軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十八話 女王様と行こう

さて女王様と行く温泉への旅だが、移動手段はゆっこ姉の用意した馬車で行くこととなった。ヒッポーくんをと風音は主張したが目立ちすぎるのでロジャーに却下された。そして用意された馬車は身分を隠しての旅のため派手な装飾はないが頑丈で中のスペースは広く、この時代においては快適な作りになっていた。

馬車を操るのは騎士団長のロジャー、他は中に女王と風音パーティのみ。王都まで一緒に来た騎士団などの面々などは同行しなかった。

そして現在、風音たちはゆっこ姉と馬車の中で談笑していた。

「風音、なんだか眠そうだけど」

「昨日は炎の理の三章を手に入れてね。ずっとスライサーの調整をしてたんだよ」

「ああ、あれねえ」

ゆっこ姉にしてみれば20年前に通った道である。使い勝手は悪くないのでほぼ設定を変えずに今もリストにいれているが最近ではあまり使う機会自体がなかった。

「スライサー? なんなの、それ」

魔術のこととなると生粋の魔術師であるルイーズが興味を惹かれるのは止むを得まい。

「んーとね。超高密度に圧縮された炎の壁とでもいうのかな。限界まで全体を薄くして、密度を上げて強度を増してくとね。広範囲の炎の刃を作れるんだよ」

「いや、そんなこともなげに言えるもんじゃないでしょ」

このメンバーの中で唯一のまっとうな魔術師であるルイーズが驚きの顔でツッコミを入れる。

「まあ、確かに風音の集中力と起動式の性能の高さから来るものですが」

対してゆっこ姉はそう返した。起動式とは魔術を使う際に術式を簡略化する常時発動している魔術式で、各流派によって性能や属性の相性などがある。風音たちの『ウィンドウ』もその一種と考えればゆっこ姉の言葉は嘘ではない。

うーん、と唸るルイーズの横で弓花が苦笑いをする。

「痛いんだよねえ、あれ」

弓花はかつて対人戦でやられて死んだのを思い出した。もちろんゲームの話だ。

(敵の集団に追いかけられたらまとめて胴体がまっぷたつになったんだよねえ)

よくよく思い出してみるとやったのはゆっこ姉で、ごめんねえと後で謝られた記憶がある。その後「ナイス囮」とも言われてちょっとヘコんだ哀しい思い出でもあった。

「ところで、ジンライさんは弓花の師匠なのでしたっけ?」

「はっ」

突然女王陛下に話を振られたジンライが恐縮して答える。本来、話すどころか顔も合わせられる身分差ではないのだ。メフィルスのようにかつての仲間というわけでもない。

「弓花はちゃんと指導を受けていますか」

後ろで弓花が「ちょっと」という顔をするがジンライは思うままに答える。

「はっ、弓花は我が40年をすべて食らい尽くさんばかりの速度で日々成長し続けております。そう遠くないうちに私を超え、更なる高みへと届くこととなりましょう」

それはジンライにとっての最大限の弟子への賛辞。弓花は裏で照れているが、だがジンライは紛れもなく真実を語っている。それは教える側であるジンライが畏怖するほどにだ。

そしてジンライの言葉に偽りなしと認めたゆっこ姉もその言葉に満足そうに頷く。

「そう。では、これからもこの娘をよろしくお願いします。あ、風音もついでに」

「しかと」

ジンライはそう口にして頭を下げる。元より言われるまでもないことでもある。ちなみに風音は裏でついでかーと言っていた。

「ふふふ」

ジンライの言葉に可笑しそうに笑うゆっこ姉にジンライは口には出さなかったが僅かに首を傾げる。それを見てゆっこ姉がお詫びの言葉を返した。

「いえ、ごめんなさいね。実はイリアちゃんがジンライさんは頭の固いのが玉にきずだと言っていてね。こういうことなのかなぁって」

(あのガキめ……)

ジンライの脳裏にはかつてのパーティメンバーの顔が浮かぶ。それは恐らく今とは随分と違っているであろう幼い顔だった。

「ジンライさんたちにはあのこにもこの旅が終わったら会ってもらおうと思ってるの。あのこ、随分と渋っていたし楽しみだわぁ」

渋っていたので楽しみだそうである。ジンライはこの女王が額面通りの人間ではなく相当に癖の強い人物だと感じていた。そしてそれは正解であった。

「あのこ……と言うと、あまり歳は取ってないみたいねえ」

横からルイーズがふと疑問に思ったことを口にした。元よりルイーズはユウコ女王に対してざっくばらんな対応をしている。これはルイーズの、相手に対してどの程度踏み込んでも問題ないかを計る事ができる対人スキルの賜物であった。

「ええ、ハーフエルフにしては若いままだって言ってたわね。わたしの姿に化けられるくらいには成長はしているのだけれど」

「あらあら。でもそのお胸までは無理でしょう?」

ルイーズが指さす先にはゆっこ姉のおっぱいがある。40近くとは言え、ゆっこ姉は年齢以上に若く見える。そしてルイーズほどではないがティアラと張れるほどのものを持っていた。

『ふむ。ずっと姿を見せぬままで随分と心配しておったのだがな。会うのが楽しみになってきたのぉ』

そう口にしてルイーズの腕の中のメフィルスが笑う。どこか悪いことを考えている声だと感じられた。

「ん、む?」

と、風音が外を見る。

「どうかしたの?」

いつものように魔物を見つけたのかと思い、弓花が尋ねる。この辺りだとオーガが近づいていてもおかしくはない。

「いや、うん。どうも花が群生してるみたいでさ。匂いが」

と風音の言葉を聞き、一行が外を見ると確かに道の先に黄色い花の並びが見えてくる。

「最初に来たときには気付かなかったですわね」

「窓閉めてたしね。ここらを通るときは」

ティアラの言葉に風音はそう返しながら、ひっそりとウィンドウを立ち上げ、すでにパーティ登録したゆっこ姉に対してプライベートチャットを送っていた。これは弓花には見えないものだ。

内容は、

風音「併走してるっぽいけどいいの?」

である。対してのゆっこ姉の返事は

ゆっこ姉「私のお客だと思うけど今は無視で。待て次号」

であった。次号とはいつのことか。一週間後ならばもう王都に戻っているのではないか。そんなどうでもいいことを考えつつ、風音は「了解」と返した。

一行はそのまま馬車に乗ってカロンゾの村へ、そしてその翌日にはウィンラードの街へとたどり着いた。

◎ウィンラードの街 バトロア工房

「いや、いいんですがね」

親方が辛うじてそう口にできただけでも大したモノだろう。現役女王がいきなり「やっほー」とやってきたのだ。それこそ親方はこの女王とはルイーズやメフィルスよりも付き合いが長いからこそできた反応だった。

ロジャーが渋い顔をして入口に立っている。風音たちも外にいた。ここでの会話は人に知られてほしくはない、具体的に言えば戦争の話であった。

「やってしまわれたようですね」

親方の言葉に「ええ、やっちゃったわ」とゆっこ姉が言葉を返す。

「つまりソルダード軍がすでに引き上げているってえのは事実ってことですかい」

二人が話しているのは風音たちがこの世界に来てから絶えず話題に上がっていた北の国との戦争。それが終わったという話であった。

「結局ミンシアナとは一度も剣を交えることなく退却ですか。おめでとうございます」

「あんまそういう顔してないわね、ジョーンズさんたら」

その言葉に親方は苦笑する。殲滅の魔女、その名の通りにソルダードの千に及ぶ兵をたった一人で殲滅させた恐るべき魔女に対してどういえばいいのやらと親方は思う。彼女の扱うエンチャントアイテムの調達と作成を依頼されていた親方は女王の現在の実力をある程度は把握している数少ない人物であった。

「たった一人でソルダートを敗走させた方になんと返せばよいのやらですね」

親方は正直にそう告げる。正確に言えばソルダードの被害は召喚英霊ユーケイとの連携による『コロナゲート』の相乗破壊奥義『サンライズ』によるものが主である。その奥義を範囲最大、威力少々で設定しソルダード軍に放ったのだ。

それはゼクシアハーツの大規模戦闘ならば恐るべき範囲のコケオドシという程度で終わる術だがソルダードの軍に対しては死者多数、重傷者多数の大被害を引き起こした。そしてレジストが成功し比較的ダメージの少なかった指揮官クラスの部隊に対しては女王とユーケイが個別にコロナゲートを放って消滅させることで指揮系統も完全に殺した。寧ろ目的としてはこちらのほうが本命だった。

「まあ。やったのはわたしじゃなくてドラゴンさんらしいけどねえ」

とゆっこ姉は笑う。それはソルダード軍の流した嘘情報である。

実際のところソルダードはまだミンシアナに宣戦布告をしたわけではなかった。外交的にいくつかの圧力と挑発を加え、国境線近くに兵を配置した以上のことはしていない。喧嘩を売っていたのは間違いないが、だがまだ国境を越えてもいなかったソルダード軍は一方的に謎の奇襲を受け、全体の一部とは言え行動不能なまでに壊滅してしまう。

「そのようですな。あちらから来た商人が皆そのように口をそろえます」

出鼻をくじかれた……というにはあまりにも大きい損害を受けたソルダードは、そもそも受けた攻撃がミンシアナからのものかすらも分からなかったし、急ぎ兵を引き上げて軍を再編し直す必要もあった。そして謎の襲撃についてはドラゴンの襲撃として処理し、最終的にそれに勝利したという偽装情報を流しているのを親方は北から来る商人伝手で聞いていた。

「それで、戦争はこれでお終いで? つっても俺がいない間に勝手に話が進んで何もしないままに終了って感じなんですがね」

「いない間に進んだのはあなたが出張していたからでしょう。それに当面はまだ現状のままでお願い」

「まだ仕掛けてくるとお思いで?」

「それを見極める意味でも気を緩めたくはないというのと、あちらがそういう姿勢を崩していないなら利用させてもらって今のうちに地盤を固めておきたいってのがあるのよね」

その女王の言葉に親方は肩をすくめて「仰せのままに」と口にする。

「ところでユウコ女王」

「何かしら?」

「カザネたちとはどういう関係で?」

親方はそこが気にかかっていた。少なくとも親方は風音たちから女王に接点があるとは聞いていなかったし、そうした素振りもなかったように思う。

「彼女たちは友人よ。あのこらが困っていたら助けるしわたしが困っていたら助けてももらう、そういう関係かしらね」

「さいですか」

その答えにいまいち理解が及ばない親方はそう返した。

「ま、色々と思うところがあるかもしれないけど詳しいことはヒ・ミ・ツってっことで」

そう言って『ゆっこ姉』は笑う。これはジンライたちともしたやりとりだ。

結局、この場での話し合いではソルダードは実際には兵を引いているが、国としてはソルダードの姿勢が崩れてない以上は戦争準備は継続とした。そしてその際の資金については近日中に公式の場の話し合いで取り決めを行うことを約束し終了となる。

その後風音たちはウィンラードで一拍、翌日の夜にはコンラッドに着き、また一泊して温泉に向かうこととなる。