作品タイトル不明
第七百六十六話 大剣を振るおう
爆炎竜サラマンドラ。それはゆっこ姉の手持ちの中では最大の戦闘力を誇る召喚竜であり、炎の最上位精霊の一体であった。
今のゆっこ姉は自らを召喚竜のコアとし、直接魔力供給と指示を行いながら、自身も魔術を併用できるように動いていた。
そのサラマンドラの腕には、高位召喚魔術の産物である炎の魔法剣レーヴァテインが握られており、周囲には魔力を増幅させるエンチャントアイテム『ウロボロスの円環』が回転して浮かんでいる。本来近接戦闘メインではないゆっこ姉の近接戦スタイルがそれであったのだ。
さらにサラマンドラに並んで立っているのは黄金の巨人だ。十五メートル級の爆炎竜サラマンドラに比べて全長三メートル半と比較すれば小柄ではあるが、背中より黄金の翼とメタルカザネJを変形させて二本増やした六本の腕が生えており、実際の大きさよりも強大な姿に見えていた。
また黄金の翼の先にはしっかりとドラグホーントンファーも握られており、攻撃にもブーストとしても転じられるように構えられている。さらには背から生えた腕にそれぞれ刀が握られ、背の腕だけで『六刀流』も可能となっていた。
だが、ロクテンくん阿修羅王モードがバーストになった理由は、本来の両腕に持たされている無骨な大剣にあった。
『へぇ。完成してたんだ……というには不格好だけど』
麒麟化弓花の言葉に風音が笑う。
『親方も匙を投げちゃってね。結局龍神の鱗を三つ重ねるだけで完成扱いになっちゃったんだよねぇ』
そう風音が言う通りに、その大剣はロードゾラン大樹林周辺で手に入れた龍神の鱗をただ三つ繋ぎ合わせただけのもの。また柄と繋がっている根本の鱗は麒麟化弓花の中に宿った龍神の神力が込められていたもので、今は神力が宿っていない。神力の影響を極力避けるために、接触する箇所の鱗には敢えて何も入っていない鱗が選ばれていたのである。
『でも分かるよね? これは痛いよ』
それが親方の用意した龍神の鱗を武器としたもの。その『龍神の大剣』と名付けられた武具を構成する巨大な鱗は、ソレ自体が完成されていて加工する余地などなく、ただ風音が使いやすいように形を整えるのがせいぜいであったと親方が途方にくれたほどのシロモノだ。
その龍神の大剣を携えて、風音は麒麟化弓花へと突撃する。
『面白い』
対しての麒麟化弓花だが、今や神力に満ちた銀の鎧を纏い、神力を結晶化させた槍を握った姿となっている。そして初手は、
『スキル・キリングレッグ!』
ファイア・ブースト二連を発動させ加速させた風音の蹴りであった。
それを麒麟化弓花は槍で受け流す。それは槍術『柳』。そこから足払いをかけて相手を倒す『転』に繋ごうとしたところで、ロクテンくんの背にある腕のふたつが延びて地面に手に付けてロクテンくんを支える。
『続けてのイッパァアアアツ!』
その伸びた腕に擬態化させたメタルカザネJ。風音は無理矢理な態勢であるにも関わらず、器用に回転しながら勢いを付けて龍神の大剣を振るう。
『チッ』
その攻撃に初めて麒麟化弓花が余裕のない顔を見せた。それから麒麟化弓花は神槍ムータンを突き出し、龍神の大剣と激突させる。
『うりゃああ』
『ふんっ』
そのぶつかり合った刃と刃が、周囲に衝撃波をまき散らしていく。
『もらった!』
『やってサラマンドラ!』
続けて風音と向かい合ったことで背を見せた麒麟化弓花に、スザとサラマンドラが斬りかかった。
『させるかッ!』
麒麟化弓花の身体から白い雷光が走る。当然、麒麟化弓花もその追撃は予期していたのだ。故にカウンターの攻撃を放てたのは当然。だが、弓花の知識ではそこより先までは読めなかった。
『スペル・アポロシールド』
次の瞬間には風音が離れ、ゆっこ姉がサラマンドラの中から魔術を放ったのだ。
それは火属性最上位のシールド系魔術。それがまるで太陽のような球体のシールドとなって麒麟化弓花の周辺を覆い、全方位の雷をその場で留めた。
『んで、解除っと』
そして、すぐさまシールドが解除された
る。麒麟化弓花の電撃は完全に防がれ、続けてゆっこ姉たちの攻撃のターンへと早変わりする。
『く、伊達に年は食ってないということね』
『死ねッ』
麒麟化弓花の悪態に鬼神の形相となったゆっこ姉がサラマンドラに剣を振り下ろさせる。同時にスザもタイミングわずかに遅れて、姿勢を低くしたまま足下へと二剣を振るった。
『温いわよゆっこ姉』
だがその攻撃は甘かった。
ゆっこ姉はサラマンドラに一通りの剣術を仕込んではいたが、その巨体と剣の能力に任せた蹂躙が基本的な戦術であった。スザにしても精進こそしていても剣の達人という域には達していなかった。
元よりそのサイズで剣術や槍術で戦うことなど普通はないのだ。だからゆっこ姉とスザは圧倒的に足りなかった。弓花という達人の域に届きつつある槍使いと近接戦を渡り合うには実力がまるで足りていなかったのだ。
『ふっ』
続けて麒麟化弓花は一歩を踏み込み、スザの二剣の振りが勢いに乗る前に自らの脚甲を当てることで勢いを殺した。同時に篭手についているライトシールドでゆっこ姉のレーヴァンテインを抑えると、
『槍術『輪』!』
大きく槍を振り回して、ロクテンくんとサラマンドラ、それにスザをその場から弾き飛ばす。
『ええい、メッガビーーーム!』
だが、風音は飛ばされながらも諦めずに続けてメガビームを放った。それはつい先ほどパワーアップしてホーミング性能が付いたものだ。その放たれたビームは空中であらぬ方向に向かったかと思えば大きく弧を描いて麒麟化弓花へと向かっていく。
『無駄ァッ』
それを麒麟化弓花は槍を振り下ろして切り裂く。そのままビームが分かれて麒麟化弓花の背後へと通り過ぎ、大地に激突して大爆発が起きた。
『まだまだっ』
だが、風音の攻撃はそれで終わりではない。同時にロクテンくんの黄金翼に握られたドラグホーントンファーからファイア・ブーストが放たれると風音は再び弓花の方へと突撃し、さらには急回転・急加速をしながら蹴りの態勢をとった。
『いぃぃいいけぇええええええ!』
そしてカザネバズーカ・ロクテンくん版に『ドリル化』と『爆裂鉄鋼弾』を加えた必殺技『ロクテンくんドリルキヤノン・バースト』が放たれる。
『無駄、無駄ァア!』
対して麒麟化弓花は、その場で槍を回転させて円形の神力の刃を生み出して放った。それは闘気が神力へと代わり、その威力は尋常ではないほどに増しているが、バーンズ流槍術奥義『斬玉』と呼ばれる技であった。
『ぬっ!?』
それが風音の脚が変形したドリルと接触した。そこに込められたスキル『爆裂鉄鋼弾』は、弾丸と定義されたものに鉄鋼の硬度を与え、その硬度を上回る衝撃を受けた段階で爆発するスキルであった。その機能が正しく発動し、接触面で大爆発が起きる。
『ええい。これでも駄目かぁッ!?』
『それはこっちの台詞よ風音!』
その爆発で神力の円刃は半壊するも未だ健在。しかし麒麟化弓花の攻撃にはまだ先がある。次の瞬間に麒麟化弓花はバーンズ流槍術奥義『反鏡』を発動させ、目の前にある神力の円刃へと放った。
『吹き飛べ!』
それが神力の刃を崩壊させ、まるで散弾銃のようにロクテンくんへと降り注ぐ。
『ガッ、ぁああ!?』
それには堪らず風音が叫んだ。そのあまりにも強大な破壊力にロクテンくんは『ロクテンくんドリルキヤノン・バースト』を崩され、全身にダメージを受けて吹き飛んでいく。
『それじゃあ終わりよ風音』
そこにトドメが放たれた。それはバーンズ流槍術奥義『七閃』。必殺の突きを七度放つ大技。
そして、それら一連のコンボをバーンズ流の最大奥義『 三種の神器(トリニティ) 』という。バーンズの当主ジライド・バーンズですらも実戦では使えぬその大技を弓花は使いこなす。麒麟化弓花もその知識と肉体の経験から当然のように繰り出したのだ。だが風音もそれでは終わらない。
『来てジィィイクッ!』
「ぬぉぉおおおっ」
次の瞬間には砕け散る金属の音がした。そして吹き飛んだのは銀髪の戦士。喚び出された英霊ジークはロクテンくんの身代わりとなって『七閃』をその身に受けた。
『ジークごめん』
「こればかりは……やむをえん」
風音が空中で謝り、英霊ジークも苦痛に顔を浮かべながらもそれを許し、頷いた。英霊ジークの防御すらも貫くのでは、ロクテンくんでは半壊していたのは間違いなかった。
一方で無防備な状態のままで七度もの直撃を食らった英霊ジークも無事では済まない。そしてロクテンくんと英霊ジークはズダボロになって大地へと激突し転げていった。
『ユーケイ、合わせていくわよ』
「はいはい。どうせこれでも死なないでしょーけど」
そして麒麟化弓花は、さらに追撃しようとしたその背中に恐るべき魔力を感じたのだ。その直後に巨大な炎のランスが放たれる。
『なんという魔術だ』
スザが恐れおののくほどに強烈な威力を持つ炎のランスが一直線に麒麟化弓花へと向かっていく。
それはゆっこ姉と英霊ユーケイの対個人用の相乗破壊奥義『プロミネンスランス』。すでに己らだけでは手に負えないと判断したゆっこ姉は英霊ジークに続いて英霊ユーケイを召喚していたのだ。そして……
「ぐ、グリリィィィイイイン!?」
ここで対個人用であるが故の弊害が発生した。
渾身の力を込めた『プロミネンスランス』は麒麟化弓花へは届く前に突然現れた巨大な熊を貫いたのだ。
『なんですって!? って、うわっ』
驚きのゆっこ姉が本能的な危険を感じた。その場にいるのは串刺しになった熊だけではなかったのだ。まるで幽鬼の如き気配を放ちながら、サイケデリックな姿をした少女がゆっこ姉を睨んでいた。
「グリリンを殺した……な。グリリンを……私のグリリンを……」
ギリギリギリと歯ぎしりが聞こえる。その声に宿るのは、もはや怨念の類だ。愛するグリリンを殺され、怒りに燃える英霊アーチがそこにいたのだ。