軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十三話 爆破を受けよう

その場に金属音が響き渡った。

それはアーマードベヒモスを封じていた黄金の鎖が粉砕されて飛び散った音だった。風音たちの見ている前でオロチが崩れ落ちるのと同時に、強大な魔獣が解き放たれたのであった。

「グロロロォォォオオオオオオオンッ!!」

解放されたアーマードベヒモスはその場で凄まじい咆哮を発した。それは怒りであった。自らを拘束された怒り、食事を邪魔された怒り、矮小なる存在に楯突かれた怒り、何よりも己の群れの仲間を殺された怒りがアーマードベヒモスの中でマグマのように湧き上がっていた。その怒りが殺意の籠もった威圧となって周囲にまき散らされていた。

「鎖が切れただなんて。あの魔物は 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) をも破壊するほどのパワーを持っていると言うのですか?」

ミナカが叫んだ。後衛にいるロイとオーボエにしても同じ気持ちであっただろう。レイブンソウルのメンバーはオロチの持つアーティファクト 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) の性能をよく知っている。大型の魔物と対峙する際には必ずと言っていいほど彼らはその恩恵に与っていたし、今まで 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) が破壊されたことなど一度もなかった。しかしそのミナカの言葉を風音が否定した。

「違う。オロチさんの意識が途絶えたんだ。大丈夫だって言ってたけど、さっきの爆発のダメージが残っていたから……もう限界だったんだよ」

風音はレイブンソウル以上にアーティファクトの性能の高さを知っている。だから、原因は魔物の力ではないと即座に見抜いていた。オロチの倒れた原因については見抜けていないようだったが、それは今の段階では些細なことだった。

(問題はアーマードベヒモスの前でオロチさんが倒れているということか)

救いに行くにも距離が離れすぎている。若干の焦りを持って風音が直樹に声をかける。

「直樹、オロチさんを!」

「了解だ姉貴」

直樹はそう返事をするが、同時にアーマードベヒモスの咆哮が再び響き渡る。

「グロロオオンッ」

ほぼ炭化していてなお動き続けているアーチがその叫び声と共に右前足で弾き飛ばされた。そして「グリリーン。君だけでも生きてッ」と叫びながらアーチは魔力の光となって消滅していった。自らの爆弾のダメージだけではなく、 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) によるダメージも蓄積されていたが為にアーチの体力ももう限界であったのだ。続けて、倒れているオロチをアーマードベヒモスは見ると、そのまま一気に駆け出した。

「オロチさんッ!?」

ミナカたちが叫び声をあげる。オロチの倒れている場所は彼女たちが助けられる距離ではない。故に誰も駆け寄ることができぬまま、アーマードベヒモスの前足がオロチの倒れていた場所へと一気に叩きつけられ、その勢いで土塊が舞った。

「あ、ああ……」

あまりにも呆気ない仲間の死を彼らは想像し顔を強ばらせたが、風音の方は安堵の息を吐いていた。

「ふぅ、間に合ったね」

風音の視線はアーマードベヒモスの前足の先……ではなく、そこから少し離れた場所へと向けられていた。直樹と、直樹に支えられながらグッタリしているオロチの姿がそこにはあった。

「おいミナカ。うちのリーダーはまだ生きてるぞ」

「え? ああ、ナオキさん。良かった」

そのことには他のメンバーたちも気付いていたようで、嘆きの悲鳴が歓声へと変わった。風音の指示により直樹は 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の短距離転移で瞬間移動し、ギリギリのところでオロチを回収したのである。

もっともミナカたちの喜びの声とは対照的にアーマードベヒモスの方は前足をあげて獲物がいないことに不思議そうな顔をした後、獲物を逃したことは理解したのかさらなる怒りの咆哮をあげたのだ。

「来るぞっ、どうするカザネ?」

ジンライの言葉に風音が難しい顔をする。

「アーチがかなり削ってくれてるみたいだけど……各召喚体を先頭にまずは 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) を削りきるしかないね」

中長距離防御の暴風の加護と近距離防御の 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) の合わせ技は風音にしても厄介なものだった。だから風音がこの場でとっさに思いついたのもダメージを負っても平気な召喚体による特攻のみである。

そして風音の指示で戦闘メンバーがそれぞれ退き始め、ティアラの 炎の騎士団(フレイムナイツ) と風音のダークオーガ軍団やライトニングスフィア、直樹の魔剣解放された飛竜たちやホストなど総勢四十名を超える召喚体たちがアーマードベヒモスへと突撃していく。

「グロロオオオオオンッ」

それらに攻められたアーマードベヒモスは向かってくる相手を容赦なく弾き飛ばし、角で串刺し、前足で潰していく。また、たとえ召喚体が攻撃に成功したとしても 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) によって召喚体は弾き飛ばされるが本体へのダメージはほとんどないようだった。

「やはり、やりおるな」

ジンライが目を細めてその様子を眺めている。暴風の加護で雷神槍も弾かれるのでは今のジンライにはアーマードベヒモスと戦う手段がなかった。もちろん己のダメージも省みずにであればなんとかはなるが、召喚体が挑んでいる今、自らダメージを負いに行く意味はなかった。

「せめて暴風の加護だけでも削りきれればな」

「カザネ、先ほどのはもう一発撃てないのか?」

「弾切れだよ」

ライノーの問いに風音がそう返す。スキル『ソードレイン』は実際の剣があってこそのもの。しかし百本以上はあるアダマンチウムソードは今ベヒモスたちの亡骸と共に散らばっているし、回収している余裕も当然なかった。黒炎装備で剣は作成もできるが百本も揃えるのでは魔力を使いすぎる。

『お爺さま、このまま行きますわよ』

『くくく、よもや余が孫娘と肩を並べて戦う日が来るとはな』

また召喚体の攻撃の中でもっとも効果があったのは地上で突撃をしているティアラの 炎の騎士団(フレイムナイツ) であった。大盾を持ちながらアダマンチウムの槍で突くという極めて堅実な攻撃スタイルは、 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) の爆発も防ぎ有効であるようで、メフィルスもフレイムグリフォンから降りて今は同じ戦闘スタイルにシフトしているようだった。

(うちには防御もこなす前衛職が少ないからなぁ)

風音が渋い顔をして戦況を見守る。白き一団前衛の基本は避けることにあるため、ダメージを与えればほぼ確実に自分も攻撃を喰らう今回のアーマードベヒモスとは相性が非常に悪かった。

「グロォォオオンッ!」

そう風音が考えているところに、アーマードベヒモスのさらなる咆哮があがった。

「ん、何?」

風音はアーマードベヒモスに何か変化が起きたことに気付き、目を凝らす。スキル『直感』が猛烈な脅威の到来を伝えてきている。

「来るぞッ、みんな避けろっ」

ライノーが声をあげた。ライノーも気付いたようだった。アーマードベヒモスは何かをする気なのだと。

『全身が光って?』

『お爺さま、マズいですわ』

正面にいるティアラとメフィルスの召喚体もそれには目を丸くする。そして、アーマードベヒモスの全身が輝きだし、大爆発が起こったのだ。

「うわっと!?」

爆発による衝撃波と土塊や岩の欠片などが飛び散る。しかし風音を中心としたその場をスキル『暴風の加護』が覆い、それらからその身を護らせた。

(こりゃあ、便利だ)

風音は目を丸くして己が発動したスキルを見ていた。『暴風の加護』は風音の意思とは関係なく常時発動待機しているパッシブスキルだ。その性能の高さには風音も驚いたが、ともあれ今は目の前の状況である。

「 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) をすべて爆破しての……自爆?」

「いや、まだヤツはいるぞ」

風音の言葉にジンライがそう返す。

それから風音が爆心地を見るが、確かに爆発の中心では何かがまだ動いていた。周囲の召喚体はあらかた消滅し、天鏡の大盾を持って防御していたメフィルスとそれに護られたティアラの 炎の有翼騎士(フレイムパワー) 以外には残った者はいないようだった。

( 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) を自ら爆破させて周囲にダメージを与えた? だったら、今は普通に攻撃が通……る?)

風音がそう推測しながら、土煙の中から出てくるソレを見た。

「普通のベヒモスよりも小さい……いや、細いね」

それはよりスマートになったベヒモスであった。アーマードベヒモスはいわば装甲のような皮膚を爆破して剥がし、ネイキッドベヒモスとでもいうような姿へと変わっていたのだ。

「……弱くなった?」

弓花が疑問の声をあげる。これから起こる戦いへのわずかな希望が口に出た形だが、それは即座に否定された。

「いや、違うぞ。これはッ!?」

「マズい。逃げてっ」

危機を感知したジンライと風音が全力で叫んだ。同時にネイキッドベヒモスが走り出す。それはこれまでとは比較にならない速度だった。重い鎧を脱ぎ捨て、すべての力を速度に回したネイキッドベヒモスが風音たちに向かって突撃してきたのである。