿が見えてきた。
「そんじゃあ、まずは私から行くよ」
風音がそう言って、ユッコネエの背の上で風音の虹杖を構える。
その杖の先にある巨大な 金剛石(マナダイヤ) 、それを覆うアダマンチウムのリング上の装具が風音の意志によって変換され、 金剛糸(アダマスワイヤー) へと変わっていく。
「最近はそれに凝っておるのか?」
「うん、鋼糸って憧れる」
「分からんな」
ジンライは首を傾げるが、この世界には鋼糸使いは存在しないようであった。ともあれ風音は 金剛糸(アダマスワイヤー) をさらに造り上げていく。同時にチカチカッとゴールデンアイの群れの瞳が光った。
「何だ?」
「多分金縛り攻撃かな? ジンライさんとシップーは問題なし?」
風音の言葉にジンライは頷き、シップーが「なー」と鳴いた。
風音とユッコネエは『精神攻撃完全防御』に護られていて元々耐性があり、ジンライたちの方も身に付けている紅蝶のアミュレットが赤く輝いていて、金縛りを防いでくれたようだった。
「うん、効いてるみたいだね。他のみんなも何ともなければいいんだけど」
ゲーム中では極めて高性能な効力を放った紅蝶のアミュレットだが、実際に効力があるかどうかは試してみないと分からない。
「そんじゃあユッコネエ。集中するからフォローよろしく」
「にゃー」
風音はユッコネエに乗りながらゴールデンアイとすれ違い、そのタイミングで造り上げた 金剛糸(アダマスワイヤー) を一気に飛ばした。それは針金よりも一回り太いアダマンチウム製のワイヤーであり、それがまるで蛇のように蠢いてゴールデンアイへと向かっていく。
「いっけぇえ!」
それを少しだけ顔をしかめながら風音は操作していく。
前回、麒麟化弓花を捕らえた後、風音はルイーズから忠告されていた。魔術などを、限度を超えて使用すれば、場合によっては廃人になることもあり得るのだと。故に風音は、麒麟化弓花戦後に 金剛糸(アダマスワイヤー) の扱える限度を計って調整をしていた。そして導き出したワイヤーの数は合わせて十二本。それらが風音の杖から分離し、次々とゴールデンアイを縛っていった。
「キィィイイイイイイイイ」
「む、三体は外したか」
風音が悔しそうな顔をしてそう呟く。風音はその言葉通りに三体は縛りとることに成功した。だが残り三体のゴールデンアイは 金剛糸(アダマスワイヤー) に絡み取られた触手を自ら引き千切り、その場から抜け出してしまったのだ。
「難しいね。ていやっ」
風音はひとまずは捕らえたゴールデンアイが逃げ出さぬように絡みついた 金剛糸(アダマスワイヤー) をさらに巻き付けてその場で動きを完全に封じていく。
「ふむ。コアは……ここかっ」
一方でジンライは、縛りから抜けたゴールデンアイへと接近し一瞬でコアを貫いて仕留めていた。ジンライほどの腕前ならば、ゴールデンアイをコアのみ貫いて倒すこともそう難しいことではないようであった。
「あー、私の出番がー」
「にゃー」
風音はそう言いながらも残り二体のゴールデンアイも捕まえると、そのまま 金剛糸(アダマスワイヤー) の先で串刺しにしてコアを貫き、さらに他のゴールデンアイもまとめて倒していった。その様子を見ながらジンライが呟く。
「というか、別にワシと共同でやる必要もなかったようだな」
「うーん。半々で分けて問題なかったかも。と、スキルが増えない。ダブったかな?」
風音がスキルリストのウィンドウを開きながらそう口にした。
ゴールデンアイから金縛り系のスキルが手に入るのではないかと風音は考えていたのだが、同系統のスキル『タイガーアイ』を風音はすでに所持している。なので、同効果だったためにスキルが追加されなかったのかと風音は考えたが、実際のところの原因は不明である。
「で、他の戦いはどうだ?」
「うん。弓花の方は問題ないね。直樹たちは……と」
その風音の言葉の途中で、ズドォオオンという轟音がダンジョン内を響き渡った。その音の震源地は風音たちがやってきた方の通路からであった。
「やり過ぎおったな」
「うーん。直樹、張り切り過ぎだよね」
音のした方角へと視線を向けながら、ジンライと風音がそう言い合う。
遠距離組の一斉射撃。 雷神砲(レールガン) やメガビームなどを始め、その威力は言うまでもなく強力なものばかりであったのだ。それを直樹は出し惜しみすることなく、発射させたようであった。
「ま、まあ、無事倒せたのなら良かったんじゃないかな」
風音が少しばかり引きつった顔でそう言ったが、ともあれ、こうしてゴールデンアイとの初遭遇は特に問題が発生することなく風音たちの完勝となった。
そして、手に入れた素材の名は『黄金の瞳』。それは魔術師の杖などの媒介として使用できる素材であった。