軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百八十一話 二倍で攻めよう

「さーてと、どうするかなぁ」

そう言って風音は、自分の前を通り過ぎて魔物たちへと攻めていく仲間たちを眺めている。とはいっても自分は戦闘に参加しない……というわけではない。

ここ最近の風音は己の戦闘スタイルを徐々に変更しつつあった。

これまでのようなオフェンス一辺倒ではなく、サポート側にも回ることで風音は全体のバランスをより深く見定めるようになってきたのである。

きっかけとなったのは弓花の 解放神狼(リバティフェンリル) 化ではあるが、それは仲間たちの戦闘力が上昇し戦闘の幅が広がっているということの証左でもあった。

(とはいえ、このレベルじゃ直樹にゃあまだ厳しいか)

そして風音の視線の先にいるのは直樹だ。

ジンライとシップーはすでにデュアルモーターマシラオーの集まりへと飛び込み、二槍で魔物を突き崩しつつある。弓花とクロマルもそこに飛び込みジンライから逃れた大猿たちを打ち倒していく。

また離れた別のデュアルモーターマシラオーの群れにはユッコネエとベヒモスレオと改めて呼称された魔物を駆る狂い鬼が相手取って戦っていた。ジンライと弓花ほどではないが、優勢であるようだった。

それらに比べて今一番苦戦しているのは直樹である。

「くそっ。エクス、もっとパワーを上げろ」

「ガカカカカカッ」

直樹もすでに狂骨の王衣を纏って膂力は上がっている。さらには新スキルである『暗黒の呪印剣士』を発動させ、身体に呪印を浮かび上がらせ、黒いオーラを放ちながら戦っていた。

その腕力で以て、 暗黒物質(ダークマター) を喰らい新たに生まれ変わった狂骨の闇魔王剣エクスと、夜王の剣に 暗黒物質(ダークマター) を加えた上に風音のスキル『宝石化』によって強度も上げた黒曜の王剣を振り回している。

また強化された剣たちは 暗黒物質(ダークマター) 同士の共鳴により能力が増幅されリヴィアタン・ダークネスのように影を操ることも可能となったが、直樹が強化されたその武器を使い始めてまだ一週間。まだ使いこなすレベルには至っていないようであった。

周囲を飛ぶ飛竜との連携により辛うじてデュアルモーターマシラオー二体と渡り合えているのが今の直樹の実力である。

(それだけでも大したものではあるんだけどさ)

闇の森で闘うにはやはり足りない。風音はそう考えながら、スキル『真・空間拡張』によってアイテムボックスに追加されている大型格納スペースのひとつを発動させ、空中に魔法陣を出現させた。

「スキル・ソードレイン。『刃竜』行けッ!」

風音がそう口にすると、魔法陣から無数の刃が出現していく。

それは 古き蛇の剣(サイタンソード) とアダマンチウムソードの混成であり、浮かぶ剣の数は以前の倍となる二百本にもなる。

実のところ『ソードレイン』のスキルレベルが上がったことで風音は剣十本ごとをグループ登録して操作することができるようになっていた。つまり操作オブジェクト数は二十で百本の剣すべてを個別に操っていたリヴィアタン・ダークネス戦時に比べるとその精神的負担は五分の一程度である。もっとも細かな操作ができないため応用性はないが単純な突進力は数が増えた分高くなっていた。

「直樹、飛んで」

「分かった」

戦っていた直樹が風音の指示でマントを翼に変えて飛び上がり、対峙していたデュアルモーターマシラオーへと『刃竜』が突き刺さる。

「キィィイイイイッ」

腕をクロスしてデュアルモーターマシラオーはそれを防ごうとするが、腕はザクザクと斬り刻まれ、そのまま勢いに流されて弾かれる。

「もらった!」

そして地面を転げたデュアルモーターマシラオーに対して直樹が一気に飛びかかって黒い剣をふたつのコアへと突き刺してトドメを刺した。

「直樹、もう一体ッ!」

「オッケー」

そこにもう一体の大猿が飛びかかるが、それに直樹は 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) を発動させて短距離転移で攻撃を避けた。

「キキ?」

唐突に視界から消えた獲物にデュアルモーターマシラオーが首を傾げたが、次に直樹が出現したのはデュアルモーターマシラオーの背後であった。

「オォォオッ!」

「キィィイイッ!?」

直樹は無防備であったその背をエクスで斬り裂く。そのことにデュアルモーターマシラオーは悲鳴を上げながら裏拳を振るうが直樹はさらに短距離転移で飛び、今度は真横に移動しその足を斬り裂いた。再度、大猿の悲鳴が木霊する。

「姉貴、トドメを」

「いいけええええっ」

そして、動きの鈍ったデュアルモーターマシラオーに二百本の剣が降り注ぎトドメを刺した。それから風音は己のステータスから次々と魔力が減っているのを確認しながら声を上げた。

「弓花、ジンライさん。『刃竜』で一気に崩すよ。トドメをよろしく」

『了解ッ』

「任せよ」

風音の言葉に弓花とジンライが頷き、デュアルモーターマシラオーの群れへと『刃竜』が突撃していく。現状では十体ほどのデュアルモーターマシラオーの集団がふたつあり、弓花たちとユッコネエたちとでそれぞれに相対していた。

そこに二手に分かれた『刃竜』が襲いかかる。もっとも『刃竜』の攻撃は当たれば強力ではあるが、デュアルモーターマシラオーの機動力には一歩劣る。リヴィアタン・ダークネス戦のような機敏さはなくせいぜいが掠める程度でデュアルモーターマシラオーを仕留めるには至らない。しかしそれで良いのだ。

「一気に潰すぞシップー」

「なーっ!」

『そんじゃあ、一気に決めるよクロマル』

「ウォンッ」

統制が乱されたデュアルモーターマシラオーに対してジンライたちが一斉に動き出し、それぞれが大猿たちへと襲いかかる。

またユッコネエも黄金竜と化して高熱ガスブレスでデュアルモーターマシラオーを焼き尽くし、狂い鬼もアーマード化し飛びかかってきたデュアルモーターマシラオーたちを 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) で吹き飛ばしながら、ベヒモスホーンクラブで叩きつけ、あるいはベヒモスレオで踏み殺すことで始末していく。

「直樹はあたしをガード!」

「任せろ。ここは通さねえ!!」

デュアルモーターマシラオーも誰がその剣の集合体を操っているのかはすぐさま見当が付いたようで、何体かが戦列より離れた風音へと襲いかかろうとしたがその間には直樹が入り、デュアルモーターマシラオーの攻撃を防いでいく。

「クソ猿がッ! 俺の姉貴に手を出そうなんざ億万年経っても許す気はねえんだよ」

イリアの二刀流だけではなく、直樹は風音からスキル『ソルダード流王剣術』の手ほどきを受けている。そのため守勢に回った状態でデュアルモーターマシラオーを防ぐだけならば十分に可能であったのだ。その上で今の直樹は姉をケダモノから護るという弟の本能により全体的な能力が上昇していた。

これにより形勢は元より有利であった風音たちへと一気に傾き、瞬く間にデュアルモーターマシラオーを仕留めていく。

「これでお終いっ」

そして竜気が尽き、完全竜化が解けた弓花がそのまま最後のデュアルモーターマシラオーのふたつのコアをそれぞれ突き刺して倒し、ようやくの戦闘が終了したのである。

「ふぅ、これで全部かな。初戦にしては随分と消耗した感じはあるけど」

『刃竜』を大型格納スペースの魔法陣の中へと戻しながら風音が一息ついた。終わってみれば完勝ではあったが、切り札の一歩手前までは使用したために継続して戦闘を行う余裕があるというわけではなかった。

「やっぱり俺はここでは実力不足だなあ」

その後ろでは直樹が剣を杖にして、その場で息を吐いていた。今回直樹がこの探索に参加しているのはあくまで 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) を所有し緊急脱出ができる存在だからだ。全力を尽くしたがそれでも防御が精一杯であった今戦は直樹には相当にキツいものがあった。

もっとも次の瞬間に発せられた姉の叫び声に、そんな悲観的な思いなど消し飛んでしまうこととなる。

「直樹、後ろっ!」

「なっ!?」

風音の声に直樹がとっさに自分の背後へと視線を向けた。そして直樹は見たのだ。巨大な 白金色(プラチナ) の獣がそこにいるのを。

「グギャアアアアアアアアアアアア!!」

その咆哮には聞き覚えがあった。それは森を入ったときに聞いた叫び声と全く同じもの。

白金色(プラチナ) の毛並みと 白金色(プラチナ) の牙、 白金色(プラチナ) の瞳を持つ、この暗い森の中には不釣り合いにも映る芸術品のような姿をした魔物が森の奥から顔を見せていた。

「あれはプラチナトゥースタイガーッ!?」

風音が目を見開きながら魔物の名を叫んだ。同時に 白金色(プラチナ) の魔獣が一番近い直樹へと走り出した。

「マジかよ」

それには思わず直樹は笑みを浮かべてしまった。余裕だからではない。笑うしかなかったのだ。見た瞬間に直樹には分かった。

ソレがデュアルモーターマシラオーとは格が違う存在であると。そしてそれに目を付けられた己の末路を。

また直樹は戦闘終了後に運悪く風音とは若干の距離が離れていた。助けはおそらく間に合わない。直樹は覚悟を決め、両手の剣を握り構えたところで……

「クケェエエエエエエエエエエエッ!」

上空から落ちた黄色い稲妻がプラチナトゥースタイガーを直撃した。