軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百九十四話 あのときのことを話そう

◎魔道大国アモリア 王都コーダ 迎賓館

『母上ぇえッ』

風音が用意されていた部屋の扉を開けるとタツオが顔に飛びついてきた。そのタツオを風音はそっと摘まんで頭の上に乗せてから声をかける。

「ただいまタツオ。弓花もレームもただいまっ。タツオのことありがとねー」

「いいってことよ」

「ま、私らくらいしか暇人いないしね」

風音の言葉に部屋の中にいたレームと弓花がそう返す。なお、弓花は言葉通りに正真正銘の暇人だがレームの方は声がかかってはいたが面倒なのでブッチしているだけであった。

レームはトゥーレ王国女王の肩書きを持っているが所詮はただの肩書き。唐突に女王にさせられたあげくにずっと監獄都市に閉じ込められていたので女王としての自覚などあるはずもなかった。

「いや、レームは別に暇ではないはず」

「それはカザネも一緒じゃねーか」

レームがそう口にすると風音は「私は名誉会長だからいいんだよ」とよく分からない答えが返ってきた。

なお現在のトゥーレ王国は共和国制に移行するための準備に入っており、それを取り仕切っているのはゴーレムメーカー協会の現会長ベネットである。そして風音は本人の言葉通りに名誉会長という立場であり、その名誉会長が何かといえば好き勝手に口を出す権限はあるが仕事をする必要はない人のことである。

他の名誉会長のことは知らないがともあれ風音はそういう立場にいた。風音は若くして権力とはかくあるべしという姿をその身に体現していたのである。

「それで帰ってきたのは風音だけ? ルイーズさんは一緒じゃないんだ」

弓花が風音の後ろをチラチラと見たが、部屋の外にルイーズの姿はない。

「ルイーズさんならどっか行ったよ。まあここはルイーズさんの故郷らしいし顔を出さないといけない人が多いんだって」

そう言ってから風音が部屋の中を改めて見回した。

「そんで、ティアラたちはツヴァーラに通じている貴族との挨拶で、ライルたちはハイヴァーン公国と交流のある貴族とのパーティだったっけ? まだ戻ってきてないんだね」

「直樹も一緒にね。今頃は美味しいもん食べてる頃なんじゃないの?」

直樹はバーンズ一家と共にパーティに付き添っている。それはミンシアナ王族としての肩書きでの参加であり、それはつまり外堀を埋めようというエミリィの作戦でもあった。

もっともコミュ力MAXの直樹にとってそうした場はアウェーではなくむしろ活躍できる場であり、なおかつ姉もその場にはいない。本人の意思に反して水を得た魚のようなモテッぷりを発揮しそうではあった。

もちろん風音としては……

( 粗相(そそう) をしていないといいな)

と思っていた。超有名人で尊敬の対象である姉の名誉に傷を付けないで欲しい。それが風音の望みであった。

「ふむふむ。まあみんなしばらくは戻らなさそうだね。旦那様からの手紙もまだみたいだし、どうしよっかな」

風音が窓の外を見る。昨日にカイザーサンダーバードのポッポさんにナーガ宛の手紙を届けさせている(当然ミサリとゼンドーはビビっていた)のだが、ポッポさんは今はまだ東の竜の里の上空で飛び回っているようだと召喚師としての感覚で風音は把握していた。

「レインボーハートのこと?」

ナーガとの連絡と聞いての弓花の問いには風音が頷く。

「そう。今はタツオもいるしレインボーハートを手に入れた場合にどうするかってのを旦那様に確認してるんだよね」

風音の言葉にタツオがくわーっと鳴いた。

ちなみにタツオ的に弟か妹ができるのは微妙ということらしかった。知恵の回るタツオは母親の愛情がそちらにまで注がれることへの懸念と、まだ己が兄としての威厳を持ち合わせているとは思えないという認識があるようだった。

「旦那様があまり気にしないのであればひとまずは魔導兵装に使用するかも」

その風音の口にした魔導兵装とは動力石設置型武装などと風音が言っていた、弓花のアダマンドレス、メフィルスのフレイムドリルランス、エミリィの四重炎の翼竜弓などを含む動力石を用いた武装の総称である。ミンシアナの技術部がどうにか試験的に再現可能となったらしく公的な名称がソレに改められたのである。

そしてレインボーハートはクリスタルドラゴンの竜の心臓であるため、当然装飾品ではなく動力石としての転用も可能である。また出力についてはクリスタルドラゴンの元となった竜種と、クリスタルドラゴンとしての成長度合いによって変わるため実物を見る必要があった。

「その準備のためにも今回はグリモアも購入したいんだよね。知恵の実がある今ならかなり強力な魔術も覚えられるはずだし」

「ああ、そういう手段もあるのか」

弓花がなるほどと頷く。知恵の実による一時的な知力底上げ状態でならば実力以上の魔術を覚えることも可能なのだ。覚えた魔術を使用するにはそのときにも知力を上げる必要があるがそれは知恵の実を再度食べれば良いだけだし、魔導兵装に使用するのであればそもそもその手順は必要がない。

そんなことを考えていた風音に弓花が少しだけバツの悪そうな顔で声をかける。

「ああ、そうだ風音。少し話しておきたいことがあるんだけど」

「何?」

弓花の言葉に風音が首を傾げる。

「実はちょっと悪魔についての報告があるんだよね」

「え?」

眉をひそめた風音に弓花が「実はさっき……」と切り出し始めた。それはつい先ほど街に繰り出した時の話であった。

◎魔道大国アモリア 王都コーダ 商業区 二時間前

『人が多いですねぇ』

「まあ王都だしね」

風音が迎賓館に戻ってくる二時間前。弓花とタツオ、レームは王都の商業区へと来ていた。彼女らは特に目的もなく、物見遊山に出歩いていたのである。

「ここは魔道大国って言われてるんだろ? けど、みんな魔術師ってわけじゃあないんだな」

レームが見渡す限りでは魔術師らしき者もいるにはいるが、そう多いわけでもないようだった。それには弓花も「そうねえ」と言いながら周囲を見渡す。

「まあみんながみんな魔術師ってわけは当然ないわよ。アモリアの魔道大国の由来はこの王都ではなくて別の街の賢人都市ヴァエルというところらしいし。魔術師の研究が盛んに行われているのはそっちなんだって」

「へぇ。ユミカは物知りだなあ」

弓花に手を引かれながらレームが言う。それからレームが握られた手を見ながら不満げな顔で口を開いた。

「しっかし、こうしてるのはなんかハズいな」

レームがそう言うが彼女らの回りを歩いている人間は気にしている様子がない。現在のレームは、頭にタツオを乗せてケープのフードを被った弓花に手を引かれている状態であった。この弓花の被っているケープは『穢れなき聖女のケープ』という達良製のものでフードを、被ることで認識力を低下させるスキル『インビジブル』の効果を持っている。そのためタツオの姿も注目を浴びることはないのだが一緒に歩いているレームにも効果を与えるためには接触しておく必要があったのである。

「そうは言ってもアンタ、さっき私のマント掴んでって言ったのに屋台に目がいって何度も手放してたじゃない。はぐれたと思って涙目になってたし」

「なってねえ。なってねえよ」

レームがくわーっと怒って、タツオが対抗してくわーっと鳴いていた。弓花が仕方なく手を引くことにしたのがついさっきのことである。

「ま、まあ。誰も気にしてないんなら大目に見てやる。分かったな」

「はいはい。それよりも次はどこを回ろっか?」

弓花たちには特に目的もない。ブラブラとお店を見て回っているだけでここまで武器防具屋やドレスショップ、ジュエルショップなどを冷やかしていた。『インビジブル』の効果は認識力低下なので、冷やかしても店員に声をかけられることも嫌な顔をされることもないのである。

「うーん。次は魔法具屋にでも行ってみるか? 正直、普通の装備ってこのパーティだと見てもなーってのもあるしなぁ」

白き一団の装備は普通に売られているモノの性能を遙かに越えている。今のレームにしても上は普通の服に見えて、アンダーウェアはアダマンドレスと同じ素材であったりする。

そうしたものよりも上位のモノを探すのは難しいだろうが魔法具などといった付与効果のあるものならば……とレームは考えたのであった。

「そうね。そんじゃあ、ちょっと見てみよ……ん?」

それから弓花が同意の言葉を返そうとして、その口と歩みが止まった。そしてレームが弓花の背中にボフッとぶつかる。

「おい。なんだよ?」

少しだけ鼻をぶつけて痛かったらしく、抗議の顔をしたレームだが弓花が真剣な表情でとある場所に視線を向けているのに気付いて、自分もその視線の先に目を向けた。

「どうした?」

「あれ……」

そしてレームの問いに弓花が指を差して答える。そこにいたのはレームには見覚えのない男であった。