軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百三十七話 マッスルでハッスルしよう

『ミ・ナ・ギ・ル・ゾォォオオオ!!』

炎の王騎士(フレイムキングナイト) の中から出現した巨人がミシリと筋肉を盛り上がらせながら吠えた。それは 炎の巨人(フレイムタイタン) と呼ばれる六メートルほどの巨大な人型をした炎であった。

「うんうん。お爺ちゃん最高だね。ほっほーい」

非常に端正な筋肉に包まれた、まるでギリシャ神話の神々の彫像に近い姿をしたメフィルスを前に風音のテンションは最高潮にまで高まっていた。

一方で風音の前に立つ巨大メフィルスは少しだけ悪寒が走ったが、炎そのものである己の姿を見て、勘違いであろうと納得してから後ろにいる孫娘に声をかける。

『ティアラ、武器に力を』

「はい。お任せ下さい」

メフィルスの言葉にティアラが反応し、パスを通じて 炎の巨人(フレイムタイタン) へと魔力を注いでいくと、巨人の腕から炎が巻き上がって武器の形へと変わっていった。

魔導兵装フレイムドリルランスが核となった炎のランス。それをメフィルスは握りしめ、森の中を一気に駆けていく。

『切れた片方は余が倒すぞ』

『それじゃあもう片方はッ』

「俺がやるッ!」

ライルが爆炎竜サラマンドラの前に出て、膨大な竜気を纏いながら突撃していく。

『あらあら』

それを爆炎竜サラマンドラが肩をすくめながらお手並み拝見とばかりに見ている。ちなみにユーコー本体は、現在後方で待機中である。

『ヌォォオオ』

迫るメフィルスに対して切り裂かれたドラゴチルチルヒの前半分も、頭部を再びドリル化して襲いかかった。

『いくぞぉおおお』

巨人メフィルスの声とともにさらにティアラから魔力が注ぎ込まれ、メキメキと炎でできた筋肉が膨張していく。膨れ上がった右腕に握られた炎のランスが、驚異的な速度でドリル頭部と激突して火花が散った。

「頑張れーお爺ちゃん」

「お爺さま、ファイトですわー」

『孫娘たちの声があればこんなウネウネなんぞぉぉお』

声援により、さらに 炎の巨人(フレイムタイタン) の筋肉が盛り上がっていく。魔力を込めることでどこまでも盛り上がる筋肉こそが 炎の巨人(フレイムタイタン) の能力だ。さらには風音のスキル『友情タッグ』により、その力は膨れ上がり、もはやメフィルスの姿は筋肉達磨の如く肥大化していた。

「やばい、やばいよお爺ちゃん。ヤバすぎだよ」

風音がキャッキャキャッキャとはしゃぎながら、ティアラと手をつないでない左手で器用にカメラのシャッターを切り続ける。メモリアルを外部記憶装置に記録し続ける。その風音の様子に気付いていないメフィルスはさらに力を込めていく。

『ヌガァアアアアアッ』

そして、メフィルスの圧倒的なパワーを前にドラゴチルチルヒのドリルは砕け散り、そのままランスが前半分の身体を貫いていた。

『灼かれよ』

メフィルスのその言葉とともに突き刺さったドラゴチルチルヒが天へと掲げられて、内側から溢れ出した炎に焼き尽くされていく。

一方で後ろ半分のドラゴチルチルヒに向かっていったライルだが……

「うぉぉおおおっ」

竜気を槍に集中させた突撃技『竜閃』を用いて、ライルはドラゴチルチルヒへ駆けていき、切り裂かれた傷口の中へと突入していく。

「ここなら、滑って避けられることもねえだろっ」

『我にしては考えたな』

ライルの予想通りに『竜閃』は一気にドラゴチルチルヒの体内を貫通していく。ドラゴチルチルヒのコアは上半身にあるため、残存魔力だけで動いている下半分ではもうどうすることもできない。

『しかし……』

ジーヴェの槍がつぶやいた。

「あ、なんだ……よ?」

槍の声に眉をひそめたライルだが、次の瞬間にはブヨンと激突したのだ。目の前の壁と。

『皮膚が切り裂けぬのでは外に出れぬな』

「あああああああああーーーー」

ライルが叫ぶがもう遅い。その場で『竜閃』の勢いは止まり、内側からの皮膚に槍は阻まれ、抉った周辺の肉の壁が徐々に狭まっていく。

『このままでは肉壁に挟まれて死ぬぞ』

「マジか?」

ジーヴェの言葉にライルが叫び声を上げた。大失敗である。しかし、ライルは諦めずに槍を構え、

「くっ、こんなときこそ、己の力を覚醒させて……竜騎士槍術『竜爪』ッ」

竜気を帯びた槍で皮膚の内側を突いたが呆気なく弾かれた。

『覚醒などと……世迷い言を。日々の鍛錬こそが戦士にとってはすべてであると、我が祖父も言っておるだろうに』

「う、うるせーー」

それからライルが何度となく試したが『竜爪』は上手く行かず、もう無理だと言うところでジン・バハルが『竜爪』で切り裂いて救出したのであった。ジン・バハルも実戦の中で竜の本質に目覚めるかとも期待していたのだが、どうやら今回は空振りのようだった。

また、残りのドラゴチルチルヒだが、

「助っ人に行った意味なかったよ」

完全神狼化を解いている弓花が肩を落として戻ってきて、風音にそう言った。

弓花がたどり着いたときには、すでにドラゴチルチルヒはジンライとシップー、それにライノーによって仕留められていたのだ。

「あのメンツじゃねえ」

風音も「仕方なし」と頷いた。

なお、ユーコーたちの方も優勢であったし、風音が出向いた意味もそれほどなかったかもしれないのだが、ティアラが今も風音の手を握って嬉しそうに微笑んでいるのでまあ良しと考えた。

「スキル『ドリル化』」

それから風音は、すべての戦闘が終了したのを確認してから新しいスキルを発動させる。すると風音の杖の先の巨大 魔金剛石(マナダイヤ) 球がドリルの形になったのだ。

その姿を見て弓花が首を傾げながら尋ねる。

「風音、それは?」

「ドラゴチルチルヒのスキルだね。物質を亜空間固定させたまま歪曲して、無理矢理ドリルの形に変えてるみたい。硬度も上がるけど、砕けるとああなっちゃうんだよね」

風音の指差す先には『ドリル化』が解けて頭部が砕けているドラゴチルチルヒの姿があった。

「たぶん、こうして別の物質にかけた方が無難なんじゃないかな。うぃーんっと」

風音が大地に風音の杖を刺すとドリルが回転して穴が開いていく。ドラゴチルチルヒはこの『ドリル化』で攻撃もするが、実際のところは主に地中を掘るのに使用しているのだ。

「なぁるほーどね」

「まあ、それよりもドラゴチルチルヒの素材だね。こっちの方がかなり重要だから」

「重要?」

「この体内にあるのって実はマッスルクレイなんだよ」

「え?」

「正確には私が造ってたのってさ、ドラゴチルチルヒのマッスルクレイを参考に造った人工物っていう位置付けなんだよね」

ゲーム的に言えば、複数の素材を用意して製造にも手が掛かるマッスルクレイを、このドラゴチルチルヒはそのままドロップするのである。

ゲーム中でも効力に違いはなかったことから、おそらくこれも同じだろうと風音は考え、ケイローンたちに解体作業をお願いしていく。また、ライルの攻撃を防いだように、その皮膚もまた貴重な素材となるので回収対象である。ドラゴチルチルヒは巨大ミミズで気持ちが悪い魔物だが、実はかなり倒しがいのある魔物であったのだ。

「カザネよ。それで今日はどうする? これから森にまた戻るのか?」

すでに解体作業を始めているゴーレムたちを見ながらやってきたジンライが風音に尋ねてきた。それに風音は首を横に振る。

「いんや。予定通り、直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) が回復するまでは待機するつもりだよ。あの二十体のドラゴチルチルヒだけでも普通にやってたら正直全滅コースだったと思うし、やっぱりあの森は怖いからね」

実際にあの場で 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) が使えなくとも英霊を使用することで全滅は逃れられただろう。ただ、あの時点であまりにもドラゴチルチルヒはパーティと距離が近かったし、仲間の犠牲の可能性は否定できない。そんなことを考えている風音の後ろでは仮面二人組も何やら唸っていた。

「正直、まだ侮っていたわね。あんなの昔はさんざん経験してたはずなのに」

「本当に肝が冷えたな。あの物量で囲まれたら、さすがに仲間を守りながらの対処は難しかったぞ」

仮面の女王ユーコーと仮面の槍使いライノーがそう話し合っている。ふたりにとっても先ほどのドラゴチルチルヒはかなりの危機感があったようである。

単体でならば倒すこともできるとふたりも自負していたが、あの位置からあの数で攻められては仲間を失わずに勝利を収めることは難しい。それを戦闘後に改めて痛感していた。

「ともかくもう少し固まって動いた方がいいね。それに明日は別のルートで行くよ。ドラゴチルチルヒの残り十七匹と戦うつもりはこれっぽっちもないし、エンジェルヘア・デトネイターの生息地は他からでもいけるから」

風音はそう仲間たちに話し、それから総出で素材を回収し終えると一行はコテージのある拠点へと戻り始めた。

わずか十分。それが初日の闇の森探索時間であった。

そして翌日、直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) が発動可能となった後、彼らは再び闇の森に挑むこととなる。次こそはと思いながら、またその地に足を踏み入れたのだ。