軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百九十話 オバちゃんを追い返そう

「お初にお目にかかりますわカザネ様。わたくし、ローア・キャンサーと申します」

ルイーズによく似た顔の、しかし妙にキツそうなおばちゃんエルフがそこにいて風音に対して挨拶をしてきた。それに風音も「あ、はい。どうもこちらこそ」と手を挙げて挨拶を返す。

それからローアはスッとルイーズへと視線を向けた。風音に対してどうという感じもなく、最初から目的はそちらであるようだった。

「ルイーズ、あなたとも随分と久しぶりとなりますね」

「ええ。お久しぶりローア。元気そうでなにより」

そう言って微笑み合う二人であったが、その目はまったく笑ってはいない。

「けれど、あなた。この大変な時期にオークションに参加なんて随分と呑気でいるようね」

「そうは言ってもね。私は実績を十分に出しているとは思うのだけれどね。悪魔狩りの中で私以上に仕事をできている者っているのかしら?」

挑発するようにルイーズが肩をすくめてそう口にすると、それにはローアが眉をひそめた。

何かを言い掛けた様子から本来であれば罵声を飛ばしたところだったのだろうと風音は考えたが、最上位悪魔ディアボ討伐を始めとしてルイーズのここ一年ほどの悪魔狩りの実績はローアが否定できるものではなかった。それにそのことをこの場で貶めることは共に戦った風音たちへの批判にも繋がってしまう。

だからローアは忌々しそうにルイーズを睨みつける。

悪魔狩りとしての任務の中でのたれ死んでくれればというローアの目論見は、結果としてルイーズを悪魔狩りの中でも上位者の地位へと押し上げていた。

外来の悪魔狩りから支持を集め、ローアが睨みつけようとも一族の中にもシンパが発生しているほどである。忌々しいことこの上なく、さらには今の状況だ。

「実績ね。その実績のためにあなたは……」

そこで言葉を区切ってローアは 戦慄(わなな) いた。そのローアが激昂している意味はルイーズにも察しが付いた。そして、それだけはルイーズもローアと同様の気持ちではあったのだ。

その実績のために己の祖父を貶めようとしている……とローアは目で訴えている。それはルイーズの心に影を落としている状況だ。しかし、それより先の言葉は続かなかった。それはローアの背後からの声によって止められたのである。

「ローア・キャンサー。それくらいにしておけ。お前はこれ以上、皆を危険にさらすのか?」

「何を……あ、いえ。申し訳ございませんゼンドー様」

声をかけてきたのはゼンドーであった。王弟の言葉にはさすがのローアも慌てて頭を下げて一歩下がる。それからルイーズに視線を向けて「後ほど家で」とボソリと呟くとその場を去っていった。

なおゼンドーの言葉の意味が風音たちには分からなかったが、弓花接近禁止令に触れたことへの示唆であった。

「で……今のオバちゃんはなんだったの?」

いきなりやってきてルイーズに喧嘩を売って、ゼンドーの姿にそそくさと逃げていった。ひどく小物っぽい人だなーと思いながら風音はルイーズに尋ねた。

「今のがキャンサー家の家長代理であり悪魔狩りの長代理。実質的な悪魔狩りのトップね。今のキャンサー家と悪魔狩りはゼクウお爺さまではなく、あの女が指揮を執っているのよ」

「へぇ、そうなんだ」

その言葉を聞いて風音の目が細められた。

ゼクウ・キャンサー。ルイーズの祖父であるその人物は七つの大罪の悪魔のひとりと見られているが未だにその真偽は不明であった。

(姿を隠してなかったのがどうにも……ねぇ)

限りなく怪しいが、しかし東の竜の里ゼーガンでは姿を隠す素振りを見せなかったようだし、今も普通にキャンサー家に居座っている。それが風音としても気にはなっていた。

「ルイーズ姉さん」

『大丈夫かルイーズ』

そして今の様子を見てジンライとメフィルスが早足で近付いてきてルイーズに声をかけた。ふたりともキャンサー家でのルイーズの立ち位置も理解している。ローアとの接触を心配してやってきた仲間たちにルイーズは微笑みかけると「問題はないわ」と口にした。

「今回、私たちはオークションに参加するためにきているんですもの。こちらから仕掛ける必要はないわよ」

そのルイーズの言葉通り、仕掛けるのは『別の人物』の予定である。それはもうこの街に潜入して既に動いているはずであった。

「おやまあ。みなさん、お集まりで」

「あ、ミサリさんだ」

そしてその場にミサリもやってきた。現在弓花接近禁止令を免除されているのは、ゼンドーとミサリのふたりだけである。つまり弓花の周囲はセーフティゾーンとなっていた。

「どうしたミサリ?」

ゼンドーの問いに、ミサリは「ご挨拶に。それと……」と前置いてから口を開く。

「明日以降のことをお伺いしようと思いまして。オークションまでにはまだ日があるでしょ? 私もカザネ様に付いてご案内しろって言われちゃってるから、どういう予定なのかなーってのを聞きたかったのですよ」

要は護衛兼監視である。そのミサリの問いに対して風音は少しばかり考えてから返事をする。

「ええとね。明日は魔法具を専門としているサグーさんに合う予定になってるよ。ちょっと頼みたいことがあるから」

風音の言葉にミサリが身を乗り出した。

「その頼みたいことが何かを伺っても?」

ミサリの問いに風音は「いいよー」と素直に答える。

「私専用の杖を一振りと、精神耐性のアミュレットを人数分。後は毛皮のケープをね。あ、使う素材については明日見せるけどできる限り秘密にしておいてね」

風音が人差し指を立て、口に当てて「しーっ」と言った。

「それは……それほどに希少なものなのか?」

首を傾げるゼンドーに風音が頷く。

「うん。取れたてだけどバレたらオークションに来てるコレクターの人が騒ぐんじゃないかなー。あ、いや少し出してみようか。面白そうだし」

風音が名案とばかりにポンッと手を叩いた。面白そうというだけで判断した風音の言葉にゼンドーが眉をひそめたが、オークションで珍しいものが出回るのはいつものことではあるので特には何も口にしなかった。

「ケープか。私はアレがあるしなぁ」

その横では弓花が少しだけ不満げにぼやいていた。

アレとは『穢れなき聖女のケープ』という達良制作のケープである。そもそも弓花は攻撃をほとんど受けないので、奇襲を仕掛けるときに付与効果の『インビジブル』を使うぐらいしか活用できていなかったりするのだが、『穢れなき聖女のケープ』自体はケープ類としては最上位のものである。

ランクで言えば、これから風音が造ろうとしているプラチナトゥースタイガーのものよりも上であった。

「正直、あれはスペシャルなものだし今回作るものの方がランクは落ちるからね。ま、一応弓花の分も作っておくから安心してよ」

「あら、そう?」

その言葉を聞いて弓花の機嫌が直った。

『母上、私のケープもあるのですか?』

弓花の頭の上にいるタツオが尋ねる。

「いやタツオの場合はケープの意味があまりないからね」

首が長いし被った場合に収まらない。その返しにタツオがくわーっと悲しそうな顔をしたが風音は話を続けた。

「だからタツオの場合は 毛皮の(ファー) マフラーになるね。首回りがモッコモコになるよ」

その言葉にタツオが嬉しそうにくわーっと鳴いた。

「カザネ様がお母さん?」

その横でミサリが呟くと風音は「そうだよ」とだけ返す。風音はその事実を隠すつもりはないが、詳しいことを伝える気もなかった。

「その子はクリスタルドラゴン……にしては普通の竜の部分もありますよね。出ている水晶角の輝きもレインボーハートよりも神々しい……恐らく神力を放っています。随分と珍しい種のようですね」

「よく分かるね。それにしてもミサリさんはレインボーハートを見たことあるの?」

クリスタルドラゴンのコアである『レインボーハート』は至宝十二選と呼ばれる最高の存在のひとつとして数えられている。風音のはめている虹竜の指輪はレインボーハートのコア部分をカットした指輪なのだから、厳密に言えば今もミサリはレインボーハートを目にしている。しかし、そのことを風音が伝えてはいないのだからミサリが別の場所でレインボーハートと認識して見たことはあるはずだった。そしてミサリは「つい先日にですが」と口を開いた。

「今年のオークションの目玉なんですよ」

「なんとッ!?」

それにはさすがに風音も驚いた。

「けれど、タツオくんの輝きはそれよりも上位の輝きに見えますね。まるで生きる宝石のような……」

「生きる宝石ならあっちにいるよ」

そう風音が指摘した先にいたのは、ルイーズの巨乳に納まっているサーファである。風音に生み出されたジュエルラビットは、今は努力の甲斐あってルイーズを主と認識しているようである。

「ジュエルラビットですか。あれはあれでどうやって手懐けたのやら」

テイムされたジュエルラビットなどミサリは聞いたことがなかった。その言葉には風音がアハハと笑って誤魔化した。当然スキル『魔物創造』のことは秘密である。その場の魔素を用いて魔物を生み出し続けるなど、魔王そのものである。悪い噂をさらに増やす気は当然風音にはなかったのだ。

「あの、ゼンドー様」

それからミサリと風音が話している横で、ひとりの騎士がやってきて会釈をしてからゼンドーに声をかけた。

「おお、ローグか。待っていたぞ」

どうやらローグという騎士がこの場に来ることは予定されていたものだったらしくゼンドーは風音たちの前へとその騎士を立たせた。

「あの、こちらの人はどなた?」

「ハッ、竜騎士長ローグです。バスカルの相棒であると言えばお分かりになるでしょうか?」

それを聞いて風音が「ああ」と声を上げて頷いた。

「西の竜の里ラグナ出身の騎竜さんだよね?」

バスカルの名はゴルディオスの街を発つ前にアカから聞かされていた。

「はい。バスカルや他の竜たちもカザネ様にお会いしたいそうで」

「私というかユッコネエだよね」

「ユッコネエ……様? どなたの話でしょう?」

その言葉にミサリが興味深そうに尋ねるが、ゼンドーは「後でな」とやんわりとその場での回答を止めた。

それからゼンドーが風音に対して肩をすくめながら口を開く。

「カザネ様も人が悪い。正しく礼を尽くすべき相手がまだいるとは……それとも我らには紹介してはいただけませぬか。金翼竜妃クロフェ様の奥方様を?」

「え、見たいの? いや別に良いけどさ」

風音は若干眉をひそめながらそう言葉を返した。

なお風音の見る限り、ゼンドーは己が口にしている相手が今もサンダーチャリオットトレインの上で「にゃー」と鳴きながら丸くなって昼寝をしている巨猫であるということを理解してはいないようだった。