軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十五話 ブンブンと振ろう

オロチが目覚めたのは、見たことのあるどこかだった。

(どこだ……ここは?)

オロチが周囲を見回すと、自分のいる場所がサンダーチャリオットトレインの中であることに気が付いた。オロチにしてみてもここまで装飾華美な部屋というのはそうそう見られるものではなかったので見間違うということもなかった。また彼の横には同じパーティの仲間であるミナカもいたのである。そのミナカがオロチの目覚めに気付いて優しく微笑む。

「目、覚めたようですね。ご気分はどうですか?」

かけられた言葉に、オロチは少し呆けた顔をしながら口を開く。

「あ、ああ。いや、俺は……」

そこから先の言葉が出ない。オロチは自分の記憶が欠落していることに気が付いたのだ。ここまでに何をしていたのかがおぼろげにしか思い出せない。

(俺は仲間たちとともに、ベヒモス討伐に赴いて……)

オロチは意識を集中して記憶を辿る。そして白き一団、シールドバース、風の使いと自分は共に戦いを開始したはずだったということまでは思い出した。

(そこから先はベヒモスとアーマードベヒモスを分断し、 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) でアーマードベヒモスを縛ってから……それから俺はどうしたんだ?)

先の記憶がない。オロチの頬に冷たい汗が流れる。重要なことを思い出したのだ。

「ミナカ、ベヒモスはどうした? アーマードベヒモスはどうなったんだ?」

血相を変えて尋ねるオロチの言葉に、ミナカは少し考えてから口を開く。

「大丈夫ですよオロチさん。討伐は完了しています」

その返答にオロチは若干安堵しつつも確認の質問を続けた。

「連中は倒せたのか?」

「はい。オロチさんがアーマードを抑えていてくれたおかげでなんとか。でも今回はかなりギリギリでしたね、まさかオロチさんが倒れてしまうなんて初めてでしたし」

「倒れた? 俺が?」

オロチは改めて自分の状況を確認しようと己の記憶を探る。ジンライたちが誘導し、分断したアーマードベヒモスを 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) で縛った後、白き一団のメンバーの一人の攻撃でアーマードベヒモスの 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) が発動したことまでは記憶にある。その爆発にオロチも巻き込まれたのも覚えている。

(そうだ。そこまでは……)

そこで確かにオロチはかなりのダメージを受けていた。しかし、その後にオロチは 巨人(ティタノ) 族のスキルである『リジェネレイト』である程度の回復はしたはずだった。少なくとも意識を失うほどではなかったとオロチは記憶している。

(それから、何か……何かがあったはずだ)

そう考えたオロチの脳裏に何かが浮かんだ。

肉の臭い……恐ろしい声……変わり果てた少女……炭化した腕……

ザクリとかつて魔物に身体を貫かれた時のような熱さがオロチの脳裏を抉った。頭の中をガリガリとヤスリで削られているような、全く分からない恐ろしい感覚がオロチを襲った。

「あ……あああぁ……あぁぁぁあ」

気が付けばオロチは震えていた。全身をガタガタと震わせ、大量の汗が噴き出していた。そのオロチの様子にミナカが目を丸くする。

「ちょっとオロチさん、どうしたんですか?」

「あ……俺は?」

そしてオロチは、気が付けば全身から汗がビッショリと流れ出ているに気付いた。それからオロチは驚きの顔でまだ震えている両手を見る。

「俺は今……何を?」

分からないが、何か得体の知れないものを触れたような怖さがあった。オロチがそれが何かをさらに考え込もうとしたところでミナカが声をかけた。

「まだ疲れてるんでしょうね。今は休んでてください。どうせ今は素材取りだけなんですし」

そう言われてオロチはまた呆けた顔をして、ミナカを見る。

「ああ……すまない。どうやら……疲れているのは事実のようだ」

オロチはつい先ほど思い出したかもしれない【自主規制】のことを頭から消し去ってそう返した。

もうオロチの中ではその過去を思い返そうという気持ちも消えていた。オロチは、己の中から辛い思い出を消去することで人としての正気を保っていたのだ。オロチの中の無意識の部分がそう判断していた。

「そうか、討伐は終わったのか……ならば良いのか」

オロチは天井を見ながらボウッとした顔でそう呟く。それを少しだけ心配そうに見ていたミナカだが、どうやら落ち着いてはいるようだと判断し、オロチの意識が目覚めたことを伝えにサンダーチャリオットトレインを出て、仲間たちの元へと戻ったのであった。

◎ユイヘサルの森

「グォォオンッ!」

巨大な黒鬼が木々を絡ませたネイキッドベヒモスの角をブンブンと振り回していた。その角は、4メートルはある巨大なもので、それをドラゴンイーターの集合体でできた樹木に絡ませることで新たなる棍棒となったようである。

それを見ながら風音が他のパーティに謝っている。

「ごめんね。なんか狂い鬼が気に入っちゃったみたいで」

「いんや、そっちの活躍のおかげでどうにか倒せたわけだしな。他のベヒモスの素材がもらえるってんなら俺らとしては万々歳だよ」

シールドバースのリーダーであるハン・モックが笑いながらそう口にする。

正直に言ってしまえば、彼らとしては本当に命拾いしたという気持ちであった。ベヒモス二体までならば彼らでも長時間かければなんとかなっただろうが、アーマードベヒモスは確実に全滅させられていただろう相手だ。それだけ暴風の加護と 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) の組み合わせは凶悪すぎた。

その上にベヒモス素材については風音が街まで丸ごと運んでくれるというのだから、文句の出ようはずもない。何しろベヒモスは大きいため、持ち帰るにしても部位を選んで残りは焼却処分せざるを得ないのが普通である。

放置しておくと他の魔物が食べてしまい、強力な魔物を生み出してしまうためである。なので彼らにしてみれば今の状況は至れり尽くせりであったのだ。

その横でレイブンソウルのメンバーであるロイとオーボエは目の前の黒鬼を呆然と見ていた。

先ほどの戦闘前よりも狂い鬼は一回り大きくなっていたのだ。それはアーマードベヒモス、改めネイキッドベヒモスの肉を食べた影響だった。

狂い鬼は 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) のスキルを手に入れ、表面の肉体がまるで装甲のように硬く強固になっていた。増量によりその身長も5メートルほどに成長していた。

「うちのタケチカにも喰わせてみるか?」

「止めとこう。強くはなりそうだが動きが鈍くなると目も当てられないぞ」

強力な魔物肉はそれを食べた魔物に変化をもたらす。しかし、それが必ずしも良い変化だけとは限らない。ハイプラズマパンサーであるタケチカのようにスピード勝負の魔物の場合は同系統の魔物の肉でなければ逆に鈍くなることもあり得るのである。

ともあれ、風音としては狂い鬼の変化は満足のいくものだった。

「よーし、その状態をアーマード狂い鬼と名付けよう」

「うがぁあああ」

風音の言葉に狂い鬼が嬉しそうに吠えていた。なんだかかっこいいと思っているようである。

「あれ? ということはネイキッド狂い鬼にもなるのかな?」

「うがぁあ?」

それは狂い鬼にも分からないようだった。また、その確認には 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) 化した皮膚をすべて爆破する必要があるため、すぐに確認というわけにも行かない。

「まあ、それは後で検証することにして、タツオとユッコネエの方も少しは変化したみたいかな?」

『はい。母上』

「にゃー」

風音の言葉にタツオとユッコネエも喜ばしげに返事をする。

実はタツオにはブルートゥザ以降魔物肉を食べさせていなかった。いくら魔物肉によって成長できるとはいえ、タツオはまだ幼くその身体もまだ完全には固定しきっていない。

場合によっては強力すぎる力に支配され、キメラ化する場合もある……という話であり、少し間を置こうと控えていたのだが、そろそろ頃合いとここで新鮮なアーマードベヒモスの肉を食べることを許可したのだ。また、それによってもたらされた力とは、

『どうやら少し水晶が硬くなったのと、クリスタルシールドを爆発させられるみたいです』

「にゃーにゃー」

全身の水晶部分がやや硬質化したタツオがそう応え、ユッコネエも己の七本目の尻尾をフリフリと振って見せた。狂い鬼に比べてユッコネエはすでにある程度成長しきった面もあるため変化は薄かったのだが、能力が上がったために尻尾が七又になっていたのである。

「うんうん。良い感じだね。タツオの方もまたしばらくして落ち着いたら別の魔物肉をあげようね」

風音の言葉にタツオもくわーっと鳴いた。タツオは今戦闘において魔物肉を食べる前にもさらに力を伸ばしていた。『直感』を『未来予測』と呼ばれるほどのものへと昇華させ、さらにはクリスタルシールドの形状を変化させてクリスタルソードとでも言うべき武器を手に入れていた。

それはネイキッドベヒモスから得た水晶爆破能力と合わさることで、さらに強力になっているはずであった。また一歩、タツオの将来が末恐ろしくなった瞬間である。

「みなさん、オロチさんが目を覚ましましたよ」

そんな風音たちの後ろからそんな声がかかる。それはサンダーチャリオットトレインから出てきたミナカであった。

こうしてベヒモス討伐の緊急クエストは無事完了した。後は冒険者ギルドに報告し報酬を得るだけである。

(というか、このスキルはここじゃあ試せないなあ)

風音がひとりぼやきながらスキルリストのウィンドウを開いていた。今回、レベルこそ上がらなかったものの風音は『暴風の加護』と『最速ゼンラー』というふたつのスキルを手に入れていた。

『暴風の加護』はすでに戦闘中にも効果が発揮されているし、その能力が非常に有効であることも実証されている。しかし『最速ゼンラー』、このスキルの表記を見ながら風音は大いに唸った。

(こんなもの……どうしろと?)

衣服を脱ぎ、裸で戦えと?

その仕様条件の難しさに風音は唸らざるを得なかったのである。