軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百十一話 ボッコボコにしよう

カランと神聖銀の剣の破片が床に転げていった。そして、折れた己の剣を見てゼクウが呟いた。それは純粋な賞賛の言葉だ。

「見事だジンライ」

ゼクウは心からそう感じていた。

すべては一瞬のことだった。ジンライの突きが放たれ、それを受けたゼクウの聖者の剣が一撃で破壊されたのだ。

二度に渡るジャッジメントボルトの装填、先ほどの英霊ジークとの打ち合いの負荷、さらにはこのジンライの一撃、それらすべての要因が合わさったことで神聖銀製の剣は破壊され、ゼクウに 一角獣(ユニコーン) の槍は突き立てられた。

「戦士としての私をお前は確かに超えた。認めよう、お前は強い」

そう、ジンライは魔法剣士としてのゼクウの強さを超えたのだ。例え様々な条件が重なった上であったとしても、今この瞬間だけは戦士としてジンライはゼクウよりも上であった。

「だがな」

そして『ジンライが』その場に崩れ落ちる。

「私は魔術師でもあるのだ。惜しかったなジンライ」

左手から雷撃を放ったゼクウは、己の右肩を突き刺した 一角獣(ユニコーン) の槍をその場で抜いて捨てた。それから倒れているジンライと、転がした槍へと視線を向けた。

「成長……か」

今まさに 一角獣(ユニコーン) の槍が神聖銀の刃の欠片を取り込んでいるのがゼクウには見えていた。

このまま放置すれば、ジンライはさらなる成長を遂げる。それは悪魔にとっても驚異であるかもしれないとゼクウは考える。だがゼクウは首を横に振る。

「いや、防げるならばそれはそれでも良いか」

ゼクウはひとりそう呟くと、折れた聖者の剣を右手から左手へと移して握りしめる。右腕はもうほとんど動かなかった。

しかし、ゼクウは英霊ジークとジンライを打ち倒すことには成功した。鉄壁の防御を誇る英霊ジークを最初に叩けていなければ、今のゼクウとジンライの結果は逆であった可能性は高いと理解していた。故にゼクウにしてみれば今の状況は悪い結果ではなかった。負傷こそしたが満足いく決着であったと考え、それからルイーズへと視線を向けた。

「ルイーズ、どうだ。理解してもらえたか?」

「お爺さま」

ゼクウの視線の先にいるルイーズはジン・バハルとシップーよりも一歩前に出て、ひとり立っていた。その瞳に涙の跡はあったが、もう揺らいではいないようだった。

「聞きたいことがあります」

「ふむ。言ってみよ」

ゼクウがそう言って、優しく孫に頷く。

「お爺さまがあたしを殺そうとするのは、あたしの魂をお爺さまの中へと取り込みたいから……ですか?」

「そうだ。お前は私が家族であれと望んだ者だ。母さんにメリル、ムーロ。お前にとっての最愛であるヨーシュアもここにいる。私はお前をそこに迎え入れたい」

「母?」

ルイーズが目を細める。ゼクウの母親のことをルイーズは知らない。そのルイーズの反応にゼクウは微笑み、折れた剣を振りかざして声を上げた。

「見るがいいルイーズよ」

すると、ボウッとゼクウの背後に四人の人影が現れたのだ。その中のひとりに、ルイーズの視線は集中する。

「ヨーシュア……」

その言葉にゼクウが強く頷く。

「そうだ。お前の弟で私の孫だ。ローアの不注意で死にかけたヨーシュアの魂を私は取り込み、護ってきたのだ。そうしなければヨーシュアは死して 魔力の川(ナーガライン) に流されてしまっただろうからな」

「魂を取り込むのは悪魔の所業……けれど」

ルイーズがゼクウを見る。ルイーズの見る限り、ゼクウに負の想念はない。あるのは清浄なる気配のみ。だからこそ聖者の槍を抵抗なく掴め、聖者の剣も扱えたのだろうとはルイーズにも分かる。

「ああ、私の心は濁ってはおらんさ。取り込んだ魂は四人。みな、我が心を理解しておる。そして負の想念にも流されず、未だ肉体も健在だ。そうした者を何というかお前は知っているか?」

「分類で言えば、 悪魔喰い(デモノイーター) 。神学的に言えば聖霊を宿すもの、聖者と呼ばれる存在です」

ルイーズの答えにゼクウが「正解だ」と頷いた。

悪魔の正体は魂の集合体だ。そして肉体というストッパーがない魂の多くは負の想念をループさせ黒く染まってしまう。そうして最終的に闇の因子一色のアストラル体へ変わった姿が悪魔というものだった。

もっとも例外は存在する。

それは肉質を持ったままであるために、負の想念がループせずに留められる 悪魔喰い(デモノイーター) と呼ばれる者たちである。悪魔の素養を持ちながら肉を持つその存在は、悪魔でもあり、人でもあり、その究極の形のひとつがウィンドウに制御されたプレイヤーという存在であった。

そしてゼクウは己も、取り込んだ魂も、まったく負の想念に支配されていない性質的には白の存在だ。それは悪魔とまったく同じ性質を持ちながら対極の者ということでもあった。

「そうだルイーズ。ならば分かるだろう? お前は私とヨーシュアと共に生きる道を選ぶのだ。それがお前の幸せでもある!」

「それがお爺さまの望み?」

「お前の弟の意志でもある!」

それを見てルイーズが顔を俯く。

「分かってくれたか……」

ゼクウが嬉しそうな顔をする。諦めたか、覚悟を決めたか。だが、ようやくゼクウの家族の形が完成する。それをゼクウは幻視したが、

「やっぱり……駄目だわお爺さま」

ルイーズの答えは否であった。

「何故だ?」

その問いに、ルイーズはまっすぐにゼクウに目を向けて答える。

「お爺さまと共にいてヨーシュアは幸せだったかもしれない。それは否定しない。他の人たちも……でも」

ルイーズは涙を流しながらゼクウへと杖を向ける。

「そこにいるヨーシュアは泣いているもの。ヨーシュアはあたしを殺すことを望んではいないのよ、お爺さま」

「なんだと? 何故だヨーシュアッ!?」

ゼクウがヨーシュアの幻影を見る。ゼクウは気付いていなかった。ヨーシュアの悲痛な顔を、それを見ていなかった。

「そして私も拒絶するわお爺さま。雷よ、雲の中を走れ」

その言葉と共にルイーズの迅雷の杖から雷が放たれる。

「ぬぅ。雷よ、雲の中を走れ」

それをゼクウは同じサンダーストームを放って打ち消した。ヨーシュアとルイーズの想いはゼクウには分からない。だが、ゼクウはひとまずはルイーズへの攻撃に集中する。

ゼクウにとって己の肉体は家族を新天地へ逃すための 方舟(アーク) そのもの。破壊させるわけにはいかなかった。

「鍛錬は怠ってはいないようだが、なるほど」

それからゼクウが周囲へと視線を向ける。正面からはジン・バハルが、左右からはユッコネエとシップーが迫っている。まるで最初から段取りをしていたかのように連携が取れているようだった。

「戒めの雷よ。荒ぶる魂に鎖を放て」

だが、ジン・バハルたちの攻撃がゼクウに届く前にスペルは完成し、魔術が発動する。

『なんだと!?』

ジン・バハルが叫ぶが遅い。ジン・バハルやユッコネエたちはその場で出現した雷の鎖に巻き付けられ、激痛にのたうち回りながらその場で崩れ落ちた。だが、彼らの攻撃はそれだけではなかった。

「ぬぅっ」

メリメリと骨の軋む音がした。ゼクウのわき腹へと直撃した存在がいたのだ。それはジュエルラビットのサーファ。

迎賓館を出る際にインビジブルナイツをかけられたルイーズの相棒は、ずっとルイーズのスカートの中で隠し玉として待機していた。そのサーファがここでゼクウへと牙を向いたのだ。

「ここでッ、やられるかぁあ!」

ゼクウの表情に鬼気迫るものが現れる。そして、わき腹に突き刺さる形のサーファを握るとユッコネエたちと同様に雷の鎖を呼び出して動きを止めた。そのジュエルラビットを床に放り投げながら、ゼクウはルイーズを見る。

「なるほど。成長はしているということだなルイーズ」

ゼクウが口元から血を垂れ流しながら、そう言って笑う。

「その言葉は、もっと普通の時に聞きたかったわよ」

ルイーズが叫びながら、切り札を走らせる。それは水でできた巨人だった。

「ふむ。水の精霊ウィラル……だけではないな」

「行きなさいライトニングウィラル!」

ゼクウが目を細めてみれば、水の巨人からは放電が起きているようだった。それは雷の精霊ライトニングスフィアと水の精霊ウィラルの融合体。メタルカザネを参考にルイーズが生み出した召喚術だ。

「その人を止めてッ!」

ルイーズがそう叫び、水と雷の巨人が拳を放つ。

(ライトニンウィラルにメタルカザネのように硬さはない。だけど、それを補うために雷の力を使えば)

ルイーズの思考によってその姿は変幻自在へと変わる。そして巨人の拳は大きく膨れ上がり、ゼクウへと迫った。しかし、それもゼクウには届かない。

「猛き古の神よ。我が手に宿り、刃を成せ」

次の瞬間には、ゼクウは折れた剣から伸ばした雷の刃で巨人を四度切り裂いた。

「あぁあああっ」

巨人のダメージのフィードバックがルイーズを襲い、ライトニングウィラルが一撃で消失する。

そのままひざまずいたルイーズを見ながら、ゼクウは雷の刃を向けて口を開く。

「これはタケミカヅチという。私が剣術を学んだのは本来このためだったのだ。我が祖国の秘奥技でな。私が母さんから引き継いだのだよ」

そう言いながらゼクウはルイーズを見る。フィードバックのダメージで動けないようだが、まだ目は死んでいない。

「ジャッジメントボルトが使えれば……或いは、結果は変わったかもしれないが」

「お爺さま相手に使えるわけないじゃない」

ルイーズがボソリと言った。 人をそそのかす者(サイタン) 戦からすでに一ヶ月は経過しているため、ルイーズはジャッジメントボルトを使用はできる。しかし、ゼクウだけではなく、ヨーシュアもいると知れば、ルイーズには生かして倒す以外の選択肢がなかった。

そう口にするルイーズにゼクウは手を伸ばし、

「戒めの雷よ。荒ぶる魂に鎖を放て」

ルイーズにも雷の鎖を巻き付けた。

「くっ!?」

その縛りを受けてルイーズの顔は苦痛に歪んだが、それ以上のダメージはない。ゼクウの放ったサンダーチェーンは身体を拘束するだけではなく、痛みによって思考停止を促すことで魔術を放つのを阻害する魔術である。

「ずいぶんとしてやられた。さすがは我が孫というべきか。しかし……」

ゼクウがその瞳に悲しみを宿しながら、後ろに佇んでいるヨーシュアの影を見る。

「ヨーシュア、どうした? 何が悲しいのだ? もうじき、お前も姉とも再び話せることになるだろうに」

そのゼクウの問いにヨーシュアは答えない。ただ悲しい瞳だけがそこにはあった。そして、答えは天より聞こえてきた。

「そりゃあ弟だもん。お姉ちゃんを殺してまで一緒にいようなんて思わないよ。姉を自分の檻の中に閉じこめて満悦するような弟なんてのはね、存在しちゃいけないんだよ」

そう、弟は姉に縛られる方がお好みなのだ。それを声の主は知っている。

その言葉を聞いて、雷の鎖に縛られたルイーズが天を見上げた。すでにキャンサー家の屋敷は破壊され、そこには青い空がある。そして、一筋の光がルイーズには見えていた。

「カザネ、お願いね。結局あなたに頼ってしまうけど……」

ルイーズはそう言いながら、天空より落下してくる流星のようなものを眺めている。

その流星の正体はカザネバズーカ、ファンタジックヘブン。

ここまでのカザネバズーカに白体化がプラスされただけの、概ねいつも通りのカザネバズーカだ。名の由来もキラキラしてファンタジックだからというだけのもの。しかし、その威力は本物だった。

「やらせぬよ! 裁定の雷よ、魔なるものを砕け!」

対して、ゼクウは左腕の折れた剣を掲げて三発目のジャッジメントボルトを放った。

それを見てルイーズは、ゼクウがジャッジメントボルトをなぜ複数回撃てるのかを理解する。なんてことはない。魔術を放ったのはゼクウではなく、その中にいる魂が発動させていたのがルイーズにはハッキリと見えていたのだ。

「いけないッ!?」

そしてルイーズが叫ぶが間に合わない。その強力な一撃はカザネバズーカへと直撃し、威力において劣るカザネバズーカはジャッジメントボルトに飲み込まれる。

「うわぁあああああっ!?」

「カザネェッ!」

そして衝突したエネルギー同士が空中で大爆発を起こし、ルイーズの視界を白く染め上げる。それから鬼皇の鎧がバラバラと地面に落下し、不滅のマントが天に舞い、その様子をゼクウが見て一息ついた。

「まさか、復活していようとは。私が気付かなかったのは……吸収していたという『インビジブルナイツ』の力のせいか」

それがいつ発動したのかは分からない。認識阻害を起こすソルダードの王のスキルを風音が奪っていたことをゼクウは知っていた。そして、ゼクウほどの達人がそのスキルを知っていて、注意を働かせていれば見破ることは不可能ではないはずだった。だが、ここまでの連戦でゼクウは風音から注意を逸らさざるを得なかった。その隙を狙われたのだろうとゼクウは考えた。

「しかし、これで……」

障害は消えた。そうゼクウが思ったときだ。空中漂う煙の中から 白金(プラチナ) の輝きが飛び出てきたのは。

「一撃じゃあ効かないんだよね」

そして、 白金(プラチナ) 色のチンチクリンがそう叫んでゼクウに向かって空中を蹴って駆けていく。

「馬鹿な、何故生きている?」

「こういう 体質(スキル) なんでね」

それはかつての敵の言葉。風音がそれになぞって答えるとゼクウはあることに気が付いた。

「まさかそれはディアボの 能力(スキル) ? ではアレを倒したのはルイーズではなく」

一度だけ死をなかったことにするスキル『致命の救済』。その能力をゼクウは知っていた。しかし、ゼクウはディアボを倒したのが風音であることは知らなかった。何故ならば公的な記録ではディアボを倒したのはルイーズとなっている。当時の状況からゼクウもそれが事実だろう。信じていた。

しかし、ゼクウにそのことを思考する余裕はない。 白金(プラチナ) 色に輝く風音が飛び出してきたのだ。 白金(プラチナ) の光に包まれた 裸身(マッパ) の風音がそこにいたのだ。

「何故裸なのだっ!?」

「こういう 体質(スキル) なんでね」

顔を赤くした風音が叫ぶ。そしてゼクウはその意味を理解することなく、風音が放った必殺の蹴りを受けた。

「ぬぐぅっ!?」

剣の柄で受けたゼクウがよろめく。ほぼ全裸だが、風音は脚甲だけは装備したままだった。その重い一撃にゼクウが歯ぎしりをする。

「まだまだぁ」

しかし、攻撃は当然それだけでは終わらない。ゼクウが苦痛に歪んだ顔で次の攻撃に対しての態勢を整えようとするが風音の姿はすでに上空にはなく、気がつけばゼクウの真下にいた風音が放つドラグホーントンファーがわき腹に突き刺さっていた。

「がぁああッ」

そして『キックの悪魔』のコンボが発動しているために、その威力も先ほどの攻撃よりも重い。ゼクウもたまらず叫び声を上げた。

「おのれっ!」

ゼクウはそれから続けての三発、四発目はどうにか受け返したが、その形相はここまでになく必死であった。その理由は、

「シッ」

「こやつ、速すぎるわ!?」

ゼクウが悲鳴を上げる。今の風音はスキル『怒りの波動』と『白金体化』によって上乗せされた膂力に『最速ゼンラー』ほぼ完全解放した状態である。その速度は尋常ではなかった。

「見えんッ」

ゼクウが驚きの顔のままでそう口にする。さらにドラグホーントンファーが頬を掠め、かかと落としが肩を砕く。それはあまりにも速すぎた。ジンライと互角以上に戦えるゼクウがまるで反応できないほどの速度で風音の攻撃は繰り出されていく。

「しかし、ただ速いだけではな」

もっともゼクウもただの老人ではない。六撃、七撃と受けていけば、その動きにも慣れ始め、見えずとも次第に受けることもできるようになり、

「させんぞっ」

ついにゼクウは風音の攻撃の隙をついてタケミカヅチを繰り出した。

「なんだとっ?」

しかし、切り裂いたのは風音の残像。フォレストロブスターより得た『ハイパーバックダッシュ』がここで発動し、風音は剣の間合い分後ろに下がったのだ。それを見たゼクウが叫ぶ。

「これまでよりもさらに速いだと?」

「はい、タッチ」

そして続けて一歩前へと出た風音の掌がゼクウの胸へとトンッと置かれたのだ。ゼクウはそれを見て息を飲む。ここまでに風音がため込んだ闘気がその掌に渦巻いているのがゼクウには見えていた。

「そしてお終い」

そこから発動したのは『爆神掌』。凝縮した闘気が掌底から放たれ、そして吹き飛ばされたゼクウの身体が宙を舞った。