作品タイトル不明
第六百二話 攻略をしていこう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第三十七階層
『ぬうりゃぁああああああ!』
金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第三十七階層。
そこはすでに通路はなく黄金の岩場に囲まれた、だだっ広い渓谷のダンジョンであった。その金色に輝く岩と岩の間を強大な渦巻く炎のドリルが猛烈な勢いで突進していた。
『ウォォオオオッ』
中から叫び声をあげながら炎のドリルはその先で固まっているデスダガーレインの群れへと突撃していく。その炎の勢いにデスダガーレインの群れは蒸発し、溶かされ、或いは砕かれていく。
そうしてナイフの姿の魔物がすべて葬られた後、炎の螺旋の中から現れたのはランスと盾を持った炎の騎士であった。
それは 炎の騎士団長(フレイムナイトリーダー) の頃よりも豪奢な鎧に包まれ、新装備であるドリルフレイムランスと、ティアラから譲り受けた天鏡の大盾ゼガイを装備していたメフィルスであった。
『なるほどな。これは確かに強力な武器だ』
メフィルスがそう口にしてドリルフレイムランスを眺めていると、『竜の心臓』が嵌められた三つの台座がそれぞれ動き出し、仕事を終えたとばかりにそのままランスの内部へと収納されていった。
「凄いですわお爺さま。まるで炎の竜巻のようでしたわ」
「まあ、確かに。ティアラもよくもまああそこまでの召喚騎士を喚び出せるようになったわね」
メフィルスの活躍に目を輝かせるティアラと、著しい弟子の成長に感心しているルイーズがいた。
今ふたりの前にいるメフィルスの身体は、ティアラが 炎の騎士団(フレイムナイツ) すべてを結集させてひとつに纏めた『 炎の王騎士(フレイムキングナイト) 』という 炎の騎士(フレイムナイト) の最上位であった。それは現時点においてはティアラの喚べる召喚体の中ではルビーグリフォンに次いで強力なものだ。
またメフィルスが持っている盾は英霊ジークも装備している天鏡の大盾ゼガイであり、手にしたランスは風音が考案した動力石一体武装『フレイムドリルランス』であった。
『ふむ。いささか物足りぬがこちらは上手く片付いたようだな』
「取りこぼしもないようね。それで後ろの方はどうかしら」
メフィルスとルイーズが自分たちと離れて戦う仲間たちへと視線を送る。そのふたりにティアラが微笑みながらこう告げた。
「ユミカがいるなら問題はありませんわ」
「はいはい。それじゃあレームはパッパとあっちを撃つ。タツオはそっちの方をケイローンとホーリーくんと一緒にブッ倒そうね」
「おうよッ」
『はいです』
そしてメフィルスが活躍している一方で、弓花自身は戦闘に参戦せずにタツオとレームの指揮に徹していた。この階層なら弓花自身が戦うよりも他のメンバーの戦闘経験に費やした方が全体の底上げになる。
すでに何度も戦ったこともある魔物相手の場合は、弓花は自重をしていた。
「うりゃぁっ」
弓花の指示に従ってゴレムスキャノンに乗ったレームが 雷王砲(レールキヤノン) を放ち、迫ってくるデスダガーレインを蹴散らしていく。威力こそ 雷神砲(レールガン) ほどではないが連射が利く分デスダガーレインの群れの足止めとしては申し分なく、また蓄積するダメージにより足止めどころか次々とデスダガーレインを破壊していく。
さらには反対の方角から迫る別のデスダガーレインの群れへはクリスタルドラゴンゴーレムに乗ったタツオが突撃していく。
『行きますッ!』
そのタツオに続いて、タツヨシくんケイローンとホーリースカルレギオンも後を追う。
神聖物質(ホーリー) バルディッシュを装備したホーリースカルレギオンは、今はタツヨシくんケイローンが魔力供給と操作を行っているため、現時点では常時活動を可能としていた。
また先頭を走るタツオの操るクリスタルドラゴンゴーレムも、現在はメガビーム反射対策にと『光輪』を口に咥え、さらには両腕に自分で呼び出したクリスタルソードとクリスタルシールドを装備している。
『お覚悟をッ!』
タツオがクリスタルソードでデスダガーレインへと斬り掛かる。当然デスダガーレインは金属製で簡単には破壊できるものではないのだが、タツオは接触時に爆撃を起こすことで、一撃でデスダガーレインの破壊を可能としていた。
『やりました。っと、うわっと』
さらには上空から突撃してくるデスダガーレインにタツオはとっさにクリスタルシールドを構えた。
『負けませんッ』
そしてデスダガーレインを受け止めたクリスタルシールドから爆発が起こり、その衝撃でデスダガーレインの身体を粉々に打ち砕いた。
「やるなータツオ」
レームの言葉にタツオがくわーっと鳴く。アーマードベヒモスの肉から得た 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) をクリスタルに付与する力は確実にタツオの力となっていた。
「ま、問題ない感じか」
そんなレームとタツオのコンビを見ながら弓花がうんうんと頷く。この階層の魔物でもレームとタツオは十分に戦えることを弓花は再確認していた。
その弓花たちの戦闘が終わったのを見計らってルイーズたちが合流する。
「終わったみたいね」
「はい。そっちもメフィルス様が大活躍って感じだったみたいじゃないですか。あっと言う間に魔物の気配が消えてったのが分かりましたよ」
ルイーズの言葉に弓花がそう返す。
『ふむ、ティアラの造ってくれたこの身体もそうだが、この風音の武器の力が大きかろうな』
メフィルスがドリルフレイムランスを前に掲げてそう答えたのだ。
「ケイローンと同じように付与されたファイアドリルを重ね合わせて、さらにそこに被せるようにカスタマイズしたファイアストーム・トルネードをかけたんでしたっけ」
弓花の言葉にメフィルスが頷く。
『そうらしいが。少々強力過ぎる感じはしたが、使い勝手は悪くない。もっとも、全身を炎に包まれるのだから、余のような存在でなければ扱えんだろうな』
風音が作り出したフレイムドリルランスは文字通りメフィルス専用の武器だ。炎の聖霊となったメフィルスの特性を生かし安全性を一切考慮せず、付与魔術に対する魔力の割り振りをすべて威力に回していた。人間が扱えば本人が黒こげになってしまう恐るべきシロモノだった。
「なるほどなるほど」
その言葉を聞きながら弓花は、その内容をメールに書き込んでいく。もちろんメフィルスにはウィンドウの操作は見えていないので、首を傾げて尋ねた。
『ふむ、何をしておるのだ?』
「風音にメールを送ってるんですよ。あの子、使った結果を早く知りたいらしくて」
『おお、なるほど。便利なものよの』
メフィルスが感心している。プレイヤーの優れている点は単純な戦闘能力の高さよりも、メールやマップなどといったゲームの頃から存在している機能にあるとメフィルスは考えていた。
「ま、こっちの世界基準で考えれば便利すぎますね。どういう仕組みなんだかもまるで分からないらしいし」
弓花もメフィルスの言葉にそう返す。長年研究しているアオでもほとんど解析できていないらしいのである。
また弓花はメールウィンドウと一緒に開いたマップウィンドウを共有設定に変えて眺めながら、直樹組の動向も確認していた。
「あっちも問題なさそうだなぁ」
何かあれば連絡はあるだろうし、直樹を示すポインターの動きにも特に不自然な点はない。
なお、現在の白き一団は地上に風音とユッコネエが待機していて、ダンジョンは弓花組とジンライ組に分かれて行動していた。その内訳はといえば、
・弓花、ティアラ、メフィルス、ルイーズ、レーム、タツオ、タツヨシくんケイローン、ホーリースカルレギオン
・ジンライ、直樹、エミリィ、ライル、ロクテンくん、黒ミノくん
という分け方になっている。
そして弓花たちは冒険者ギルド経由で出回っている第四十階層半ばまでの地図を頼りにして、隠し部屋を探しながらそこそこ早足でダンジョンを降りているところであった。
「しっかし、こっちの戦果はオリハルコンの大剣だけか」
弓花がそうぼやきながら、レームのゴレムスキャノンの方を見るとその腕には一振りの剣が握られていた。その大剣は第三十五階層で手に入れたものであり、オリハルコン製の貴重な武具でもあった。
もっとも特に付与効果もなく頑丈で切れ味が良いだけでさらに白き一団では特に大剣を使う者もいない。そのためその大剣はゴレムスキャノンの装備に回されていた。
「直樹の方は水珠を手に入れたみたいですね。温泉珠ではないから風音はブーたれそうだけど」
その弓花の言葉には一同、苦笑する。
水珠は貴重なアイテムではあるのだが、すでにひとつ所有しているので必ずしも必要なものでもない。また風音は移動時の風音コテージでも天然温泉に入りたいらしく、やはりまだ温泉珠を狙っているようだった。
「次こそは有用なお宝がでるように祈っときましょ。候補地はもう近くなのよね?」
「ええと、次はですね」
ルイーズの問いに弓花は紙の階層地図を広げて、赤ペンで記入されている一点を指さした。それは風音が事前に 無限の鍵(インフィニティ・キー) と『直感』で調べて割り出した隠し部屋候補地だ。
「ここです。さっさと行ってちゃっちゃとお宝を見つけましょう」
そして一行はダンジョンの奥へと進んでいく。
今の弓花たちにとって第三十七階層はまだ余裕のあるエリアのようであったが、A級ダンジョンの階層は百に到達すると言われ、現時点の場所はまだ三分の一程度でしかない。最深層までの道のりはまだまだ長いだろうと思われた。