軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百八話 その力に恐怖しよう

そして音が消える。

誰も何も口に出さない。ゼクウとジンライは動かない。セバスはすでにこの場を去り、ルイーズだけが状況を理解できていなかった。

「お、お爺さま?」

だから最初に口を開いたのはルイーズだ。目を見開きながらゼクウを見る。東の竜の里の件で、ルイーズは一度ゼクウと決別したつもりだった。

しかし改めてゼクウと再会し、かつての慕っていた祖父のままだと知って、何かの間違いだと思い始めたルイーズにはゼクウから放たれた言葉が信じられなかった。

そんなルイーズの、何かの間違いであって欲しいという懇願の瞳をゼクウは見て、少しばかり笑って口を開いた。

「別にな。別に黙っていたわけではないのだ。私も不思議だったのだが、何故だかここに至るまで誰にもそのことを聞かれたことがなかったのだよ」

「なるほど。やはり、隠す気はそもそもなかったというわけですか」

ゼクウの言葉にジンライは特に疑問にも思わず、むしろ得心がいったという顔をしていた。ここまでのゼクウという存在の行動の不可解さがジンライの中では解けていったようだった。

「さすがに話が早いな。ルイーズが惚れたのも無理はない」

「ジンライくん、どういうこと?」

ルイーズの問いに、ジンライは構えを解かずに口を開く。

「どうもこうもないですよルイーズ姉さん。その男、ゼクウ・キャンサーは本当に隠すつもりなどなかっただけです。おそらくは東の竜の里襲撃時には、もう正体がバレても構わなかったんでしょう」

そのジンライの言葉にゼクウがうんうんと頷いた。

「まあ、そうだ。ローアが上手く立ち回りすぎていたのだな。当の昔にこの場から退場している予定が、随分と狂わされてしまったよ」

ゼクウがそう言って「はははは」と笑う。

「何故、何故ですかお爺さま!? いや、そもそもあなたは本当にお爺さまなの?」

そのルイーズの必死な問いに、笑っていたゼクウから笑みが消え、それから真剣な表情に戻ってルイーズを見る。

「ふむ。ルイーズよ。お前には随分と苦労をかけたようだな」

「お爺さま……?」

ルイーズの問いにゼクウがフッと笑う。その表情はどこまでもルイーズの知っているゼクウのものだった。その顔のままでゼクウがルイーズに言う。

「私を疑わなければならないことにどれほど心を痛めさせたことか……最初から、正体を明かしておくべきであったかな。だが、もう心配はいらないよ」

それから、そう口にしたゼクウの背後にポウッといくつもの人の影が現れたのだ。それを見てルイーズが目を見開いて声を上げた。

「ヨーシュアッ!?」

ルイーズが絶望的な顔で、そのひとりを見た。それからルイーズはゼクウへと視線を向ける。

「お爺さま、どういう……」

ヨーシュアを殺したのはローアだと、つい先ほど口にしたゼクウの背後……いや、魔術師の目で見れば、それがゼクウの内より出てきていることがルイーズには分かったのだ。

「悪魔……なの? 本当に……?」

「ルイーズよ。今は、お前には何も分からないだろう」

あまりにも立て続けの感情を揺さぶられたルイーズが強ばった顔でゼクウを見ている。そのことにゼクウが少しばかり悲しそうな顔をしながら、口を開いた。

「だが、お前もこの中に入れば分かるはずだ。ヨーシュアもお前を待っている」

そう言った次の瞬間に、ゼクウの姿が消えていた。

「え?」

ルイーズがそれを呆気にとられた顔で眺める。ゼクウがどこにもいない。そしてジンライに視線を向けようとして、

「グァアアアッ」

正面へと吹き飛んでいくジンライの姿をルイーズは捉えた。そのままジンライの体は階段へと激突し、埃が舞いながらガラガラと階段が崩れ落ちていく。

「齢60年ほどか? ……まだ、若いな」

そしてルイーズの横にはゼクウがいた。さらにその手には神々しい透明な銀の剣があったのだ。

「なーっ!」

同時にルイーズの身体が揺さぶられ、鮮血が舞う。

「シップー!?」

「なーごっ!」

ルイーズの顔にかかった血はシップーのものであった。シップーはルイーズを咥えて一気に跳び下がったのだ。その際にゼクウによって斬られたのだろう、腕には切り傷が付いていた。そしてルイーズは悟る。今の剣は自分を『殺すため』のものだったのだと。

「お爺さま、なんで?」

「ふむ。失敗か」

ルイーズの叫びには答えず、ゼクウはジンライが飛ばされた方へと目を向けた。

「なるほど、速い。良い猫を飼っているなジンライ」

「ぐっ、が……はぁ」

崩れ落ちて埃舞う階段の跡にいるジンライは、うめき声を上げながら槍を支えに立ち上がっている。

「じ、ジンライくん?」

「剣の平で……だから死んでいないのか?」

ジンライが血を吐きながら、そう口にする。どうやらジンライは斬られたのではなく、刃ではない剣の平の部分で叩きつけられたようであった。

そのジンライを見ながら、ルイーズが戦慄する。ジンライが打ち倒されるなど久しく見なかった光景だ。そして、それを行ったのはルイーズの祖父のゼクウで、そのゼクウはルイーズを殺す気なのだ。

「ジン、ルイーズ姉さんを守れッ!」

ジンライが叫びながら黒の竜牙槍を投げつける。それがルイーズのそばに突き刺さると、そこからジン・バハルが出現してルイーズとゼクウの間に立った。

「ほぅ、骸骨の槍使いか。面白いものも飼っておるな」

そう口にするゼクウに、対峙しているジン・バハルの方はゆっくりと槍を構える。しかし、ルイーズから見ても分かるほどにジン・バハルは気圧されているようだった。

『クッ、なんて剣圧か。こんなもの、今まで感じたこともないぞ』

出てきてすぐのジン・バハルが、驚愕している。格が違うとジン・バハルにはすぐさま分かったのだ。

「お爺さま、あなたは一体?」

ルイーズはゼクウを、それからゼクウの持つ剣を見る。それは弓花の聖者の槍ムータンと同じく神聖銀でできた透明な銀の剣であった。

「うむ、これか? 聖者の剣ジハードという……まあ、ルイーズのお仲間が持っていたものと同じものだ」

ゼクウはそう答えるが、その剣から発せられているのが神聖力の輝きだけではないのがルイーズには分かった。その刃から魔術の雷も放出されているのだ。そしてルイーズは今まで自分が知らなかった事実を発見する。

「お爺さまは……まさか、魔法剣士?」

その言葉にゼクウが笑うと、咆哮して走り出したジンライへ向かって飛び出していく。そしてゼクウが剣を振るうと雷が放たれた。

「ぬぅぅうううおぉおおおおっ!」

その雷纏う飛ぶ斬撃を、ジンライは義手を外し 一角獣(ユニコーン) の槍となった『神喰』で突いて破壊する。

「やりおるわ」

「ゼクウ・キャンサァア!」

ジンライがそのまま突進してゼクウへと槍を突きつけるが、ゼクウの姿が一瞬で消えた。

「また、消えた?」

「これはまさかッ!?」

ルイーズが謎の現象に驚くが、ジンライは正体に気付いた。それはジンライにとっては見覚えのあるものだった。

「がぁっ!?」

次の瞬間に斜め後ろから斬撃が振るわれた。それをジンライは勘だけで槍を振るって受け止める。そして剣から放たれた電撃をジンライは槍の柄を床へと突き立ててそのまま流して逃すと、いつの間にやら後ろにいたゼクウへと蹴りを放った。それをゼクウは左腕で受け止めるが、勢いを殺しきれずに弾き飛ばされる。

「強いなッ、だが」

ゼクウが空中で一回転して床に降りたった。

「お前は槍使いではないのか?」

「ワシは戦士だッ!」

再び槍を構えながらジンライがそう言い放つ。それを「なるほど」と笑ってゼクウも剣を構える。その老人を前にしてジンライは圧倒的な危機感を感じていた。

「しかし今のは転移……それもカザネと同じ無属性転移か」

悪魔特有の闇の因子が発せられた様子はなかった。それ以外の因子の発動もジンライは感じなかった。つまりゼクウは風音の無属性魔術の転移と同じ魔術を使っているとジンライは推測した。

「ほぅ。なるほどな。ポータルとかいうものができたと聞いていたが、あの娘も使えるということか」

ゼクウが感心した顔をする。しかし、その言葉を聞いても何かが好転するわけではない。風音よりも数段上の転移魔術使い。無属性であるが故に因子を放たぬから発動がはっきりしないのだから、防ぎようもない。

「悪魔狩りができてから五百年……いや、それよりも長く生きるエルフか。いるのだな、こんな化け物が」

化け物。

その言葉は悪魔だとか、魔物だとかそうした意味合いではない。受けた剣の重さが、その眼光の鋭さが、相手が研鑽し続けていた五百年以上の月日が、一太刀一太刀からジンライに教えてくるのだ。目の前の相手が化け物と呼ぶに相応しい実力を持った相手だと。

「強いなジンライ。だが決着はつけさせてもらうぞ。私はルイーズを迎え入れたいのだ」

「孫を殺そうとした男の言う言葉かッ!」

その言葉にゼクウは「お前には分からんさ」と言いながら、ジハードを天へと掲げた。そして己の内にある魔術を解き放とうと魔力を込める。

「お爺さま。それはっ!?」

それを見てルイーズが声を上げた。ゼクウが次に何をしようとしているのかがルイーズには分かったのだ。

「裁定の雷よ、魔なるものを砕く力を我が剣に宿せ!」

それはルイーズが得意とし、何度も白き一団を助けた強力無比な光と雷の混合魔術『ジャッジメントボルト』。

ルイーズが得意としていたその魔術は、元々ゼクウ・キャンサーが悪魔を殺すために生み出したものだ。ルイーズはそもそもがゼクウよりそれを教わったのだ。その圧倒的な力が剣へと宿り、尋常ではない威力を秘めた雷光の剣が形成されていく。

そのあまりにも荒々しく、神々しい姿にはさしものジンライもゴクリと唾を飲み込んだ。それはまさしく圧倒的だった。絶望的と言っても良かった。

「雷霆剣……私はそう呼んでいる。加減をするにはお前は強すぎる。もはや生かそうとは思わん。ルイーズを得るため、ここで我が雷の刃に灼かれて朽ちよジンライ!」

そして雷の剣が放たれ、王都コーダに激震が走る。