軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百八十話 大きな猿と戦おう

そしてロードゾラン大森林に入る直前である。

直樹が「よしっ、まずはちょっと上から確認してみる」と言いながら前へと進んだのだ。そのことにジンライと弓花は遠隔視をしようとしているのだと察した。

この先も森が続き視界は悪い。今のうちに上空から周囲の確認だけでもしておこうとしているのだと理解したのだが、そこに風音が「あ、直樹ストップ」と待ったをかけた。

「グエッ」

同時に風音の纏っている『鬼皇の鎧』から狂い鬼の腕が出てきて、直樹の首根っこを掴んでそのまま地面に放り投げたのである。

「うがぁっ。いきなり何すんだよ姉貴、ていうかやったのは狂い鬼か!?」

それから地面に投げ出された直樹が立ち上がって涙目で風音に抗議をするが、対して風音が口元に人差し指を立てて「しー」と口にしているのを見て声のトーンを下げた。

「それで、何なんだよ姉貴?」

「あのねえ。何って今、遠隔視を使おうとしたでしょ。あれNGだから」

その言葉に直樹が首を傾げた。それには弓花も同様の反応を示すが、ジンライは風音の反応でその理由を悟ったようで「むぅ」と唸っていた。

「どうしてだよ?」

「ほら、あんたが以前に遠隔視で覗き見しようとしたときに私に気付かれたことがあったでしょ」

その風音の言葉を聞いてジンライと弓花の冷たい視線が直樹の背中に刺さった。同時にユッコネエとシップーがふーっと、クロマルがグルルルと直樹に対して唸っている。その場が一瞬で直樹にとってのアウェーとなった。

「あれは偶然……いや、ちょっと魔が差しただけで、ヒィッ!?」

言い訳をしようとした直樹にさらに師弟コンビとケダモノたちの視線が突き刺さり、直樹は「すんませんでした」と謝るしかなかった。その状況に風音は「まあまあ」と言って前に出た。

「ふたりとも大丈夫だよ。制裁はしたから」

何を以て大丈夫とするかは不明であったが制裁はあったようである。直樹の顔から冷や汗が出ているところを見るとそこそこ酷い目にあったようだった。であればとジンライと弓花も直樹に対して身構えるのを止めたが、弓花のゴミを見るような視線は戻らなかった。もっとも、それはいつものことでもあった。

「ともかく、遠隔視を逆探することができる個体なんかもいるかもしれないから、敵をおびき寄せる可能性のある行動は控えるように」

「了解。けど、そんなことができるのまでいるのかよ?」

「いるね。嗅覚、聴覚、視覚、それにシックスセンスに該当する直感のどれかをセンサーに持ってる魔物が闇の森には多いんだよ。場合によっては複数の魔物に察知されて囲まれる可能性もあるから超危険だよ」

風音の言葉に弓花と直樹が唸った。ジンライは経験上、そうなるなとは理解して頷いていたが、その顔はいつになく真剣なものであった。

「あ、そうだ。風音、ポッポさんなら森の中でも行けるんじゃないの?」

その弓花の問いには風音も頷いた。

カイザーサンダーバードのポッポさん。闇の森のような環境でないと動けないらしいポッポさんは闇の森の中でならば活躍できるだろうとも言われていたのである。

「うん。だから少し離れたところで待機させてる。その場で呼び出すには私が魔力を食い過ぎてまともに戦えなくなるから、今は 魔力の川(ナーガライン) の中で待ってもらって、状況を見て呼ぶつもりだよ」

「それは頼もしいわね」

その弓花の言葉の次の瞬間に「ギャガアアアアアア」という咆哮が森の奥から響き渡ってきた。その圧倒的な強者の声に風音たちだけでなく、ジンライですらも肩を震わせた。

「ぬぅ。今の声は魔物のものだな」

「戦闘かな?」

ジンライの言葉に風音がそう答える。

「漁夫の利って奴を狙えるかも。行ってみるか姉貴?」

冷や汗をかきながらも勇気を振り絞って直樹が出してきた提案に、風音は「いんや、ダメダメ」と首を横に振った。

「あの声がここまで届いたってことは他の魔物も気付いて一斉に寄ってきてるはずだよ。私らは反対方向に進もう。『インビジブルナイツ』はかけるけど、くれぐれも油断しないでね」

そう言いながら風音がスキルを発動させると、その場の全員の身体の周囲に姿が消えたわけではないがまるで消えたかのような錯覚を生み出すフィールドを作り出された。

そして風音の指揮の元で彼らは闇の森へと足を踏み入れていく。聞こえていた咆哮はいつの間にやら収まったが、続けて無数の獣たちの叫び声が同じ方向から響き渡ってきた。

またそれもいつの間にやら消え、森はまた静寂を取り戻していったのである。

◎ロードゾラン大森林

「ジンライさんが挑んだときは二十人ほどだったんだ?」

メゾトルの森とは違って速度を落として索敵モードで進み続けうる一行は、道中にジンライがかつて闇の森討伐に向かったときの話を聞いていた。

「うむ。あの当時、ワシらも今回のように手練れを揃えて魔物を狩ろうとしていたのだ」

闇の森の探索は、命がけ……と言うよりも熟練の冒険者ですら自殺行為とほぼ等価であると言われている。

もっとも闇の森の魔物素材を手に入れるために、今回の風音たちのように森の入り口付近で狩る冒険者たちも存在はしていた。死亡率は極めて高いが当たれば一獲千金の機会であるため、挑もうとする者は後を絶たないのである。

もっとも生きて戻った者が二度目にも挑もうと考えることはほとんどないとジンライは口にする。そのことを、身を以て体験していたジンライは忌々しそうに話を続けた。

「当時のワシらは何人かの犠牲者を払い最初に遭遇した魔物をその場で討ち取ることには成功した」

犠牲者の言葉に直樹と弓花が難しい顔をする。

「だが続けて何体もの別の魔物が急に襲いかかってきおってな。カザネの注意した通り、時間をかけすぎて別の魔物を呼び寄せたのだな。消耗していたワシらは蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げたさ。来た魔物の多くはワシらが仕留めた魔物に群がったが、ご相伴に預かれなかった連中はワシらに向かって襲いかかってきおった。それでもワシを含めて六人はなんとか逃げおおせたのだが、闇の森を抜けて街にたどり着く前に普通の魔物に襲われてさらにふたり死におった」

つまりは最終的に生き残ったのは五分の一。それでも運が良かったと言われたさ……とジンライは締めくくった。

「そんなところなんですねえ。おっかないなあ」

弓花の身体がブルッと震えた。

その弓花たちはスキル『インビジブルナイツ』の効力により、今のところ魔物に気配を悟られてはいないようだった。『インビジブルナイツ』は複数に同時にかけることができるので腕をつなぐ必要もなく、かかった者同士は認識しあえるため、かつてのスキル『インビジブル』に比べて随分と使い勝手が高くなっていた。

「ともあれ、魔物の姿が見えんな」

「『インビジブルナイツ』が効いていると思いたいけどね。ふーむ」

風音が周囲を睨む。何か見落としはないか、どこかに潜んではいないか。そう考えながら進んでいると、次の瞬間的に『直感』が働いた。

「キキィ」

「風音、上よ」

猿の声と弓花の言葉が重なり、同時に風音の『鬼皇の鎧』から腕が飛び出して、落ちてきた何かが攻撃を仕掛ける前に掴んだ。

「ぬりゃぁああッ」

その物体へとジンライが槍をひと突きし、獣の悲鳴が上がる。そして狂い鬼の腕がその場で投げ捨てたものは巨大な猿であった。

「これは……モーターマシラの亜種か?」

すでにコアを突かれて息絶えているその姿を見てジンライが声を上げた。その魔物には風音にも弓花にも覚えがあった。

「これはデュアルモーターマシラオーだね。気配がないのはここがこいつらのテリトリーだからか。連中、気配を隠すのに長けてるから」

風音が眉をひそめながら周囲を伺う。

「連中は群れる……よろしくないね。こりゃあ」

風音がそう言うと森全体からまるでモーターのような鼓動音が響き渡り始めた。

「なんだよ、こりゃ?」

「気を付けて。仲間を倒されて戦闘モードに変わったみたい」

その風音の言葉が終わったと同時に、地面から、木の上から、木々の陰から次々とデュアルモーターマシラオーが飛び出してくる。その様子を見ながら風音が地面で死んでいるデュアルモーターマシラオーへとファイア・ヴォーテックスを放って胸部を焼き尽くした。

「カザネ?」

ジンライが驚きの顔でデュアルモーターマシラオーを見ると、殺したはずの巨大猿が苦しそうな顔でのたうち回り、再び崩れ落ちた。

「こいつはコアをふたつ持ってるんだよ。死体にも擬態するからキッチリコアはふたつ潰すか、行動不能なまで痛めつけないと駄目」

「そういうことかッ」

ジンライは己の迂闊さに舌打ちする。

「姉貴。こいつら、どうするんだよ!?」

デュアルモーターマシラオーは標的を風音たちに定めて走ってきている。スキル『インビジブルナイツ』の効果がないのは明らかで、風音も眉をひそめながら「戦うよ」と言葉を返す。

「数以外はそこまで厄介ではないし、一気に殲滅しよう。ジンライさんはいつも通りに、弓花は完全竜化で、直樹は全力でかかって。そして狂い鬼、ユッコネエもゴー!」

風音の鎧から狂い鬼がベヒモスに乗って飛び出してくる。そして全員が走り出し、ロードゾラン大樹林においての初戦闘が開始されたのである。