軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十九話 温泉に招こう

◎アルゴ山脈 登山口

「スキル・ゴーレムメーカー・ヒッポーくんヤマノオトコばん」

風音が杖を突くとそこからズモモモと普段よりも硬く大きそうなヒッポーくんが現れた。跨がるのではなく内側に座れるタイプのヒッポーくんである。その周囲には風と雪除けの壁が囲われている。

コンラッドからここに来るまでにもヒッポーくんに乗っていたゆっこ姉とロジャーだが、地面から現れたその姿に再度の驚きの声を上げていた。ゆっこ姉はこの世界でゴーレム作成を初めて見たわけでもなかったが、それでもせいぜいが岩男ぐらいである。そして風音の、というよりもゴーレムメーカーの制御能力の異常さを風音を含めたパーティ全員が実はほとんど理解していなかったりする。

「随分と頑丈そうね」

「グレイゴーレムとやれるくらいにはね。速いから若干乗り心地が悪いかもしれないけど」

「いいの? 私ならいつものヒッポーくんでも」

「バカーー」

グーで殴られた。

「なぜ殴る?」

パーではない。グーである。

「山を甘く見るなよ若造」

一番若そうな子供が何かをわめいていた。恐らく作中でもっとも山を舐めきっている子供にグーで殴られた。

ちなみに弓花はコンラッドで防寒具から一式の登山の用意はしている。元より父親との登山経験がある弓花にとって、山道が続いているとはいえその辺りのことを甘く見るつもりはなかったのだが。

「早く帰ってこないと一緒に温泉に入れないじゃない」

理由もアレだったので弓花は「うん」とだけ言ってヤマノオトコばんとか名付けられたヒッポーくんに乗って山に登っていった。

「速くないかアレ?」

横で見ていたジンライが若干ビビるぐらいの勢いでヒッポーくんが山を登っていく。中に乗っている弓花はビビる程度で済むのだろうか?

帰りの感想が楽しみである。

「崖に落ちない限りは壊れないから大丈夫だと思うよ」

風音はさきほどの「甘く見るな」発言をした人間とは思えないくらいにテキトーなことを言っていた。人間の目と違い、ゴーレムならばたとえ雪に覆われていても道に迷うことはない……というゲーム上の仕様を理解している風音だからこそ言える台詞でもあるのだが。

また山道に入ることもあり、風音たちはコンラッドに馬車を置いて、ヒッポーくんに乗って温泉施設まで移動することとなっていた。その途中、

風音「分散なし。継続して併走中」

ゆっこ姉「ラジャー了解」

というプライベートチャットが行われているのを二人以外は知らない。相手が弓花を追うようだったならば遠慮をするつもりもなかったがその必要はないようだった。

◎アルゴ山脈 温泉コテージ 夕方

「スキル・ゴーレムメーカー・プラス・かいちく」

Lv2になった風音のゴーレムメーカーは解除後も形状を維持し続けられる。そしてそれを利用して作成したゴーレムに再度変更をかけることも可能だ。ゲーム仕様上はその際にはプラスをいっしょに表明することで使用可能状態となる。

「さすがに圧巻ね。こりゃ土建で一生食いっぱぐれないわよ」

「その道に進むつもりはないけどねえ」

ゆっこ姉の言葉に息を切らしながら風音がいう。紅の聖柩はすでに空で、自前の魔力もほぼ底を尽きている。

というのも前々日より馬車の中でゆっこ姉と共同で行なっていたゴーレムの温泉コテージの大改築が想像以上に大掛かりだったためだ。ゆっこ姉自身はゴーレムは作れないが、パーティ協力を要請することで作業を分散することは可能である。そして凝り性であるゆっこ姉は徹夜で作業を行い、ついにはゴーレムコテージは大幅に改造され神殿のような造りに変わっていた。

構造が複雑になった分、魔力消費も激しく風音はぐったりとしていた。

「外のお湯は変わらず流れてるし、とりあえずためてから後で入ろう」

そう言って風音は外に流れているお湯の流れを湯船の方に変えてから中の寝室に入り、不滅の布団をひいて寝始めた。ゆっこ姉はその布団の肌触りに「なにこれ、すごい」と言って一緒に入って寝ることにした。ゆっこ姉もこのコテージ作成のために徹夜続きだったのですぐに熟睡してしまった。

ティアラが「あーーー」と言っていたがさすがに3人は無理っぽかったので諦めた。女王をベッドから落とすわけにもいかなかったのだ。

そうしたやりとりにロジャーとジンライは苦笑しながら、外で警備をすることとなる。風音のように臭いで把握しているわけでもなかったが、二人とも何かが迫っている空気には気付いていたのである。

「囮だったというわけかな」

「いえ、今回の目的はジョーンズ殿との直接の会談です。ですが予想せぬというわけではございませんでした」

「心当たりはあるというわけか」

ジンライの言葉に「あります」とロジャーが頷く。

「恐らくは反女王派の手の者でしょう。ここ最近もソルダードに対してこちら側から仕掛けていかないことを激しく非難しておりましたし」

「反対派とはディオス将軍か?」

戦争を望むのはまず軍だろうとの認識からジンライはミンシアナの将軍の名を口にするがロジャーは首を振る。

「財政大臣のローレン・カーンです。ディオス将軍、というよりも軍の大半は女王の誕生以前から女王支持派ですので」

それはつまりユウコ女王の誕生には軍部からの強力なプッシュがあったということ。実際ローレンが戦争について口に出したのは弱腰な女王を印象づけ、軍との仲違いを狙ったものと思われていた。

しかし実際にはユウコ女王はディオス将軍を始め軍幹部を蔑ろにはしていない。女王の単独奇襲は歴としたミンシアナ軍の極秘任務であり『女王様の散歩』という作戦名でディオス将軍より承認を得たものである。ちなみに書面に起こされた具体的な作戦内容は兵士一名の国境付近の哨戒となっていて、実は作戦日は風音たちが王都グリフォニアスを出た日と同日であった。すでに半月以上が経過しているにもかかわらず、現時点でも戦争回避の事実が知らされてないのはソルダードが予想以上に情報の隠蔽に尽力しているからであろう。

「今はソルダードが情報を隠してますし表立って戦争が回避されたとは言えませんが、目聡いあの方が気付いていないはずもないのです。恐らくはいつもの気紛れに外に出る機会を狙っていたんでしょうな」

やれやれとロジャーが溜息を吐く。

「慣れているようだな」

ジンライの言葉にロジャーがうなだれる。

「あの方が王座についてから繰り返してきたことです。正直、我が輩、胃が痛すぎます」

ロジャーの再度の溜息にジンライも苦笑するしかない。

「まあ、女王陛下には予定通りくつろいでもらうとして、敵はいつぐらいに来ると予測できる?」

「定石通りに明け方か、あるいは夜半過ぎか。ローレン様は今まで数多くの暗殺を退けている女王陛下の油断なさを知っていますからな。とはいえ、陛下の実力までは把握できておらんでしょうが」

(実力……?)

ジンライは女王のレベルとその能力までは知らない。

そして風音とゆっこ姉が起きるまで二人は共に見張っていたが特に誰かが来ることもなかった。

◎アルゴ山脈 温泉コテージ 夜中

「で、ジローくんがぶっ倒れて馬から落ち掛かったんだよねえ。「え、なにそれ?」みたいな顔してたんだよー」

「いいわね。その人。もっともっとキャラ立たせてみましょう。女王の名で一報上げてみるわ」

「むむむ、ツヴァーラでもその方の活躍を広めるようお父様にお手紙を書いてみますわ」

「ふむ。試し食いというのもいいわね」

女三人寄らば姦しいとは言うが4人いればもっとうるさくなるようだと風呂場から聞こえる声が響くのを聞きながらジンライは思った。一人の男の人生がさらにとんでもない方向に向かおうとしている件については黙殺した。ちなみにジンライは外を警護中でロジャーは仮眠中である。

風音たちが温泉に入るのはすでに二回目。これは単に温泉が好きだからとかそういうことではなく、この温泉の意外な効能に気付いたからである。

「しっかし、これはいいねえ。実際、どうなのゆっこ姉?」

風音はお湯と自分のステータスを見ながら尋ねる。魔力が徐々にではあるが目に見える形で上昇している。

「魔力回復効果とはね。まあ劇的に回復してるわけでもないけどずっと浸かってれば上限も増えたりするのかしら?」

「するといいねえ」

ともあれ、風音の魔力が予定よりも回復しているのは間違いなく、フル回復は明け方の予定だったが今はもう紅の聖柩の補充分に入っている。

「うーん、うちの温泉にはこんな効果はなかったわねえ」

とはルイーズ。なんだか悔しいらしい。

「観光と言うよりは魔術を使った生産業的なものをこちらで行なったらよいんじゃありません?」

(疲れたら風呂場にポンと漬けるのか)

ティアラの言葉に風音は何やら人の道から外れた想像をしていたが、ゆっこ姉は乗り気だった。鍛冶師などに使えないか親方に聞いてみようと言っていた。

「ここらへん、モーターマシラ出るんだけど大丈夫かなあ」

「森を焼けば住む場所もなくなりますし逃げてきますわよ」

エルフとは森と友人ではなかったのか……と風音は思ったが口には出さなかった。そういう時代なのだ。多分。

(それにしても)

風音はあらぬ方を向いて思った。

(併走してたのは10人。鼻の利く獣人がいるみたいだけど今は動かずにまとまって止まってる。休んでるんだろうなあ)

襲ってくるのは明け方辺りかと風音は思ったが、ゆっこ姉はまるで気にしてないように温泉を楽しんでいた。

(どうするつもりなんだろうねえ)

そのゆっこ姉を見ながら風音はお湯に肩まで浸かる。まあ、どうあれ体を休めておくにこしたことはあるまいと。