軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百十三話 奴を追おう

「ぐっ、がぁああああ」

崩壊したキャンサー家の玄関にゼクウの叫び声が木霊する。

そのゼクウの真下には 強欲(アワリティア) のエイジと、黒いふたつの槍と鎧を纏った、老人の姿の肌黒いジンライがいた。

「貴様、エイジ?」

わずかに心臓が逸れたのか、ゼクウが苦しそうに息をしながら己の下にいるエイジを睨みつけた。

「ははははは、駄目だよお爺ちゃん。そんな改心した悪の幹部みたいにベラベラ喋ろうとしちゃあ」

「何を訳の分からぬことをッ!」

ゼクウはそう声を上げるとそのまま己が身を捻って、その刃から自ら抜け出した。それを見てエイジが「さっすが」と感嘆の声を上げる。

「英霊とタメを張るだけはあるね、ゼクウのお爺ちゃんは」

「ぬうぅおっ」

ゼクウはエイジの軽口には付き合わず、逃れ回転した勢いを利用して折れた刃で攻撃を仕掛けた。

「けどね。ジンライ、裏切りには罰を」

だがエイジの呼び声と共にオールドジンライが動く。

「グッ!?」

ゼクウの身体に二本の槍が刺さり、ジンライはそのまま振り被ってゼクウを放ると床を転げて、折れた柱へと激突した。

「お爺さま、ヨーシュアッ!?」

それを見てルイーズが叫ぶ。その声を聞き、ゼクウが息も絶え絶えにルイーズを見る。そして残りわずかな力を振り絞り、その手をルイーズへと伸ばした。

「る、ルイーズ、後は……頼」

「あー、死に際に台詞が長いと笑われるよお爺ちゃん」

そして再び影から現れたエイジがゼクウへと無数の漆黒の刃を突き刺して、さらに回転させてドリルのようになってゼクウの身体を抉った。

「おいおい、まだ元気じゃんってさ?」

「お爺さまぁあっ!?」

ルイーズの叫び声を聞きながらエイジが笑う。

「あはははは、レベルアップだ。さすが、激強お爺ちゃん。裏切り者を倒して、僕はさらに強くなったよ」

「ぁああああああ」

ルイーズが泣き叫んだ。祖父との和解も、弟との再会も、そのすべてが、ルイーズの望む希望が水泡と化した。そのルイーズを見て、エイジが嬉しそうに口を開く。

「ああ、こっちはいらないから返すねオバチャン」

そしてエイジが手を振って、それに合わせて貫いたドリル状の刃が動き、ゼクウの肉体がルイーズの前へと投げ捨てられた。

「ほら、愛しのお爺ちゃんだよオバチャン。だけどさあ。もう年なんだからさ。そんな泣いてないでよ。みっともない」

エイジの言葉にルイーズは涙を流しながら激昂する。

「こ、この悪魔ッ」

そしてルイーズが怒りを露わにして迅雷の杖を振り被り、そのままジャッジメントボルトを放とうとして、

「すまないなルイーズ姉さん」

瞬時に踏み込んだオールドジンライがルイーズの足に槍の柄を絡めて、そのまま床へと叩き落とした。それは弓花の得意とする槍術『転』であった。

「ジン……ライくん。どうして」

ルイーズがそう呟きながら意識を失う。

「むっ?」

そして、次の瞬間にオールドジンライが後ろへと跳び下がり、

ヒュパッ

と風切り音が鳴ったかと思えば、オールドジンライのいた床が真っ二つに裂けていた。それから下がったジンライが風音へと視線を向ける。

「油断も隙もないなカザネ。ずいぶんと強くなったものだ」

「右手のジンライさんだったっけ。話には聞いてたけどさ。本当にお爺ちゃんの頃のままなんだね」

風音がかつてのジンライの姿をした者を睨む。それは東の竜の里ゼーガンでの戦いの際にエイジが喰ったジンライの右腕から創り出された、もうひとりのジンライだ。

「そっちの方が渋くてカッコいい気もするけど……ちょっと刺々しいし、やっぱり私たちのジンライさんの方が私は好きかな」

その風音に言葉にオールドジンライが肩をすくめる。

「お前がそう思うのであれば、それはそれでも構わんさ。ワシとそこで倒れているアホゥ。そのどちらがより正しく強いのか……それは互いの槍で決着を付ければ良いだけのことだからな」

オールドジンライが倒れているジンライを一瞬見てからそう言い放ち、強い殺意を以て風音へと睨み返す。

闘争を磨き上げてきたジンライの右腕は本体よりも透き通った殺気を放ち、その身はまさに刃のような雰囲気を出していた。そのジンライにエイジが声をかける。

「で、今何をされたのさ? 僕には見えなかったんだけど」

たった今、風音が行った攻撃がエイジは見えなかった。その問いに、ジンライは風音から目を離さずにエイジに説明をする。

「先ほどの 魔金剛石(マナダイヤ) のゴーレムだ。刃にして一瞬で切り裂いてきた。薄かったし、ほぼ透明だから遠目には見え辛かっただろうがな」

それを聞いてエイジが「相変わらず非常識なお姉ちゃんだね」と、少しばかり口元をひきつらせる。だがエイジもすぐに気を取り直したのか、笑みを浮かべて風音を見る。

「まあいいさ。風音、悪いけど僕たちは今回そこのお爺ちゃんが裏切るかどうかを見張ってただけなんだ。だからさ。そっちも人数は少ないし、ここで見逃してくれると嬉しいんだけど……」

それから「駄目かな?」と笑って尋ねた。

すでにルイーズとジンライは倒れ、ジン・バハルも術者の意識が途絶えているため、ゼクウとの戦闘後に姿を保てずに消失していた。

また、ジュエルラビットのサーファは今ルイーズの元にいるが、主を守るためにとどまっている。すでに主ではない風音はジュエルラビットに指示はできない。

「フザケないでッ」

だが風音は強い口調で、拒絶した。

「いっつも、いっつも……」

風音が意志を込めると、周囲に散らばっていた鬼皇の鎧が浮かび上がって風音へと装着されていく。そして、鎧がすべて装着された風音が叫ぶ。

「あんたは人を傷つけるねエイジ!」

その言葉と同時に、アーマード狂い鬼が一瞬でエイジの元へと現れた。エイジはそれを見ながらも余裕の表情でオールドジンライを見た。

「同じ手を……ジンライッ!」

「ふんっ」

直後にエイジとアーマード狂い鬼の間で凄まじい爆発が発生し、その中から美形になったネイキッド狂い鬼が弾き飛ばされて、宙を舞っていた。

それが 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) が爆発したものだとは風音にも理解できた。だが狂い鬼の方が吹き飛び、その場にジンライとエイジが変わらず佇んでいるのを見て風音は目を丸くする。

(今のは確か……)

風音はオールドジンライの構えとその後の状況から、バーンズ流奥義『反鏡』を使ったのだと思い至った。

それはジンライが魔力不足のために使用できなかったバーンズ流槍術の奥義だ。だが、オールドジンライはそれを使用できた。

「どうだい風音、僕のジンライは? そっちのヤツよりも存分に使えるだろう? NPCだって多少はやるじゃあないか」

「NPCって、ゲームみたいに言うな」

風音の言葉にエイジは笑う。

「はっ、そんなことだから風音は駄目なのさ。僕たちの世界に到達するための覚悟がない。こんな世界、僕たちには何の価値もない。ただの遊び場さ」

「戯れ言に付き合う気なんてないよ。みんな、来て!」

そう言ってメールを飛ばした風音の前に、光の柱が出現する。それを見てエイジの目が細まった。

「 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) か。ズルいなぁ。僕も欲しかったよ」

そう言いながらエイジの背後には対照的な黒い光の柱が現れて、その中から黒い 悪魔憑きの(デビル) ドラゴンが二体出現してきた。

それはすぐさま風音へと飛びかかったが、光の柱から現れた半人半馬の巨人タツヨシくんケイローンと、骸骨の集合体ホーリースカルレギオンが飛び出してきて、その場で対峙した。

「風音ッ!」

「姉貴ッ!」

続けて光の中から弓花と直樹が、そのほかの仲間たちも現れてくる。その中には何故かローアと悪魔狩りらしきエルフたちもいて、ローアがゼクウの遺体を見て悲鳴を上げていたが、今はソレを気にしている余裕は風音にはない。

「あー、少々遊びすぎたか。ジンライ、行くよ」

「逃がすと思ってんのエイジ?」

風音の言葉にエイジが頷く。

「逃げるさ。僕は盗賊王だからね。逃走だってお手の物だよ」

そう言って転移しようとするエイジを見て風音が声を上げた。

「狂い鬼ッ、閉じこめて!」

「ガァアアアアアアアアアア」

その合図に倒れていたネイキッド狂い鬼が叫ぶと、周辺の空間がすぐさま変質していく。

それはボス空間の一種である『浸食結界』。ネイキッド狂い鬼を中心に周辺が黒く染められた肉、臓物、骨、血管等が絡み合う壁をしたドーム状の空間へと変わっていく。

「へぇ、これで閉じこめるつもりか?」

だがエイジは慌てることなく、オールドジンライへと視線を向けた。

「けど、これじゃあ弱いね。ジンライ、やれ」

「来い、ハガスッ!」

そう言ってオールドジンライがふたつの槍を天に掲げると、その背後に巨大な黒いドラゴンがわずかな時間の内に出現する。

そのドラゴンの名は黒竜ハガス。それは、かつて弓花たちがウーミンの街で対峙したときよりも大きく、強烈な威圧を放っていた。そして黒竜ハガスが力を込めて咆哮すると、

「ガァアアアアアアアアアアッ!?」

ネイキッド狂い鬼は叫び、すぐさま『浸食結界』が破壊されて、通常空間へと戻されてしまった。

「これを破れるのか、あのドラゴンは!?」

そして驚愕する風音たちの前で、黒竜ハガスの背にオールドジンライとエイジが飛び乗ると、

「ははは、じゃあね風音。ジンライ、逃げるよ」

その巨大な竜は翼を広げて飛び上がっていく。

「うりゃああああ」

『喰らいなさい』

「いっけぇえ!」

そこにレームとタツオが 雷神砲(レールガン) とメガビームを放ち、エミリィも四重ファイア・ヴォーテックスを撃った。しかし、それらすべては黒竜に届かず、ハガスの周囲を覆う風に弾かれた。それを見てエミリィが叫んだ。

「暴風の加護がかかってる?」

「畜生。駄目だカザネ。直接攻撃じゃねえと」

そのレームの言葉に風音は頷くと「よいしょっとぉ」と言いながら弓花の背に乗った。

「弓花、 解放神狼(リバティフェンリル) 化するよ。アレを追わないと」

「でも風音、私飛べないわよ?」

そう弓花が言うと風音が「私が何とかする」と返し、それを聞いて弓花も覚悟を決めた。

「そんじゃあ行くから何とかしなさいよ風音ッ」

そして弓花は聖者の槍ムータンを掲げると、槍と 神狼の腕輪(フェンリルリング) から銀の光があふれ出し、その光の中から巨大で筋肉質な銀狼が飛び出した。

「飛べぇええっ!」

そのまま空中へと飛び上がった 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の背に乗った風音が叫ぶと、風音の身に着けている金翅鳥の腕輪が輝きを増し、バサァッと黄金の翼が広がった。

そして崩壊したキャンサー家の屋敷から黒竜が飛び、それを追って、黄金の翼を羽ばたかせた銀の巨大狼と、八尾の黄金竜が続けて空へと飛び出していったのである。