軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百七十二話 真っ二つにしよう

戦場を銀の輝きを撒き散らす巨大な狼が駆けていく。その横には 三つ首の銀狼(ホーリーケルベロス) から 三つ首の神狼(フェンリルケルベロス) へと進化したクロマルも続いていた。

『まずは一手ッ』

ベヒモスとアーマード狂い鬼、それにタツヨシくんケイローンとユッコネエが 人をそそのかす者(サイタン) に弾き飛ばされるのを避けながら 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花が駆ける。

『師匠たちぐらいしか手に負えないか』

「そういう相手だからね。来るよ」

弓花の言葉に風音がそう返す。そして 人をそそのかす者(サイタン) の姿はというと今はもうただの蛇の姿ではなかった。無数の翼、無数の触手の足に、無数の武器を持つ手を生やし、さながら悪夢の世界の千手観音のような出で立ちとなっていた。

それをジンライとシップーが一心同体となり次々と打ち崩していってはいるが、相手の手数は多く、また『 一角獣(ユニコーン) 』の攻撃ですら反応されて危うい様子でもあった。

『師匠ッ!』

「ユミカ、この魔物やるぞ」

そして猫と一体化した槍使いと、続いて参戦した巨大狼と化した槍使いが、歪な姿の大蛇と打ち合い続ける。ぶつかり合う刃と刃が魔力光を火花のように散らせている。

『にゃーーー!』

「グガァアアアッ!」

また 人をそそのかす者(サイタン) に対して、左右からベヒモスライダー狂い鬼とユッコネエドラゴンが再び攻撃を仕掛けてきた。さらに 三つ首の神狼(フェンリルケルベロス) とタツヨシくんケイローンも弓花の頭上を飛び越え正面から挑んだが、次の瞬間には 人をそそのかす者(サイタン) の周囲に黒い雷が発生してその場の全員を弾き飛ばす。

『強い。それに一撃一撃が想像以上に重い』

「そりゃあ、本来の私たちのレベルじゃ普通は戦えるような相手じゃあないんだしね」

黒い雷をムータンを回転させて防ぎながら飛び退いた弓花の言葉に風音がそう返す。その風音の言葉通り、本来であれば 人をそそのかす者(サイタン) は英霊ジーク等のカンストレベルのプレイヤーが挑むべき相手だ。

『さあ、まだまだ遊び足りぬぞ』

人をそそのかす者(サイタン) はそう言って、さらに無数の腕を伸ばして攻撃を仕掛けてくる。それにまともに抗せているのはやはり弓花とジンライたちのみだが、ユッコネエたちもどうにか食らいつけてはいるようだった。

なおジン・バハルやホーリースカルレギオン、第六天魔王モードに戻ったロクテンくんは後ろに回って他のメンバーの護衛に付いている。また後衛組のレームやタツオ、エミリィたちがどうしているかと言えば遠距離攻撃をそのまま仕掛けているのだが、 人をそそのかす者(サイタン) は『暴風の加護』のスキルまで所有していて、その攻撃の多くが届いてはいない。

その中でも直接操作している直樹の飛竜は『暴風の加護』の対象外であるためどうにか戦列に加われてはいたが、ライルはそれを指を咥えてみているしかなかった。

自分たちよりも格上のジン・バハルでさえも下がったのであれば、参加しても足手まといでしかないとライルにも分かっていたのである。

「なんという魔物だ。あのキング・オダノブナガをも超えておるな」

その力の強大さにはジンライも思わず眉をひそめる。

あまりにも敵は強かった。そして硬く手数も多い。だからジンライも強くは踏み込めない。その次の瞬間には無数の剣によって串刺しになるのは目に見えていたのだ。

また、ジンライが感嘆の声を上げた次の瞬間には再度かけられていた『 精神の護る花弁(スピリッツガードペタル) 』の効力がまた打ち消された。

防御魔術に守られ問題とはなっていないが、 魅了(チャーム) 技『原罪への誘惑』も定期的に放たれているのだ。

それは英霊フーネがいなければ耐性スキルを持つ風音以外は確実に籠絡されたはずであり、英霊フーネなしではこの戦いが成り立たないことも明らかだった。

「ま、相手の攻撃も大体分かってきたし、こっちも追加戦力を投下するよ」

そうした状況を観察しながら風音がそう口にした。そしてアイテムボックスから取り出したのは水晶に封じていたメタルカザネである。

『遅かったじゃない?』

「ま、ゲームとは違うし、実際に動きを見てみないと有効に動かせないしねっと」

風音はスキル『情報連携』を発動させてメタルカザネと繋がり、周囲を覆っていた水晶を砕いて不定形の姿のまま外へと飛び出した。

『鉄のスライムか? 面妖な』

そう口にした 人をそそのかす者(サイタン) へと、確かに言われたとおりにスライムのような動きをしてメタルカザネは突進していく。その過程でアダマンチウム製のゴーレムはメタリックな風音の姿へと変じていく。

それには 人をそそのかす者(サイタン) もわずかばかり戸惑いながら攻撃を繰り出すが、メタルカザネは全身がアダマンチウムでできている。切り裂くことは容易ではなく、つなぎ目もないし斬られてもすぐに修復してしまう。これをどうにかするには何らかの方法で動きを止めるか魔力切れを狙うしかない。

そしてメタルカザネは 人をそそのかす者(サイタン) の鱗から生まれた数十の剣を身体を変形させてすり抜けると、両手を文字通りの手刀へと変えて鱗が変じた手や翼を切り落としていく。

『師匠。あれに続きます』

「応よ。行くぞシップー」

「なー」

そこに 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花やジンライたちが追従することで、ようやく戦いはカザネたちに優位に進む形へと代わっていく。戦いの天秤が風音たちの方へと傾いたのだ。

『ぬぅぅうッ』

それには 人をそそのかす者(サイタン) も勢いに飲まれてわずかに引いた。それを 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花が突撃し、咆哮しながら突きを喰らわせて鱗を突き抜け本体へのダメージを通した。

『効いてるみたいね』

「さすがにね。けど、やっぱり厳しいか」

四メートルを越える筋肉の固まりのような銀毛の狼の言葉に風音がそう返す。全力で挑んでようやく優勢。それもこちらはガス欠寸前である。

『風音、何か来る』

眉をひそめている風音に弓花がそう忠告すると、 人をそそのかす者(サイタン) の身体からまだ変化していない鱗が周囲に散らばり、それが 人をそそのかす者(サイタン) の十分の一ほどのサイズの蛇へと変わっていく。それを見て風音がすぐさま、指示を行う。

「狂い鬼。スキル・ハウリングボイスを使うから構えて。ユッコネエも併せてガス攻撃!」

その言葉に狂い鬼が正面に出て、その口から先ほどベヒモス・ビーストから手に入れたスキル『ハウリングボイス』が発動された。

そして衝撃波によって迫ってきた無数の蛇たちが吹き飛ばされ、そこに追い打ちでユッコネエドラゴンが黄金の高熱ガスブレスを放って燃やし尽くしていく。

「よっし!」

それを見て風音がガッツポーズをした。

ここに来て、今までろくに使用してこなかったアイムの腕輪を利用する機会も増えていた。それは以前に大闘技会の賞品として風音がもらったもので、己のアクティブスキルを召喚体を介して使用することができる魔法具である。もっとも自分も前に出て戦う風音は召喚体を介するより己で使った方が早いことが多く、使う機会がそもそもなかった。

「うん。便利ではあるね。やっぱり」

風音が己の身に着けているアイムの腕輪を撫でる。サポート役に回ったことでようやくそれは日の目を見ることになったのだ。

『人間にしてはやりおるか。いや、人間と言うには語弊があるようだが』

『どういう意味よッ!?』

四メートルの筋肉達磨狼が抗議の声を上げたが、まったく説得力はなかった。他のメンツにしても化け猫に猫オジサンにチンチクリンにドラゴンに天使鬼に魔獣にゴーレム兵である。誰がどう見ても弁解の余地もない。

(とはいっても、やっぱりまだ余裕はあるみたいだね)

風音が目を細めて 人をそそのかす者(サイタン) を見る。現在風音たちが全体的に圧してはいるのだが、 人をそそのかす者(サイタン) はまるで焦ってはいない。対して風音たちはここまで三体の魔獣を倒していることで消耗が激しい上に全力で挑んでようやくやや優勢の状況である。

今のままでは体力切れで風音たちが負けるのは目に見えている。故に 人をそそのかす者(サイタン) を倒すにはもう一手の何かが必要だった。

(時間もギリギリか)

風音がウィンドウに表示しているタイマーを見る。『英霊の召喚時間』もそろそろ限界である。だから風音は弓花に指示を出した。

「弓花。決着を着ける。ここで一気に攻め込んで!」

『ォォォォオオオオオオオオオオオオンンン!』

風音の合図に弓花が野獣の咆哮を発して、一気に駆け出す。

解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花は、槍に神聖力を纏わせ強力な回転を加えながら 人をそそのかす者(サイタン) へと勢いに乗せて突き出した。それはバハル流槍術『風神槍』。

『ヌォォオオオオオッ』

それには 人をそそのかす者(サイタン) も叫び声を上げた。鱗より生み出した手足や翼、触手を伸ばしてその攻撃を防ごうとするが、槍から生み出される銀色の暴風がそれらをも削り取っていく。

『やらせぬッ』

目の前の化け物狼を前に己の不利を悟った 人をそそのかす者(サイタン) は切り札の使用を決断する。そして己の周囲に黒い円が出現させると、そこにまだ変異していない鱗を投げ入れた。

「ユッコネエ! 狂い鬼ッ!!」

その次の瞬間には風音が叫び、 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花の左右にユッコネエドラゴンとベヒモスに乗った狂い鬼が配置される。そして、その周囲に 人をそそのかす者(サイタン) の周囲にできたものと同じ黒い円がいくつも出現した。

「出てくる鱗は爆発するよ。防いでッ」

その風音の指示と同時に黒い円からすでに真っ赤になった無数の鱗が飛び出してきた。

「グガァアアアッ」

『にゃーーー』

その鱗が一斉に大爆発を起こしていき、対してユッコネエドラゴンは高熱ガスのブレスを吐き、狂い鬼は 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) を自爆させてそれらを相殺していくが、しかし出てくる鱗の数は多い。その勢いに圧されてついにはユッコネエの竜化が解け、 全裸(ネイキッド) となった狂い鬼もベヒモスと共に吹き飛ばされる。

「まだまだぁあああ」

だが風音もそこで手が尽きたわけではない。スキル『イージスシールド』を張って爆発から 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花を護り続けていく。

『砕けろぉぉおおおおっ』

そして『風神槍』に全精力を込めた弓花の聖者の槍が突き抜ける。その威力に 人をそそのかす者(サイタン) を覆っていた鱗が一気に剥がされ、ぬるりとした表皮の蛇がそこに残された。

『も……もう、私はこれで打ち止めッ』

そう言いながら 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花が膝を突き、その身体から銀の輝きが消え始めて変化も解けていった。それを見て 人をそそのかす者(サイタン) がニタリと笑うが、しかしそこで攻撃は終わりではなかった。

「ぬぉぉおおおっ」

「なーーーーー!」

それはジンライとシップーの一撃。護るべき鱗を無くした 人をそそのかす者(サイタン) に一直線に白い光が突撃し、その身に突き刺さったのだ。

『我が身を貫いていくだとッ』

「このままくたばれぇえい!」

ジンライの咆哮と共に蛇の身体に風穴が空いた。そして 人をそそのかす者(サイタン) が崩れ落ちる。

「ふぅ。これならいけるかな」

弓花の背から飛び降りた風音がそう言いながら、メタルカザネを変形させて 人をそそのかす者(サイタン) へと絡めて拘束していく。

『グッ、動けぬ!?』

「このまま逃げて回復されても困るからね。そっちの手口は全部分かってるんだよ」

その言葉に蛇の口の中でギョロリと動く赤い瞳が風音を見る。それをにらみ返しながら風音が叫んだ。

「それじゃあ今だよルイーズさん」

その言葉は後方に座していたはずのルイーズに対してのもの。

そしてルイーズはその手にある迅雷の杖を前へと突き出し、詠唱を開始する。

「裁定の雷よ、魔なるものを砕け!」

それは魔術名『ジャッジメントボルト』。退魔を目的とした光と雷の混合魔術だが、ただ火力だけで見ても非常に強力な攻撃だ。その一撃がルイーズの杖から放出され、 人をそそのかす者(サイタン) を包み込んでその身を消滅させていく。

「よっしゃ」

「これならさすがにッ」

その様子にライルと直樹と手を叩き合って喜び、他の仲間たちにも安堵の笑みが浮かんだ。まさしく綱渡りな状況の中でようやく勝ちの目を掴めたと感じていた。

「やったの?」

そして人の姿に戻った弓花が、再び蛇蝎銀の鎖で封印を施し直した聖者の槍を杖代わりにしてヨロヨロと歩きながら風音に尋ねた。

「うん。これで終わりだよ」

風音がそう言って頷く。それは一仕事終えたチンチクリンの顔だった。

「いや待てカザネ。これはッ」

しかし、 人をそそのかす者(サイタン) の一番近くにいたジンライは、滅びたはずの 人をそそのかす者(サイタン) の変化を視界に捉えた。

『終わりではない』

声が響き渡る。それは 人をそそのかす者(サイタン) の蛇の口より出現していた、赤い巨大な目玉から発せられたものであった。

蛇の口から外れたその目玉は、ここまでにない威圧を放ちながら宙へと浮かび上がる。

『ここからだ。ここから真なる姿の我と』

「いんや。終わりなんだってば」

一閃。

「あんたはね」

その言葉と共に赤い瞳が真っ二つになる。そして眼球の中にいた翼を生やした胎児のような姿の何かまでもが斬り裂かれ、

『ァアアアアアアアアアアアッッッッ!?』

壮絶な叫び声を上げながらその姿を消滅させていった。

「ふむ。ギリギリだったな」

そして、そう言ってカザネたちの前に降り立ったのは端正な筋肉に包まれた上半身をむき出しにして銀の長髪を靡かせた英霊ジークであった。

その手にはたった今、 人をそそのかす者(サイタン) 本体を斬り裂いた滅びの神剣『アースブレイカー』が握られていた。それこそが風音の真の切り札であったのである。