軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百九十九話 頼み物の確認をしよう

◎魔道大国アモリア 王都コーダ 迎賓館

「というわけなんだよ」

そう弓花が言い締め括ると、それを聞いていた一同が「うーん」という顔をしていた。今弓花が語ったのはつい先ほどまで弓花たちがいたキャンサー家の屋敷で起こった内容である。

弓花が色々と自分をフォローして話していたのだが、要約すると弓花大暴れでキャンサー家のひとりが気絶して家長のゼクウが出てきてくれたことでなんとか収まった……という風にしか聞こえなかった。

『めちゃくちゃ騒動になってるっすよね。それ?』

天から降りているイリアの式神である蜘蛛からそんな呆れた声が返ってきて弓花が「うっ」となった。

そもそも今回の風音たちの目的はあくまでオークションである。悪魔狩りなどの調査はそれに便乗してやってきたイリアに任せて、白き一団はここでは大人しくしているはずであった。はずであったのだが……

「ふ、不可抗力だったのよ」

「いや、弓花が耐えてれば問題なかった」

言い訳をする弓花に直樹からのツッコミが入る。厳然たる事実を口にされて弓花がまた「うっ」と唸った。腕を組んで聞いていた風音がそのふたりを無視しながら難しい顔をしつつ口を開いた。

「まあ、それはそれとしてゼクウさんが悪魔じゃないっぽいってことはどういうことだろうね。悪魔信奉者って線もないんだよね?」

風音が蜘蛛の方を見て声をかけるが、蜘蛛はクルリンと一回転した。

『調べてみた限りでは白っすね。まあそもそも連中は悪魔の不死性に惹かれて信奉してるっす。ゼクウ爺さんほどの知識があれば信奉なんて無駄なことしないで自分で悪魔になればいいんすよ』

要は悪魔の内部に己の魂を入れて支配権を奪えばいいのである。その方法も 素材(悪魔) もゼクウならば用意できるのだ。

『それでユミカっち、その槍を確かにゼクウ爺さんは握ったんすね』

「そうだよー」

弓花が持っていた槍を前に出した。蛇蝎銀の鎖に竜血布も巻いているので今は少々威圧される程度ではあるが、ムータンは神具といっても良いほどの武器である。発する神聖力が所有者を蝕むほど強力であり、所有者である弓花以外は持つことすらできないモノのはずであった。

『槍を通して神聖力が体内に流れ込んでくはずなのに平然と持っていたということは確かに悪魔とは別かも知れないっす。けど……あの東の竜の里の襲撃に現れた悪魔の軍団の大元が悪魔狩りからのものであろうという容疑が晴れてるわけじゃないっすからね。ゼクウ爺さんを犯人にしたかったヤツがいるかも含めて調査するしかないっすよ』

「まあ、そうだよねえ」

風音がイリアの言葉に頷く。結局のところ、ローアの妨害により未だに状況は分からないままなのだ。ゼクウが悪魔でないとしても大量の悪魔の出元を調べる必要はあった。

「そういえばルイーズさんは今どこにいるの?」

ルイーズは弓花たちとは別行動をしているとは風音も聞いていたが、行き先までは知らなかった。

「ええと、なんでも弟さんのところに行くって言ってたけど」

「へぇ。ルイーズさんに弟さんがいたんだね」

風音の呟きにはメフィルスが『ルイーズの弟は余らと会うよりも前に亡くなっておるよ』と口にすると、風音と弓花を含む事情を知らぬ者がギョッとした顔でメフィルスを見た。

『名をヨーシュアと言ったか。悪魔狩りの任務の途中で亡くなったと聞いたが……悪魔狩りの仲間に殺されたかもしれんとも言っておったな』

「だからルイーズさんは悪魔狩り……というか実家のキャンサー家を嫌ってるわけなの?」

『それだけではないのだがな。現在の家長代理であるローアはお前も城で会っていたと思うが、アレがルイーズをひどく嫌っておるのだ。立場あるお前たちに害を及ぼすとは思えぬが気を付けた方が良いかもしれぬ』

メフィルスの言葉に風音が「ん、了解」と頷く。それで話が一旦区切りがつくと、続けて弓花が風音に尋ねてきた。

「で、風音は今日もサグー魔具工房に行ってきたんだよね? そっちの様子はどうだった?」

その弓花の問いには風音は「問題はなさそうかな」と返す。

「プラチナトゥースタイガーの毛皮はサグーさんがプラチナチャフを出せるように加工してくれて、明日にでも服飾職人さんたちの方に回してケープにしてもらえるって話」

その言葉に風音の頭の上にいるタツオがくわーっと鳴いた。

「ああ、タツオ用のはプラチナファーマフラーだけどね」

『楽しみです』

タツオが両手を上げて喜んでいる。タツオにはケープは大きすぎるので毛皮のマフラーにして首に巻き付けて装備させる予定なのであった。

「私の杖の方は今サグーさんが工房に籠もって造ってくれてる。珍しい素材も多いから手間取ってるらしいけど、オークションが終わる前にはなんとかなるってさ」

「あのグリグリの羽根がつくヤツだったわよね。あれがどういう効果があるのか、そういえば私聞いてないわよ?」

「そいつはできてからのお楽しみだねえ」

弓花の問いに風音がぐふふと笑う。今教える気はないようである。

「そんで本命の 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) で造るアミュレットだけど、こっちはすでに幻魔の鱗粉を使用して変形させ終わってるみたいだね。後はその素材を元にアミュレットに加工してもらえばオーケーで、そっちはサグーさんのお弟子さんたちに対応してもらってるところだよ」

「そいつが精神攻撃耐性が付与されてるヤツだっけか。確か姉貴、その幻魔の鱗粉ってミサリさん預かりになるんだったよな?」

「うん、そうだよ。ミサリさんも同行してたから使用完了だって聞いたら鱗粉の方はミサリさんがさっさと持ってっちゃったね。ま、帰りには返してもらうし予備用に詰めた瓶もあるんだけどさ」

不思議の袋や不思議な倉庫の系統ならば探査魔術にも引っかかるのだがアイテムボックスの中に入れたものを把握することはできない。ゆっこ姉曰くアイテムボックスは密輸には最適な能力だという話であり、風音も色々と秘密にしているモノについてはアイテムボックスに入れるようにしていた。

『そういえば母上。レインボーハートはどうなったんですか?』

タツオがくわーっと尋ねる。今朝方にポッポさんが戻ってきていてナーガからは好きにして良いとの返答が返ってきていたのだが、それも実物が手に入らなくては狸の皮算用である。

「ああ、それね。ミサリさんの話だとレインボーハートの持ち主はヌマ共和国のコレクターであるドーン・メゾットさんって人らしいよ。どうももっと良いレインボーハートが手に入ったんで気に入ったものがあれば交換に応じるんだってさ。まあ……」

風音が眉をひそめる。

「珍しいものが何かってのがねえ。色々とあるっちゃーあるけど、その人が喜びそうなものっていうとよくは分からないよねえ」

風音がうーんと考える。今回造ってもらっているプラチナケープか、それとも別の何かか、表に出して良いもので何か良いものがあるか? ……それが今の風音の課題であった。

◎魔道大国アモリア 共同墓地

「はぁ、また戻って来ちゃったよヨーシュア」

風音たちが話し合っている一方で、ルイーズはヴァーゼンと共に街の片隅にある共同墓地内の墓の前に立っていた。

「ヨーシュア。お前の弟か」

「そう。随分昔に悪魔狩りの任務中に命を落としてね。ま、死体も見つかってないし、ここにあの子の亡骸が眠っているわけではないんだけど」

ヴァーゼンは「そうか」とだけ返す。ヴァーゼンは母親が悪魔に憑かれ家族全員を失っているし、悪魔狩りクラン『自由なる魂』のメンバーにとってはそうした話はゴロゴロしている。だが、だからといって何も感じなくなるものでもない。

そしてルイーズとヴァーゼンがその場で何も語らずに佇んでいると、やがて人が近付く気配がした。

「戻る決心が付いたのはあの仲間たちのおかげかな?」

近付いてきた人物の言葉にルイーズが微笑みながら、その相手に視線を向けた。

「モルガン爺、こうしてちゃんと顔を見て話すのはお久しぶりね」

そこにいたのは先ほど円卓の間にもいたモルガンであった。ルイーズが肩をすくめて口を開くと、ヴァーゼンは特に何も言わずに頭だけを下げた。

「うむ。先ほどの出来事は見応えがあった。あの弓花という少女にはまた槍と鎧を見せていただきたいものだな。ルイーズ、頼めるかい」

「それぐらいなら……でも、ユミカには謝っておきなさいよ。カルアをハメたのは貴方でしょうモルガン爺?」

「はて、なんのことやら」

そう言ってモルガンが笑うが、その反応を見れば答えは明らかであった。カルアは弓花のことを知っているようではあったが、色々と情報が足らなすぎた。誰かが限定的な情報を流していたのは明らかであった。あのカルアといえど王侯貴族に弓花接近禁止令なるものが出ていることでも知っていれば、さすがにあのような行動に出るはずがない。

(相変わらずの狸ねえ)

ルイーズがジト目でモルガンを見ると、モルガンも笑みだけを浮かべて視線を返してきた。

反ローア派の筆頭であるモルガンはルイーズとは今は協力関係にある。だがモルガンを味方だと信頼して良いかといえばそうではなく、今回もローアに対する嫌がらせのためにカルアに弓花の偏った情報を流したのだろうとルイーズは考えていた。

「まあ、それよりもだ。お前さんからの手紙にあったゼクウ様の件についてだが……やはり変わられた、或いは憑かれた素振りは確認できておらんようだよ」

「浄化塚については……駄目よね?」

「アレはローアの管轄だからな」

首を横に振りながら言うモルガンにルイーズが肩をすくめる。

「東の竜の里を襲った悪魔の軍団にしてもすべては状況証拠のみだ。いくらミンシアナとハイヴァーンが睨みを利かせていようとローアだけではなく、ワシにしてもこれ以上は難しいぞ」

モルガンが若干険のある口調で言うとルイーズも「分かってるわよ」と頷く。モルガンもローアと反目しているとはいえ、悪魔狩りの一員だ。疑いをかけられて平気であるわけではない。ルイーズとの共闘についてもあくまで非協力的なローアに代わって疑いを晴らすために動いているだけ……というのがモルガンのスタンスであった。

「先の件でゼクウお爺さまの疑いについては晴れているのでは……とあたしも思ってるけどね」

「であれば良いがな。あの方は悪魔に憑かれるような方ではない」

「ええ……」

モルガンの言葉にルイーズが頷き、横にいたヴァーゼンも「まあ、そうだな」と呟いていた。それはキャンサー家の誰もが理解していることである。ゼクウは彼らにとってのカリスマだ。少なくとも誰かに操られるような 人物(たま) ではないとは三人の共通認識であった。

そしてその後、いくつかのやり取りを終えたモルガンは「ユミカさんとの会合楽しみにしているよ」と言いながらその場を去っていった。続けてヴァーゼンも仲間の元へと去り、ルイーズはじっと動かずひとり墓の前で佇んでいた。

「はぁ、ヨーシュア。ちょっとお姉ちゃん、疲れちゃった」

ポツリとルイーズの口から本音が漏れる。

「だからさ。あんたが出てきて……私に答えを教えてくれないかな?」

そう言ってからルイーズが「ま、無理か」と苦笑する。

「あたしよりもあんたの方がお爺さまと仲が良かったものね。そのお爺さまに疑いをかけてるあたしをあんたならきっと激怒したでしょうしね」

そう言ってからルイーズは空を見上げた。

ヨーシュアがいなくなってもう百年近くが経つ。今ではもう弟の顔も朧気になっている自分にルイーズは少しだけ悲しくなっていた。