軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三話 再び隠し魔物と会おう

風音不在の白き一団のダンジョン探索。

弓花組がタツオやレームを鍛えながら探索している一方で、ジンライ組の方も順調にダンジョンの探索を行っていた。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第三十八階層

「うぉりゃあっと!」

岩場しかない第三十八階層。そこはまるでダンジョンらしからぬ広い空間ではあったが、そこにも当然のように罠が仕掛けられている。

その中でも比較的ポピュラーともいえる進路妨害の炎の壁。それをライルが竜気を放出して一気に吹き飛ばしていた。

「ふむ。やりおるな」

その様子をジンライが感心して見ている。

無駄にパワーを放出し過ぎている面はあるが、ライルの竜気量は実に並のドラゴン一体分にも及ぶ。それは見た目の通りの人の姿からすれば信じられないほどの量であった。

最近の特訓でもその実力は磨き上げられつつあり、このまま実力を伸ばしていけば恐るべき使い手になるとジンライは確信していた。

そしてライルとしても槍使いとして憧れていた祖父に褒められては悪い気がするはずもしない。

「つっても爺さんにも弓花にもジンさんにも勝てねえけどなあ」

もっともライルは照れながらも若干肩を落としてぼやいていた。

直樹相手には最近勝ち越しているのだが、ジンライや弓花、風音やジン・バハル相手ともなるとその実力差はいかんともしがたいものがあった。最近ではメフィルスも訓練に参加しているのだがそちらにも勝てない。

タツオとレームのゴーレムコンビ相手もギリギリというところである。あちらも実力を延ばしつつあるので、まったく油断できないところではあった。

ライルは正真正銘生まれ変わってパワーアップした身であるにも関わらず、パーティ内のヒエラルキーが変わってはいないことに如何ともしがたいものを感じていた。

「ったく。俺も随分と強くなったと思うんだけどな」

身体能力だけならば今のライルはジンライを大きく凌ぐ。槍使いとしての技量も白き一団に入る前と今とでは比べものにならないほど上がっているはずであった。訓練の質も量もかつてとは比べものにならないのだ。その上にいくつもの大きな実戦をくぐり抜け、その経験も己の血肉となっている。

であるにも関わらずまるで勝てない。勝てるビジョンすら見えない。己の祖父がどれほど大きな壁なのかが未だにライルには見えていなかった。

「まあお前ならばいずれたどり着くかもしれんがな」

その孫の憤りを理解しながらも、ジンライは笑ってそう答えた。一緒に歩いているシップーも「なー」と鳴く。ふたりと一匹は孫と甥の成長が喜ばしくて仕方がないようであった。

そしてそんな彼らの後ろを歩きながらぼやく男が実はもうひとりいた。

「うーん。なんか差が開いちまった感があるな」

それは姉がいないために安定したイケメン力を発揮しているはずの直樹であった。その横ではエミリィが少しだけ拗ねたような顔で直樹口を開く。

「そんなことないわよナオキ。私の方がもっと深刻なんだから」

「いや、エミリィは基本パーティの役には立ってるさ。俺とは違ってな」

そういう直樹にエミリィが再び苦い顔をする。

兄との差が大きく広がるエミリィにしてみれば今の状況にはかなり危機感があるようだが、直樹にしてみればそんなことはないと考えていた。

実のところ単独での戦闘力は直樹の方が上なのだが、普段の戦闘でのパーティ内貢献度をいえば地味にエミリィの方が高い。射る矢の命中精度が高いエミリィは、ベヒモス戦のようにダメージが通らないわけでもなければ牽制として敵をひるませたり追加ダメージとしてトドメを刺したりと、直樹やライルのフォローだけではなく、風音や弓花、ジンライが前線に出たときにでも変わらず役に立っているのである。

敵を仕留めることが少なく地味で目立たないだけで、実際にはエミリィはそれなりに役に立つ女であった。

なお、そのふたりの後ろには黒炎装備を身に付けて両腕が斧そのものになっているストーンミノタウロスの黒ミノくんと、風音のスキル『リビングアーマー』で動いているロクテンくんが続けて歩いていた。

風音や弓花のような『犬の嗅覚』持ちがジンライ組にはいない。そのため敵の奇襲に対する警戒を高めにしており、後衛には奇襲対策として風音の 僕(しもべ) が置かれていたのである。

「ふむ。ナオキ、もうそろそろではないか?」

それからしばらく歩いていると地図を再度確認しながらジンライが口を開いた。

「そうですね。あの岩場を右に移動してすぐの岩の中ってところです」

それには直樹が開いていたマップウィンドウのチェックポイントを確認して頷く。

そのチェックポイントは風音が事前に 無限の鍵(インフィニティ・キー) とスキル『直感』で示した場所である。

もっともこの階層まで来ると周囲はただの岩場であり、もはや通路のような分かりやすい隠し部屋はない。ジンライの持っている地図も正確なものと言えるかが微妙なところで、直樹のウィンドウのオートマッピングで逐一修正しながら進んでいた。

「今度はちゃんと宝箱の中身があると良いのだがな」

「まったくですよ」

ジンライの言葉に直樹が笑って返す。

ここはオルドロックの洞窟とは違って、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿はA級ダンジョンなのだ。当然そこに集まる冒険者たちもダンジョン探索のエキスパートであり、隠し部屋発見率も高く、すでに先を越されていることも多かったのである。

また岩場エリアは無駄に広い分、まだ手を付けられていない通常の宝箱を見つけられることはあったが大概はランク落ちの武器や薬草などであり、白き一団のお眼鏡にかなうようなものは今のところ発見されていなかった。

「それでは、気を緩めずに進むぞ。宝を前にして浮ついたときが一番怖いのだからな」

ジンライはそう言いながら、再び先へと進んでいく。

こころなしか歩みが先ほどより速いので、本人が一番浮ついている可能性もあった。その様子を見ながら直樹が呟く。

「さっき見つけたのは水珠だったからな。次はもっと良いもん出てくれりゃあいいんだが」

ダンジョン探索再会から隠し部屋発見はここまで四つ。内三つはすでに発見済みの空箱しかなく、つい一時間前に念願の隠し宝箱を開けることに成功していたのだが、その中身はすでに所有している水珠であった。

「温泉珠であればカザネも喜んだのにね」

「ああ、姉貴の喜ぶ顔が見たかったな」

そう言って直樹は少しばかり苦笑する。その直樹にエミリィが微笑んで答える。

「これでもカザネなら喜んでくれるわよ。レアモノなのは確かだもの」

「ま、そうだな」

エミリィの言葉に直樹が頷いた。

水珠そのものがレアアイテムであることは間違いないのだ。そんなことを話しながら一行が進んでいくと目的の隠し部屋候補地が見えてきた。

「あ、ジンライ師匠。その岩です」

「なるほどな。確かにこれはどこか違和感はあるな」

直樹の言葉にジンライが周りを警戒しながら立ち止まる。よく観察すれば確かに中が空洞にでもなっているかのような、どこか不自然にも見える形をしている岩であった。

「ふむ」

それをジンライが舐めるように眺める。

「何かしらピリピリとしたものを感じるな」

「なー」

ジンライの言葉に、横に並んで歩いていたシップーが小さく鳴いた。ふたりともその岩の中に何かを感じていた。

もっともジンライたちの様子に訝しげな視線を向けつつも、一緒に歩いていたライルは歩みを留めず、その岩に近付いていた。

それは油断というものであった。

「んー、どうしたよ爺さん? これが何か」

「バカもん。不要に近付くなッ」

そのジンライの言葉と同時、

『バカな我だ』

ジーヴェの槍が声をあげる。さらに目の前の岩が崩れた。

「おっ!?」

唐突な状況にライルの目が見開かれるがその反応は遅い。爆発したかのように目の前の岩が砕け、その中から黒い影が飛び出して火花が散ったのだ。

「ライルッ!」

『やらせぬさっ』

ジンライが叫ぶがライルは無事であった。ジーヴェの槍がライルの反応よりも速く自ら動き、その影の攻撃を防いでいたのだ。

「な、なんだ?」

「チッ、この動きはここで出会うようなモノではないぞッ」

慌てるライルとは対照的にジンライは冷静に岩から飛び出した三つの影のひとつを槍で受け止めて弾いた。狙われたのはシップーで、ライル同様にシップーもその攻撃をよけることができなかった。シップーの反応速度をも凌ぐ攻撃……その事実にジンライは少しばかり眉間にしわを寄せながら叫んだ。

「ジン。出ろ、ライルを頼むッ」

『応ともッ』

そしてジンライの黒の竜牙槍から骸骨竜騎士ジン・バハルが飛び出す。ライルだけでは対処不能とジンライが判断したのである。

「なんだ。こいつはッ」

「ナオキ、速いわっ」

さらにみっつめの影が直樹たちの方へと飛びかかった。それを直樹はスキル『察知』で反応し、とっさに腰に下げていた竜炎の魔剣を取り出して防ぐが、

「くそっ重いっ!?」

その勢いの強さには眉をひそめた。

「なんだってんだよ、こいつは?」

そして弾いたモノを見て直樹の目が見開かれる。

「気を付けろよナオキ。デスソードレインよりも厄介かもしれんぞ」

すでに戦闘の始まっているジンライから直樹に警告が飛ぶ。

「分かってますって。エミリィ、気を付けろ。並じゃない」

「ええ。そうみたいね」

ジンライの声に余裕がない。その状況の驚異度の高さに危機感を露わにしながらも直樹は目の前のソレを睨み付けた。そしてソレは笑っていた。まるで格下の存在をあざ笑うかのように。

『ガッカカカカカッカカカ』

その笑い声の主は剣であった。

禍々しいオーラを放ちながら、剣の平には目玉を、刃の一部は裂けて口になっている剣の魔物であったのだ。