軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百四十一話 踊って囲まれよう

◎ロードゾラン大樹林

「マズったね」

ライルを追って移動している途中、風音が若干の焦りの篭もった声で呟いた。

「どうしたの。ライルに何かあった?」

併走している弓花が風音に尋ねる。明らかに風音の顔が険しくなっている。そして移動しながらも風音はスキル『情報連携』でライルと連絡を取り合っていたはずなのだ。であれば、今この場に問題がないのであれば、ライルの方に何かあったと考えるのが自然であった。

「うん。戦闘が始まってる。ライルがバレちゃった。あーもう、言うんじゃなかったか。失敗した」

風音が頭をかきながらそう言って周囲を見回す。

「だったら姉貴、もう少し速度を上げないと」

直樹の言葉に対して、風音は左の方を見ながら口を開く。

「分かってるんだけど……ッこっちも来たか。運悪いなぁ」

その風音の言葉と共に、左手の方角からバキバキと木々を倒しながら何かが迫ってきている音が響いてきた。その状況に直樹が眉をひそめる。

「今度は何だよ?」

「昨日のヤツ。気付かれたよ。戦闘準備ッ!」

風音の指示により、その場で全員が散開して隊列を組んでいく。そして見えてきたのは昨日に逃がした、あるいは逃げた相手でもあるセンチピードカノンだった。その魔物が三体並んで風音たちに迫ってきたのだ。

「来るよッ!」

風音のかけ声と共に初手から三体のセンチピードカノンが一斉に砲弾を放ち、それが白き一団の面々の横を通り過ぎて、後方に着弾し爆発して土塊が舞った。

「危なっ!?」

その攻撃を防いだのは風音のマテリアルシールドとジンライとライノーの槍だった。

「さ、さすが師匠」

弓花もそれには驚きを隠せない。ジンライとライノーが使ったのは槍術『流』。攻撃を受け流すだけの技だが、それで目にも止まらぬ砲弾を爆発させることなく逸らしたのだ。人間技ではなかった。また風音のマテリアルシールドも 円錐(コーン) 型で想定通りの性能を発揮していた。こうしてまず初手は防いだ。しかし一体だけでもかなりの相手であったのが今は三体もいる。それにライルを回収せねば退くこともできないのだ。ここから先は激戦必至であった。

◎ロードゾラン大樹林 沼地

「くそっ、まさかバレるとはな」

『我というヤツは……本当に……』

ジーヴェの槍の呆れ声にライルも「す、すまねえ」と言わざるを得なかった。そのライルの頭にはふっさりとした髪の毛があった。ライルはライルの髪を食べたエンジェルヘア・デトネイターをすでに捕獲していた。それどころか自ら頭に戻していたのだ。

「つか、これって……本当に髪が復活したって言えるのか?」

ライルが少しばかり眉をひそめる。風音の『言う通り』に行動し、ライルは確かに己の髪を『取り戻して』いた。もっとも確かに融合した感はあるのだが、何かが違う気がしていた。

『ライル様、今はそれどころではないでしょうが』

そこにジン・バハルからツッコミが入る。

今は他のことを気にしている余裕はないのだ。何しろ、ライルが『とある方法』で己の髪を取り戻して小躍りしたところをバッチリガーメたちに見られたのだ。ふわふわとライルたちの元へと向かったエンジェルヘア・デトネイターに視線を向けてのことだったため、ライルが踊らなくともバレていた可能性は高かったが、どうであれライルたちは発見されてしまった。そして、その次の瞬間には沼の中にいたガーメと木の上にいるエンジェルヘア・デトネイターが一斉に襲いかかってきたのであった。

「わーってるっての。悪かったなユッコネエ。大丈夫か?」

「にゃ、にゃー」

そのライルの横にいるのは、毛がすべて抜け落ちたユッコネエだった。見た目猫の品種のひとつであるスフィンクスみたいになっている。召喚体であるため再召喚で元に戻るはずだが、普段のユッコネエを見慣れていればそれはかなり悲惨な姿であった。

「わりいな。お前にはこの髪でも世話になったのに……こんな寒々しい姿にさせちまって」

ライルの言葉にユッコネエが「にゃー」と言って右前足を上げる。それはエンジェルヘア・デトネイターの攻撃からライルを庇った結果であった。ユッコネエは無数のエンジェルヘア・デトネイターによって一毛打尽とされてしまったのだ。だが、ここでしょげている場合ではない。どうにか牽制し下がれはしたものの囲まれて絶体絶命の状況は変わらない。

「にゃああああああッ」

迫る敵に対しユッコネエは自らを 白金(プラチナ) 色に輝かせると駆け出していった。

「今までになく速い!?」

ライルが驚くのも無理はない。それはまさに神速であった。速度重視に成長しているシップーをも超える速さでユッコネエは駆けていたのだ。

何しろ毛が抜けた今のユッコネエのゼンラー率は100パーセントに到達していた。それはつまりスキル『最速ゼンラー』の真の力を発揮できるということでもあった。その上に『白金体化』をかけてその能力を上昇させており、さらにはユッコネエの伸びた炎の爪がグニュリと回転しスキル『ドリル化』の力が付与されている。

それこそはユッコネエスフィンクスと後に風音が名付けた形態。最速の巨猫が誕生した瞬間であったが、

「にゃーーーー」

その鳴き声はとても悲しそうであった。

ともあれユッコネエはパワーアップを果たした。しかしガーメたちも亀の魔物なので防御力が高く、そう易々とダメージを与えることはできない。

ユッコネエもガーメの伸ばした長い首を切り裂くことで何体かは倒すことができたが、例え『ドリル化』の恩恵があっても硬い甲羅を崩すことはできないのだ。その速度からユッコネエは攻撃を受けることもないが相手にダメージを与えることもできないでいた。

なお、エンジェルヘア・デトネイターに対してユッコネエは不自然なほどに一方的に蹴散らしていた。繊毛攻撃も爆破もすべて避け、その炎の爪で燃やし殺していたのだ。

「すげえな」

『来ますぞライル様』

ユッコネエスフィンクスの戦いに見入っていたライルにジン・バハルが声をかける。すでに他の沼からもガーメたちがきてライルたちに迫っているのだ。

『刺突技の『竜牙』。行けますか?』

「無理だろ。訓練でもロクに使えないんだぞ」

『ですな』

それは博打に走らないようにとのジン・バハルの確認であった。もっとライルにしても竜騎士槍術が使えぬからと言って、ただ手をこまねいているつもりはない。ライルはジーヴェの槍を握って前を向く。ガーメには直接攻撃がほとんど通用しない。であれば……と、ライルは別の手段で攻撃を行おうとしていたのだ。

「ジーヴェッ」

『分かっている。行くぞ!』

そしてジーヴェの槍の口の部分がガコンと広がると、そこから一気に強力な炎が吹き出されてガーメたちへと放たれた。

「甲羅が硬かろうとドラゴンの炎に灼かれてはノーダメってわけにもいかねえだろ?」

その炎を浴びせられたガーメたちが次々と首を引っ込めて丸くなっていく。ダメージは微量だが、その攻撃は確実にガーメたちを足止めできていた。

「後は、これからどうするかだが」

それからライルは思案する。残念ながら今のライルに勝ち目はない。ユッコネエスフィンクスは強力だが、ガーメ相手では相性が悪い。そして、やはり仲間の到着のための時間稼ぎしかない……とライルが考えていたところに、森の中からチンチクリンが飛び出してきたのだ。そして併走してやってきた狂い鬼の乗るベヒモスビーストが、そのままガーメの群れへと特攻し激突していく。

「おおお、やってるねー」

「カザネか。他のみんなは?」

ライルが炎を出し続けながら尋ねる。

「途中でセンチピードカノンの群れと遭遇しちゃってね。仕方ないんで私だけ来たよ」

「マジかよ」

センチピードカノンは昨日に戦った大百足の魔物だ。その群れとの遭遇は今のライルの状況よりも危うかった。

「まあ、大丈夫でしょ。今回は全力解禁したからね」

その風音の言葉のすぐ後に、まるで森の中に太陽が出現したかのように、離れた場所で光の球体が出現した。

「なんだ、ありゃあ!?」

「あちゃー、ユーコーは派手だなあ」

驚くライルの横で風音が少しだけ眉をひそめながら、そう口にする。あの規模の戦闘を行ってはかなりの範囲の魔物が気付いたはずである。目的を果たしてさっさと離脱しなければそれこそ次々と凶悪な魔物と対決し続けなければならない事態に陥りかねない。

「まあ、しゃーないね。よいしょっと」

「なんだ?」

いきなり背中に抱きついた風音にライルが目を丸くする。

「仕方ないから、今回はライルに力を貸してあげよう」

風音がそう口にするとスキル『友情タッグ』が発動されて、ライルの力が上昇していく。そのスキルは弓花やティアラほどではないにしても、ライルにも確かに効果があった。

「おお、力がわき上がる」

驚きのライルに風音はさらにスキルの発動を重ねていく。

「スキル『情報連携』、私の見ている世界をライルに完全に同期させる」

「これは……」

次の瞬間にライルが感じたものは、風音が見ている世界だ。『イーグルアイ』と『コンセントレーション』も加わった感覚の情報量の多さにライルが酔いそうになる。

「ほら、こっちも食べな」

「うめっ。まだクラッとくるが……これなら行けるか」

風音が渡した『知恵の実』を食べたライルは、知力の上昇により処理能力も上昇していた。そうして、どうにか風音の見えているものを把握するに至ったようであった。それからライルは風音をオンブしながら、迫ってくるガーメの群れに対して構えた。

「いけるね」

「応っ!」

その風音のかけ声に応えながらライルが飛び出す。それはある意味では、風音が竜騎士になった瞬間でもあった。