軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百八十話 けが人に会おう

◎ゴルディオスの街 白の館 中庭

カンッと金属同士のぶつかり合う音が響いた。

それは女と女。刀と槍。得物の違う同性同士の闘い。

「ふっ」

ミナカの刀を弓花の槍が弾き、続けて突こうとする弓花の懐にミナカが瞬時に飛び込んだ。かつての弓花に見せた雷神化とは違い、部分的に雷神化する『雷纏い』と呼ばれる技をミナカは体得していた。それによりミナカに雷の如き速度の踏み込みを可能とさせていた。

(速い。けどッ)

弓花はそれを見ても動じない。超至近距離にまで迫ったミナカに対し弓花の胸の谷間付近から白き炎纏う刀が飛び出したのだ。それはアイドル的には出すならば口よりは胸の谷間だろうという小賢しい知恵を絞った結果である。

「なっ!?」

その攻撃をミナカはとっさに避ける。飛び出た刀をわずかなステップでかわしきりその場から離脱する。

しかし弓花もそれを見逃すほど甘くはなかった。ミナカを追いながらの移動に無理な態勢になるも、槍を振るっての重心移動により姿勢を整える。その一瞬の所作に目を見開き驚くミナカに対して弓花はそのまま槍を放った。

「あ、参りました」

そしてあがった声はミナカのモノだった。ミナカの目の前には弓花の聖者の槍の刃が向けられていた。

こうして、久方ぶりの友人との会合は弓花の勝利で終わったのであった。

◎白の館 左館 大浴場

「はぁー。私も随分と鍛えたつもりだったのですけれどもね。ユミカには差を付けられてしまいましたか」

「いや、ギリギリだったと思うけど。後、私は槍術以外のものも出しちゃったし」

久方ぶりの再会から模擬試合後の裸の付き合い。

弓花の誘いにはミナカも快く応じ、ふたり仲良く汗を流そうと炭酸温泉に入ることになったのである。

「ふぅ。それを言ってしまうと私も『雷纏い』まで見せたのだから同類ですね。それにあの白い炎の刀には確かに驚きましたけど、一体なんなのですか?」

「ああ、こいつね」

そう言って弓花が己の腕からスルリと白炎の神刀『ヒノカグツチ』を取り出した。その炎の輝きにはミナカも思わず魅せられる。

「白い炎……なんて美しい輝き」

「旅の途中で取り憑かれたんだよね。昔はマサムネって言ってたんだけど今はこの白い炎が宿っててヒノカグツチって名前に変わってるみたい」

なお、アイテムボックスでの名称がそうなっているのでそう呼んでいるだけであったりする。

「マサムネ。以前に祖国でその剣の話は聞いたことがありますが」

「風音が言うにはマサムネってのは何振りかあって、ジャパネスにも今はあるらしいって話だったかな」

弓花の言葉にミナカが「なるほど」と頷く。

「しかし、綺麗ですね。本当に……」

ウットリと眺めるミナカの視線はヒノカグツチ……だけではなく、少し逸れて白き炎に照らされて艶めかしく輝く弓花の肌に向けられているようだった。その視線に弓花が一歩後ずさる。

「あの……ミナカ……さん?」

思わず上と下を隠す仕草の上に「さん付け」をした弓花に、ミナカが「ハッ」とした顔になって正気を取り戻した。

「ああ、いえ。すみません。悪魔との後遺症で……その、ちょっと」

正気の目に戻ったミナカがそう言って謝罪する。悪魔の影響とルイーズの影響でエロかったり同性に抵抗がなくなったりしているミナカである。未だにその残滓が彼女の心に跡を残していた……ということにしておくことにより彼女の心は現在保たれているようだった。

「ええと……うん。分かった。分かったから忘れよう。女の子同士はノーだから」

コクコクと頷くミナカに弓花も若干ひきつった顔で「そういうことで」と返した。そして弓花も悪魔のせいなら……と思うことにしたのだ。そう思いたかった。弓花はイケメンが大好きなので女の人とはゴメンナサイなのである。

「ええと。それでミナカは今レイブンソウルに所属しているんだよね。それで、ようやくゴルディオスの街に戻ってこれたってわけ?」

気を取り直した弓花の問いにはミナカは微妙そうな顔をした。

「そのつもりだったのですが。その、実はここへは仲間を連れ戻しに私一人できたんですよ」

「仲間って……カールさんだよね?」

弓花の問いにミナカが頷く。弓花も三日前に闘ったカールとは少し話をしているので、もうじきレイブンソウルが戻ってくるだろうことは聞いていた。しかし、ミナカの今の話によればどうやら事情が変わっているようだった。

「集まる予定にしていた宿にはいないようでして。仕方ないので冒険者ギルドで聞く前にちょっと、こちらに立ち寄ったんですよ」

そこまで言った後に、ミナカは弓花が神妙な顔をしているのに気が付いた。ミナカがその弓花の態度に首を傾げていると、弓花も意を決したように口を開いた。

「あー、うん。カールさんがいる場所なら私知ってるよ」

「え、どこです?」

そのミナカの問いに弓花は申し訳なさそうな顔しながら告げる。

「えーとね。病院……かな」

◎ゴルディオスの街 トートン病院 病室

それから弓花に案内されて、ミナカはカールがいるという病院へと辿り着いた。そしてカールがいるという三階の病室へと入ったのである。

「まあ、カールさん」

ミナカが病室に入るとベッドの上でカールが横になって眠っていた。

「癒術院からこっちに移ってるし今はもう問題ないんだけどね」

後ろで弓花がしどろもどろにそう言う。この世界では魔術による治療は癒術院、治療後の療養は病院という括りとなっている。

弓花が癒術院にカールを連れて行ったときには実はかなり危険な状態だったようなのだが、今では峠を越してこうして病院の方で回復を待つ状態となっていた。

「カールさん、誰がこんなひどいことを?」

「あ、はい」

ミナカの言葉に弓花が汗をたらたら流しながら告白した。

実は弓花はここに来るまでに切り出せなかったのである。弓花は、あなたのパーティのお仲間なら自分がフルボッコにしてやりましたよ。アハハハハハ……などとは、再会したばかりの友人にはとても言えなかった気弱な少女であったのだ。

「ええと、それは一体何が?」

その突然の告白にミナカが動揺していると、ベッドからガサッと音がした。それはカールが立ち上がった音である。

「ふう、ミナカだな。来るの……少し遅かったな」

「カールさん。大丈夫なんですか?」

思わず声をあげたミナカにカールは頷き、口を開く。

「余り大きな声を出すな。身体に響く」

「あ、ごめんなさい。けれど、これはどういうことなんですか?」

ミナカがベッドの横にまで来てカールに尋ねた。

「まあ灼体化が響いてな。今は少し大事をとっているだけだ」

「使ってしまったんですか。アレを?」

ミナカが呆れ顔でカールを見るが、カールは「ああ、良い闘いだったぞ」と笑って返した。

「それで、相手は……ユミカが?」

「うん。まあ」

弓花が苦笑しながら答える。

「あの狼になるヤツですか?」

「あれがちょっと大きくなったヤツで、ちょっと」

その弓花の言葉には、ミナカは「そんなことまでできるように?」と唖然としていた。

「素の槍使いだけの力じゃ勝てそうになくてさ。カールさん、強いから」

申し訳なさそうに言う弓花にカールは「気にするな」と返した。

「ちゃんと真剣勝負に応じてくれたのだ。あの戦いにはベヒモス戦以上の価値があった。あれを見ろミナカ」

そう口にするカールの視線の先をミナカが追うと、壁にはベヒモスホーンの槍が立て掛けてあった。それも以前よりもゴツい姿に変わっているようだった。

「槍が……まさか、この短期間に進化が起きたと?」

呆気にとられるミナカにカールが笑う。

「どうだ。そうならざるを得ないほどの闘いがあったのだ。武芸者としては胸が躍ろう」

「いや、これから仲間と合流してダンジョンに潜ろうってはずの人がなんで模擬試合でそんな闘いをしてるんですか?」

ミナカが頭を抱えながらそう返す。

「それは確かにすまないとは思うがな。しかし、こればかりは譲れなかったのだ」

そう口にするカールを見ながら弓花は、

(やっぱり師匠に似てるなー)

などと思っていた。

なんでも弓花が聞いた話では、カールはジンライと同郷の村の生まれ、つまりは弓花も寄ったことがあるソラエの村出身なのだそうである。同じ出身なのだからジンライと似ているのもおかしくはないとはカールは言っていたが、それにしても似ているのである。

(というか、師匠の孫って言われたら信じちゃいそうだよね。ライルよりも師匠に似てるし)

そんなことを考えている弓花の前では、カールがミナカに尋ねていた。

「それでどうした? オロチたちはいないのか?」

カールの問いにミナカが少しだけ苦笑しながら口を開く。

「そうですね。もうその怪我では無理でしょうけど一応伝えておきます。実はレイサンの街に滞在したときに緊急クエストの依頼が来たんですよ。そのクエストを受けるためにひとまずは私だけタケチカに乗ってここまで来て、あなたを連れて帰ろうと考えていたわけです」

なお、タケチカとはオロチがテイムしたハイプラズマパンサーと呼ばれる魔物の名である。

「ふむ……緊急か」

「あ、私外そうか?」

重要な話になりそうだと考えた弓花が口にしたが、ミナカは首を横に振る。

「いえ、実はそちらにも多分お願いが行くかも知れないですし、ひとまずはユミカにも一緒に聞いておいてもらった方がよいです」

「どゆこと?」

首を傾げる弓花にカールが苦い顔で口を開く。

「どうやら大物のようだな」

「ええ、ユミカはまだ聞いてはいないと思うけど、実は先月に私たちはツヴァーラで超獣ベヒモスの討伐をしたのよ」

「へぇ。あのやたらでかい角付きのカバだよね。それ」

弓花はゼクシアハーツ時代に己の持ちキャラのアーチが無惨に踏み潰された光景を思い出しながらそう口にした。それはベヒモスの体力があり過ぎて自爆特攻でも削りきれず、潰されて死にまくった苦い記憶である。

「あれはやばいよねー。あんなのリアルで遭遇したくないわー」

うんうんと唸る弓花にミナカが「それがね」と続けて言う。

「さらに三匹出現したっていう話なの。だから私たちも討伐にこれから向かうのだけれど、こんな事態だからランクS冒険者には連絡が行くと思うの」

ミナカの言葉にカールと弓花が眉をひそめる。それは確かに緊急案件のようであった。

「つまり共闘って話になりそうなのかな。それ?」

ポリポリと自分の頬をかきながら言う弓花の横でカールが悔しそうな顔をしている。どうやら凄く行きたいようだった。