軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百三十三話 その腕前を見せよう

「ギキャアアア」

森の中から無数の巨大な蜘蛛がザワザワと飛び出してくる。その集団の先頭のさらに先にはメタルグレイの鎧を纏ったストーンミノタウロスのアダミノくんがいた。アダミノくんはマッスルクレイのパワーを使って巨大蜘蛛の集団から逃走しつつ、背に乗っているレームとタツオがそれぞれ 雷王砲(レールキャノン) とメガビームを放って近付く蜘蛛たちを倒していく。

「せいせいせいせい」

『くわーっ』

土煙が舞い、次々と巨大蜘蛛たちが吹き飛ぶのを見ながら、共にアダミノくんの台座にいるエミリィは矢をつがえる。そして、集団の中でも固まった場所へと狙いを定めると、四重ファイア・ヴォーテックスと共に矢を放ち、さらに巨大蜘蛛たちへとダメージを与えていった。

「しっかし、相変わらずレームとタツオの威力は凄いわね」

再度矢を取り出すエミリィが、半ば呆れ、半ば羨ましそうにそう口にする。四重ファイア・ヴォーテックスは確かに強力だが、レームの 雷王砲(レールキャノン) の連射速度はそれを上回る成果を発揮している。その言葉に、同じく台座に座りながら召喚鳥フレアバードと視覚を共有して全体を見回していたティアラが口を開く。

「とはいえ、タツオの魔力もレームの弾丸も有限ですからね。あ、そろそろ予定の場所に着きますが、あの輝きは反射されますわ!?」

慌てたティアラの声に反応したエミリィが矢を落として手を前にかざす。

「任せてッ。我が前に鏡盾よ、来たれ」

そしてスペルを唱えたエミリィの正面にミラーシールドが生み出される。その輝く盾に、反射されたタツオのメガビームが当たり、さらに弾かれて空へと飛んでいった。

「こ、こええ。けど、あんがとよエミリィ」

『助かりましたエミリィ』

レームとタツオとそう言い合い、エミリィも頷く。間一髪の状況であった。そしてエミリィも終わってから安堵のため息をついた。

「ふぅ、初めて実戦で防げたかも」

「魔術を使う魔物は少ないですからね」

ティアラがそう苦笑する。

東の竜の里ゼーガンで覚えた魔術『ミラーシールド』だが、ここまでの戦闘で魔術戦があまりなかったために、ほとんど使用する機会がなかったのだ。

ともあれ、敵の中に光線技を跳ね返す個体がいることは分かった。故にもう迂闊にタツオのメガビームは放てない。だが、ティアラたちにしても次の策はある。すでに予定していた場所には彼女らは着いていたのだ。

「お爺さま、ナオキ。お願いしますわ。魔物は元のライオットスパイダーよりも強力なようです。魔術を跳ね返されました」

『了解したぞティアラ。ナオキよ、行くぞぉぉおお』

「はい。エクス、やるぞ」

「ガカカカカカカカッ」

そして巨大蜘蛛の集団の左右へと、 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) を率いるメフィルスと、すでに骸骨騎士姿となった直樹がミニ飛竜と共に飛び出してくる。アダミノくんもUターンして、巨大蜘蛛を迎え討つ態勢を取った。その周辺は森の中でポッカリと開けた場所であった。元よりティアラたちは魔物をこの場に誘導し、殲滅する予定であったのだ。

そうして行われているメゾトルの森での戦闘。それは、龍神の鱗を得てパワーアップしている魔物の討伐から始まっていたのであった。

**********

「よし、ティアラたちは上手く誘い出せたみたい」

風音が目を開いて、そう口にした。

叡智のサークレットの遠隔視によって、ここから離れた戦闘を風音は観測していた。そして、アダミノくんを囮にして目標地点のライオットスパイダーの群れを誘い出す作戦は上手くいっているようだった。

「あちらは問題はないのか?」

「ちょっとだけ危ない面もあったけど順調。反射を使う個体もいるみたいだから光線技は使えないね」

ジンライの問いに風音がそう答える。とはいえ、タツオと風音以外に光線技をメインで使用する仲間はいないので、風音が気を付けていればこのメンツでは問題なかった。

そして今、風音たちは龍神の鱗が着弾した地点の間近へとスキル『インビジブルナイツ』で身を隠しながらやって来ていた。

「んー、さっさと正面から行っても良かったかも?」

同じく叡智のサークレットの上位でもあるアーティファクト 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) の遠隔視を用いて戦闘を見ていたユーコーがそう口にしたが、それには風音が首を横に振る。

「それじゃあ、アダミノくん運用テストにならないからね。今回はあっちはあっちで動いてもらうよ」

そう返しながら、風音は今度は遠隔視で自分たちの目標へと視線を移す。

そこにいるのはライオットスパイダークィーン。ライオットスパイダーの女王にして、彼らのボスである。その腹からは神力の輝きが鈍く漏れており、どうやら龍神の鱗は腹部へと吸収されているようだった。もっとも、その腹部は若干爛れているようにも風音には見えていた。

(ふーむ。どうも鱗の力を吸収しようして 許容量(キャパ) がオーヴァーしてるっぽいなあ)

風音が唸る。見立てではライオットスパイダークィーンの今の力は闇の森の中級程度。強力にはなっているが、その分魔力供給量が足りていない飢餓状態な上に龍神の鱗の力に耐えきれず自我崩壊が始まっているようにも見えていた。

「気配だけでも、それなりの強さのようだが?」

ジンライが目を細めて尋ねる。その言葉に風音は頷きながらも口を開く。

「うん。魔力不足で相当に気が立っているみたいだしね。ほっといてもどのみち途中で力尽きて死んじゃうかもしれないけど」

風音はそう言うが、勝手に死ぬのを待つつもりはもちろんない。そして、どう出るかと考えている風音に仮面の女王ユーコーが挙手して口を開いた。

「テスト、テストねえ。じゃあ、風音。今回ゲストの私の力もある程度はテストしておいた方がいいと思わない?」

「ちょっと待て。なら俺もだろう?」

そう言ってもうひとりの仮面も前に出た。対して風音は眉をひそめながら「まあ、いいけどさ」と言うと、それからジン・バハルとライルを見る。

本来であれば目の前の相手はライルを中心に……と風音は思っていたのだが、予想以上に進化していて荷が重そうなのは間違いなく、そしてユーコーたちの現在の実力も測っておきたいのも確かである。

「んー、分かった。そんじゃあ、こっちは援護に回るよ」

「ああ、それもいらないわよ」

風音の言葉にユーコーはそう口にしてクィーンのいる方角へと顔を向けた。

「見てなさい風音。先にこっちに来たトッププレイヤーの実力ってヤツを見せてあげるわ」

そして、そう言いながらユーコーがタツヨシくんケイローンを一気に走らせる。

「ええい。俺も行くと言っているだろうが」

それに仮面の槍使いライノーが慌ててケイローンへと飛び乗った。それを見てユーコーは「しょうがないわねぇ」と言いながら、ライノーへとスペルの『パイロコーティング』と『フレアウェポン』をかけていく。

「これは?」

魔術が発動しライノー自身には赤い炎が、手に持っているグングニルには黄色い炎が纏われたのだ。そのことに驚くライノーに、ユーコーが笑いながら説明する。

「武器は普通に強化してるだけよ。『パイロコーティング』は蜘蛛の糸などを燃やしてくれるから、気にせずに突っ込めると思うわ」

その言葉にライノーが「な、なるほど」と頷くと、ユーコーがバンとライノーの背中を叩く。

「そんじゃ行ってきなさい」

「おおうっ!」

そして飛び降りたのか、落とされたのか、タツヨシくんケイローンから離れたライノーが地上に降りて走り出すとライノーの周囲でチリチリと何かが燃えた。

「なるほど」

それをライノーが納得した顔で見ている。

それが探査用の糸であることはライノーも気付いていたが、敢えて受けてみたのだ。そして『パイロコーティング』の効力を認識したライノーの周囲の木々が歪み、糸のように崩れて中からライオットスパイダーの重装甲型、ライオットスパイダーウォーリアーが飛び出してきた。探査の糸が切られたことで、『インビジブルナイツ』が解けて存在がバレたのだ。

「ティアラたちが引きつけた以外にまだいっぱいいる?」

風音が声を上げるが、一斉に飛びかかるそれらをライノーは苦もなく避けて、擦れ違い様にコアを狙って撃破していく。

「すっげぇ」

「さすがに見事なものね」

「見るが良いぞ、ユミカ、ライル。凡人では到達できぬ、アレが天賦の才を持ちし者の頂点だ」

そうジンライは言う。それは弓花に対してはお前の進む道の先だと、ライルには我々が一生向き合わねばならない壁だとでもいうかのように。

もっとも、この場はライノーの独壇場ではない。

「そんじゃあ行くわよ、スペル『フレアレイン』」

そのスペルと共に一瞬で空中に光る雲のようなガスが現れたかと思えば、そこから大量の金色の炎の雨が降り注ぎ始めたのだ。そして未だに隠れている巨大蜘蛛たちも共に一瞬で焼き尽くされ、周辺の魔物が次々と片付けられていく。

「危なっ」

ライノーが驚きの顔をしながら声を上げるが、『パイロコーティング』された身体に『フレアレイン』は通用せず、無傷のままであった。もっとも通用しない相手がその場にはもう一体いた。

「キュァアアアアアアッ」

それはライオットスパイダークィーンである。全身に蜘蛛の糸を巻き付けて、『フレアレイン』を完全に防いでいたのだ。

「魔術防御。なるほど、鱗の力で付与されたってわけね」

ユーコーが目を細めて、そうつぶやいた。

ライオットスパイダークィーンが吸収した龍神の鱗は、投擲にも使われたが本来であれば防御のためのもの。鱗自体がそうした能力も有していたのだろうとユーコーは推測しながら、ライノーを見た。

「どうする? 俺がやるか?」

炎に包まれたライノーがそう尋ねる。

物理攻撃ならば効くと判断したのだろう。だが、ユーコーは涼しい顔をして首を横に振った。

「この程度なら問題ないわ。少しだけ時間稼ぎを。その間に大技を出すから」

「大技ね。了解した」

ライノーも自分で倒したいという気持ちはあるが、仮面の女王の実力を知りたいという好奇心もあった。

そしてライノーはクィーンへと駆けだしていく。そこに八本の足が次々と襲いかかり、同時に口から糸も吐き出されたが、ライノーは八本足の攻撃をすべて体裁きで切り抜け、糸は『パイロコーティング』がすべて焼き払った。

そのまま懐に飛び込んだライノーは『フレアウェポン』のかかったグングニルの槍で足の関節部を的確に貫いて破壊していく。このまま行けば、ユーコーの大技とやらはなしでも十分に倒せそうではあったが、残念ながらユーコーは譲る気はない。

「離れなさいライノー」

「早いな」

ライノーが残りの足の攻撃を飛び下がってすり抜ける。そして、ライノーが攻撃範囲から逃れると同時にライオットスパイダークィーンの周辺に魔法陣が展開されたのだ。それを見てライノーが目を丸くした。

「いつの間に?」

「ゴーレムメーカーで土をいじって私の魔力を流させたのよ。いやホント、便利ね」

そう言ってユーコーがにっこり笑うと、ウィンドウのボイスコマンドではない『本来のこの世界の』スペルを告げる。

「終末の巨人の剣。我が呼び掛けに応え、その姿を示せレーヴァテイン」

その言葉に反応して魔法陣より巨大な剣が出現し、そのままライオットスパイダークィーンの身体を真下から貫いた。魔術防御などモノともしない。完成されたその大魔術は火の属性を帯びた魔法体による強力な物理攻撃であった。

「ギュギャァアアアア」

そして、天をも貫くかの如くライオットスパイダークィーンを貫いた炎の剣は、その状態から爆散してクィーンの身体を粉砕した。

それを見た誰かが唾を飲み込む。誰かは目を丸くしている。すでにその場は灼熱地獄。残っているのはユーコーとライノーとケイローンのみ。終わってみればそれは殲滅の魔女の名に相応しい、一方的な蹂躙であった。