作品タイトル不明
第七百六十五話 神と戦おう
風音とゆっこ姉ドラゴン、スザに風音の 僕(しもべ) ーズが麒麟化弓花を取り囲む。威圧同士の激突は相殺され、その状況に麒麟化弓花が笑った。
『まあ、分かってはいたことだけど数が多いわね。けど、ふむ……今の私に従うのは二体だけか。まあいいか』
そう口にした麒麟花弓花の言葉と共に腕のサイズに合わせて大きくなった 神狼の腕輪(フェンリルリング) が輝き出すと、シロとキバの二体の銀狼が顕現した。その様子を見ながら風音が目を細める。
「クロマルは従ってないか。やっぱり弓花ではないんだね」
シロとキバは 神狼の腕輪(フェンリルリング) の持ち主に従い、クロマルは弓花に従う。目の前の巨大な化け物がまだ弓花である可能性を疑っていた風音だったが、その疑惑を今度こそ捨て、思考を完全に戦闘へと切り替えていく。
「スザさん、それにユッコネエと狂い鬼。私はちょっと準備をするから時間稼ぎをお願い」
『あ、私もお願いするわ』
その風音とゆっこ姉の言葉に、風音の 僕(しもべ) ーズとスザは答えも返さずに飛び出していく。
彼らは自分たちの役割を違えない。言われるがままに麒麟化弓花を止めるべく動き出した。
『はは、できるのかしら? 未だ神竜にも届かぬ身で』
『舐めるなよ。たかだか力の一部の分際で』
そう言ってスザから朱い炎が吐き出され、同時に並んでいたユッコネエドラゴンからも黄金の高熱ガスブレスが吐き出される。
『あっまーい』
対して弓花の声で化け物が笑うと、スザたちの吐き出した炎を突き破って銀色の狼が飛び出してきた。
『馬鹿なッ』
『にゃああああ?』
スザとユッコネエが驚きの声を上げるが、目の前で銀狼たちはその身を変異させていく。全身に鱗を纏い、その頭部を竜のものへと変えて、全長四メートルを越す巨大な獣へと成った。その姿はまさしく麒麟そのもの。
「ウガァアアアア!」
だがスザに向かった一体へと黒い塊が飛び出して激突し、その場で大爆発を起こした。
「ギャンッ」
爆発によって麒麟が吹き飛び、その光景を見た麒麟化弓花が目を丸くする。それは麒麟が吹き飛ばされたことへの驚きではない。視線は別の何かに向けられていた。
『ああ、素晴らしい』
煙の中から飛び出してきたネイキッド狂い鬼とネイキッドベヒモスビーストを見て麒麟化弓花は驚きの顔をしていた。何しろ、どちらもワイルドな美形であったのだ。
『どちらも私が食べるに相応しい姿をしているわね』
ペロリと長い舌を出して笑う麒麟化弓花に、さしものネイキッド狂い鬼も「ぐぉお……」と一歩引いた。ネイキッドベヒモスビーストも下がった。何かがやばい。そう感じたのだ。
「ウォォオオオオオオオオン」
だが、狂い鬼の相手は今は別だ。吹き飛ばされた麒麟が怒りの咆哮を上げてネイキッド狂い鬼たちへと向かってきたのだ。
「ウガァアアアッ」
それにネイキッド狂い鬼とネイキッドベヒモスビーストも正面から激突し、さらには追いついたダークオーガ軍団も続いて攻撃を仕掛けていく。また、もう一体の麒麟にはユッコネエドラゴン、タツヨシくんケイローンやホーリースカルレギオンも続いて戦闘に入っているようだった。
『ならば必然的に私の相手はスザ、あなたか』
そう口にする麒麟化弓花の表情は余裕そのもの。だが対峙するスザは強ばった顔をしている。
スザは十八メートルを越す大型のドラゴンだ。東の竜の里ゼーガンを護る『護剣の四竜』の中でもっとも神竜に近いとされる存在ではあったが、だからこそ目の前の怪物との力の差は感じてしまう。何よりもスザは目の前の怪物が現在『何をしている』のかを理解してしまっていた。
『さきほど空が割れたのは……まさか、 魔力の川(ナーガライン) と接続したのか?』
その言葉に麒麟化弓花がさらに凶暴な笑みを浮かべた。
それは風音が『見習い解除』をした竜と獣統べる天魔之王でならば可能となる特異技。 魔力の川(ナーガライン) と接続し、個人としては無限に等しい魔力を得る神の御業そのものである。
『私は闇の森の主。神の一柱……そう言ったはずだけど?』
その言葉にスザの背筋が凍り付く思いがした。
『その土地で接続し続ければ、この地の神として封じられてしまうけれど、まあ短時間であれば問題はないのよ』
『それでは……もう』
勝てない。スザはそう即座に理解した。同時に麒麟化弓花から雷が放たれる。
『くっ』
それにとっさにスザは炎を吐いて、炎の壁を生み出して弾いた。周囲に雷撃が拡散し、地面が抉れ、爆風が起こる。
『ああ、そうか』
その光景を見てスザが冷静さを取り戻した。己の力がまったく届いていないわけではないと知ったのだ。
『魔力こそほぼ無尽蔵とはいえ、出力する側には限度がある。であればやりようはあるはずだ』
そう自分に言い聞かせて、スザは麒麟化弓花に飛びかかっていく。対して麒麟化弓花は『果敢だな』と笑いながら、その腕にある聖者の槍ムータンを見た。
それは未だに神聖力を結晶化させず、元の大きさのままだった。麒麟化弓花を覆う神狼の鎧も姿こそ変わったが、銀の輝きが放たれてはいない。
装備しているのが真の主ではないとどちらも理解しているのか、聖者の槍ムータンも神狼の鎧も麒麟化弓花には力を貸していなかったのだ。しかし、そんな抵抗すらも圧倒的な力の前には打ち砕かれる。
『さて、いい加減力を出してもらうわよ』
麒麟化弓花が強引に神力を注ぎ、槍と鎧を力によって従えていく。そして、ムータンが悲鳴のような音を上げながら神力を結晶化させて巨大な槍を形成し、鎧も叫び声のような音を出しながら、鱗をイメージした外装へと変質していく。響き渡るソレは慟哭だった。
『さてスザ。あなたも知っている通り、この身体はそもそも槍を使って戦っていたのよ。であれば、分かるわよね?』
『炎よ、刃と化せ』
スザが麒麟化弓花の言葉を聞かずに両腕から巨大な炎の刃を生み出して切りかかる。
『バーンズ流奥義』
対して麒麟化弓花は、
『『反鏡』!』
人の技を使い、スザを一撃で吹き飛ばしたのだ。
『ガァアアアアアアアッ!?』
凄まじい衝撃音と共に飛ばされたスザが地面に激突して転がっていく。しかし同時に別の存在が麒麟化弓花へと攻撃を仕掛けていた。
『転移魔術を私が分からないとでも?』
アダミノくんが麒麟化弓花の背後に出現した次の瞬間、麒麟化弓花は槍の柄を勢いよく背後へと突き出してアダミノくんを突き飛ばす。その動きは完全に把握されていた。
『私の中に弓花の知識がある限り、転移可能距離を認識していないはずがないでしょ』
そう言いながら麒麟化弓花は目の前で転がっているスザに対して槍を構えて、そのまま雷の闘気を纏わせて突き出した。そして、その刃の先から雷で形成された槍の闘気が飛び出していった。
『くっ!?』
それにスザは反応しきれない。倒れた身体に雷の槍が突き刺さり、衝撃波で地面が消し飛んだ。
『お……いや、 炎の幻影(フレアミラージュ) か』
その様子を見ながら麒麟化弓花が残念そうに呟く。今、麒麟化弓花が放ったのは雷神槍の亜種、雷の属性を帯びた闘気のみを放つ槍術『雷走り』である。
それがスザを貫いたと麒麟化弓花は思ったのだが、実際にスザは炎で幻影を生み出してそれを囮に避けていたようである。
『くぅ、掠めただけでこの威力。凄まじいな。まったく』
もっとも完全には避け切れていなかったようで、スザの身体には焼け焦げた跡があった。そして呆れた顔で麒麟化弓花を見る。目の前の化け物は人の技を怪物の大きさで使うのだ。弓花を敵にするとどれほど厄介なのかをスザは改めて理解していたのだ。
『ああっと……間に合っちゃったか』
対して麒麟化弓花は少しばかりしまった……という感じで口を開いた。スザも己の背後に二体の巨大な何かが現れたことを知覚した。
『ロクテンくん・阿修羅王モードバースト。行くよ』
『爆炎竜サラマンドラ・魔法剣士モード。行くわよ』
そこにいたのは、背からトンファーを持った黄金の翼と剣を握った六本の腕を生やし、両腕には巨大な大剣を握らせた黄金の巨人と、実体化した炎の剣を持った炎の竜であった。
風音とゆっこ姉の戦闘準備もここで整い、麒麟化弓花へと駆け出したのである。