軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十一話 風を止めよう

「グリリンが見守ってくれている! だからぼくは頑張れるのだ! 友達が見ていてくれるから、熱い友情を感じるから、ぼくの内側から力が溢れ出てくるのだ! 君に分かるのかい? たったひとりぼっちで戦う君にぼくたちの、魂の絆で結ばれた暖かな仲間の力が! そうだよ! ひとりで生きているだけの君がぼくたちに勝てるはずなんてないのだよ!」

その声は……酷く歪な、壊れた声だった。

「おえーー」

オロチが吐いていた。酷かった。あまりにも、あまりにも酷すぎた。いくらゲームのキャラクターとはいえ、また喚び出し直せば元に戻るとはいえ、年頃の少女の姿をした者が爆弾を抱えて敵にぶつかっていっている。何度も何度も何度もだ。

もう【自主禁制】になってしまった【自主禁制】のまま、【自主禁制】を垂らして【自主禁制】が爛れて【自主禁制】【自主禁制】【自主禁制】【自主禁制】な感じになっているソレを前にオロチが己の胃の中のモノをすべて吐き出してもまだ嗚咽が襲われていた。時折チラリとこちらを向いてサムズアップしてくる姿が異常にグロテスクだった。英霊には痛覚がないのか、精神力でねじ伏せているのか、見た目ほどではないのか分からないが……オロチ的な印象としては、

「次はお前の番だぞ」

と宣告されているようにしか見えなかった。なお、英霊アーチのいうグリントベアのグリリンは先ほどお亡くなりになっており、対してアーマードベヒモスはぼっちどころか仲間たちとお肉を分け合いながら仲良くお食事中だったところを襲われた側なわけで、今も仲間を救いにいこうと 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) に縛られながら必死でもがいている最中である。アーマードベヒモスは仲間思いなボスであった。

そんなわけで英霊アーチの指摘は見当違いも良いところなのだが、自爆し続けている英霊アーチはなんだかとってもハイテンションになっていてよく分かっていないようである。

何が正義で、何が悪なのか、そうした定義を振りかざせるのは生きていることに余裕のある者だけの特権であり、ただ日々を生きることこそが闘いである者たちにとっては驚異となる存在を処理できるか否かだけが問題なのだ。

例え今まで被害がないからといってこの先もないかと言えばそうではないのだ。襲われてからでは遅い。己たちの生存のために己以外の命を刈り取る必要が人にはあった。

そんな深いか浅いか分からないことをグルグルと考えながら、オロチは必死に己の気を紛らわそうと努力し続けていた。

あの美しい少女の声が今や壊れたラジオのような声になっている。目は閉じられる。だから惨状を見ずには済む。しかし、聞きたくないのに耳は閉じられない。オロチはついに泣き出した。酷くて、悲しくて、普通の感性を持つ心優しい男は目の前の地獄と世の無常に涙していた。

それから必死で、ただ必死で 制約の黄金鎖(ギアス・ゴルディチェーン) をつなぎ止めようと、それだけを考えながらオロチは全精力を振り絞った。ボロボロと涙を流して耐え続けていた。しかし、オロチの限界は近かった。

**********

「よーし、どんな感じかなぁ?」

オロチが泣いている一方で、風音は上空から戦場を見渡していた。

先ほどのアーマードベヒモスの 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) の爆発によって仲間たちは警戒から一瞬動きを止めざるを得なかった。そのために一度は分断したはずのノーマルベヒモスたちは合流してしまい、仲間たちは当初の予定よりも難易度の高い状態での戦闘となっていた。

『くくく、あの大こ……いや、仮面の槍使いライノーと共に戦えるとはなんたる僥倖か』

「はっ、頼りにしているぞ」

そんな中でジン・バハルがとても張り切って戦っていた。ジンライがシップーで高速移動しながら攻撃しているため、先ほど召喚された骸骨竜騎士ジン・バハルはユッコネエから降りて単独で戦闘に入っているライノーと肩を並べて戦っていたのだ。時代は違えど、己が忠誠を誓った存在と共に戦えることにジン・バハルは非常に充足し、ライノーも古の槍使いの業を間近に見られて満足していた。

「やっぱりダメか」

もっとも、その後方に控えて矢を射っていたはずのエミリィの方は対照的に悔しそうな顔をして弓を降ろしていた。何度か射ってはみたのだが、放った矢はすべて暴風の加護によって封じられ、それどころか発生した暴風によって味方にまで被害が出る始末であったのだ。竜人化でパワーアップはしたエミリィだがそれでも弓使いという職業自体がベヒモス相手には厳しかった。

「エミリィ、しゃあねえさ。今は耐えとけ」

「ごめん兄さん」

近付いてきたライルの言葉にエミリィが顔を落とす。

そしてライルは肩をすくめながら再びベヒモスへと特攻していく。一撃の威力であれば、竜気で加速させたライルの一撃が前衛メンバーの中ではもっとも威力がある。ジンライやライノーたちが足を切り裂き動きを封じている状態のところに一気に突撃をかますのが今のライルの役割となっていた。

その突撃技をライルはひとまず『竜閃』と名付けていたが、それは強引に竜気を放って行うただの力技であり今はライルにしか使いようがないモノだった。

『行くぞーーーーー!!』

『行きますわ』

さらには上空からメフィルスの 炎の騎士団長(フレイムナイトリーダー) が率いる 炎の鷲獅子騎士団(フレイムグリフォンナイツ) が、地上からはティアラの操る 炎の有翼騎士(フレイムパワー) 率いる 炎の騎士団(フレイムナイツ) が突撃と離脱を繰り返している。

ティアラのレベルが上がったこと、隊の指揮をメフィルスにも任せられるようになったこと、またドラゴンイーターマザー戦でも使用していた大型の蓄魔器ランドセルにより魔力量が増加したことで、ティアラはこのようにメフィルスと連携し二隊の 炎の騎士団(フレイムナイツ) を操ることにも成功していた。腹筋の割れ具合と共にティアラの成長も著しくなっていたのである。

またシールドバースと風の使いも全力で壁代わりとなって、アーマードベヒモスへの接近とオロチへの攻撃を封じ続けていた。特化型のパーティの強みがそこにはあった。

もっともそこまで健闘している状態ではあるのだが、如何せん暴風の加護により中長距離の攻撃がすべて封じられているためにヒットアンドアウェイで少しずつ削り取るという消極的な手段に出るしかない状態でもあった。大技に出るには敵の活きがまだ良過ぎた。

(こりゃあ、オロチさんがいなかったら厳しかったなあ)

風音は眉をひそめながらそう考える。

今この状態にアーマードベヒモスが参戦してきた場合、風音もいよいよ切り札を出さざるを得ない状況になる。できればそうなる前にケリをつけておきたいというのが本音であった。

「よしっ、やるかッ」

風音は自分の頬をパーンと叩いて気合いを入れると、自分の 僕(しもべ) たちを一気に活性化させた。

そしてベヒモス戦に参戦していたユッコネエがその場で黄金の水晶竜へと変わり、巨大な骸骨の集合体ホーリースカルレギオンが、両手が斧となっている黒い甲冑を纏ったミノタウロスの黒ミノくんが、半人半馬のゴーレム兵タツヨシくんケイローンが、大刀を持った鎧の巨人ロクテンくんがうなり声をあげるように動き出した。

さらには白き翼を広げた狂い鬼と二十三体のダークオーガ軍団が出現し遠吠えをあげたのだ。

なお、タツヨシくんケイローンは 知性の金属(インテリジェンスメタル) により意志を得たことで、ホーリースカルレギオンを従属させ操作することに成功していた。今やベビーコアのあまりある魔力供給によりホーリースカルレギオンはケイローンと共に常時活動も可能となっているのである。

「 人外の軍勢(アウターレギオン) ……」

シールドバースか風の使いか、はたまたレイブンソウルの誰かがそう呟いた。しかし、誰もがその言葉に異を唱えることはなかった。もはやそこにいたのは、その多くが人ではない存在によって固められた人外の軍勢であった。そんな言葉が漏れたとは気付いていない風音は続けての策を出す。

「スキル・ソードレイン」

スキルが発動されたと同時に風音のアイテムボックスから大量のアダマンチウムの剣が出てくる。スキルの発動により操作されている剣たちはまるで巨大な翼のように風音の左右へと並んで浮かんだ。

「カザネ、やるつもりね。全員下がりなさい。後衛、攻撃準備!」

その風音の様子を見たルイーズが声をあげる。その言葉に従って仲間たちが一斉に下がり始める。

元々風音の行動は予定されていたもの。事前にこの行動は決められていた。そして、これから行うのは暴風の加護対策のひとつで、攻撃射程から全員が離れたところで風音は両腕を一気に振り下ろした。

「いっけぇえええ!」

風音の叫びと共に周囲の剣たちが一斉に放たれる。そのまま百を超える剣の雨がベヒモスたちに降り注ぎ、暴風の加護を強制発動させる。

「グロォオオオオッ!?」

ベヒモスたちが叫んだ。降り注ぐ剣の数の多さに発動し続ける暴風の加護が凄まじい勢いでベヒモスの体内魔力を吸い取っていく。そして降り注ぐ剣の雨の中、ついに魔力が一時的に枯渇しベヒモスの暴風の加護が散らされた。それこそが勝機だった。

「今よ! 撃ちなさいッ!!」

暴風の加護の消失を確認したルイーズの声がその場に響き渡る。同時に矢と投擲槍と魔術が放たれ、そのすべての攻撃がベヒモスたちの巨体に直撃したのだった。