軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百七十一話 最後のヤツを倒そう

「グガァアアアア」

「グォォオォォオオオン」

叫び声を上げる狂い鬼と、その狂い鬼を乗せて咆哮しているベヒモスがその場にはいた。そのベヒモスは金色のたてがみを生やした獅子のような出で立ちであり、そこからベヒモス・ビーストの系譜であることは直樹にも理解できたのだが、大きさは全長7メートルと元の姿よりもふた回りは小さかった。

「姉貴。なんだ、あいつは?」

「ん。なんか狂い鬼がベヒモス・ビーストを取り込んで使役したみたい……な感じ?」

直樹が改めて姉に問うと、風音が首を傾げながらそう返した。

実のところ風音にもよくは分かっていないのだが、起きたことをそのまま説明すれば、狂い鬼は倒したベヒモス・ビーストの肉片をかき集めて自分の乗るベヒモスを造り上げたようであった。

もっとも狂い鬼は以前にもドラゴンイーターやオーガたちを取り込んだ実績があり、今回もその類なのだろうと風音はなんとなく納得はしていたが。

「そんなことよりもジンライさんの方だけど」

それから風音は最後の魔獣であるバハムート・シーラカンスの方へと視線を向ける。ベヒモス・ビーストとリヴィアタン・ダークネスは倒し、残された魔獣はその一体のみである。

現在はジンライとシップー、ユッコネエとクロマルにジン・バハルで挑んでいるはずであったが、

「なんなのアレ?」

「えーと、爺さんだよな?」

孫二人がその戦いの光景を見て絶句していた。

「グゴォォオオオオオッ!」

その戦場ではバハムート・シーラカンスが叫び声を上げながら黄金竜となったユッコネエと組み合っていた。膂力においてはユッコネエドラゴンよりもバハムート・シーラカンスの方が上であるようだったが、今にも倒れそうなほどに苦しそうな顔をしているのはバハムート・シーラカンスの方であった。

そこに銀狼のクロマルが突撃して牙で抉り、ジン・バハルがアダマンチウムの槍を槍術『雷神槍』で投げつけて確実にダメージを与えていく。しかしそれらを遙かに凌駕する勢いでバハムート・シーラカンスに大ダメージを与え続けている存在があった。

「いいぞシップー」

「なーご!」

ふたつの声が響くがそれの見た目は『一体』の一角獣であった。雷を放ち、風を巻き上げながら、一本の白い角でその獣はバハムート・シーラカンスを貫き、風穴を開けていく。その行為がもう何度と繰り返されているのは穴だらけになったバハムート・シーラカンスを見れば明らかだった。

『いや、主殿の成長にはまいるぜってな』

槍術『雷神槍』を放りながらジン・バハルが呟く。

すでに義手を外し右腕のみとなったジンライが白く輝く槍を突き出し、シップーがそれを己の角のように操りバハムート・シーラカンスを貫いていく。それをリヴィアタン・ダークネスを倒した面々が呆気にとられて見ている。

「速いだけじゃないね。今までとは動きがまるで違う」

風音も驚きの顔でそれを見ている。実のところシップーの移動速度は普段と同様か或いは少し速くなった程度であったのだが、高速機動のキレが以前とはまったく比較にならないほどに違っていた。

「もしかして、ジンライさんとシップーの精神リンクが高まってる?」

そう呟く風音には『犬の嗅覚』によってジンライとシップーのつながりがより強固になっているのが感じられていた。

元々ジンライのパートナーとして生まれたシップーは誕生した当初からジンライと精神をリンクさせてはいた。それ故にシップーはジンライの意のままに動くことができるのだが、それが異常にまで高まっているようだった。その風音の呟きに弓花が頷く。

「うん。師匠がここ最近シップーとしていた訓練がここに来て実を結んだみたい。今や師匠とシップーは一体化している」

その弓花の言葉通り、今のシップーの動きはジンライの思考を完全に乗せたものであった。もはやそれは高速で迫るジンライの槍そのもの。それがバハムート・シーラカンスを次々と貫き、ついには巨大な古代魚の姿をした魔獣が力尽き、その場に崩れ落ちた。

「ふむ。ようやく倒したようだな」

「なーご」

そして風音たちの前に降り立ったジンライとシップーが目の前の成果を前に頷きあう。危なげない圧巻の勝利であった。

(……これで予定通り、三体を倒したか)

最大の難関であったリヴィアタン・ダークネスもどうにか倒し、バハムート・シーラカンスもジンライとシップーが葬った。ここまでの結果は上々。風音の中にあった攻略すべき問題はほとんどクリアしていると言っても良い状態だ。

「そんじゃ直樹。ほら、こいつを飲んどきな」

「おっと。マナポーションかよ。良いのか?」

直樹がおっかなびっくり手渡された瓶を見て尋ねるが、風音がもう一本マナポーションを取り出して飲み始めたのを見て、すぐさま自分も一気に飲み干した。そして英霊フーネが全体回復魔術を発動すると、目の前の大蛇が鋭い視線を風音たちに向けてくる。

『なるほど。なかなかにやる。制約ありきの我が 僕(しもべ) を相手とはいえ、見事なものよ』

そう言いながら 人をそそのかす者(サイタン) と呼ばれる古の蛇からの圧力が上がっていく。

『であれば我が戦うに値するか』

周辺の空気が歪みが発生し、強大な殺意が周囲に充満していくのが風音には分かった。

「どうする風音?」

竜気が尽きて完全竜化も解けた弓花が身構えながら風音に尋ねる。それには風音も「そうだね」と言いながら英霊フーネを見た。

「まずはフーネ。全員に 精神の護る花弁(スピリッツガードペタル) を。急いでね」

「はいはーい」

そう口にした英霊フーネがすぐさま白き一団全員へと風音の指定した魔術をかけると、その次の瞬間には 人をそそのかす者(サイタン) の瞳が輝き、たった今風音たちにかけられた魔術が一瞬で破壊された。

「何、今の?」

その現象に弓花が目を丸くするが、風音が眉をひそめながら「 魅了(チャーム) 系の攻撃だよ」とその問いに返した。

「アレは出現率が低いくせに初見殺しっていう厄介なヤツだよ。ほぼ確実に効いて、ここで仲間同士の殺し合いが起きるんだよね」

そう言いながら風音が 人をそそのかす者(サイタン) を睨みつけた。この攻撃があるからこそ風音は英霊フーネを温存しておきたかった。戦闘開始直後に発動する上位精神異常攻撃。ゼクシアハーツでもほとんどのプレイヤーがこの攻撃で持ち崩し、そこから立て直しができないまま殺されてしまう悪意ある 能力(スキル) 『原罪への誘惑』。その己の技を破られた 人をそそのかす者(サイタン) が目を細めて口を開いた。

『ほぉ、これは面白い。なるほど、『我を知っている』ということか。であればプレイヤーとしてもそれなりの者……ということか。これは楽しめそうだ』

人をそそのかす者(サイタン) がそう口にして身体を震わせた。すると蛇の鱗の一枚一枚が動き出し、それが手や翼、触手や剣、尾などへと次々と変わっていく。その姿が蛇から醜悪な魔物へと変わっていく。また、その口がバクンと開き、中から巨大で真っ赤な目玉がひとつ飛び出してきた。

「こりゃあ、やべえぞ」

「ああ、強力な圧力を感じる。とてつもないな」

それに睨まれてライルや直樹が後ずさる。さきほどのリヴィアタン・ダークネスやベヒモス・ビーストを越える存在であることをふたりは感覚的に悟ったようだった。

「こりゃあ、俺たちじゃあ」

「ああ。厳しいぜ。強くなった自負はあるのによ」

『仕方あるまい。あれは竜の始祖に値する存在だ。カザネたちの邪魔にならぬよう立ち回るしかないぞ我よ』

直樹とライルの言葉にジーヴェの槍もそう言葉を連ねる。その直樹たちの前に風音が立って仲間たちに指示を行っていく。

「そんじゃあ前衛は私と弓花にジンライさんたち、後は私の 僕(しもべ) たちと召喚組で挑むよ。他は後衛で援護射撃を。フーネは『 精神の護る花弁(スピリッツガードペタル) 』をかけ続けながら自己判断でフォローして」

風音はそこまで言うとキリッとした顔で弓花の背に飛び乗った。そしてスキル『友情タッグ』の発動と共に弓花が銀の輝きと共に変化を開始する。

その輝きの中で弓花の姿は銀毛の狼へと、さらには全身の筋肉を異常に盛り上がらせながら巨大化していき、その全長は四メートルを超えた。

その変化する弓花の横をジンライがシップーに乗って駆け、ベヒモスライダーとなった狂い鬼や黄金竜のユッコネエドラゴンも後を追い駆ける。

「そんじゃあ、行けるかな?」

そう風音は弓花へと問いかける。巨大化した弓花の背には神狼の鎧が変化した風音専用の椅子が出現しており、そこに乗っかった風音の言葉に巨大な狼が頷いて、大きな口を開いて応える。

『問題なし。そんじゃ行くよ?』

「はいよーシルバー」

『振り落とすわよ』

そう言い合いながら、巨大な狼が身構える。

それは銀毛に覆われた筋肉の固まりのような巨大な体躯であった。凶暴そうな狼の顔には金の瞳と真っ赤に裂けた口があり、そこからは銀色の炎が轟々と噴き出していた。

また、身を纏う神狼の鎧は共鳴化現象により四メートルの体躯に合う形へと変じており、聖者の槍ムータンもその刃から吹き出していた神聖力が結晶化して、その巨体に相応しい形へと変化していた

その姿こそは解放されたフェンリル。神狼『リバティフェンリル』と呼ばれるものである。そしてムータンを握り締めた 解放神狼(リバティフェンリル) 化弓花が叫び声を上げながら、 人をそそのかす者(サイタン) へと駆け出していった。