作品タイトル不明
第五百九十四話 最速を倒そう
ネイキッドベヒモスの突撃が迫る。それはここまでのベヒモスの移動速度を遙かに超える驚愕のスピードだった。
(マッズィ!?)
『直感』の導きもあったのだろう。避けきれないととっさに悟った風音は緊急回避型の全方位マテリアルシールドをその場で発動させた。そして風音は周囲にいた全員を弾き飛ばし、
「うっぁああああああ!」
「風音っ!?」
弓花の叫びと共に風音自身はマテリアルシールドごとネイキッドベヒモスの突撃に吹き飛ばされ、宙を舞った。威力を反発することもできないほどに、その一撃は強力だったのだ。
(なんて力。それに、この速度じゃカザネバズーカじゃ捕らえきれない)
風音が弾き飛ばされて空中で回転しながらそう考える。なおマテリアルシールドは正しく発動していたため、風音本人は巨大なゴム鞠の中にいてそこに猛スピードのトラックで轢かれたようなものだった。だから派手に吹き飛ばされたものの風音本人へのダメージはほとんどない。
それよりも自分以外の仲間の方が問題だった。
(ライルに、シールドバースに風の使いの人たちは……こりゃあ厳しいね)
直樹は現在オロチを抱えてタツオ、レームと共に後衛組に戻っているためその場にはいなかったが、マテリアルシールドの衝撃に反応し、即座に態勢を整えられたのはジンライとシップー、弓花にライノー、ジン・バハルとミナカのみ。他は今も受け身をとりきれずに倒れたままである。また、風音の 僕(しもべ) 組は別の場所で待機していたために無事であったのは幸いしていた。
(こら、次はやばいな)
次の突撃で踏みつぶされようものなら人死が出るかもしれない……と考えた風音は全員での共同戦線を捨て、迷うことなくスキル『竜体化』を発動させる。
『グォォォオオオン!』
風音が気合いと共に魔力体であるドラゴンの体を纏い、魔力を竜気へと変換していく。そして瞬く間に十メートルを超える巨大な青い水晶で覆われたドラゴンが出現したのだ。
「なんだ。ドラゴンか!?」
「落ち着きなさい。風音の竜変化の術よ」
その姿を見たことがない者から当然驚きの声があがるが、ルイーズが声をあげて嘘の情報を教えたために、すぐさま「あれが……」と納得したようだった。
この世界の魔術には竜変化の術というものも存在している。そのため『竜体化』による変化は比較的ごまかしは利くスキルでもあった。
『弓花ッ、やるよ』
「しょーがないわね」
風音ドラゴンの言葉に弓花が少しだけ苦い顔をして飛び上がる。今回に関して言えば弓花はまだ完全神狼化もしていないし、実力は温存していた状態である。弓花個人でもまだ挑む力はあったのだが、ここから先にあのスピードでかき回されると厄介だ。やむを得ぬと白炎の神刀『 焔・弓花(ほむらゆみか) 』へと変化した。
『風音、ちゃんと扱って頂戴よ』
『まーかせて』
それを風音ドラゴンが右手でキャッチし、さらに風音ドラゴンは召喚剣『黄金の黄昏』も喚び出して左手に収めた。
スキルセットは『友情タッグ』に『イーグルアイ』。今重要なのは敵の動きを捉える目だ。スキル『二刀流』はセットしていないが、日頃の訓練と『黄金の黄昏』から付与されるスキル『竜剣士の記憶』によって技量という点を考えなければ剣の扱いにも問題はない。
そして黄金の翼をはためかせながらズシンと地上に降り立った風音ドラゴンの周囲に、ユッコネエドラゴンとその他の 僕(しもべ) たちが立ち並んだ。
「グロロロォオオン!」
しかし、その立ち並ぶ姿を見てもネイキッドベヒモスは怯むどころか、怒気を増して吠えて威嚇する。
一方で地上にいるライノーは少しばかり苦く笑いながら後ろへと下がっていた。
「いいんですか?」
そのことにライルが問うが、ライノーは風音たちを見ながら口を開く。
「敵だけならまだしも、このサイズ差じゃあ味方に潰されかねない。ジンライみたいにシップーって言う相棒がいれば別なんだがな」
ライノーはそう言って羨ましそうにジンライとシップーを見た。騎竜ゴードさえいればとでも思っているのだろうが、ともあれライノーはこの場は戦いから退くことを決めたようであった。
「さて、神竜皇后さまの戦いか。とくと見せてもらうとするさ」
そう口にして下がっていくライノーの前では、風音ドラゴンは両手の武器を構えてネイキッドベヒモスを観察している。スキル『イーグルアイ』によって一瞬の隙も見逃さぬようにと睨みつけていた。
『防御力はなさそうだけど、何度も喰らっちゃあこっちがヤバい。できれば一撃で仕留めたいね』
『あんまガッツかないでね』
風音の言葉に『 焔・弓花(ほむらゆみか) 』の中から弓花がそう返す。
『了解だよ』
風音がペロッと舌を出して笑う。当然ドラゴンなので可愛いわけもなく普通に怖かった。
「来るぞ、カザネ」
「うん、分かってる」
続くジンライの言葉に風音ドラゴンが頷く。そして、その動きを隙と見たのか、或いはたまたまなのかは分からないが、ネイキッドベヒモスが突如として走り出した。
「グロロオオオォォオオオオンッ!」
それを風音が『イーグルアイ』で捉えようと目を凝らす。しかし、
(やっぱり速いッ!?)
『イーグルアイ』を以てしても完全に捉えることはできないほどの速度で突撃してくる。だが、その速度をわずかばかり遅らせる存在がその場に現れた。
「ガァアッ」
『狂い鬼!?』
ネイキッドベヒモスの射線上に回転酔いから回復した狂い鬼が翼を広げて飛び込んできたのだ。
「グロオンッ」
「グガァアアアッ」
狂い鬼が棍棒を全力で振ってネイキッドベヒモスの正面にある巨大な一本角へとブチ当てる。だが狂い鬼といえどもネイキッドベヒモスを止めるには至らない。ネイキッドベヒモスは当てられた一撃には顔をしかめたがそのままの勢いで狂い鬼を弾き飛ばした。しかし、わずかにではあるがネイキッドベヒモスの動きが鈍った。それを見逃さぬ男がいた。
「シップー!」「なーーーー!!」
ひとりと一匹の声と共に雷と風の化身の如き速度で一閃が放たれる。ジンライとシップーがカウンターをぶつけたのだ。それは片足を切り裂いた程度ではあったがネイキッドベヒモスの速度はさらに遅れ、
『うりゃぁあああ!!』『喰らえぇええ!!』
そこに風音ドラゴンがそれぞれに白き炎と黄金の光を宿したふたつの刃を重ねてネイキットベヒモスへと振り下ろした。ほんのわずかではあるが、そのわずかな時間の差が風音ドラゴンの攻撃をジャストにネイキッドベヒモスへと振り下ろさせた。
『クッ、硬い!?』
『神々の炎でも切り裂けない?』
しかし、刃はネイキッドベヒモスの体を通らなかった。ネイキッドベヒモスの一本角が刃を受け止めているのだ。その激突に『黄金の黄昏』と『 焔・弓花(ほむらゆみか) 』の纏う魔力とネイキットベヒモスの闘気が重なり、魔力光の火花が散る。
『けどっ』
風音ドラゴンが笑う。確かに攻撃の力は互角。しかし、ネイキッドベヒモスの動きは止めたのだ。であればもはや勝利を得たも同然であった。
同時に、横から突撃してきたタツヨシくんケイローンがファイアドリルで胴を貫く。ホーリースカルレギオンが 神聖物質の(ホーリー) バルディッシュを背に振るう。ロクテンくんが斬馬刀『断頭』で、黒ミノくんが斧腕でそれぞれに手足を切り裂き、ユッコネエドラゴンが喉元を噛みついて抉る。
そして、力の弱まったネイキッドベヒモスに対して風音ドラゴンは竜気を漲らせて、両手の武器にさらに力を込めていく。
『ォォオオオオオッ!』
そして風音の気合いの叫びと共にネイキッドベヒモスの一本角が宙を舞った。そこに風音は刃を振るい、その顔をバツの字に切り裂いたのだ。
「グロォオオンッ!!」
ネイキッドベヒモスから悲鳴があがる。しかし、そこに情けを掛けるほど風音も甘くはない。
『トドメェエッ!!』
風音はネイキットベヒモスの叫ぶ口へと『 焔・弓花(ほむらゆみか) 』と『黄金の黄昏』を一気に突き入れ、体内を貫いた。
「グロロロォォオオンッ!?」
そのまま刃から発せられた黄金の光と白き炎がネイキットベヒモスの内部を焼き、さらなる絶叫をあげさせる。やがてはその声も小さくなっていき、ついに超獣は静かに崩れ落ちた。それがネイキッドベヒモスの最期だった。