軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百九十三話 色々と頼もう

「なんだい。そりゃあ?」

サグーが訝しがりながら机の上に置かれた二つの品を見る。ひとつは何かの粉の詰まった水晶瓶でもうひとつは竜のものらしき鱗であった。

「まずはこっち。これは幻魔の鱗粉を詰めた瓶だから扱いには気を付けてね」

風音の言葉にサグーがブフォッと噴いた。それから目を丸くして声を張り上げた。

「なんてものを無造作に置くんだい!?」

「あー、超危険物ですね」

ミサリも若干引いている。

この幻魔の鱗粉というものはゼクシアハーツにおいて複数の精神状態異常を発生させるキワモノで、この世界においてもそれに類した効果が発揮される毒物であった。

そして、その鱗粉を入手することが可能な魔物スカーレットパピヨンは闇の森の魔物なのだが比較的森の浅い場所に出没するために討伐されることが時折あり、市場にまったく出回らないというものではない。

そのためミサリもサグーもその効果を知っていて、ソレが目の前におかれていることに驚愕していた。

「これだけの量があれば王都の機能を麻痺させることも可能かもしれませんね」

ミサリがゴクリとツバを飲み込みながらそう口にし、サグーが眉をひそめる。

「で、これで何を造らせようってんだい?」

それはもう冒険者の道具と言うよりも戦争に使える兵器である。警戒するサグーに対して風音が苦笑しながら続けて 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) を見せた。

「いやね。別に毒を造ってくれって話じゃあないんだよ。こいつに必要だったから取ってきただけなんだよね」

サグーが差し出されたその鱗を見て、それから手に取ってジックリと眺めた後に首を傾げた。

「ドラゴンの鱗? しかし、発せられてるのは神力? なんだい、こりゃあ?」

それはサグーも初めて見る素材であった。

見た目こそドラゴンの鱗だが発しているのは竜気ではなく神力だ。神力とは即ち神の力。ナーガたちのような神竜と呼ばれる存在であれば神力も発せられるのだが、それでも竜気が混じっていないということは有り得ない。

そのサグーの反応は風音にも予想通りのものではあったので、予め用意していたメモ紙を懐から取り出して机の上に置いた。

「細かい説明はこのメモに書いておいたから、これで確認して造ってもらえるといいかなって」

それは 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) の取扱説明書である。今回欲しているアミュレット作成の説明が一通り書かれてあり、一応オロチにも確認してもらったので間違いはないはずである。もっともゲーム上での簡略化された説明であるので、実際のところはサグー自身の技量と知識にかかっている部分も大きかった。その説明書を手に取って読んだサグーがうなり声を上げて鱗を見る。

「うーん。確かにこの説明通りなら、強力なアミュレットが造れるだろうけど……で、これで全部かい?」

さすがにサグーにも許容量オーバー気味になってきたようでかなり疲れた顔をしているが、風音は遠慮なくアイテムボックスからドンドンと続いての素材を置いた。

「ああ、いや。こっちとこっちもお願いしたいなーなんて思ってるんだけど。腕は……ちょっとグロいけど」

そして置かれたものが何かといえば切り取られたプラチナトゥースタイガーの毛皮と、束になったデュアルモーターマシラオーの腕であった。

それを見てサグーが合点がいったという顔をした。どうやら目の前の素材をどういった経路で入手したのか気付いたようで、少しばかり呆気にとられた顔をした後に急に笑い出した。

「はははははは、ルイーズ。あんたもとんでもない相手と組んでるみたいだね」

サグーの言葉にルイーズが肩をすくめる。

「どういうことです?」

困惑しているミサリにサグーが机の上に並べているものを指差しながら口を開いた。

「ま、見ての通りなんだけどね。この幻魔の鱗粉はスカーレットパピヨン。この腕はデュアルモーターマシラオー。そして毛皮とさっきの杖の素材の一部はプラチナトゥースタイガーから取ったものだ。まあ、ようするに全部闇の森で取れるもの。どれもこれも素材の鮮度から見て最近だってことはだ……行ったな嬢ちゃん?」

その言葉にはさしものミサリの表情も崩れた。

「や、闇の森の探索者……」

「あ、私は違うから」

ルイーズが控えめに挙手して言うが、それはつまり風音はそうだと告げているのも同然であった。

なおデュアルモーターマシラオーの腕だが、 極めたる栄光の手(ハンズオブグローリーオーバー) という呪術師用の上位呪具となるものである。特に必要なものではないが、一応素材もあるので風音はそれも造ってもらうつもりであった。

◎魔道大国アモリア 王都コーダ 中央通り

「とりあえずは全部引き受けてもらえて良かったよ」

帰りの馬車(アモリア所有の普通のモノである)の中で風音がホクホク顔でそう口にした。風音が用意した素材はサグーが驚くようなものばかりではあったが、すべてを見定めた後には魔法具専門の職人として俄然やる気が出てきたようである。

なお、幻魔の鱗粉に関しては使用後は帰るまでアモリアが保管するとミサリが釘を刺したが風音としては目的が果たせればどうでも良いので普通に頷いていた。いっそ、売ってしまっても構わないと言ったらミサリが考え込んでいた。余談ではあるがもう二瓶、予備に持っていることは秘密であった。

「そういえばカザネ。アレは出さなかったのね。最後に飛んできたヤツ」

そして帰りの途中にルイーズが風音に尋ねる。

アレとはギル・ガーメのオリハルコン甲羅を破壊した龍神の鱗のことである。目の前には「うん?」と首を傾げてるミサリがいるのでルイーズも一応具体的な言葉は避けていたようで、風音もそれを察っして「そうだねえ」と言葉を返した。

「どうしようかと考えたんだけど、あれは親方の専門かなって思ってさ。まあサイズ的には大剣に加工できそうだし、ロクテンくん用の剣でも造ろうかと」

「……なるほど。ジンライくん対策?」

「まあ、そういう面もあるね」

風音が素直に頷いた。手数で他を圧倒するロクテンくん阿修羅王モードではあったが、風音自身の技量不足もあって今ではジンライに体力切れ以外で勝つことができなくなっている。もう一歩強力な何かが必要だと風音は考えていたのである。

「それはなんの話でしょう?」

興味津々という顔で尋ねるミサリに「なんだろねー」と風音がはぐらかし、ミサリがそれを見て残念そうな顔をする。

「そうですか。教えてもらえませんか。闇の森の素材を披露して、なお秘密にするようなモノまであると……」

つくづく危険物が入り込んだものなのだなとミサリはしみじみと思ったが、気を取り直して風音に向き合って別の話題を振ることにした。

「ところで、先ほどの件ですが……よく闇の森に行って帰ってこれましたよね?」

風音も(まあ、そうくるだろうなぁ)とは思っていたので「そうだね」と頷いた。

「まあ、結局闇の森で一番怖いのは魔物が連続でアタックを仕掛けてくるところだからね」

「一体一体でも普通に脅威ではありますけどね」

そのミサリの言葉をスルーして風音は話を続ける。

「逃げの手段を確保して倒しては逃げで対応して、どうにか成果が上がったって感じだったよ」

「逃げの手段?」

首を傾げるミサリにルイーズが口を挟む。

「ポータルの話は聞いてるでしょ?」

「ああ……」

そのルイーズの言葉にミサリが頷いた。

ポータルの噂は当然アモリアにも届いている。そしてポータルに付与されている転移魔術はまだ風音しか使用できない特別な魔術だ。それを解析しつつあるミンシアナの魔術師たちでも使用するには至っていないし、魔道大国として名高いアモリアとしては心底気になる魔術でもあった。

実際に闇の森で使用した転移は 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) によるものではあるのが、ミサリは風音とルイーズの誘導通りに誤解をしてくれたようである。もっとも今度はミサリの興味はポータルに移っていた。

「その……我が国にもポータルを……というのは」

続くミサリの問いというか懇願には風音も少しだけ考えた後に「ユウコ女王陛下次第だねえ」と返し、ミサリも「ですよねー」とガックリしていた。

「まあ今ポータルはダンジョンで普通に置いてあるし、一度見に来てもいいんじゃないかな?」

「検討してみます。ぐぐぐ、宮廷魔術師長でなければ……」

それからミサリが少しうなったり、ガックリしてたりしたが、気を取り直したようで再び風音の方を向いた。コロコロと表情の変わる人だなと風音が思ったが、ようするにミサリは落ち着きのない人であった。

「ではカザネ様。続けてのお話です。オークションの件なのですが」

「うん? どったの?」

「温泉珠、ミンシアナ経由で来たものが一点確かにありました」

それは以前に風音がトールからの譲渡を拒否したアイテムだ。回り回って正式に取引で入手できるのであれば風音としてもジンライとトールの 柵(しがらみ) に遠慮せずに購入できる。

「現在、カザネ様の提示したナインテイルタイガーとのバーターを持ち掛けていますが、価値としてはナインテイルタイガーの方が上ですので温泉珠は確実に入手可能になると思います」

「おお!」

風音がグッと拳を握ってガッツポーズをした。

「それと昨日にご相談されたレインボーハートですが……」

そちらにはミサリが少しばかり眉をひそめながら口を開く。

「あれは今回のオークションの目玉となるモノです。今も我々が厳重に管理しているのですが、金銭ではなく交換で応じるとのことです。現在のオーナーの意向が分からぬ為、実際にオークション当日になってみないとこればかりは分かりません」

その言葉に風音が「なるほどねー」と頷いた。

「となると、どうしよっかな。降って湧いた話だけど完全なレインボーハートなら手に入れておきたいところなんだよねえ。今サグーさんに頼んでる魔法具の予備でどうにかなるかな?」

その言葉にはルイーズもミサリも答えられない。現時点では情報が少なすぎるのだ。風音もレインボーハートを入手するにはオークション当日までに相手の意向を掴んでおく必要があるようだった。