作品タイトル不明
第六百八十九話 お招きにあずかろう
◎魔道大国アモリア 王城メルダス 王の間
風音たちが王の間に入ると、ざわめいていたその場の空気が一気に静まり返った。そしてその視線は白き一団に釘付けとなっていた。
実のところ、白き一団が参上するという話自体は彼らも事前に聞いてはいたのだが、その想定よりも遙かに早い到着に慌ただしくこの場に集まっていたのである。
そしてどうあれ、活気付いた者たちが集まれば姦しくなるのは当然のことであり、それが風音たちが来るまではこの場をざわめかせていた。しかし、扉の先から現れた一団の姿を前に彼らの声はピタリと止まった。
この場にいるのは皆この国を担う重鎮たちだ。白き一団は確かに想定を超えたメンツではあったが、心構えさえできていれば会っただけで彼らの表情が固まることなどありえない。
しかしその顔から一切の動きが消えていた。目を奪われていたのだ。
そして、その瞳に映っていたのは生きた宝石であるジュエルラビットのサーファ、神々しき七色の輝きを放つクリスタルドラゴンのタツオ、さらには豪奢な衣装に身を包んだ竜人の 水晶の竜姫(クリスタルプリンセス) であった。この世のものとは思えぬ美しき三体の人外を前に彼らは言葉を失っていたのである。
「いくぞ参った。白き一団よ」
その沈黙を破ったのはアモリア王ドーマであった。王の面目躍如というところだろうか。ドーマが風音たちへとアモリアを訪れたことに対して労いの言葉をかけると、周囲の重鎮たちの金縛りも解けていった。それから動き始めたブリキ人形のようにぎこちなく挨拶を交わしていったのである。
そうしてその場での挨拶が終わると、続けて賓客の間へと場所を移しての立食会となったのである。
◎魔道大国アモリア 王城メルダス 賓客の間
「みんな、緊張してこっち見てるなぁ」
弓花はポツンとそこにいた。
この場に移ってから弓花の周囲には人が集まらなかった。風音やティアラ、ライルなどへは次々と声がかかる中、なぜだか弓花の周囲には誰ひとりとして近付こうとはしないのだ。その癖、余所余所しい視線だけは時折感じられていてどうにも居心地が悪かった。
「ま、私ひとり素性確かではない庶民だしねえ」
そしてやさぐれ弓花さんがそこにいた。どれだけ着飾っても連中は所詮権威主義の貴族様だ。庶民相手に開く口を持たないのだろう……と弓花は少しばかり皮肉げに考えて自嘲していたのである。まさか事前に弓花に対して10メートル以内に近付くのが禁止されているとはもちろん当の本人は知らなかった。
『母上が人気ですねぇ』
そんな弓花の頭の上に乗っているタツオがくわーっと鳴いた。弓花の元に置いておけば余計なことは聞かれないだろうと風音が預けておいたのだが、その『直感』はどうやら正しかった。もっとも竜人化した弓花とタツオは同質の竜気を発しており、周囲からは「まさか親子ではないのか?」と囁かれていたことまではさすがに風音も予想外だっただろうが。
「ま、カザネが人気なのは王族というよりもゴーレム戦士の輸出のことを聞きたいからみたいよ」
そして弓花とタツオが風音のことを話していると、ルイーズがやってきて「はーい」と手を挙げてから話に加わったのである。
「ゴーレム戦士?」
それから弓花はルイーズが口にした『ゴーレム戦士』という聞き覚えのない単語に首を傾げた。
「それってゴレムスキャノンみたいなものですか?」
その弓花の問いにルイーズは首を横に振る。
「いいえ。あれはゴーレム使いが纏う鎧みたいなものだし、自律型だからアダマンゴーレムともちょっと違うわね。タツヨシくんのお仲間だってジョーンズは言ってたわよ」
どうやらルイーズは親方から聞いていたようである。
「確か……チャイルドストーンとマッスルクレイの代わりにコアストーンとマジッククレイを使って外骨格には鉄を使用するんですって」
『あ、それは母上がアイアンゴレムスと名付けたゴーレムですね』
その存在をタツオも知っていたようで、それを聞いて弓花が眉をひそめた。
「私聞いていないけど……」
少し不満そうな顔をした弓花がルイーズにさらに尋ねる。
「でも素材を聞いた限りじゃケイローンとかに比べて随分と見劣りしますよね?」
「いや、まあそうだけど……けど、あれを揃えるのってちょっと無理だものね。特にマッスルクレイは完全に国家機密になっていて手が出せないらしいわよ」
対してアイアンゴレムスの素材はコアストーンはゴーレム類から、マジッククレイはチルチルヒ種から、鉄の入手度も 全身装甲(フルプレートアーマー) クラスともなると決して安いわけではないが入手が困難というわけでもない。
「素材の入手のしやすさと、風音抜きでも作成できるように考慮したものだから製造がしやすいんですって」
「ああ、そういうものなんだ」
その言葉に弓花が頷いた。つまりアイアンゴレムスとは量産型タツヨシくんなのである。以前に量産型タツヨシくんと名付けたタツヨシくんもあったが、あれは結局名ばかりで量産のためのものではなかった。だがアイアンゴレムスは製造方法さえ分かれば、比較的容易に作れてしまうシロモノのようである。
「そういうこと。量産化を考慮した簡易版タツヨシくんがアイアンゴレムスなんだよ」
「あ、風音」
そこに先ほどまで忙しそうに周りと話していた風音がやってきて話に加わる。
「まあ動力石とゴーレムとのリンクが難しいらしくて、今はそれをどうにかする術式の研究が進められてるけどね」
チャイルドストーンや竜の心臓などを動力石として使用することはプレイヤーでなくとも可能なのだが、ウィンドウではなく人間が繋げるとなるとその難易度が上がるようなのである。それを聞いて弓花も「へぇ」と言って頷いた。
「色々とあるのねえ。で、あんたの腕の中いっぱいのお菓子は何よ?」
「貰った」
それはここまでに挨拶を回った重鎮の老人たちから渡されたものである。この場にいる重鎮の多くはご老人であり、風音のお爺ちゃんキラーが遺憾なく発揮された結果が腕の中のお菓子の山だった。そのひとつを風音はポイっと口に入れてパクリと食べ、それから弓花の頭の上のタツオにもポイッと投げて、タツオもくわっと鳴いてそれをパクリと食べた。親子であることが良く分かる動作であった。
「ねえ、風音。そのゴーレム戦士のアイアンゴレムスって言うの? それを輸出するとかそういう話、私聞いたことなかったんだけど秘密のものだったりするの?」
弓花が若干ムスッとした顔でそう切り出すと、風音が眉をひそめながら言葉を返す。
「いや、前にも話したはずだよ。けど弓花、槍をデレデレと嬉しそうに磨いてて全然興味なさげだったじゃん」
「あれ、そうだったっけ?」
特に秘密にしていたわけではなかったようである。それどころか弓花のヤバげな日常がまた一幕垣間見えてしまった。
「そうだよ。まったくもー。それと自律型ゴーレムはトゥーレとミンシアナの産業のひとつにする方向で話が進んでるけど戦士だけじゃなくて、土木作業とかいろんな用途に使われる予定だよ。まあ、あれは防衛戦以外だと扱い辛いものだから戦争とかに使われる心配もあまりないし」
実のところ、アイアンゴレムスに使われるコアストーンは出力が低くマジッククレイに魔力を一時間蓄積しても戦闘は10分程度という制限がある。
今のところは門番として置いて索敵モードにしておき、敵と認識した場合には戦闘モードに切り替えて戦うような使い方になる予定であった。簡単に言えばガーゴイルそのものである。
「金額に応じていくつか仕様も変えるけどね。まあチャイルドストーンを持ち込んでもらえれば、それを動力にすることも検討してるんだけどマッスルクレイの方は一部の国以外では輸出しない予定」
その一部の国とはハイヴァーン公国やツヴァーラ王国などといった裏でカザネ同盟と呼ばれているものである。
「ま、あのタツヨシくんケイローンを見た人にしてみりゃ期待が高まるのも仕方はないけどね」
ルイーズが窓の外を見ながらそう口にした。その視線の先にある中庭にはタツヨシくんケイローンが待機していた。
城まで入ってきた過程でケイローンの姿は様々な人にも見られていたし、今も目視できるのだからこの場にいる者たちにも当然その存在は伝わっていた。
「ああ、そうだね。ケイローンを欲しがってる人も多かったよ。まあデモンストレーションにはなったんじゃないかな?」
そう言ってから「あっはっは」と風音が笑った。自慢の愛馬を褒められて上機嫌のようである。
そして、そんなことを話している風音たちの前にひとりの女性が近付いてきていた。それはルイーズによく似たエルフの女性で、その姿に気付いたルイーズは小さく「ローア」と呟いたのであった。