軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百七十話 すべてを操ろう

「ァアアアアアアッ!?」

直樹が叫ぶ。目の前で黒い 顎(アギト) が仲間を喰らっている。その絶体絶命の状況を前に、しかし今の直樹にとっての危機は己の目の前にも存在していた。

「どけッ」

直樹の形をした黒い人形が直樹に迫っている。それに対して直樹は左手に握った夜王の剣を振るって影人形を突破しようとするが、現在の状態では身体に力が入らない。逆に影人形に剣を弾かれ態勢を崩してしまう。

「くっ」

続けて繰り出される影人形の攻撃に直樹は避けきれずに左肩にも影の剣が突き刺さる。もはや今の直樹は死に体だった。

「テメェ……」

だが直樹は闘志を失わない。叫び声を上げながら己の気力を振り絞る。早く仲間の元へと行かねばと己を奮い立たせている。だが人である以上は限界がある。

そして、ついには直樹を覆う赤い闘気も弱まり、意識の薄れと共に 狂戦士(バーサーカー) 化も解けていく。そのまま直樹はガクリとその場で膝を突いた。血を流しすぎたからかもう身体から力が出ない。

「……チックショウ」

もはやここまでかと直樹の中に諦めの感情が生まれ始めた直後である。

「直樹ィィィイイイッ!」

影人形が一瞬で潰されたのだ。それは上空からの不意の一撃だった。その攻撃で影人形は全身を一気に粉砕され、その場で砕け散る。

「は、あぁ……」

ソレを見て直樹が安堵の息を漏らす。

「人の弟になんてことをするのさ、この黒いのは」

そう言って直樹の目の前で破壊した影人形に憤っているのは風音であった。

恐らくは空中からスキル『インビジブルナイツ』で接近し『キリングレッグ』かかと落としで影人形を粉砕したのだと直樹は理解し、それから笑う。

「はは、姉貴、姉貴だ」

そうして涙を流しながら倒れかかった直樹を風音がその場で抱き止めた。それから直樹の顔を覗き込むように風音が見る。

「直樹? ちょっと大丈夫!? あーもう、こんなに怪我して」

「ははは……俺はいい……から、エミリィや……タツオたちを」

直樹は朦朧とする意識の中でリヴィアタン・ダークネスの方を指差した。今ならまだ助かる。あの 顎(アギト) を破壊すれば、中にいる仲間たちはまだ……そう言おうとした直樹に対し、風音は首を横に振る。

「姉貴?」

「その必要はないよ」

そう口にした風音が視線をリヴィアタン・ダークネスに向けた。

「あそこには今、弓花がいるから」

その言葉とほぼ同時に、黒い 顎(アギト) がその内部からの銀の輝きによって粉砕される。そして空中にいるリヴィアタン・ダークネスの幻影が苦痛の悲鳴を上げた。

「はは、なんだよ弓花。いいとこ取りじゃないか」

直樹が悔しそうに呟く。その中からはエミリィやタツオたち、さらには黄金の輝きを放つ人サイズのドラゴンが銀の槍を持って飛び出してきた。

それは完全竜化した弓花だった。ユッコネエの竜気によって変化したその姿はまさしく黄金竜という出で立ちで、その手に持つ銀の槍からは蛇蝎銀製の黒い鎖は外されていた。よく見れば手首の付近で金色の輝きと銀の輝きがせめぎ合ってリングのようになっているのが直樹には見えていた。どうやら弓花は聖者の槍の神聖力を黄金の竜気によって中和して抑えつけているようである。

『風音。全員、無事だよッ!』

それから風音たちに向かってそう叫ぶ弓花の足下からは巨大な影が消えていく。併せて上空の黒いクジラも消滅していくのが風音にも確認できた。

「転移で逃げたか。まあ、それで良し。これでひとまずタツオたちの無事は確保できたしね」

さしものリヴィアタン・ダークネスも闇属性の天敵とも言えるような今の弓花と至近距離でやり合おうとは思えなかったようであった。その様子に風音が少しだけホッとした顔をしたが、風音が抱き抱えている直樹は首を傾げながらそれを見ていた。

「姉貴。けど、なんで弓花が中に?」

その言葉に風音が「私のテレポートで飛ばしたんだよ」と返した。

「本当にギリギリだったけどね。直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) とは違って食われた後に中に飛ばすのは無理だけど、閉じる前になら飛ばせるからどうにか送り込めたわけさ」

「でも、弓花はジンライ師匠と……一緒にもう一体の魔物の方を」

「ジンライさんがこっちは大丈夫だからって言っててね」

風音がそう言って直樹に笑う。だがその瞳からこぼれ落ちる涙は止められないようだった。血塗れの直樹を見てその目から風音はボロボロと涙を流している。

「でも直樹もずいぶんとやられちゃったね。ごめんね。お姉ちゃんが無理押し付けたから。本当にゴメン」

そう言って直樹をギュッと風音が抱き寄せると、直樹が苦笑する。

「よしてくれよ。一応……姉貴たちが来るまでは……微妙だけど……保たせただろ。だったら褒めてくれ姉貴」

その言葉に風音が涙声で頷いた。

「うん。頑張ったね直樹。後はお姉ちゃんに任せていいよ」

「すまないな。だらしない弟で」

「いいや。みんながどう言おうと直樹はカッコいいよ」

その言葉に直樹が苦笑する。やはり姉にしてみると格好悪く映っているようだと理解する。それから風音は涙を拭って直樹に言う。

「それじゃあ直樹。もう大丈夫だからフーネを呼んでくれる?」

「え、ああ。けど、いいのか。今から呼んだらここから十分しか保たないぜ?」

「問題ない。ここから、そんなにかける気もないし」

その風音の言葉に直樹が「分かった」と頷きながら英霊召喚の指輪に力を込める。

これが今戦闘における直樹に課せられた条件だった。風音が指示しない限り、フーネは使用しない。それはあの 人をそそのかす者(サイタン) 戦に使う切り札だと直樹は聞かされていた。

そして直樹の英霊召喚の指輪から光が放たれ、その中から風音そっくりの巨乳少女が出現した。

「やーん。直樹に、お姉ちゃんもーお久しぶりー」

その言葉に風音がぐぬぬ顔となり直樹が顔を背けたが、この英霊フーネは弓花の英霊アーチとは違って非常に役に立つ英霊ではあった。

そもそもが英霊フーネは直樹が風音のサポートをすべく考えて考え抜いて造り上げた回復と補助のエキスパートキャラだ。カンストレベルではないにせよレベル126あれば、この世界においては伝説級の使い手と呼んでも間違いではない実力者である。またキャンペーンモードがソロメインであることもあり、攻撃を前提とせず回復と補助に特化されたキャラはゼクシアハーツの中でも重宝される存在であった。

その英霊フーネが直樹の身体を回復させたのを見た風音は続けて転移によって再出現したリヴィアタン・ダークネスを睨みつける。

「フーネ。スペル『 光の刃の加護(ライトウェポン) 』を私にかけて。直樹はこのまま私をギュッと抱きしめているように」

「はいはーい」

「え、おお。良いけどよ。どういうことだよ」

すでに元気になった直樹がドギマギしながら風音の身体に抱きつくと風音が目をつむって意識を精神を集中させる。

「ここからお姉ちゃん、少しだけ無茶するから身体が暴れないように直樹は抑えてて欲しいんだよ」

「え、それってどういう?」

直樹の問いに答えることなく、風音はアイテムボックスからジャラジャラとアダマンチウムソードを取り出していく。その数併せてちょうど百本。それを風音が「スキル・ソードレイン」と口にしてスキルを発動させ、続けて英霊フーネが「スペル・ 光の刃の加護(ライトウェポン) 」と唱えると、すべての剣が光を帯びた状態で浮かび上がる。

それを呆気にとられて見ている直樹の前で、光る剣の群れがリヴィアタン・ダークネスへと突撃を開始した。

『行くわよ』

「グォォォオオ!」

そこに完全竜化弓花と、さらに『ベヒモス』に乗ったアーマード狂い鬼が合流して突撃をかけていく。

「な、なんだ。ありゃあ?」

その光景に直樹が疑問を口にしたが風音は答えられない。精神を集中するあまり、口を開く余裕もないようであった。

そして光属性の強化がかけられたアダマンチウムソードの群れがリヴィアタン・ダークネスの本体である影を切り刻んでいく。

それはさながら剣でできた東洋竜が如く突き進み、その攻撃を防ごうと発生した無数の影の刃までも瞬く間に破壊されていく。先ほどの英霊フーネの補助スペルは弱点属性な上に非常に強力なものであり、また風音も今回はただ飛ばすだけではなくすべての剣を完全に制御して操り続けていた。

「姉貴っ!?」

だが『ソードレイン』を発動し続けている風音本体の方はといえば、直樹の腕の中でガクガクと身体を震わせながら脂汗を流し始めていた。

今回の攻撃は百本の剣の操作だけではなく、恐らくは遠隔視とスキル『イーグルアイ』を併用して周辺空間のすべてを把握しているであろう離れ業である。それは今の風音であっても限界を超えている。

「くそっ。姉貴、無茶すぎだろう?」

直樹が必死で震える身体を抱き止めるが、風音からはやはり反応がない。

だがそうした無茶の分だけ、目の前の攻撃はあまりにも強力だった。

先ほどまで直樹たちが苦戦していたリヴィアタン・ダークネスが次々と切り刻まれ、そこに続けて英霊フーネの『 光の刃の加護(ライトウェポン) 』をかけてもらった完全竜化の弓花とベヒモスライダーとなった狂い鬼も続いて攻撃を仕掛けていく。

それにはリヴィアタン・ダークネスも悲鳴を上げ始めていた。転移して逃げようともリヴィアタン・ダークネスは転移先を遠距離には指定できないようで、空を飛び続ける『ソードレイン』であればすぐさま転移先へと駆けつけて再び攻撃を再開できた。

光の属性を帯びたソレはリヴィアタン・ダークネスにとっては天敵そのものだ。ましてや術者は離れた場所にいて、今は英霊フーネや、合流したライルとロクテンくんにも守られていてリヴィアタン・ダークネスも手が出せない。そもそもそうする余裕もなかった。しかし、風音の方の状態も相当に危険なようで、ついには泡を吹き始めていた。

「ぐ、がかかかかか……あぁあああああ」

「姉貴ぃい!?」

叫ぶ直樹の前で突然風音が目を見開く。そして震えが止まった。

「あ」

「あ、姉貴?」

困惑している直樹に風音が「うわっ、近すぎ」という顔をしながら「もう大丈夫だから離して」と言って直樹の腕の中から出ると、今も動き続ける『ソードレイン』の剣たちへと視線を向けた。それを直樹とそばにいるライルが心配そうな目で見ている。

「姉貴、もう大丈夫なのかよ?」

その直樹の言葉に風音が汗びっしょりの顔でピースをする。その顔は先ほどとは違い、余裕というものができていた。

「ん。『ソードレイン』のスキルレベルが2つも上がったみたい。まだキツいけど、これなら」

そして風音がアイテムボックスからマナポーションを一本取り出してガブ飲みすると両手を広げて『ソードレイン』の操作をさらに強めていく。

「いけるよ。行け『刃竜』!」

風音がそう叫ぶと『ソードレイン』改め即興で命名した『刃竜』がさらにリヴィアタン・ダークネスの本体である影へと切り込んでいく。

「よーし。後少し、直樹にみんなもッ」

その言葉に直樹や他のメンバーもトドメとばかりに参戦していく。ファイア・ヴォーテックスが、 雷王砲(レールキャノン) が、メガビームが、ライトニングスフィアが飛び交い、ついにはその大火力でもってリヴィアタン・ダークネスの影は完全に消滅し、幻影である黒いクジラも消えていったのである。