軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百九十八話 一緒にハモろう

「なるほど。槍の刃は神聖銀、柄の部分と鎧は 神聖物質(ホーリークレイ) で造ったもの。鎧の方は何かしらの影響で変質しているが、加工前の 神聖物質(ホーリークレイ) を大量に仕入れた……ということかな」

「なっ!?」

唐突に現れたゼクウ・キャンサーの言葉に一同が驚きの声を上げた。この場にゼクウが訪れたことも彼らにとっては驚きだった。ローアに家長の代理を任せて以来、あまりこのような場に出てくることがなかったのだから当然ではあるが、それにも増して彼らは今の言葉に衝撃を受けていたのだ。

「加工前の…… 神聖物質(ホーリークレイ) をそれほど用意したと言うのですか?」

モルガン老人が声を上げたが、それに弓花が答えた。

「あ、ちゃんと自分で用意しましたよ。頑張って頑張ってどうにか槍と鎧ができるほどに集められたんです」

その言葉を聞いて一同に戦慄が走る。

彼らの認識では 神聖物質(ホーリークレイ) は銀鉱近くに住んでいるコボルト族の巣穴から極わずかに入手可能であるレア素材だ。ゲームのようにある程度定期的に魔物の巣が発生するわけではないため手に入れることは難しく、非常に稀少な素材となっていた。また未加工のものは普通は高額で取り引きされて神殿の神像造りなどに回されるので表に流れてくることも少ない。

であるにも関わらず、弓花はそれを槍と鎧を造るだけ揃えた上に自分で集めたと言ったのだ。無邪気に笑いながら。

「一体どれほどのコボルトを殺せばそれだけの量が手に入るのだ?」

「千や二千ではきかぬかもしれぬ」

「 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) ……そうか、最近になって名が知られ始めたのは今まで延々とコボルト狩りを」

「同じエルフだと思っていたが、仙族とは血に飢えた一族であったか」

「さしものワシらもドン引きじゃ」

ボソボソと周囲から声が響き渡っている。

それを弓花は「ん? ん?」と言いながら不思議な顔で見たのが、何故だか周囲のエルフたちは怯え始め、弓花から目をそっと逸らし始めたのだ。

(む、これはもしかして……)

その周囲の様子に弓花もさすがにおかしいとは思ったが、理由についてはなんとなく察しが付いていた。

まさか庶民が大量の銀をかき集められるなどと思っていなかった彼らは、実は弓花がかなりのお金持ちであるらしいことを知って驚いているのだろう……と弓花は考えたのである。

(こういう場にいる人たちでも人間らしい面もあるんだな。エルフだけど)

などと思いながら弓花は頷き、仕方ないなと思ってフォローの言葉を入れる。

「いや、別に大したことはないですよ。この装備を用意するのでもう(お金は)ほとんどなくなっちゃいましたし。もう(お金が)スッカラカンです」

「(コボルトが)ほとんどいなくなった? (巣穴も)スッカラカン!?」

しかしその言葉はさらに周囲を引かせていた。ますます首を傾げる弓花だが、ゼクウがその弓花に声をかける。

「気にするでない。その武具の価値を知って、みな驚いておるだけだよお嬢さん」

「あー、そうですか。まあ、これは私の苦労の結晶ですからそう言ってもらえるのは嬉しいです」

それは弓花がここまでの旅の中で苦労して手に入れた『お金』で大量の銀を購入して造り上げた武具であり、今も弓花を覆う銀色の装備は燦然と輝いていた。もっとも今やこの場のエルフたちにはその武具からは濃い血臭が漂っているようにしか思えなかった。

その様子にゼクウが肩をすくめてからゴホンと咳払いをすると、全員が正気を取り戻し、その視線をゼクウに向けた。

「ルイーズ、ヴァーゼン」

ゼクウの言葉にルイーズとヴァーゼンの背筋がスッと伸びた。

「このたびの働きは見事であった。よもやこの国にまで悪魔の手が伸びているとは思わなんだな。まあ、連中が組織化するなどこれまでにはなかったこと。これからはそうしたことも念頭に置いて行動せねばならぬぞローア」

「ハッ」

ゼクウの横にいるローアから返答が返ってくる。その様子を見て弓花が眉をひそめる。

(うーん、なんだかデキるお爺ちゃんって感じだけど)

目の前のゼクウは七つの大罪、つまりは最上位悪魔の可能性がある人物だ。しかし弓花が見た限りゼクウは『肉体を』持っている。その上に悪魔に有効な神聖力を強く発している聖者の槍ムータンを『平然と』持っていた。

(この人、悪魔じゃなくない?)

そう思って弓花が後ろを見るとルイーズも険しい顔をしていた。

「あ!?」

そして直樹がその場で倒れていたのを弓花は視界に捉えてしまう。どうやら神聖銀の輝きを受けて気絶しているようだ。

スペリオル化で職種『ダークヒーロー』になった影響で直樹は『影世界の住人』を使っていない生身の状態でも神聖力に弱くなっていたのだ。突然の不意打ちに直樹の意識は吹き飛んでいたのだった。それを見てゼクウが口を開く。

「ふむ。お連れの方は調子がよろしくないようだな。お嬢さん、この埋め合わせは後日しよう。今はそちらの少年を介抱してあげたまえ。セバス、案内せよ」

「はい当主様」

弓花たちを連れてきた執事が頷き、それから扉を開いて直樹を担ぎ、そのまま「こちらです」と言って出て行くと、弓花たちもそれに続いて出て行く。

弓花が少しだけ部屋に視線を向けると、ゼクウは人の良さそうな笑みを浮かべていた。その表情はまた会おうと言っているように見えた。

**********

「はー、虚弱体質」

「うるせー。弓花が考えなしにムータンを出すからだろうが」

屋敷の一室を借りてベッドに寝かされた直樹が十分ほどしてから目を覚ました。そして目が覚めた途端の弓花の呟きに眉をつり上げて反論したのである。

「大体だな。あんな老人の多い場所でムータンを出すんじゃねえよ。ショック死したらどうすんだよ!?」

「あ……」

「あ……じゃねえって」

今更ながら気が付いたらしい弓花に直樹がさらに声を荒げた。だが弓花はもはやそれどころではない。直樹が倒れてからは周りのことを気にとめている余裕もなかったので、あれからどうなったのかが分からない。

「な、直樹。どうしよう。私やっちゃった?」

「やっちゃったのは間違いないけど、 殺(や) っちゃったかは気絶してた俺には分かんねえって」

弓花が直樹の肩をつかんで揺すって尋ねるが、当然直樹に分かるはずもない。

「ルイーズさんも何か言ってくださ……い? どうしたんです?」

仕方なく直樹がその場に一緒にいるルイーズの方に話を振ったが、ルイーズは難しい顔をして弓花たちを見ていた。

「いえ……ね。あんたたち、仲良いわよね?」

「よくないです」「よくないです」

ハモった。それを見てルイーズがため息をつく。

「それだからエミリィが嫉妬するのよ。まったく、もう。まあ今はそれは良いわ。ヴァーゼン、さっきのをどう見る?」

その場で黙って立っていたヴァーゼンが眉をひそめながら口を開いた。

「さてな。だが、そのユミカの持っている槍の神聖力は本物だ。それは俺にも分かる。並の悪魔なら触れば消滅してしまいそうなほどだとハッキリと感じられる」

「だとすればお爺さまは……白?」

ルイーズがそう口にする。確かにゼクウが里を襲ったというの目撃情報のみの話だ。それがこじれたのはキャンサー家がゼクウの確認を執拗に隠し続けたからに他ならない。

「私たち、見当違いだったのかもしれないって……ことかしら」

「かもしれん。が、それを断定するには……おい、ルイーズ?」

「え?」

弓花や直樹もルイーズを見てギョッとしている。ルイーズの瞳からは涙がポロポロとこぼれ始めていたのだ。

「あ、あらやだ。少し安心しちゃって。まだどう出るか分からないのにね。ごめんなさい。ちょっと……フフ、おかしいわね私」

そう言いながらもルイーズが不滅のハンカチを取り出して己の涙を拭うが、その涙はなかなか途切れてくれないようだった。

「ルイーズさん……」

弓花がそれを見て理解する。

ゼクウの悪魔疑惑に対する精神的負担は弓花たちの想像以上にルイーズの心を圧迫し続けていたのだ。泣きながらも笑っているルイーズを見て弓花と、それに直樹はそのことを強く感じたのである。

**********

「申し訳ございません」

ローアがその場で頭を下げていた。今、円卓の間にいるのはローアとゼクウだけである。カルアが白目を剥いていたぐらいで、他のメンバーも特に後に残るダメージもなくローアの指示で退室していた。

そして先ほどの場での様々な面での失敗から叱責を喰らうかと思っていたローアが覚悟を決めた顔をしていると、ゼクウが優しげな口調で話しかけてきた。

「まあ、お前の憤りも分からんでもないよ」

「ゼクウお爺さま?」

その言葉にローアが意外そうな顔でゼクウへと視線を向けた。

「ここ最近は私のことでお前には苦労をかけ続けておるしな」

「いえ、そんなことは……」

ローアが首を横に振る。だがゼクウは話を続ける。

「悪魔狩りの外の者にそうした因縁を付けられるのは今までにもないわけではなかったが……今回は少しばかり規模がでかい。まあ、ミンシアナの女王はともかく、ハイヴァーンやツヴァーラは話の分からぬ国ではない。我らも協調すべきなのだろうよ」

「はい……」

「まあ、だからあまり老人を過保護にするでないぞ。私もまだまだやれるのだからな」

ゼクウが微笑んでそう言うとローアが嬉しそうに「はい」と頭を下げた。そしてローアが再び頭を上げたところでゼクウが口を開いた。

「ところでなローア」

「はい。なんでしょうかお爺さま?」

「先の客人の中でひとりだけ気になる人物がいた」

ゼクウの言葉にローアが眉をひそめた。

「たしかナオキ・ユイハマと言ったか。まさかミンシアナの王族が……とは思うが、少しばかり臭ったのだ」

「では?」

ローアの問いにはゼクウは首を横に振った。

「分からん……が、気にかけておく方が良かろう。愛しいルイーズのそばにおるのだ。お前も従姉妹としては心配であろう?」

「はいっ、勿論です」

そういってローアは頭を下げた。そしてゼクウには見えぬその顔は深く歪んでいた。それはルイーズへの嫉妬と頼られる喜びがない交ぜになったかのような酷く醜い表情だった。

だからローアは気付かない。己の顔を隠すのに精一杯でそれを見ているゼクウの表情がどこまでも冷たく醒めたものだったことにまったく気付けなかった。

その瞳には、目の前にいる孫に対する愛情などひとかけらも宿されていないのだと、ローアが知ることはなかったのである。