軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百七十八話 予定を告げよう

バサバサと鳥たちが飛び立っていく。

その場に近付いてきている雷鳴を聞いて森の生き物たちが逃げていく。迫ってきている驚異から背を向けて逃げ出していく。

もうじきここを雷が通るだろうと本能で彼らは悟っていた。もっとも空は青い。そして音は空からではなく森の中にある南に続く道の先より轟いていた。

それからわずかばかり時間が経った後、鋼鉄の 半人半馬(ケイローン) が長い馬車を牽いてその道を走り去っていった。雷鳴はその車輪から放たれていたのである。

それは言うまでもなくタツヨシくんケイローンと、それに牽かれたサンダーチャリオットトレインであった。それは迷いなくその道を走り抜けていく。向かう先は……

「ロードゾラン大樹林に行くよ」

サンダーチャリオットトレインの中で風音が地図を広げながらそう言った。その言葉に回りにいる仲間たちが首を傾げたり、眉をひそめたりしている。

ゴルディオスの街を出て一時間ほどが経過した後、風音が急に打ち合わせを始めてその言葉が出たのだ。

それは昨日までの予定にはない話であった。そして疑問の顔を見せる一同の中からルイーズが挙手してから風音に問い掛けた。

「カザネ、ロードゾラン大樹林って、確かトゥーレとアモリアの間にあるところよねえ。場所的には近くを通るわけだから寄り道もできるでしょうけど……」

ルイーズはそこで少し言いよどんでから、続けて口を開く。

「それは闇の森のひとつよ?」

その言葉に仲間たちがざわめく。この世界の人間でロードゾラン大樹林の名は知らずとも闇の森を知らぬ者はほとんどいない。この世界のアンタッチャブル。或いはこのフィロン大陸においてのもうひとつの世界とも言える人類未踏地。そこは命知らずの冒険者たちですら手を出すことはしない禁忌の領域である。

それを聞いてティアラがいち早く声を上げた。

「危険過ぎますわカザネ」

「うん。それは分かっているよ」

ティアラの言葉を風音は素直に肯定する。

「だから入るメンバーは私、弓花、ジンライさんとシップーに直樹で行くつもりだよ」

「えーなんでだよぉ?」

レームが少しばかり残念そうな顔をした。ゴレムスキャノンには現在『凄く不思議なリュック』が装備されている。レームにしても戦闘こそ恐ろしいが、素材を運ぶ際には己が役に立つと考えていたのである。だが、そこにルイーズが口を挟む。

「まあ、他のメンバーだと実力不足ってことよね。正直に言って」

その言葉に風音が苦笑しながら頷いた。その線引きはキッチリ付けなければならないと風音も分かっていた。

「申し訳ないけどね。まあ、いくらなんでも普通に闇の森を探索するってのは無理だけど、このメンツなら入り口付近で引っかけたのを倒すだけならなんとかなるはずだから。だから何かあった場合にもすぐに逃げられるメンバーだけを選んだわけだよ」

「なるほどな。そのためにナオキを連れて行くわけか」

御者席からのジンライの言葉に風音が頷く。

「後は召喚体も連れていくけどロクテンくんやケイローンとかはNGかなぁ。倒されても回収する暇がないし」

「あの風音、質問なんだけど」

話を進めていく風音に弓花が挙手をする。

「うん、何?」

「実はさ。私、その闇の森ってのがどう怖いのかが……いまいち分からないんだけど?」

「どうって、ユミカ。お前だってあのオダノブナガ種とか見てただろ?」

ライルの言葉には弓花も「そりゃあ見てたけど」と返す。

「でもあれって……闇の森の中でも上位の魔物なんだよね? だったら入り口近くに出てくるようなのなら大丈夫なんじゃないの?」

その質問に風音は首を横に振る。

「森の範囲内ならあのクラスが来ることもあるし、問題なのは魔物と 出会い(エンカウントし) やすいってことなんだよね」

その言葉に弓花のゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

「時間をかければ他の魔物も寄ってくるし、一撃必殺で全力で仕留めていかないとラッシュが続くんだよ。実際の内部の探索をするならレベル300、最低でもレベル200以上の人員が十人体制ぐらいで挑まないと。つってもレベル100以上でも一戦や二戦程度は可能だからね。ゼクシアハーツだと、ソロや低レベルプレイヤーは入り口付近でヒットアンドアウェイを繰り返すのが基本なんだよ」

そうして手に入る素材の量はカンストプレイヤーに比べれば微々たるものではあるが、時間をかけて挑めば同等の装備にもいつかは届くという程度のバランス調整がゼクシアハーツにはあった。

「まあ良い。やる気なのだな?」

御者席からやる気に満ちたジンライの声が聞こえ、風音は頷く。

「そうだね。そういえばジンライさんは闇の森の探索経験はあったんだっけ?」

「うむ。昔な。正直、二度と挑むのはゴメンだと思っていたのだが」

そう言ってからジンライが笑った。

「リベンジというのも悪くはないかもしれん」

その言葉にルイーズが諦めた顔でため息をつく。

「悪くないって……まあ、それがジンライくんか」

「まあ、保険に直樹は連れて行くし、入り口付近限定で挑めば危険は最小で済む。それにスキル『真・空間拡張』の大型格納スペースを予め開けて挑むから、むしろゲームよりも回収には時間がかからないはずだからね」

『あの母上。今回はつまり闇の森の魔物を狩ろうってことなのですか?』

タツオがくわーっと鳴いて尋ねた。ここまでに闇の森に立ち寄る理由がまだ語られていない。

「そうだけど、狙いは当然ちゃんとあるよ。実は今朝にルネイさんからようやく情報が届いてね。昨日のミーティングでは伝えられなかったんだけど」

そう言いながら風音がアイテムボックスから四枚のメモ用紙を取り出して見せる。そこにはそれぞれに魔物の情報が書かれていた。それを受け取ったルイーズが、書かれている説明を見ればそれらはみな精神攻撃を得意としている魔物であるようだった。

「それらはこの付近で条件にあった魔物の情報だよ。それで私が狙ってるのはロードゾラン大樹林に生息しているスカーレットパピヨンっていう魔物だね。それの幻魔の鱗粉が欲しいんだよ」

「それは……確かに普通には手に入るものではないわね」

その素材の名をルイーズも知っているようだった。

「闇の森産の素材はレア過ぎて市場に出回ることもほとんどないもの。それで幻惑用のアイテムでも造るつもりなの?」

ルイーズの言葉に風音が首を横に振った。

「これは 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) に使うんだよ」

「 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) ってこの間のヤツの鱗よね? どういうこと?」

弓花が問う。その言葉に対して風音は 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) をアイテムボックスから一枚取り出すと、その場の全員に見せた。

「この 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) に幻魔の鱗粉を組み合わせることで、精神攻撃に対する耐性効果を持つフィールドを生み出す魔法具ができるんだよ。他の素材も必要だけど、そっちは一応確保済みだから後は強力な精神攻撃の力を持つ素材が必要だったわけだね」

「ああ、それが親方の言っていた素材ってわけね」

ルイーズは以前に親方から聞いた話を思い出した。 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) を用いた特殊な魔法具作成。それを親方たちでは作成できないため、ルイーズの知己であるサグーに依頼をかける予定であったのだ。

「強力な幻覚作用があるものを使用することでそれに抗せるほどの耐性を持つ魔法具を生み出せる。それが 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) の特性なんだよ」

その風音が言う魔法具とはゼクシアハーツでも重宝されたレア度Aクラスのアイテムである。

ゲーム中ではステータスに666が揃ったプレイヤーを中心とした『 人をそそのかす者(サイタン) 』狩りなるツアーまで行われていたほどで、その目的のひとつが 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) であった。

風音の持っている 古き蛇の鱗(サイタンスケイル) は条件に合わせて変化をし、そのまま性質を固定させる特性があった。

「なるほどね。けど、闇の森かぁ。なんだか心配になってきた」

メンバーに選ばれた弓花が不安げに言うが、ジンライは「行くぞーケイローン」と声を張り上げてタツヨシくんケイローンの速度を上げていく。俄然乗り気のようである。

そしてトゥーレ王国とソルダード王国の境目にある闇の森『ロードゾラン大樹林』の、その手前に存在しているメゾトルの森へと風音たちは夕方にはたどり着いていた。

そこは闇の森に近いことから周囲には人里も存在していない。その場で風音はゴーレムメーカーで地中に風音コテージを埋め込んだ拠点を造ると、その翌日にはロードゾラン大樹林へと向かう予定になったのである。