軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百七十九話 闇の森に向かおう

◎メゾトルの森

ロードゾラン大樹林の手前にあるメゾトルの森。そこは闇の森に近く比較的強力な魔物が出没するために、人里もない人の手の届かない領域である。

その森の一角で風音はトゥーレ王国の監獄都市でやったようにゴーレムメーカーで地面を掘って風音コテージを埋め、水珠を用いてその上に池を生み出して偽装し、拠点を造り上げていた。

そして翌日、明け方には風音選抜メンバーはコテージを出て、ロードゾラン大樹林へと向かい始めていた。

メンバーは風音、ジンライ、弓花に直樹、それにユッコネエとシップー、クロマル。風音と弓花はそれぞれユッコネエとクロマルに跨がり、直樹はジンライと共にシップーに乗って、すぐさまその場を出立したのである。

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「ふぅ。さすがに見知らぬ森の中、この先の魔素を感じられなければ迷ってしまいそうね」

道中で弓花が周囲を見回しながらそう口にした。

今弓花は森の中でクロマルに乗って移動しているわけだが、周りの光景はどこまで見ても一向に変わっているようには見えなかった。その弟子の言葉にジンライが「森の中などそんなものだ」と返す。

「どこまでも変わらぬ景色が続き、迷ってしまえば何週間も人里に出ることができないなんてことは珍しくもないことでな。まあ、実際には迷ってしまえば森を抜ける前に死んでしまうことの方が多いのかもしれんが」

そのジンライの言葉は脅しではなく、冒険者としては当然の常識であった。森の中で生き抜くということは容易なことではない。魔物や野生生物だけではなく、食料や水、疲労、怪我等あらゆる状況が絶えず襲いかかってくる。ただ力が強ければ解決できない問題がいくつも存在しているのだ。

「師匠もそういう経験が?」

「ふむ、何度もあったぞ。死にかけたことも一度や二度ではない。お前たちのように自動的に地図ができたりもせんからな」

ジンライの言葉に風音と弓花、それに直樹が少しだけ申し訳なさそうに笑った。ウィンドウの機能はジンライたちのような普通の冒険者にとっては垂涎ものの能力であり、それをいかなる理由かは分からないが特に対価もなく享受されている状況に風音たちも思うところがないわけではないのだ。

その反応にジンライも気付いたのか「もっとも」と話を続ける。

「それも今はワシらにも見れるようにはなったのだからありがたいことではあるがな。あのカメラというものは実に素晴らしいものだ」

そのジンライの言葉には風音も素直に頷いた。

「うん。魔導カメラのおかげで色々とやれることの幅が広がったからね。あれは本当に助かったよ」

魔導カメラ。『 人をそそのかす者(サイタン) 』戦後に隠し部屋で手に入れたあのレアアイテムは使用者が見たものを撮影することができる魔法具だ。

そして、それはプレイヤーが使用することによりウィンドウすらも撮影することが可能であった。つまりはマップウィンドウをわざわざ紙に描き写さずとも写真として出力することで、パーティ内で共有することが可能となったのである。

またゴーレムメーカーで自動作成された図面なども写真で出せるようになったことで、手書き図面と合わせて親方に提出することもできるようになっていた。

「まあインスタントカメラの写真サイズにしか出せないのがネックだけどね。今まで可視化できなかったものが見せることができるようになった恩恵は大きいよ」

風音がひとりうんうんと頷いている。その風音に弓花が「そういえば」と別の話題を振ってきた。

「ねえ風音。昨日説明してたみたいだけど、残ったみんなはこの森の魔物と戦うんだって?」

「うん。美味しい食材になるのがいるみたいだからね」

残ったみんなと当然ここにはいないメンバー、つまりは風音コテージに残ったルイーズたちのことである。彼女らは彼女らで風音から別の役目を頼まれていた。それはこの森の中にいるという魔物素材の確保である。

「確かフォレストロブスターとか言ったっけか。美味しそうな名前をしてるけど、実際に美味いのかな?」

その直樹の問いに答えたのはジンライだった。

「うむ。冒険者の中でも人気がある魔物だぞ。それなりの技量がなければ逆に胴体を千切られて喰われてしまうが、高級食材としてギルドでもクエストにはよく入っておるし、個人的に狩って食べる冒険者も少なくはないと聞く」

そう言いながらジンライも少しばかり顔をほころばせていた。どうやら以前に食べたフォレストロブスターの味を思い出しているようである。そこに風音が口を挟んだ。

「ちゃんと捕獲できてれば今夜のメインディッシュになると思うよ。茹でても焼いて食べても美味しいらしいからね。食感がプリプリで一度食べたら忘れなくなるっていう風に聞いてるよ。バターやソースや調味料もそれ用に用意してきたから、楽しみにしていても良いんじゃないかな」

「ジュルリ……」

「おい、弓花。ヨダレ、ヨダレ」

風音の言葉を聞いて弓花からダラッとよだれが垂れていた。その様子に気付いた直樹が注意をすると弓花が「ハッ」とした顔で口を拭った。

「くっ、ロブスターなんて、芳恵叔母さんにお正月に招かれた時に一回食べたことしかないからつい……」

ちなみに芳恵叔母さんのおうちで食べたものは普通に買うとロブスターよりも高い伊勢海老であった。芳恵叔母さんは「奮発して買ったんだけどね」と悲しい顔をしていたが、ロブスターだとはしゃく弓花(幼)を見て何も言えなかったのだというエピソードは、弓花も知らない黒歴史である。

「弓花、もう少し自重しようぜ。最近お前……なんか女というか人間を捨ててきてるぞ」

そんな心からの直樹の忠告に弓花が「失敬な」と返した。

「乙女はロブスターと聞けばヨダレが出るものなのよ」

ウガーと怒る弓花とついでにクロマルも吠えている横で、ジンライが風音に尋ねる。

「そういうものなのか」

「乙女の頭に食い意地が張ってれば……が付くけどね」

その言葉に弓花の声が静まった。クゥーンという声も返ってきた。その様子を後目に風音が思い出したという顔でジンライに声をかける。

「あ、そうだ。ジンライさん」

「なんじゃ?」

その言葉にジンライが耳を傾けた。

「どこぞの大公様からそろそろ仮面の男ライノーの出番が必要なのでは? という質問が旦那様宛に来てたみたいなんだよ。もう少ししたら仕事も片付いてちょっと暇になりそうなんだって」

その言葉にジンライは「ふむ」と口にしてから考え込んだ。

風音が口にしたのは昨日にカイザーサンダーバードのポッポさんに届けてもらった手紙に書かれていた内容のひとつである。カイザーサンダーバードは毎日のように飛び回りながら今も風音とナーガの手紙を届け続けていた。

「では、このオークションが終わってダンジョン探索を再開した後ならば呼んでも良いかもしれんな」

そう口にしたジンライの顔には少しばかりの笑みが浮かんでいる。親友と共にダンジョンを探索する……ということにジンライとしても楽しみではあるようであった。

「けど、実力はあってもダンジョン探索は結構危険だと思うんだけどね」

「まあ、それはそうだがな」

ダンジョン内では魔物との戦闘以外にも罠などによる死亡も多い。六十階層まで進んだ白き一団メンバーは今では慣れたものではあるが、槍使いの実力はあっても今まで上流階級で生きてきたライノクスが罠に対して対処ができるかは未知数であった。

「まあ、あ奴が死んでもライルがおるからハイヴァーンは安泰だろうし、問題なかろう」

「いや師匠。その発言こそが問題だと思いますが」

そう弓花が口にしたところで、風音が手を挙げて全員を停止させる。

「どうした?」

そのジンライの問いには風音ではなく弓花が「魔物ですね」と答えた。クロマルとユッコネエも風音と同じ方向に視線を向けていた。みな『犬の嗅覚』持ちである。

「そっちに魔物の臭い……が複数。群れかな? 臭いがザリガニっぽいからフォレストロブスターかも」

「では倒すか?」

そのジンライの問いには風音は首を横に振った。

「いや、マップウィンドウに目印だけ付けておくよ。後で写真に出力してルイーズさんに渡しておこう。ここで無駄な体力は使いたくないし、倒しても回収している暇もないからね」

「確かにワシらの狙いはもっとデカいものだからな」

そんな風に話し終えると風音たちはその場を後にした。

それから二時間半ほど進み続けて、ようやく風音たちは目的の場所へとたどり着いたのである。

◎ロードゾラン大樹林 近隣

「ここかぁ」

弓花が呆気にとられながらそう口にして、他のメンバーも目の前の光景を見てゴクリと唾を飲み込んだ。

「想像以上に怖そうな場所だね」

「ああ、なんだか背筋が冷たくなるな」

風音の言葉に直樹が頷く。

目の前で生えている木々が風音たちより十メートルほど先のところで明確に変化している。色も毒々しくなり、枝が妙にギザギザ刃のように変化していた。

そして変化している木自体から威圧のようなものが発せられているのもこの場の全員が感じていた。場合によってはその領域内の木が動いて襲ってきそうな気配すらあった。

「本当にこの中に入るの?」

おっかなびっくりの弓花の問いに風音も「ねえ?」と少しばかり及び腰になっている。対してジンライはその森を見ながら不敵に笑う。

「相変わらず人を拒む森だ。よくもまあここまで空気を変えることができるものだな」

「確かにねえ」

ジンライの言葉には風音も同意する。それから風音も「うっし」と言って自分の頬を叩いて気合いを入れ、森の方を睨みつけながら仲間たちへと声をかけた。

「ま、とりあえずは進んでみようか」

その言葉にその場にいる全員が頷き、そして風音たちの闇の森攻略は開始されたのである。