軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百十二話 色々と聞こう

「ガァアアアアッ!?」

叫び声を上げながらゼクウが吹き飛ばされていく。

散った血液が宙を舞い、その身はもはや死に体といった風だが、しかしゼクウはまだ戦意を失ってはいなかった。その目は死んでおらず、空中で態勢を立て直そうとすでに動き始めた。

「うそ。まだ、動けるの?」

そのゼクウを見ながら風音が思わず声を上げた。

風音もついつい調子に乗ってボッコボコにしてしまったため「これ殺っちゃったんじゃない?」と『爆神掌』を放った後で不安になったのだが、どうやら目の前の老人はいまだ健在のようだった。

「この程度でッ」

そしてゼクウが力を振り絞って、床に膝を突き着地をすると風音たちを見て、再び構えた。

「はぁ……プレイヤーの力を侮っていたつもりはなかったが」

ゼクウが風音を見ながら、眉をひそめる。

「やはりお前だけは 別種(イレギュラー) のようだな、カザネよ」

「何が言いたいか分からないけどさ」

風音が目を細め、集中して『ソレ』を動かした。

「むぐっ!?」

「そこに下りたのが運の尽きだよ」

そしてゼクウが行動しようとした瞬間、その身に何かが絡まったのだ。あまりの速度に転移して避ける余裕もなかった。

「なんだ、これは?」

ゼクウの身体が細い水のような、宝石のような触手に絡め捕られて一瞬で拘束された。

「 魔金剛石(マナダイヤ) ……かな?」

そのゼクウの問いに、風音は自信なさげに言葉を返す。

それはゼクウが着地した地点のすぐそばにあった、崩れ落ちたメタルカザネの中から出てきたものだった。

「 魔金剛石(マナダイヤ) だと? このうねっているものがか?」

ゼクウが驚愕する。

ゼクウの言う 魔金剛石(マナダイヤ) という物質はアダマンチウムの鉱脈から出土する稀少な結晶体であり、今風音が注文している杖にも使用される予定の素材である。

それは 神聖物質(ホーリークレイ) から神聖銀が生み出せるように、アダマンチウムの中から生まれるものであったようで、ゼクウの雷霆剣によってアダマンチウムが蒸発して抽出されたようだった。それを風音はまるでスライムのように動かして、ゼクウの身を捕らえたのだ。

「私のゴーレムメーカーは少なくとも宝石を自在に動かすことはできないはずなんだけどね。まあ、元のアダマンチウムを操作できていたわけだから、そのまま継続して使えるようになったんじゃないかな?」

その風音の説明にゼクウはあきれた顔をして、それから笑うしかなかった。そんなデタラメさに抵抗するのもバカらしくなったのだ。

「ははは、そうか。あーもういい。私の負けだ」

そう言ってゼクウは笑ったままその場に座り込んだ。

「ふむ、疲れたわ。まったく、ヨーシュア。何故にお前はそんな顔をしておるのだ? それがなければ……いや、それは言い訳か。けれど、お前とて望んではいたのではなかったのか?」

ゼクウが浮かび上がる影に問いかける。対してヨーシュアは悲しそうな、ホッとしたような顔をするだけだった。

「お爺さま、それは簡単なことよ」

そのゼクウの問いに答えたのはルイーズだった。

「悪魔の原則。喰われた魂は、上位の魂には逆らえない……でしょ?」

「あ? ああ、なるほど……そうだな」

ルイーズの言葉を聞いてゼクウが皮肉げな笑みを浮かべる。そうしたつもりはゼクウにはなかったが、無意識に己の考えを家族たちに押し付けていたのだろうと、ゼクウはたった今理解した。

「ワシは……くくく、愛する家族を縛っていたか。キャンサー家の宿業か。いや、ただの我が傲慢か」

そしてゼクウの支配力が及んで封じられていたヨーシュアの意志がここまで表に出たのは、戦いによる負荷が強まりゼクウの支配の拘束力が解かれたためだろうとゼクウは考える。

「なるほど……酷い話だったな。すまんヨーシュア」

そう口にするゼクウの前に、ひとまずはスキル『武具創造:黒炎』で造った黒Tシャツとスパッツを装備した風音がやってくる。

「弟はね。気持ちは悪いけど、でも姉を尊敬しているし、なんとか姉を敬おうとしてるんだよ。だから、気持ち悪いけどなんとか愛情を見いだせるんだ。気持ち悪いけど。ゼクウさんはそこを理解できていなかったんだよ」

「ごめんカザネ。ヨーシュアは気持ち悪くないわ」

「ああ、ヨーシュアは気持ち悪くない」

ルイーズが心底嫌そうな顔でそう口にして、ゼクウも同意していた。ヨーシュアも嫌そうな顔をしている。

ルイーズも直樹のことは憎からず想っているが、その点だけは一緒にして欲しくないのだ。弟というカテゴリで一括りにされては堪らないのである。それは直樹の動向を知っているゼクウにしても、共に見ていたヨーシュアにしても同様だった。

そのルイーズたちの言葉にショックを受け、ユッコネエに「にゃーにゃー」と慰められ始めた風音を放っておいてルイーズがゼクウに声をかける。

「お爺さま……」

「ルイーズ。すまなかったな。私は焦っていたらしい」

ゼクウはそう言ってルイーズに謝罪する。その表情は憑き物が落ちたようであった。

「本来であれば、私はお前の寿命まで待つつもりであった。そこで選択を委ねるつもりだった。だが」

「それはいいんです。結論はもう出ているわ」

そのルイーズの言葉にゼクウが「そうか」と頷いた。それからルイーズがゼクウに尋ねる。

「それよりもローアのことです。先ほど物騒なことを言っていましたよね。それをッ」

「ああ、ローアさんなら無事だよ。直樹が助けたってさ」

弓花とメールで連絡を取り始めた風音がそう返す。

「そ、そう。なら、ひとまずはいいわ」

ホッとした顔のルイーズにゼクウが不思議そうな顔で尋ねる。

「ルイーズ、ローアを憎くはないのか?」

「ええ、嫌いよ。キャンサー家もあの女も……でも、それは私の問題だもの。お爺さまに何かをしてもらう筋のことじゃない。それは私が自分で考えて、判断することなの。私のためにで、勝手に殺されるなんてゴメンなの」

そういうルイーズにゼクウは「そうか」とだけ返す。それから何もかもが空回りしていた自分を笑う。そんなゼクウを眺めながら、ルイーズは口を開く。

「何故……」

ルイーズの表情にゼクウの目が細まる。

「何故、悪魔と手を組んだのですかお爺さま。悪魔狩りの長である貴方が」

己やローアをゼクウが殺そうとしたことの意味はもうルイーズも理解している。分かった上でそれを拒絶する意志も見せた。だからルイーズにとって、それはもう問題ではない。だがゼクウが悪魔の仲間であったことは、ルイーズの命を奪うこととは関係がないはずだった。その真意をまだルイーズは聞いていない。

「何故……か」

ゼクウは目をつぶりながら、ルイーズに言葉を返す。

「ルイーズよ。悪魔狩りの長でありながら……と言うがな。そもそも、悪魔狩りが何故できたのかをお前は知っておるのか?」

そう言われてルイーズは戸惑う。悪魔狩りのできた由来。それはキャンサー家の中では触れられないものであった。だからルイーズは、ひとまずはと自分の考えを口にする。

「それは……人を惑わす悪魔を駆除するために……」

その答えにゼクウは首を横に振る。

「そうではないぞルイーズ。本来、悪魔狩りとは悪魔を狩って、それを研究するための組織だったのだ。アモリアを中心としたの同盟国の一部の王侯貴族たちによって造られた悪魔研究機関であったのだよ」

その言葉にルイーズの目が見開かれる。

「つまりそれは不老不死の研究だ。なんのことはない。悪魔信奉者たちが、悪魔から悪魔にしてもらうことができないと知ったから、今度は自らの手で悪魔になる道を模索するために悪魔狩りという組織を作り上げたのだ」

ゼクウの言葉はルイーズには衝撃的であるようだが、ゼクウは敢えて無視をして話を続ける。

「私は北の大陸、エルフの王国ネーブルマイラの出身でな。簡単に言えば移民だ」

「それは……聞いたことがあります」

ルイーズの言葉にゼクウが頷く。

「そういう立場だ。国から国へと根無し草の旅を母さんと私は続けておった。そしてよくあることだが、旅の途中で食料が尽きて、私たちは飢えかけてな。私は己を食えと自ら命を絶った母さんを……まあ、そして母さんの魂が私の中に入った」

ゼクウから浮かび上がる優しそうな女性が頷いた。ルイーズにはそれがゼクウの母なのだと理解する。

「そこのメリルは私の伴侶、ムーロはヨーシュアよりも百年前の弟子であったよ。どちらもキャンサー家の者に殺され、私が魂を取り込んだ」

その言葉にルイーズが顔を伏せる。

キャンサー家は複雑になりすぎた。特権意識の現れが増長を生み、身内での差別が横行していた。それが外に向かなかったのはゼクウの功績だが、内側が腐っていく結果にもなったのはゼクウの失態だった。

「脱線したな。母さんの魂を吸収し 悪魔喰い(デモノイーター) となった私は、様々な経緯の後、悪魔狩りの創設メンバーに選ばれ、その責任者となった」

そう言ってからゼクウは昔を懐かしむ顔をする。

「初期の悪魔狩りは先ほど言った通り悪魔を研究する者たちの集まりだ。 悪魔喰い(デモノイーター) である私も自らの可能性には興味があったし、叶えるべき目的もあったので組織を率いて精力的に研究も行っておったよ」

「……目的?」

ルイーズの問いにゼクウが「ああ、そうだ」と頷く。

「私は母さんの肉体を再生し、取り込んだその魂を再び肉体に戻らせたかったのだ」

「それは……可能なものなのですか?」

ルイーズが眉をひそめながら尋ねる。ホムンクルスを生み出して、その虚ろな器に魂を定着させることは可能だと言われている。だが、元の肉体を再生させて、そこに魂を戻すというのはいささか難易度の高い話であった。

ゼクウはルイーズの問いに可笑しそうに笑いながら、その場にいる風音へと視線を向けた。

「現にそこにいるではないか。プレイヤー、異邦人。かつて世界の誕生よりも昔に悪魔に喰われた者たち。神々によって魂を解放され、肉体を与えられて蘇った 悪魔喰い(同類) のことを知れば、それを研究しようと私が思ったとしても別に可笑しいことではあるまい?」

その言葉にはさすがの風音も目を見開き、立ち上がった。

「それ、どういうこと?」

訝しげな視線を向けている風音にゼクウが「言葉のままだ」と返す。

「私は、母さんを蘇らせたかった。だからお前たちを蘇らせた方法を知りたかった。しかし、それは非常に困難なことでな。今ではそれも諦め、この身の内で家族と共に生きていこうと考えも変わっていったがね」

それからゼクウは目を閉じて言葉を続ける。

「そして初期の頃にあの男もいたのだよ。ユキトという悪魔が」

その名に風音とルイーズが眉をひそめた。ユキト、それは七つの大罪を従える悪魔の王の名である。

「私とあの男との縁はそこからだ。次第に目的の変わった悪魔狩りとは袂を分かれたあの男は、その後も悪魔の研究を重ねていった。正確には己や、神々、世界を含んだ研究であったがね。私も後にユキトと再会し、その研究に合流した。七つの大罪はそのための組織だったのだ。出自から考えれば、もうひとつの悪魔狩りとでもいうべきものだろうな」

そこまで聞いていた風音が「だったらさ」と口を開く。

「そのユキトが何をしようとしてるのかゼクウさんは知っているの?」

それが最大の謎であった。

ユキトたちが何かを計画して動いているのは風音たちにも分かる。ここ最近になって悪魔たちが活発的に動き始めたのも、七つの大罪が関係しているだろうと予測がついていた。

しかし、結局彼らが何をしようとしているのかが風音たちには分かってはいなかった。その風音の問いに、

「あの男は自分たちの世界にたどり着く手段を探していた」

ゼクウはそう即答する。その答えに風音が眉をひそめた。

「むっ?」

「だが今は違う。いや、根は同じだが……今は世界を生み出すために動いている。だからこそ私はルイーズを……ぉ?」

そう言い駆けたゼクウの口が止まる。それからゼクウの口元が苦痛に歪み、

「はい。そこでストップ」

どこからともなく聞こえた言葉と共に、ザクンとゼクウの胸から『黒い刃』が生えてきたのだ。

「お爺さま?」

「マズいッ!?」

そして風音が駆け出した。ルイーズを抱えてスキル『ハイ・ダッシュ』を使って一気にその場を離れると、次の瞬間には風音とルイーズのいた場所に黒い稲妻が走った。

「ああ、避けちゃうんだね。やっぱり」

続けての声はゼクウの方から発せられた。正確にはゼクウの真下、影の中から聞こえてきた。

「ぐ……ガァ」

そして、ゼクウがうめきながら宙へと浮いていく。いや、影の中からふたつの人影が現れ、その片方が短剣を突き刺しながらゼクウを持ち上げていたのだ。それを見て風音が叫ぶ。

「あんたはエイジッ!?」

「やあ、風音。久しぶり」

そこに現れたのは七つの大罪のひとりであるエイジでいた。また、その隣にはかつての老人の頃のままの姿をしたオールドジンライも共にいた。

それはウーミンの街以来の、三度目の対峙であった。