軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十七話 女王様を語ろう

◎王都シュバイン クライリーズホテル

「うひゃあ、王家御用達のホテルってのは豪華だねえ」

そう言って風音はポーンとベッドを跳ねる。

「いきなりはしゃぐな、まったく」

ジンライがその様子に呆れ顔で、ルイーズも苦笑している。

「まあ、ただで泊まれたのは良かったわねえ。普通の冒険者だとお金以前に泊まる事自体が許可されないはずの場所だもの」

「王侯貴族専用のホテルですのね。わたくし、昔ここに泊まったことがありますわ」

『そうよのお。あの頃は余もまだ健在であった頃であったか』

ルイーズの言葉にティアラとメフィルスが過去を懐かしむように口にする。

「もう、一応ゆっこ姉の名前で泊まるんだからあんま恥ずかしいことしないでよ風音」

そう注意する弓花に風音も「はーい」と言ってぺたーんとベッドに横になった。

王城デルグーラにて女王となっていたゆっこ姉と再会を果たした風音たちであったが、さりとていつまでも再会を喜び合っているわけにもいかなかった。女王であるゆっこ姉の取れる時間は限られており一旦は別れて後日に再び温泉にいく日程などを決めることとした。そしてゆっこ姉の女王権限で風音たちはこの最高級ホテルへの宿泊が許可されたのである。

「それにしてもお前たちがあの女王と知り合いだったとはな。正直驚いたわ」

落ち着いた頃合いを見計らい、ジンライがそう漏らす。

「私たちだって驚きましたよ。ホントにビックリしたんですから」

「ホントにねえ」

弓花の言葉に風音もそう言い、そしてジンライを見て尋ねた。

「そうだ。ジンライさん、私たちはこの国の女王様としてのゆっこ姉を知らないんだよ。教えてもらう事ってできるかな?」

「ワシの知っている限りでよければだが」

風音の言葉に条件付きでジンライが是と答える。

その言葉を聞いて弓花も風音の横に座ってジンライを見る。

「お願いします」

「む、まあいいだろう」

弟子の真剣な眼差しに簡単に解説するだけで大丈夫かと心配になったジンライだが、どのみち自分の知る以上のことは話せないので、そのまま進めることにした。

「ユウコ・ワイティ・シュバイナー陛下がこの国に名が知られ始めたのは大凡今から20年ほど前になるかな」

ジンライの言葉は20年前にやってきたというゆっこ姉の言葉と一致する。

「お前たちの方が詳しいかもしれないが彼女は高位の魔術師でな。殲滅の魔女と 字(あざな) されるほどの冒険者だった。それでまあ、ちょうど今のお前たちのようにルーキーであるときから活躍していてワシもその名はよく耳にしていたものだよ」

変わってないんだなーと風音は思った。ゼクシアハーツでのゆっこ姉のプレイヤーキャラクターのユーケイも殲滅魔術の使い手で、同じく『殲滅の魔女』と呼ばれていた。

中でも得意魔術はグリモア最終章にあたる『コロナゲート』と呼ばれる光と炎の混合魔術で、これは周辺のすべてを焼き尽くすゼクシアハーツ内でも広範囲・最大攻撃力を誇るものだ。その魔術をエンチャントアイテムや増幅魔術の併用でさらに肥大化して撃つのがユーケイの得意スタイルだった。

そしてゆっこ姉は独力でゲームと同じ装備とスキルを集め、ついには本人での『コロナゲート』の使用が可能になったと風音と弓花は聞いていた。どうやらゆっこ姉は弓花の『天賦の才:槍』と同じように『太陽の担い手』という、炎の 理(ことわり) と光の 理(ことわり) の魔術の威力と範囲を倍近く増幅するユニークスキルを覚えているらしく、レベル96ながら威力はレベルカンストのユーケイと同等のものであるらしい。

「そんな彼女が今は亡きユエイン陛下の后となったのが15年前。一介の冒険者である彼女が正妻となれたのは白剣の遣い手であることが判明し王家の正当なる血族であることが証明されたためらしい」

ホワイトディバイダーは持ち主を選ぶ。かつてその剣の使い手のユーケイを使用したプレイヤーであるゆっこ姉もその資格を有していたという事だろう。

『実はミンシアナ王家は数代前から白剣の遣い手が生まれなくなってしまってな。王位継承者としての立場が危ぶまれていたのよの』

そうメフィルスが補足する。

「となると寧ろ、ゆっこ姉の方が資格があるって事?」

風音の言葉にジンライが頷いた。

「まあ、そういうことになったらしいな。ユエイン陛下がお亡くなりになった後、ユウコ女王陛下は自らを正当な王位継承者であると名乗り、実際に女王として即位した」

それは表向き、その主張が認められたということだろう。

「他の王位継承者もいたのだがな。白剣の遣い手は女王一人であったし、政治的手腕においても彼女は抜きんでていたようだな」

(あの『真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット)』の力が使われたんだろうなあ)

そう風音は考える。なお風音は弓花にゆっこ姉のアーティファクトのことを誰に対してでも口外せぬように言い含めてある。あれは風音の無限の鍵のように周囲に知られぬ方が良い類のシロモノだからだ。

「そして現在もユウコ女王陛下の統治の下で平和な世が続いているというわけだな」

そのジンライの言葉に風音が問いかける。

「でも戦争の可能性があるんだよね」

「まあ、そうだな。今は北のソルダードとの開戦の恐れもあるようだし、他の王位継承者たちの反発もあると聞くが」

そういった後、ジンライは余計なことをしゃべったかと思い、次の言葉を言いよどんだのだが

「うーん、暗殺とかそういう心配もあるって事?」

だが風音は直線的に聞きたいことを尋ねる。その問いに弓花が驚いた顔をするが、恐らくそれが重要だと風音の『直感』が告げている。

「そこまで露骨なものかは知らん……が、噂はある。女王の血が本当に王族のモノかを危ぶむ声がな」

風音は当然知っている。無論ゆっこ姉の血筋は王族のモノではないことをだ。

「でも白剣はゆっこ姉しか使えないんだよね?」

「そこだな。今はあの剣の遣い手はユウコ女王のみではないのだ」

「へ?」

「女王の息子、ジーク王子がおるのだよ」

「ジーク?」

「王子?」

風音の疑問に弓花の問いが続く。

「カザネ、お前の呼び出す古代の英雄の名と同じだな。ワシは知らんがその英雄から名をいただいたのかもしれぬが、ともかくジーク王子は正真正銘のユエイン陛下の血を引き、ユウコ女王陛下と同様に白剣の遣い手なのだ」

子供がいるのかー。そーかー。そりゃ20年経てばそうかー。

と風音と弓花の頭の中は若干パニック気味だったが、ジンライの言葉は聞き捨てならない要素が多く、すぐさま話に集中する。

「女王が亡くなっても正当な後継者であるジーク王子がいる。まだ歳は11と幼く、女王がいなくなれば摂政として誰かが代わりに権力を握ることも可能である。であれば……と、そういう噂はあるのだ」

「つまりゆっこ姉がいなくなった方が都合がいい人もいるんだね」

「噂だがな」

風音の断定にジンライは噂と言い添える。ジンライとて風聞以上のことは知らないのだ。

「まあ、ワシが知っているのはそのぐらいだな。メフィルス様からは何かありますか」

『そうよの。あれは良い女よ』

「そうですか」

メフィルスの返答にジンライは短く返した。

ゆっこ姉の話題はここで終わった。風音たちは以降は自由行動とし、夜までに時間も多少あったので王都を散策した。その際、風音は王都の魔導学習院で炎のグリモアの第三章を購入し使用。ホテルに戻ると夜中までクリエイターモードで魔術作成を行なっていた。

◎王都シュバイン クライリーズホテル 翌朝

「やっほー」

「……むぅ」

風音が眠い目をこすりながら目を開けるとゆっこ姉の姿があった。

「何してんの?」

ふあー、とあくびをしながら風音が起きあがる。

「何って冒険の準備?」

(そういえばいきなり旅行に行こうとか言って家に来たこともあったなあ)

そんなことを思いながら風音は起き上がり、寝間着を着替える。

その様子をいち早く起きて驚いていたジンライたちが呆然と見ている。

「カザネ、まったく動じてませんわねえ」

ティアラの感想に弓花が「あははは」と乾いた笑いを浮かべた。ゆっこ姉は普段は人当たりよい性格をしているが速断即決の人である。一度決めるとさっさとことを起こしてしまうタチだった。

「で、なんでこんな朝早いの? たしか今日辺りに日取りを決めるつもりだったよね?」

不滅のマントまで羽織った風音がゆっこ姉に質問する。

「待ちきれなくって」

そうシナを作って答えるゆっこ姉に風音は言う。

「ジークくんはいっしょじゃなくていいの?」

「あらやだ。聞いてるのね。ジークの名前をいただいちゃったわよ」

「いいよ。私もユッコネエの名前もらったしね」

風音は優しく光るチャイルドストーンを撫でながら答える。

「うん? とりあえず息子はまた今度会わせるにしても旧友との交流を深める旅には連れていけないわ」

「公務とかあるんじゃないの?」

「イリアちゃんっていう優秀な影武者がいるから大丈夫よー」

その言葉にメフィルスとジンライ、ルイーズがわずかに反応する。が、気付いたのはその名を口にしたゆっこ姉だけだった。

(……やはりいたのか)

そうジンライは心の中で呟く。イリア・ノクタール、かつてのジンライたちのパーティメンバーで東の国のクノイチという名の斥候だった少女である。

(今はミンシアナに仕えていると噂にはあったのだがな)

当時ジンライが18でイリアは15だったはずだが、幼い姿とは裏腹に恐るべき遣い手だった。

(あの頃はガキだと思っていたが今ならばジジイとババアか。いやハーフエルフだったな。あいつは)

であればまだ20か30ほどの外見かもしれない。あるいは風音と弓花だけではなく、ジンライたちも呼ばれたのはイリアの意図があるのかもしれないとジンライは考えた。少なくとも今女王が名を口にしたのは明らかにこちらに気付かせる意図があったものだろうと。