作品タイトル不明
第七百十四話 また怪獣大決戦でいこう
◎魔道大国アモリア 王城メルダス 作戦会議室
「はははは、本当に酷い事態ですね」
笑うしかない……というのが今のミサリの正直な感想だった。
「笑っている場合ではないだろうに」
一方でその横にいるゼンドーにしても気が気ではないようで、ミサリの笑いがいつものとは違っていることにも気付かず、悪態をついていた。
他国の王族を悪魔狩りが拉致し、王都コーダのすぐそばにあるアモリア大浄化塚の結界が破壊され、さらには王都内にあるキャンサー家の敷地内で大魔術を用いた戦闘があった……というような報告が上がっているのだ。ミサリにしても、ゼンドーにしてもとても平常心を保っていられているとは言い難かった。
「だって、笑うしかありませんよ。ローグさんの連絡によると悪魔に取り憑かれたドラゴンが十二体も浄化塚に出没したそうです」
「なんだと? 聞いていないぞ」
その情報は、ゼンドーには初耳だった。それにはミサリが己の青く輝いている片眼を指さす。
「こいつで報告書を召喚鳥に見せて、直読みしてるんですよ」
「そういうことか。しかし、それはマズいだろ?」
ゼンドーの言葉にミサリが肩をすくめる。
「ご心配なく。大浄化塚から外に出たドラゴンたちはローグさんたちが、中にいたのは白き一団のユミカさんがすでに討伐してくれたそうです。その上、悪魔狩りのローア当主代行も救出したとのことです」
「救出? 確か白き一団は悪魔狩りからナオキ・ユイハマの奪還に向かったのではなかったのか?」
ゼンドーがそう言って眉をひそめるが、ミサリは「でも、報告に寄ればそうなんです」と返した。ミサリも報告書を読んでいるだけなので、それ以上のことは知らないのだ。
「しかし、ゼンドー様。最悪の場合に備えて守護兵装の用意は必要でしょう。国王陛下の許可を取り次いでおいてくれませんか?」
「そうだな。こうなってはやむをえん」
ゼンドーもミサリの提案に頷く。
この国の守護兵装『神の杖』は宮廷魔術師長であるミサリが扱う決まりが存在しているが、その許可を出すのは国王であり、取り次ぐのは王弟であるゼンドーの役割だ。
そして、そんなことを話し合っているふたりの前に、部屋の外から宮廷魔術師のひとりが慌ててやってきて声を上げた。
「み、ミサリ様。大変でございます!」
「なんです?」
これ以上、何か大変なことが起こるものか……と思ったミサリだが、続けての男の報告を聞いて、悲鳴を上げざるを得なかった。
「神竜クラスの黒竜が王都上空にッ!」
「なんですって!?」
それはまさしく異常事態である。ミサリが椅子から飛び上がって通路を出て、街の方面が見える窓の前へと視線を向けた。
「これは、どういうことです?」
その光景にミサリは戦慄する。
そこには確かに黒竜の姿があった。しかし、彼女の目に映っているのは『それだけ』ではなかった。
黒いドラゴンと対峙して、金の翼を広げた巨大な銀狼と、水晶の鎧を纏った八尾の黄金竜、『さらには』雷纏う巨大鳥に、炎纏う巨大なグリフォンが街の上空に浮かんでいたのである。
「あ、あの黄金の竜はユッコネエが変わったものだろうが、他の化け者共は一体なんだ? ここからでも恐ろしい力を感じるが」
後ろから追いかけてきたゼンドーが口元を震わせながらそう口にする。
「嘘でしょ。あの内の二体、 魔力の川(ナーガライン) と接続してる。守護兵装そのものじゃないですか」
そのミサリの叫びにゼンドーがギョッとする。
だが、事実である。ミサリが見る限り、雷纏う巨大鳥と炎を纏うグリフォンには 魔力の川(ナーガライン) から直接魔力が流れ込んでいるようだった。つまりは守護兵装がふたつ、そこには存在しているようなものである。
「どうする……のだ?」
「どうするも何もないですよ。あんなのに巻き込まれたら王都が壊滅します」
その言葉には、ゼンドーや共に確認に来た魔術師や兵士たち全員の顔が青ざめる。
「ともかく国王陛下にご報告を。こちらは騎士団と宮廷魔術師を総動員して被害を最小限に留めるように動きます」
そう言いながらミサリが、食い入るように王都上空で対峙する怪物たちを見る。
「幸いなことに連中は敵対し合っているようですしね。ひとまずは経過を見ながら、場合によっては守護兵装を使う方向で動きましょう」
守護兵装『神の杖』。それは 魔力の川(ナーガライン) 上空に直接魔法陣を描き、天より光の柱を打ち落とすという、極めて高い威力を誇る守護兵装である。
(勘弁してくださいよカザネ様。私は住民たちを撃ちたくはありませんよ)
街の上空で戦っている相手に使うとなれば、外さなくともその余波で、その下にある街にも甚大な被害が出ることは確実である。そんな事態にならぬよう、恐らくは裏で糸を動いているであろう風音にミサリは祈るしかなかった。
そして、ミサリとゼンドーの目の前で巨大な怪物たちが動き出し、戦いを開始したのである。
◎魔道大国アモリア 王都コーダ 上空
「 魔力の川(ナーガライン) 接続……ティアラ、行けるね?」
『問題ありませんわ』
すでにスキル『見習い解除』を発動させたことで角や猫耳、翼などを生やし、竜と獣統べる天魔之王の姿となった風音が声をかけると、ルビーグリフォンからティアラの声が響き渡ってきた。
さらにはスキル『竜体化』で黄金の水晶竜となったユッコネエ、魔力を存分に注がれながら召喚されたカイザーサンダーバードのポッポさんが周囲に並び立ち、風音自身は 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の背についている固定椅子に座っていた。
(カウントは三分十八秒。少し伸びてるね。 魔力の川(ナーガライン) とポッポさん、ティアラとの接続は問題なし。これなら、なんとか行けるか)
風音が今の状況を確認しながら、対峙する黒竜ハガスを見る。倒すべきはそのドラゴンに乗っているオールドジンライと七つの大罪のひとりであるエイジだ。
「弓花、 魔力の川(ナーガライン) の支配権はこちらが握ってる。長距離転移は 魔力の川(ナーガライン) 経由で移動するものだって話だから、私がこの状態でいるなら敵も逃げられないはず」
『その間に私たちが、エイジと老人師匠を倒せばいいってことね』
「そういうこと。時間は三分。急いでカタを付けるよ」
『了解ッ!』
風音の言葉を聞いた弓花が、唸りを上げながら突撃する。
「できると思うか。未熟なお前がこのワシに勝てるのか?」
対してオールドジンライはそう口にすると、己の肉体を黒竜ハガスの中へと沈ませていく。
『何?』
弓花が驚きの顔をするが、変化はオールドジンライの全身がハガスの中に入ったすぐ後に起きた。
「胸からジンライさんが出てくる?」
風音の言葉通り、黒竜ハガスの胸元にある竜の心臓付近からオールドジンライの上半身が出てきた。
そして、ハガスの身体を覆ういくつもの鱗が剥がれ、それが両腕に集まって巨大なふたつの槍へと変わった。
『くくく、どうだユミカ、カザネ。ハガスと一体化したワシは、この竜の身で己が技を使うことができるのだ』
「そりゃあ、ジンライさんとシップーみたいなことをするね」
その風音の言葉に、オールドジンライが「同じかどうかはその身で感じよ」と笑いながら飛びかかっていく。
そして、 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花と槍をぶつけ合う。
『強いッ!? 』
その槍の冴えに 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の顔が歪む。
『それ以上に足場がないから踏ん張れない』
「だったら任せてっ!」
弓花の言葉を聞いて、風音がスキルを発動させた。すると 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の足下に『マテリアルシールド』が形成されたのだ。
「それを踏み台にッ!」
『ウォォオオオオオオオ!』
弓花が出現した足場を利用して、黒竜ハガスに向かって踏む込む。
『ぬぉぉおおおッ』
『届けぇええ』
そして銀のオーラを放つ槍と闇のオーラを放つ槍が激突し、空中を衝撃波が走り、 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花と黒竜ハガスが弾きあって、離れた。
『やりおるわい』
オールドジンライの言葉に弓花が「まだまだぁ」と言って、再びマテリアルシールドを踏み台に空中を走り、槍を突き出す。それはバーンズ流奥義『七閃』、しかしオールドジンライは同じく『七閃』を放ってその攻撃を相殺する。
『くっ、まさかバーンズ流奥義を師匠が使える?』
「気を付けて弓花、こっちのジンライさんは『反鏡』も使ったよ」
その言葉に弓花が驚くが、ソレを後目にオールドジンライと黒竜ハガスがさらなる突撃をしようと構えた。だが、オールドジンライの相手は 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花だけではない。
『喰らいなさい』
「クケェエエエエエ」
解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花と離れたタイミングを狙って、ルビーグリフォンが右側から『滅の炎』を、カイザーサンダーバードが左側から『滅の雷』を黒竜ハガスへと放つ。
「これなら、さすがに」
そう風音が口にするが、その希望的観測は次の瞬間には打ち砕かれた。近距離で放たれた強力な雷と炎が、その場で弾かれたのだ。
『わたくしのルビーの炎が効いていない?』
ティアラが衝撃を受け、ポッポさんも「クケェエ」と叫んでいる。しかし、現実に黒竜ハガスは無事であった。
『バーンズ流奥義『反鏡』……それも左右同時に』
弓花がそれを見て、さらに驚きを露わにしている。ジンライの操る黒竜ハガスは、その両方の槍を使って左右にそれぞれ『反鏡』を放ち、ポッポさんとルビーグリフォンの攻撃を凌いだのだ。
『にゃーーーーー!』
そして、上空からさらにユッコネエドラゴンが飛びかかっていく。そのユッコネエの姿は自ら吐いたブレスを被り、まるで黄金の流星の如き姿であった。
『すまぬなユッコネエ』
しかし、そのタイミングは最悪だった。『滅の炎』と『滅の雷』のいずれかでも当たっていれば、そこからの追撃にもなっただろうが、完全に防ぎきった今のオールドジンライにとってはユッコネエは的そのものだ。
『ぎにゃっ!?』
眉間を貫かれたユッコネエドラゴンが苦痛の悲鳴を上げ、そのまま消失した。それを見てエイジが笑う。
「ははは、自慢のペットも倒されたか。こんなものかい風音? てんで物足りないや」
そう言ってエイジが風音と 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花を見ながら笑い転げる。しかし、次の瞬間にはそのエイジの顔が固まった。
『だったらアンタも喰らってみなよ。ゼクウさんの痛みをさ』
「はっ?」
次の瞬間には、ザクンッとエイジの身が切り裂かれた。
「な、にぃ!?」
いきなりの攻撃に、エイジは驚きながらとっさに後ろへと下がる。切り裂かれた部分からは黒い瘴気が噴き出している。その状況にエイジは眉をひそめながら、自分を強襲してきた相手を見る。
「なんだよ……お前、風音か?」
そこにいたのは身体の一部に 魔金剛石(マナダイヤ) が浮かび上がっているメタルカザネであった。そして、メタルカザネは右腕に埋め込んだ折れた聖者の剣の刃をエイジに向けて叫んだ。
『さあて、ここで決着を付けてあげるよエイジ』