作品タイトル不明
第五百九十話 頑張りを見せよう
タツオがくわーっと鳴いた。
レームが 雷神砲(レールガン) を撃ち放つ直前にタツオも風音と同様に『直感』が働いたのだ。のみならず、タツオには若干ながらその未来が朧気ながら見えていた。『直感』によって研ぎ澄まされた感覚がここから先の未来を予測し、とっさに己の纏っているクリスタルドラゴンゴーレムをアーマードベヒモスと自分とレームの前へと飛び込ませた。
そして爆発が起きる。
くわーーーーっとタツオが鳴いた。
タツオはクリスタルドラゴンゴーレムを盾にすることよって爆発の直撃を避けることに成功した。しかし、盾となったクリスタルドラゴンゴーレムはすぐさま崩壊していく。
レームの放ったアダマンチウム弾を弾くほどの威力なのだ。クリスタルドラゴンゴーレムの耐久力ではほんの一瞬の時間を稼ぐ程度にしかならない。タツオも、ゴレムスキャノンに乗っているレームもこのままでは危険だった。
(ですが私が護ります!)
タツオは諦めずに己の能力を発動させる。それは『クリスタルシールド』と呼ばれる、魔力体でできた水晶の盾。それをタツオは瞬時に己の前面に張った。
(くっ、ダメです。衝撃がッ)
もっとも襲ってくる衝撃にクリスタルシールドは耐えきれない。バキバキと崩れゆく己の障壁にタツオがくわーっと叫んだ。
そしてタツオは思い出す。収束メガビームを生むための変形クリスタルシールド。収束し威力を上げるために屈折率を変え、より一点に届くようにと訓練し、未だ成功していないソレを思い浮かべた。
(一点に集中……威力を上げる、つまりは逆に考えれば)
タツオの意識の変化とともに明確にクリスタルシールドの形が変化していく。盾の面ではなく、より先鋭化していく。それは点ではなく線。全方位に均等にエネルギーをまき散らせるほどの形状変化は今のタツオには難しい。しかし線ならば今のタツオには可能だった。
くわーーーーーっ!
タツオが叫び、出現した巨大な水晶の剣が目の前の爆風を切り裂く。ここまでのわずかな一瞬。その中でタツオは未来を掴み取ることに成功した。
くわーーっ!?
そしてそれでもなお削りきれなかった衝撃波がタツオとレームを襲い、ふたりは宙を舞うこととなる。
「タツオ、レームッ!?」
その様子を上空から見ていた風音が叫んだ。だがタツオもレームも大地にゴロゴロと転がり落ちはしたが、どうにか無事であるようだった。
「良かった」
風音からホッと安堵の息が漏れる。
さすがの風音も肝が冷えたようだった。アーマードベヒモスが行ったのは攻撃ではなく自動防御の一種である 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) 。
それは攻撃接触時の圧力を感知し内側から爆破して装甲版を飛ばすことで衝撃を殺す装甲である。実際の戦車などに使用されているものと同じ原理かは分からないが、アーマードベヒモスの分厚い壁のごとき皮膚には同様の効果があるようだった。それはかつて弓花たちがウーミンの街で遭遇した黒竜ハガスと同じ能力であり、自らの攻撃ではないために 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) でも防ぐことはできないシロモノだ。
そんなものをタツオがどうやって防いだのかまでは風音にも把握仕切れなかったが、ふたりはどうにか難を逃れたようだった。もっとも助かったのはレームとタツオのふたりに限定されたものだった。
「……オロチさん」
風音の眉間にしわを寄る。
タツオとレームからわずかに離れていたオロチは爆発の直撃は食らってはいなかった。しかし、離れていたがためにタツオの防御圏には入っておらず、また 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) を操作していたが故に防御も間に合わなかった。当然、直撃ではないにしても相当のダメージだったのだ。
だが血塗れのオロチはその場で立ち上がり、上空の風音に振り向いて叫んだ。
「俺に構わず行けッ」
その言葉に風音が少しばかり躊躇する。オロチのダメージはかなりのモノのはずだ。最悪直樹の英霊フーネの力を借りようかとも思っていたところだったが、そんなことを考えている間にオロチの傷が徐々に治っていくようだった。
それはオロチがスペリオル化して得た 巨人(ティタノ) 族が持つスキル『リジェネレイト』だった。
「見ての通り、頑丈な身なのでな。さっさとほかのヤツを倒してくれ」
少しずつ回復しつつあるオロチの言葉には風音も頷く。そして風音は翼を広げてベヒモスたちの方へと飛んでいった。
「チッ、ダメか」
『仕方ありませんよ。下がりましょう』
風音が飛んでいる下では、悔しそうな顔をしたレームにタツオが声をかけていた。ゴレムスキャノンの砲身は曲がっていた。タツオはレームを護ることには成功していたが、砲身の長さが仇となって防御圏外にはみ出して爆発のダメージを喰らっていたのだ。
元々の予定では、風音たちがベヒモスたちを倒している間にレームが 雷神砲(レールガン) モードを近距離でぶっ放してアーマードベヒモスを倒す予定だった。だがそれはもうできない。
『あれはどうしようもないです。離れて撃てる限りのメガビームであの装甲を破壊してみます』
接近戦はアーマードベヒモスの 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) のダメージを喰らってしまうし、距離を離せば暴風の加護に防がれてしまうのだ。厄介きわまりない相手であった。
「ふふん。ここはぼくの出番のようだね」
そこに、唐突にある人物が前へと一歩を踏み出した。
『あなたはッ』
「誰だ?」
タツオとレームが揃ってその人物を見る。そこにいたのは全身にカラフルなお花畑を模した鎧を纏った、金髪の女であった。その女は背には天使の翼、頭には光る輪っかがあり、右手には血にまみれた黄色いひまわりの形をした鈍器を、左手には絶望を形にしたような老婆の顔を象った盾を持っていた。
そんな奇妙な出で立ちの女はまるで戦場に似つかわしくない、にこやかな笑みをしながらレームたちの横を通り過ぎる。
その笑みはきっと誰もが笑顔を返したくなるような優しそうなものであったが、返り血に染まった顔ではサイコさんにしか見えなかった。そんな明らかに何かがおかしい目の前の女を前にして、当然のことのようにレームとタツオの表情が固まる。
さらにはその女の後ろには血塗れの熊が共に歩いていた。その熊はハァーハァーと荒い息を吐いて興奮しているようにも見えたが、よく見ると瀕死の状態を踏ん張っているだけのようだった。
その姿にタツオが恐る恐る声をかけた。
『ええと、アーチさんですか?』
最近仲間になったレームは元より、タツオも実物は見るのは初めてである。だがタツオは以前に風音たちからアーチについての情報はある程度聞いていた。そして英霊アーチがタツオの言葉に頷きながらパチンと指を鳴らしてクマへと指示をする。
「グリリン、ふたりを安全なところへ」
「グマァアアッ」
アーチの言葉にグリリンが頷き、タツオとゴレムスキャノンから抜いたレームを担ぎあげるとそそくさとアーマードベヒモスから離れていく。どうやら今回はグリリンも普通に従うようだった。
「なんでぇ、こいつは?」
突然の乱入に眼を白黒させているレームにタツオが口を開く。
『ユミカの英霊です。アーチさんと言うはずです』
そしてタツオがノーマルなベヒモスたちのいる方を見ると、召喚した弓花が親指を立てていた。ウーミンの街での黒竜ハガス戦においてアーチが 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) 持ちに有効なことは実証されている。ならばいけるだろうと弓花は英霊アーチを喚んだようであった。
「それじゃあ、ぼくにお任せってね」
アーチがタツオとレームに親指を突き立てながら走り出す。
そして、アーチは懐から爆弾を取り出すとアーマードベヒモスへと突撃を開始したのだ。やることは変わらなかった。
なお、グリリンはアーチの爆発で飛んできた小石に当たって死んだ。