軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百三十六話 パワフルになろう

◎メゾトルの森

静かであったメゾトルの森が一瞬にして騒々しくなった。突如光の柱が現れ、そこから巨大なミミズが三体飛び出してきたのだ。

そして、それらが放つ気配を感じた周辺の魔物や動物たちが一斉にその場所から逃げ出していく。

メゾトルの森にいる生命は闇の森の気配に非常に敏感だ。森からやってくる驚異に対してどう対処すれば良いかを知っていた。ただ背を向けて逃げ出す。それが出来なければこの森では生き残れない。

だから、真なる驚異に晒されていたのは逃げまどう小さき命たちではなく、巨大なミミズの真下にいる彼らであった。

「姉貴っ」

「き、キモい」

転移した瞬間に巨大なウネウネが目の前にある。それはまさしく悪夢であった。だが直樹が何故かダメージを受けていた。如何に耐性のある直樹といえども不意打ちのキモいの言葉には弱かったのである。

「みんな、衝撃に備えて」

そして風音はバカな弟のことなど気にせず再度風音の杖を振って、暴風を発生させる。その対象はドラゴチルチルヒではなく、仲間たちであった。

「キャァアアアアッ」

不意の状況にいくつかの悲鳴が起きたが、次の瞬間に彼女らのいた場所に巨大な肉塊が振り下ろされた。土塊が飛び散り、風音に吹き飛ばされた面々がそれを愕然と見ている。つい今まで自分たちはあの下にいたのだ。そのことに驚愕しつつも、各々はすぐさま動き出し始めていた。ちなみにショックを受けていた直樹は地面に頭からぶつかって気絶していた。

「みんな無事? 直樹? まあ、いいや。ドラゴチルチルヒも興奮してるから気を付けて。各個撃破で行くよ」

風音がそう言いながら、スキル『竜体化』を発動させてドラゴンと化した。

続けて再召喚されたユッコネエも黄金竜となり、さらにはユーコーが爆炎竜サラマンドラを召喚してドラゴチルチルヒのそれぞれに激突して、三体をそれぞれ引き離していく。

『ウネウネしてるー』

『にゃにゃー』

押し込みながら風音とユッコネエが悲鳴を上げるが、ドラゴチルチルヒは構わず暴れ続け、ウネウネと気持ち悪い思いをしながら風音たちはドラゴチルチルヒたちの距離を離していく。

そうして風音たちがドラゴチルチルヒを分断している間に吹き飛ばされた仲間たちの戦闘態勢も整った。直樹以外は。

「ええい。してやられたか」

「さすが闇の森。恐るべきというところだな」

そして、いち早く立て直し、シップーに乗ったジンライとライノーがそう言い合いながらユッコネエドラゴンの抑えているドラゴチルチルヒの元へと駆けていき、タツヨシくんケイローンもそれに続く。

『行きますぞライル様』

「畜生。ブッ倒してやる」

さらにはジン・バハルとライルが爆炎竜サラマンドラの押さえているドラゴチルチルヒへと挑み、それにはアダミノくんがバックアップについた。そして最後の一体には……

「やってくれるなぁ」

「風音。来るわよ」

竜体化を解いた風音に、クロマルに乗って追いついた弓花と、再召喚された狂い鬼ベヒモスライダーも並び立ち、対峙する。

「さすがに囲まれての二十体は厳しかったけど」

「この三体だけなら問題なくいけるでしょっ」

そして狂い鬼ベヒモスライダーと完全神狼化した弓花、それに 三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) と化したクロマルが一斉に駆け出して行く。対してドラゴチルチルヒも巨大な身体を振りかぶって迫る相手にぶつけようとして、

「グガァアアアアアッ」

それを狂い鬼の乗っているベヒモスビーストが体当たりで受け止めた。衝撃でベヒモスビーストの足が地面にめり込むが、しかし超獣は見事に耐えきった。

「グォォオオオオッ」

そこに狂い鬼がベヒモスホーンクラブを振り下ろしてドラゴチルチルヒへとダメージを与えていく。さらには完全神狼化弓花の突きとクロマルの突撃が加わり、ドラゴチルチルヒの巨体が一気に弾き飛ばされた。

『今よ。風音ッ』

「むわーかせてっ!」

その弓花の声に反応して上空から銀色の流星が落下する。

それはスキル『白金体化』を施した上で、『空中飛び』『ブースト』『ファイア・ブースト』で加速し、回転を加えながらの『キリングレッグ』を発動させ、さらには『ウィングスライサー』で翼の刃を、『ビースティング』によって貫通力を高めたスキル複合技『カザネバズーカ・オメガロード』であった。

以前に放ったカザネバズーカ・ファンタジックヘブンと何ら変わることはないが、込められた想いはまったく別のものだ。

すべてを終焉へと導く終末の流星。

風音は己をそうしたものであると 妄想(イメージ) することで、プラシーボ効果によりさらなる破壊力を生み出していくのである。

「ピギィイイイイイ」

対してドラゴチルチルヒは己の頭部を変形させて鋭角で硬いドリルへと変えると、そのまま回転して迫るカザネバズーカと激突した。そして魔力の火花が散り、両者の力は拮抗しているかのように見えた。

「あっまーーーい!」

しかし叫んだ風音の回転力がさらに上がっていく。ドラグホーントンファーから再び『ファイア・ブースト』を発動させて威力を上げ、そのままドリルを粉砕してドラゴチルチルヒの身体を抉っていく。もっともドリルを破壊し突き抜けたカザネバズーカ・オメガロードであったが、その軌道はドラゴチルチルヒへの直撃コースではなかった。

「くっ、このままだと倒しきれない」

回転しながら風音が悔しそうにつぶやく。ドラゴチルチルヒはドリルをただ防ぐのに使ったのではなく、逸らす目的でも使用していたのだ。そしてカザネバズーカによって身体の右半分が抉られたが、それでもまだドラゴチルチルヒは健在であった。だが、風音はひとりではないのだ。

『いぃけぇええええッ』

続けて弓花のバーンズ流奥義『斬玉』が放たれる。その円形状の闘気の刃は真横からドラゴンチルチルヒの首元を切断して頭部が宙に飛ぶと、そこからパシュンっと音がしてゼリーのような物体が飛び出してきた。

『敵? いや、あれって 魔金剛石(マナダイヤ) のゴーレム?』

完全神狼化弓花が驚きの顔で見ているが、飛び出てきたのはジュエルカザネであった。それはスライムのようにバウンドしながら風音の握っていた杖の先へと戻り、そのままボーリング玉ぐらいの球体に戻って固定される。そして杖を元に戻した風音の顔は笑顔であった。

「おお、『ドリル化』のスキルが手に入ったね。それに私の新武器はもはや 神(かみ) 武器と言ってもいいかもしれないね。超強い」

風音がそう言ってブンブンと風音の杖を振り回す。

それはもはや鈍器であった。風音の意志に従って自在に変化するので、場合によってはトゲトゲの球に変化しフレイル代わりにだってなる。槍にも剣にだって思いのままに変えられるのだ。

『いつ、体内に侵入させたのよ?』

「カザネバズーカを当ててる途中でね。どうも倒せそうもなかったから……後どうやらトドメを刺したのは私だったらしいよ」

そう風音がドヤ顔するが、風音にスキルが手に入ったのだからその認識は正しかった。もっとも、それには弓花は『ああ、そう』とだけ返して相手にしなかった。弓花はそうしたことに対してのこだわりはあまりないのだ。

『まあいいや。それよりも他のメンバーは』

「まだ戦ってる。急いで助勢しよう」

続けての風音の言葉には弓花も頷き、それからふたりはそれぞれの 僕(しもべ) を連れて二手に分かれ、それぞれの戦場へと向かっていった。

**********

「おりゃあっ」

そして風音たちがドラゴチルチルヒの一体を仕留めたのと同じ頃、ライルがドラゴチルチルヒに飛びかかって槍を突きだしていた。もっともドラゴチルチルヒの表面はヌルヌルとしていて、その攻撃はまるで通らない。

「畜生。槍が効かないじゃねえか」

『そうでもありませんぞ』

その横を通過し、 竜骨騎士(ドラゴンスカルナイト) となったジン・バハルが黒の竜牙槍を振るうと、確かにドラゴチルチルヒの表皮が切り裂かれる。

それは竜騎士槍術『竜爪』と呼ばれる斬撃技。ジン・バハルは竜気を纏うことでようやく竜騎士としての本来の彼の槍術を使用可能となっていた。

『ライル様はその竜気を持て余しすぎなのです。もっと力を収束させて戦わなければ、あの皮膚には通りませんな』

「分かってるんだけどな」

『我は物覚えが悪いからな』

ライルの言い訳にジーヴェの槍がそう返す。

如何にドラゴンの肉体を手に入れたとはいえ、ライルはやはり凡才である。弓花のようにポンポンと技を覚えられるわけではないし、それを為すためには愚直なまでの反復訓練が必要であった。

「くそっ」

そしてライルが再び挑みかかり、すぐさまドラゴチルチルヒに弾き飛ばされて宙を舞った。

『おっと』

それを爆炎竜サラマンドラの左腕が掴み上げる。その口からはユーコーの声が響いていた。ユーコーはその召喚竜を自ら操作していたのである。

「あっちー」

『あら、失礼』

サラマンドラは炎のドラゴンだ。腕に掴まれたというのは火に包まれたに等しい。そしてライルをユーコーは地面にさっと落とすと、右腕で握っていた魔法剣レーヴァテインを持って翼を広げて飛び上がった。

昨日に単体の攻撃魔術として使われたレーヴァテインであったが、本来はこうしてサラマンドラに持たせて使うものであったのだ。

対してドラゴチルチルヒの方も、迫る炎のドラゴンへと頭部をドリルへと変えて突撃していく。その変化にライルや援護しているティアラたちは驚きの声を上げたが、ユーコーはそのスキルを『知って』いた。

『甘いのよ』

故にドリルを剣で受け止めずに、まともにサラマンドラの腹で受けさせながら、同時にユーコーはレーヴァテインを振り下ろして一気に切り裂いた。相打ち狙い。しかし、サラマンドラは召喚竜であり、見た目ほどのダメージはない。

そしてドラゴチルチルヒが半分になり、そのどちらともが地面に転げてビチビチと跳ね回った。

「き、気持ち悪いですわねえ」

「まったくだよ」

地面でウネるドラゴチルチルヒを見てのティアラのつぶやきに、後ろから声が届いた。そしてティアラやタツオが背後に目を向けると、その場にいたのは風音であった。

「カザネ!?」

『母上ッ』

視線を向けたふたりに「やはっ」と風音は手を挙げると、それからティアラに手を差し出した。

「そんじゃあティアラ、やるよ」

「やる? あ、はい。喜んで!」

その風音の手を、ティアラは心底嬉しそうに握りしめて強く頷くと、同時にスキル『友情タッグ』が発動した。

風音とティアラの力が膨れ上がり、さらには前線にいたメフィルスの鎧が弾け、中から炎を纏った巨大な巨人が出現する。それはルビーグリフォンに次ぐツヴァーラ王家の象徴的な召喚体『 炎の巨人(フレイムタイタン) 』である。

その姿は端正なる筋肉の鎧に包まれた猛々しき老人、つまりはマッチョネスなメフィルスその人であった。