作品タイトル不明
第七百十五話 さよならを告げよう
メタルカザネJ。
それはメタルカザネより生まれた 魔金剛石(マナダイヤ) ゴーレムを骨格とし、そこにアダマンチウムを追加して生まれ変わった新生メタルカザネである。そして、メタルカザネJのJはジュエルのジェイであった。
その、風音によって生み出されたメタルカザネJはユッコネエドラゴンの背に隠れて機会をうかがっていた。そしてユッコネエドラゴンがやられて消失した時点で、そのまま黒竜ハガスの背に飛び移り、エイジの前へと姿を現したのである。
『ここで終わらせるッ!』
メタルカザネJが駆け出していく。それを見てエイジが黒竜ハガスへと声を上げた。
「なんだってんだ。ジンライ、こいつをどうにかしろよ」
『こっちはこっちで忙しい。自分で対処するんだな』
ジンライの言葉にエイジは歯ぎしりをしながら、メタルカザネJの攻撃を避けた。 盗賊王(シーフキング) という職業だけあり、エイジの回避能力は極めて高い。それは戦闘職ではないが、極めて生存率の高い職業ではあった。
「ああ、もう。直接戦闘は苦手なんだけどね」
そう言いながらエイジは己の身体を漆黒に染めていき、そのまま黒い軽鎧を纏ったような姿へと変化する。
「そんじゃあ、風音。確かに僕は戦闘向きじゃないけどさ。だからって、そんな玩具で挑んで勝てるなんて思わないでよね」
そう言いながらエイジはアイテムボックスから黒いダガーを取り出すと、メタルカザネJへと投げつけた。その投擲は速く、アダマンチウム製のメタルカザネJのボディにも突き刺さった。
『むっ』
そして刺さったと同時に、ダガーから黒い雷が走る。それは最上級の『精神系』封印術『 影縫いの黒雷(シャドーライトニング) 』であったが、それでメタルカザネJの動きが止まることはない。
「魔力のパスを通じて本体にも効果はあるはずなんだけどね」
エイジが舌打ちをしながらそんなことを口にするが、スキル『精神攻撃完全防御』を持つ風音に精神攻撃系の術は効かないのだ。故にメタルカザネJは、まったく止まることなく攻撃を繰り出していく。
「返事もしない。愛想のない。お前なんてモブだったはずなのにさ」
そう言った直後に、エイジの腕が切り裂かれる。メタルカザネJの攻撃速度ならばエイジもまだギリギリ避けられる……はずだったが、メタルカザネJの攻撃は手数が多いのだ。刃となった腕がさらに十枚の刃へと分かれ、それぞれが別の軌道で仕掛けてくる。それは、知恵の実を食べ『コンセントレーション』で集中力を高めた風音だからこそできる攻撃だった。
「まるで化け物だ。ゲームにはなかったぞ」
エイジが叫びながら、内蔵した魂を使って己の身体を再生させていく。それから再び黒いダガーを取り出して、メタルカザネJへと投げつけた。
『むぅっ!?』
その攻撃にはメタルカザネJの動きが止まった。
突き刺さったダガーが放電してその場で爆発したのだ。ダメージこそ大してないが、メタルカザネJの動きを止めるには十分な威力であった。その攻撃が効いたことに笑みを浮かべるエイジが口を開く。
「ああ、そうだった。聞けば風音、君は魔王に就任したそうだね」
その言葉を無視して、メタルカザネJが再び駆け出す。
黒竜ハガスと 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の戦いは続いており、足場も不安定ではあるがメタルカザネJもエイジも時には鱗を掴み、時には跳んで姿勢を整え、戦いを続けていく。
「その上に国々で暗躍し、権力を手中に収めているとか。その手口ってまさしく物語上の悪だよね。もしかすると君はモブじゃなくて中ボスぐらいではあったのかな?」
『だったら何?』
そうメタルカザネJは言葉を返しながらも、攻撃を繰り出す。
「がぁっ」
その一撃にはエイジがよろめいた。繰り出した触手の中には聖者の剣が混ざってたのだ。
「これは、直せないのか!?」
親方の渾身の作である聖者の槍ムータンほどではないにしても、聖者の剣ジハードの抗魔能力は非常に高い。いかに最上位悪魔といえど、ソレを食らってはすぐさま修復というわけには行かないようであった。
『私が中ボスで、魔王だからって、アンタが主人公にでもなれるとでも? 冗談じゃない。エイジ、アンタはただ誰かを傷つけて悦に浸ってるだけの痛いヤツだよ。その自覚もないわけ?』
「うるさい。僕は主役だよ。頑張って、戦って、最後には家に帰るんだ。それにここはゲームの世界だろ? 誰かって誰さ? モブがどれだけ死のうが関係ないじゃないか?」
そう叫ぶエイジにメタルカザネJがさらに斬りかかり、そして攻撃を喰らったエイジの身体が裂けた。
「くっ」
しかし、その攻撃自体は聖者の剣ではなく、 魔金剛石(マナダイヤ) を変化させた刃によるもの。エイジはよろめきながらも再生を行い、メタルカザネJを睨みつける。
「くそ、くそぉ。僕らは同じプレイヤーだろ。なんで、こうなるんだよ。僕の邪魔をするなよ。くそ、もう死ねよ、お前。このっ」
叫ぶエイジに対し、メタルカザネJが一歩退き、
「残念だけどね。この世界は現実で、アンタが殺した人たちも、みんなちゃんと生きてたんだ」
続けての風音が発した生の声が、エイジの背後から聞こえてきた。
「なんで?」
そして、振り向いたエイジの顔がひきつった。
何故風音がいるのか? その理由をエイジは吸収したゼクウの知識から、メタルカザネJを座標にして無属性転移で飛んできたのだろう……とすぐさま理解する。が、すでに来てしまったソレを防ぐ手段などないのだ。
「さようならエイジ」
そう口にした風音の手には、スキル『魂を砕く刃』の白き光を帯びた 古き蛇の剣(サイタンソード) が握られていた。それはかつてゲンゾーという老人が悪魔を殺すために生み出し、風音へと受け継がれたスキルだ。
「やめろよ、風音。僕らは同じ世界の……」
「同じ世界出身ならなおさら、アンタを見逃すわけにはいかない。アンタはここで終わりだエイジッ」
そう叫んだ風音の一撃がエイジの身体を切り裂き、突撃してきたメタルカザネJの聖者の剣も背中に突き刺さる。
「まだだ。まだ僕はッ」
エイジはその傷口を本体から分離させて逃れようとして、
「なっ!?」
風音の背にある無数の刃たちを驚愕する。それは二百本からなる 古き蛇の剣(サイタンソード) とアダマンチウムソードであった。
「スキル・ソードレイン、及びスキル・魂を砕く刃。塵ひとつ逃さず打ち砕け!」
次の瞬間には風音が再び転移してその場から消え、黒竜ハガスの背へと二百本の刃が突き刺さっていく。また、風音の放った刃が刺さったことでハガスの固有能力である 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) が発動する。
「ウァアアアアアアアッ!?」
そして、ハガス側から発せられる爆発によるダメージも
受けて、エイジはその場で絶叫しながら消滅していった。
**********
「よっと」
そう口にしながら、風音が 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の背に戻った。竜と獣統べる天魔之王となった風音は、無属性転移を自由自在に扱える。絶妙なタイミングで出現し、離脱するのもお手のものであった。
『ギリギリ。けどやったわね』
戻ってきた風音の気配を背中で感じながら、 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花が安堵の息を漏らした。風音が離れたことで弓花の 解放神狼(リバティフェンリル) 化も解けかけていたのだ。黄金の翼も消え、今 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花はルビーグリフォンの背に乗って飛んでいた。
「うん、エイジは倒したし、後は黒竜ハガスと右手のジンライさんだね」
そして風音が虹竜の指輪をかざすと、
「最後のトドメと行くよ。来て、旦那様フルバースト!」
神竜帝ナーガがその場に出現し、その翼を大きく広げた。
『いかんっ』
その姿を見て、オールドジンライが声を上げて黒竜ハガスを旋回させて逃走を開始する。すでに背のダメージによって、ハガスの力も落ち始めているのだ。その上にナーガの最大攻撃を食らえば如何にハガスとオールドジンライとて無事ではすまない。
そして、どうにか逃れようとするオールドジンライに対して、神竜帝ナーガの全身の水晶角から一斉にセブンスレイの光が放たれた。
『チィッ』
対して黒竜ハガスは全速力で逃げていくが、逃れきれはしない。バーンズ流奥義『反鏡』も、接触する攻撃を弾くことはできるが、無数の同時攻撃には対処できない。
『ヌォォオオオッ』
オールドジンライも全速力で逃げながら、いくつかの光を槍をさばいて打ち落としたが、防ぎきれなかった光はハガスへと直撃していく。
爆発反応装甲(リアクティブアーマー) の効果も鱗が剥がれ落ちてしまえば意味はなく、黒竜ハガスへと多大なダメージを与えていく。
『だが、まだ保つわッ』
しかしオールドジンライは叫び声を上げながら、傷ついたハガスを飛ばして街の外へと逃げていく。
『街を逃れる? 追わないと』
そう言って飛ぼうとした 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花に、風音が「待った」と声をかけた。
『何よ?』
「弓花、空を見て」
風音の言葉を聞いて 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花が上空を見上げると、そこにはいつの間にやら巨大な魔法陣が存在していた。
『何、あれ?』
「たぶん。この国の守護兵装だね」
守護兵装『神の杖』。当然、風音たちは知らなかったが、ミサリはじっと状況を見守りながら待機していたのだ。そして、今が機と守護兵装を発動させたのである。
「あ、撃った」
風音の言葉と共に、王都を抜けた黒竜ハガスへと光の柱が降り注ぐ。その光の中で巨大な竜は消滅していき、そのまま光は下方の草原に直撃し、土塊を吹き飛ばしながら、巨大なクレーターを造りだした。
それは風音たちが戦慄するほどの、恐るべき破壊力であったのだ。
「うわぁ……凄い威力」
『こっちも狙われてなくて良かった……けど、あの老人師匠はこれで倒せたのかな?』
少しだけ複雑そうな(狼の顔なので分かりづらい)顔を見せた弓花の言葉に、風音は「だと良いけどね」と口にする。
エイジを倒したのは、残したメタルカザネJで見ていたから分かっている。しかし風音の『直感』は、オールドジンライとの再会の予感を告げていた。
ともあれ、戦いはおおよそ終了した。風音たちは、 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) の爆発により、街の通りに突き刺さったメタルカザネJを回収するとそのまま、キャンサー家の屋敷へと戻り始めたのであった。
**********
「ハァ、ハァ……くそっ、やってくれるよ。本当に」
そして魔道大国アモリアの王都コーダより少し離れた森林で、さきほど風音に消滅させられたはずのエイジが膝をついて倒れていた。その全身は見るも無惨な姿ではあったが、しかしエイジは生きていた。
「けど、さすがに気付かなかったか。 盗賊王(シーフキング) のスキルである『影遁』は」
それは影の中に隠れるスキルだ。風音が黒竜ハガスの背から転移して離れた直後、エイジは『影遁』を発動させていた。同時に己の中に貯蓄した魂を相当量使用したダミーを残し、エイジ本体は影の中に逃れていたのである。
それをメタルカザネJは気付けなかった。
「危なかった。本当に……本気でやるんだものなぁ。まったく、ねえ、ジンライ」
そう口にするエイジの視線の先にいたのはオールドジンライだ。実のところ、守護兵装の攻撃前にジンライはハガスから離れていた。エイジはそのオールドジンライの影に隠れていたために、こうして逃れることができたのだ。
もっとも『神の杖』の攻撃の余波か、その前の風音の攻撃によってか、或いは両方によるものか、オールドジンライの身もかなりのダメージを受けているようではあった。
「身体がでかくなると隙が多くなるのが難点だな。まあ、それにしてもあの娘らはやりおるよ。油断できない」
「うるさいよ。アレを褒めるな。主役は僕だったんだ。あんなのイベント用のゲストキャラだったはずなんだよ」
そう言った後にエイジは少しばかり息を吐いて、それから笑った。
「まあ、今回はスリルがあったし、楽しめたっちゃー楽しめたかな。けど、今回でハッキリしたよ。あの風音こそがラスボスなのかもしれない。あれを倒して僕は新世界を創り出す。このゲームをハッピーエンドで終わらせるんだ。だから、ジンラ……あ?」
直後のことである。エイジは訳が分からないという顔でソレを見た。その視線の先にあったのは、己の胸元に突き刺さる黒い槍であった。
「ジン……ライ? なんで?」
貫いた槍は、当然その場にいるジンライが突き刺したものだ。そしてジンライは感触を確かめるように、槍を握る腕の力を強め、それからエイジを見た。
「ふむ。そこまで弱れば、 制約(ギアス) の力もワシの意志で抑えられるようだな。もう、お前に従わねばならぬという強制力はほとんど感じない」
そう口にしたジンライを見て、エイジがビクッと震えた。
エイジを見つめるジンライの瞳の中に、かつて感じたこともないほどの純粋なまでの殺意があったのだ。
「な、なんだよジンライ。NPCの分際で、なんで主の僕にこんなことを……」
弱々しく呟くエイジに、ジンライが首を横に振る。
「えぬぴーしーの意味は分からん。だが、あまり人間を舐めるなよ小僧。お前の価値基準は知らぬし、知りたくもないが……これだけは言える。ここは貴様の遊び場ではない。貴様の遊戯のための箱庭でもない」
「いまさら、なんだってんだ。お前だって散々、僕と一緒に遊んだじゃないか」
そう叫んだエイジに、オールドジンライは槍から強烈な闘気を流し込む。そして、エイジの身体から黒い瘴気がズブズブと漏れていく。その様子を見ながらジンライが口を開いた。
「ああ、そうだな。ワシは貴様の手足となり、ずいぶんと非道に手を染めた。悪趣味な真似をさせられ続けた。もっとも、どうであれ、それに対する弁明の余地はワシにはない。ワシは強くなるために自ら修羅道に堕ちた。ワシはあの男とは違う道を歩むと決めたのだからな」
「だったら」
詰め寄るエイジに、ジンライは押し殺した声で呟いた。
「だが、貴様はルイーズ姉さんを泣かせた」
「な……んだって?」
それはエイジにとっては完全に予想外の言葉だ。
「それを貴様は笑ったのだ。敵であるならば対峙もやむなしと思った。場合によっては、殺す覚悟もあった。だが、あの人への侮辱は許さん」
「そんなことで? 止めろよ、ジンライ。そんなのおかしいだろ?」
さらに深く突き刺さっていく槍を感じながら、エイジが泣きそうな目でオールドジンライを見る。だがオールドジンライは首を横に振る。
「そんなことで? だがそれこそが重要なのだ。ワシは、我が前で再び姉さんを泣かせた貴様だけは絶対に許す気はない。故にここで死ね。お前はただそれだけのために死ぬのだエイジ」
「やめ、止めろ。こんなことをしてユキト兄ちゃんが黙ってると思うのか。お前の身体だって兄ちゃんがいなければ、半年も保たないんだぞ」
そう言うエイジにオールドジンライが笑いかける。
「ああ、構わぬとあの男は言っていたぞ」
その言葉に、今度こそエイジは二の句が継げなかった。
「代わりを見つけたそうだ。とうの昔からお前は用済みだった。知らぬのはお前だけだ」
「嘘だ。止めろジンライ。お前は僕がッ」
なおもわめくエイジにジンライが最後の言葉を告げる。
「そしてワシは悪魔ではない。闇の因子で造られたホムンクルス。故にお前はワシを乗っ取ることはできん。さあ、何百年とその意志を固定された哀れな悪魔よ。ワシがお前を解放してやろう」
その言葉とともに槍から黒い闘気が炸裂する。それは、バーンズ流奥義『大震』。対大型魔獣用の技がエイジの身体を打ち砕き、今度こそ完全にエイジを崩壊させていく。
「ジンライィィイイッ!?」
そしてエイジの絶叫がその場に木霊し、人知れず魔道大国アモリアでの戦いは終焉を迎えたのであった。