軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話 冒険の準備をしよう

「それじゃあ方針も決まったところで、冒険の準備をしたいんだけどいいかな?」

「風音、あんた案外タフね」

弓花は今日はもう休もうと思ってたのだが、風音は琴線に触れるものがあったのか俄然やる気だった。

「まあ、元々夜に街に着く予定だったし馬車のなかでも少し休めたしいいけどね。具体的にどうしたいの?」

「えっとね。まずは装備なんだけど弓花は弓矢を使う気はないの?」

弓花は弓道部でもエースだったはずだった。

(ファンタジー世界でどれだけ通じるのか分からないけど遠距離射撃は便利だよね)

「ないわけじゃないけど。高くてね」

「だったらその槍を売って買っちゃおうよ。お金余ったら私の防具も買いたいし」

その風音の提案に弓花は難色を示した。

「いや、この槍は手放したくないな。動いてる敵をちゃんと打てる自信も正直ないしね」

「そう?」

「弓矢はお金が貯まったら買って槍と切り替えて使えるぐらいの方がいいよ」

風音は弓花の言葉に思案した後、分かったと返した。

「でも風音の装備は整えた方がいいね。300キリギアで市場に行けばそれなりのものも買えるだろうし」

「いいの?」

300キリギアは弓花が貰ったクエスト報酬だ。

「パーティなんだからクエスト報酬は共有財産よ」

弓花は笑ってそう答える。

「とりあえずはある程度稼げる程度になったら小遣いとか分けたりしたいけどね。今はまず稼げるようになろう」

「うん。ああ、でも安いヤツでいいよ。インストラクターの人を雇わないといけないし」

「インストラクター?」

「うん。魔物の素材集めとかの手順を教えてくれる人。レイダードッグの皮のはぎ方とか色々だね」

「うーん。やっぱそういうのも必要なんだよね。宿屋でも鳥を絞めるのとか色々とやらされたけどさ」

「ゲームみたいにさっさと取れればいいんだけど、まあそこらへんはちゃんと教えてもらおうよ」

「了解。後はリュックサックかな。アイテムを詰めるのには必要でしょ」

弓花の言葉に風音が首を横に傾げる。

「アイテムボックスの予備用…のかな?」

「? 何それ?」

弓花の問いに風音はアレ?という顔になり訊ねた。

「もしかして使ってないの?」

「アイテムボックスってウィンドウには出てるけど、何持ってもリスト化されなかったけど」

武器や防具はすぐに装備表示されるからこの世界では使えない機能なのだと弓花は考えていたのだが。

「いや、こういうんだけど、コマンドオープン」

風音がウィンドウを開き、アイテムボックス一覧を表示する。そして風音は剣をそのウィンドウに投げ込んだ。

「ハァッ?」

弓花は驚愕する。一瞬のうちに剣は消滅し、アイテム欄に鋼の両手剣と表示される。

「嘘? そんな事できたの?」

「あれ、気付かなかったの? 私、爆炎球を取り出したときとか使ってたけど」

あっ、と弓花が気付く。確かにタンクトップにハーフパンツではしまう場所などない。

「じゃあ、私の背中に背負ってるリュックの中身って仕舞えたの?」

「積載量は筋力と同じキログラム入るから問題ないと思うけど。ああ、すぐに取り出せるようにとかアイテムボックスがいっぱいだったからじゃなかったんだ」

無邪気に笑って答える風音に弓花はがっくりと膝から落ちる。

「気付かなかったーーーーー!!!!」

「でもこっちの世界でこういうのってどうなんだろ。大っぴらに使っても大丈夫なのかな?」

「そこらへんは問題ないんじゃないの。不思議の袋系は値段が張るけど普通に売ってるよ。確か魔術でもあるよね?」

力なく弓花が答える。

不思議の袋。アイテムボックスと違い積載量が固定のアイテム。ゲーム中ではアイテムボックスがいっぱいの時のための予備として使用されていた。ウェアハウスという魔術もあるがこちらは積載量が非常に多いが時間制限のある術だ。

「なるほど。それが最初からセットされてるこのウィンドウはつくづく便利だよね」

「そうね。どうもそれを使ってるのも私たちだけみたいだし」

「やっぱりそうなんだ」

この世界の住人、親方とモンドリーも特にウィンドウを開いた素振りを見せていなかった。

「そう。それとプレイヤーは私の知る限り、私自身と風音だけ。遺跡であんたと会うまでは私だけがこの世界に来たんだと思ってたわ」

「むぅ」

(そこらへんも聞くの忘れてたなあ)

ここに来るまでが大変だったので質問はまとめて後でと思ってたのだが。

(リアル知り合いの私たちが出会うってのも偶然じゃあないよねえ)

「ねえ、風音。あんた、どうやってこの世界に来たか覚えてる?」

「うーん。多分家でゼクシアハーツをやってたとは思うんだけど」

「なるほど、あんたもか」

「というと弓花もそうってことだよね?」

風音の問いに弓花は頷く。

「風音と私の例を取ってみてもこっちに来るまでに場所や時間に差があるみたいだし、もっと前に来てるひとやこれからくるひともいるかもしれないわね」

「まあ、そこらへんは考えても仕方ないよ。とりあえずはやれるところから…だよね?」

「そうね。じゃあチャッチャと市場で道具そろえよう。リンリーさんに報告もしたいしね」

「ラジャー了解」

***********

「ただいまリンリーさん」

「お帰りユミカ」

いくつかの買い物も終え、風音は弓花に連れられて宿屋『クックの鍋処』まで来ていた。

(肝っ玉母さん的な)

などと風音が思うくらいにリンリーさんは大柄で性格までふくよかそうなおばさんだった。

「よく帰ってこれたねえ。大丈夫だったかい。怪我はないかい」

「大丈夫だよリンリーさん。ほらピンピンしてるでしょ」

弓花が両手を広げる。

「ほんとだねえ。今朝は死にそうな顔して出てったからホントに心配だったんだけど、そうかい。無事で良かったよ。それでちゃんとお勤めは出来たのかい」

「勿論、報酬ももらってきました。まあちょっと使っちゃったんだけど。それでね」

「おや?」

弓花が風音の方を向くとリンリーも興味深そうにそちらを見た。

「えっと、こんばんはリンリーさん」

「こんばんはお嬢ちゃん。ユミカ、こちらのお嬢ちゃんは誰だい?」

「私の同郷の友達。偶然会えたんだ」

弓花が照れくさそうに言うとリンリーは目を丸くして驚いた。

「おやまあ、本当かい。それは良かったじゃないか」

ユミカの背中をバシバシ叩きながら喜ぶ。

「痛いよリンリーさんったら」

「おやおやゴメンよ。それでお嬢ちゃん、お名前は?」

「風音と言います。よろしくお願いします」

「カザネちゃんかい。まあ礼儀の良い娘だねえ。ユミカの時とは大違い」

「リンリーさん、勘弁してよぉ」

「ふん。あんだけ死にそうな顔しておいてなんだい。だいたいアンタ、あたしが行かなけりゃあ奴隷商に拉致られる寸前だったんだからね」

「え、マジで?」

それには弓花も驚いた顔をする。

「そうだよ。肉屋のニッカウが小耳に挟んであたしに声をかけなけりゃあ本当に危なかったんだから」

「うわぁあ。いや、ホント感謝してます」

弓花は何度も頭を下げる。

「ま、そんだけ元気になってるんなら大丈夫さね」

そう言って弓花を見る。

「それでこれからどうするんだい。まさかそっちのカザネちゃんまで面倒見てくれってんならさすがに無理だよ」

「いえ。そんなつもりはないです。それに私も今日からはちゃんと客として泊まります。お金もちゃんと稼ぎます」

そう言う弓花にリンリーはフッと笑うと

「なるほどね。じゃあもう問題なさそうだ。それで泊まるのはいいとしても稼ぐってのはやっぱり冒険者かい」

「はい。風音といっしょに」

弓花がグッと拳を握り締め答える。

「そうかい。まあ、体には気をつけるんだよ。こんな小さい娘なんだから無茶させちゃいけないよ」

「あーいや、風音は私と同い年ですよ」

「え? 本当に?」

リンリーの疑惑の目に風音は苦笑いして頷く。

(あー欧米系の人たちばっかだと私ってそう見られるんだぁ)

自分の小ささにそれほどコンプレックスはないつもりだが、今後もそういう風に言われるんだろうなあ…と考えると風音はそっとため息を吐いた。