作品タイトル不明
第五百二十六話 ダイナミック踵落としを喰らおう
「ふんっ」
巨大なランスが回転しながら弧を描いて天井に突き刺さる。すれ違い様にジンライがタツヨシくんケイローンのランスを弾いたのだ。
「なーっ!」
もっともランスを飛ばされたからといってケイローンの攻撃が止むことはない。畏れも迷いもゴーレムにはないのだ。故にもう片方の手にある大盾を振るったがそれはシップーがすり抜けてかわした。
「いいぞシップー!」
「なーごっ」
シップーの頭を撫でながらジンライは考える。
(全く手間のかかることだ)
ジンライは己の槍を振るいながらタツヨシくんケイローンとの対決を続けていた。だが、やはり決め手に欠ける。ジンライも動力を破壊するので良いのであればすぐさま止めることもできるが、そうするわけにはいかない。タツヨシくんケイローンは風音のものだ。取り返しに来たのに自分たちで完全破壊しては本末転倒も良いところだろう。
「役割を間違えたかな?」
「なーー」
ジンライの言葉にシップーが鳴いた。
狂い鬼のパワーとユッコネエのスピードとスキルがあればどうにかなったかもしれない。しかし、今はそれを口にしていても仕方がない。そう考えたジンライだが、何かしらの予感を感じて天井の方を見た。
「む?」
音が聞こえる。そして気配を感じる。ジンライは全身の毛が逆立つような悪寒を感じた。危機が迫っていると直感した。
「こりゃいかんっ」
ジンライはシップーを全速力で走らせると、封印の間にいる三人の元へと向かった。
「え、なんです?」
そんなクーロの声も無視してジンライはクーロ、ユズ、ナイラを抱えて外に向けて一気に走り出した。タツヨシくんケイローンがそれを追いかけるが、本気のシップーには追いつけない。
「な、何をッ」
そして、唐突なジンライの行動にベネットが声をあげるが次の瞬間にはその理由が明らかになった。天井が突如として崩れ落ちたのだ。
「あれは『クルミワリニンギョウ』!?」
その中で垣間見えた巨大な人形の姿にベネットは驚愕する。二十メートルはある木の人形が、三メートル以上はあるだろう黄金の巨人に踵落としをしていたのだ。そして、
「いかん。退避だっ! 退避しろ!!」
ベネットが兵たちに声をかけながら逃げていく。
塔の破壊は止まらない。『クルミワリニンギョウ』の踵落としは巨人を連れてさらに下層に向かって突き進んでいく。
街の人々はその光景を見て愕然としたことだろう。
王城と建ち並ぶトゥーレの象徴『セフィロの塔』がその頂上から凄まじい破壊音と共に煙をあげて下へ向かって崩れていくのだ。
『ウワァアアアアアアアッ!!』
『ブッ潰れろぉぉぉおお!!』
その破壊の中心には二体の巨人が存在していた。マテリアルシールドを連続発動させながら耐える風音のロクテンくんと、その反発力すらも押し込みロクテンくんを潰そうとするワルギレオの『クルミワリニンギョウ』である。
その状態のまま両者は塔の一階まで突き進み、
『ゥァアアアッ!?』
ロクテンくんは叩きつけられた衝撃でバウンドして塔の外へと投げ出された。それを一階で戦っていた弓花たちやトゥーレの兵たちが目撃する。余りにも唐突な状況に双方の動きがピタリと止まった。
『母上ッ!?』
「危ねえ、下がるぞタツオ」
突然の母のピンチな姿にくわーっと叫ぶタツオをレームが引き留める。周囲の兵たちもその場で呆然となって見ていた。
守護兵装『クルミワリニンギョウ』。
トゥーレの守護神である人形が、突如として塔を破壊しながらやってきて、黄金の巨人を踵落としで地面に叩きつけて弾き飛ばしたのだ。当事者以外の誰しもが驚きを持ってその状況を見ていた。
もっともワルギレオ本人は周囲の状況など見てはいない。風音の乗っているロクテンくんのみを注意深く眺めて口を開く。
『塔の頂点から叩き落としても無傷か。頑丈だな』
ワルギレオは『クルミワリニンギョウ』をゴーレムハックによって歴代の使い手の誰よりもうまく扱える。だから、放った踵落としは不可視の障壁によって『防がれていた』ということも当然把握していた。
『無傷じゃないし』
もっとも風音に言わせれば己の状況が無傷であるとは言い難い。連続で放ち続けたマテリアルシールドと地面に叩きつけられた衝撃も併せて、中にいる風音の負担は少なくなかった。
そして、風音は周囲を見る。場所は正門の外。仲間たちは崩れかかった塔の中にいるようである。
(はー、一階まで落とされたか)
天幕から飛び出て唐突に放たれた『クルミワリニンギョウ』の一撃を防ごうとしてのこの有様である。踵落としひとつで塔が倒壊しかかっている。凄まじいパワーだと言わざるを得なかった。
『まあ、気を取り直していっちょやりますか』
風音はロクテンくんを起き上がらせる。
『む?』
次の瞬間にはワルギレオはロクテンくんの瞳の部分が輝くのを目撃した。それを不審に思った時にはそれは発射されていた。
『メッガビームッ!!』
風音の声と共にロクテンくんの頭部から巨大な光が放たれたのだ。そして『メガビーム』の光が『クルミワリニンギョウ』へと突き進む。しかし、その光も『クルミワリニンギョウ』には届かない。
『効かんわなッ』
ワルギレオは叫んだ。 魔力の川(ナーガライン) から流れてくる膨大な魔力によって『クルミワリニンギョウ』の周囲は魔力の飽和状態となっていた。それ故にメガビームの光は直撃する前に勢いを弱めてそのまま霧散してしまった。
(こりゃあ、キツいか)
どうやら光線技などは効かないらしいと風音は理解し、眉をひそめた。そしてそのときである。
『風音ーーー!!』
銀の光が『クルミワリニンギョウ』を通り過ぎて風音の元に向かってきたのだ。
『弓花ッ? ってデケェ!?』
風音が驚愕する。完全狼化の弓花だと思ったら、いつものふた回りは大きい狼が駆けてきたのである。風音も思わず攻撃しかけたほどの迫力があった。
『何その格好?』
『よく分かんないけどパワーアップ?』
弓花は風音の問いに疑問系で答えながら、槍をアイテムボックスに仕舞って完全狼化を解いてからロクテンくんの前で飛び上がった。
そして身体の内部にいるヒノカグツチの力とスキル『深化』を発動させると、その身を6メートルの巨大な太刀へと姿を変えたのである。
神炎の大太刀『 焔(ほむら) 弓花(ゆみか) 』。
今や魔王の愛刀となった親友を風音はロクテンくんに握らせ、スキル『友情タッグ』によってその力を強化させる。それにより『魔王の威圧』や『怒りの波動』も増強され、ロクテンくんの周囲に凶悪なオーラが立ちのぼった。
『行くよ弓花ッ!』
『オオッ!!』
そして黄金の翼を広げたロクテンくんは、6メートルの炎を帯びた大太刀を構えながらスキル『ブースト』を発動させて突進する。
『ハハハッ、狼が刀になったか。さすが魔王、魔性を従えるかッ!』
『なんか誤解されてるッ!?』
ワルギレオの感心した声に弓花が衝撃を受けるが風音は弓花に聞こえぬように『いや、誤解ではないと思う』と呟いていた。さらには上空からも何かがやってきたのである。
『にゃーーーー!!』
その何かとは黄金竜。すなわち『竜体化』スキルを使ったユッコネエが黄金の高熱ガスを吐きながら降下してきたのだ。その背には狂い鬼が乗り、棍棒を巨大化させて振りかぶっていた。
『黄金の竜に黒鬼か。魔王めッ! 等しく正義の鉄槌を喰らわせてやろうッ!!』
そして風音の剣撃が繰り出され、ワルギレオはそれの攻撃を右腕で振るって弾き返し、空からの高熱ガスブレスは防御すらもせず、ユッコネエの腹を左の貫手で突き刺した。 さらには狂い鬼の棍棒が振るわれるが、それを『クルミワリニンギョウ』は額で受け止め、
『軽いなッ』
一気に勢いをつけて弾き飛ばした。
魔王と竜と鬼の三体がその場で吹き飛び、風音が駄目押しにと常備していた爆弾光輪を近距離で爆破させてもみたが、まるで効果がないようだった。
(なんてヤツッ!?)
空中でクルリと回転させながらズシャンッと地面に足を着けたロクテンくんの中で風音は『クルミワリニンギョウ』を見た。
『こりゃキツいね。攻撃が通らないや』
『ジークは呼ばないの?』
大太刀から響く弓花の言葉に風音が眉をひそめる。
『いや、ジークだと勝てない』
風音ははっきりとそう言った。
その言葉に弓花は驚くが、ジークは『クルミワリニンギョウ』相手では相性が悪い。確かにジークは総合戦闘能力ならば『クルミワリニンギョウ』にも負けていないかもしれないが『クルミワリニンギョウ』には 魔力の川(ナーガライン) からの膨大な魔力供給があるのだ。時間制限があり最大火力も弱いジークではその刃をワルギレオまで届かせるのは難しいと風音は考えていた。
達良から譲渡された剣を使いこなせていれば別だろうが、まだその訓練も行ってはいないのだ。カルラ王戦の二の舞はできない。
『ハハハハハ、考え事か。俺を前にしてッ!!』
対してワルギレオは嫌らしい笑みを浮かべたままロクテンくんへの攻撃を開始する。風音も攻撃を再開するが大太刀の斬撃も炎を飛ばす攻撃も『クルミワリニンギョウ』には通用しない。再びユッコネエと狂い鬼も攻撃を仕掛けるが両手を振り回されて弾き飛ばされる。
そんな戦いを直樹たちは身体を強ばらせながら見ている。とてもではないが自分たちではそこに参加できないと、次元が違うと彼らは理解していた。それはトゥーレの兵とて同じこと。化け物同士の戦いに近づく勇気などありはしない。
そんな多くのギャラリーたちを前で自らの優位を確信したワルギレオは、先ほどまでの怒りも収まったようで今は笑いながら風音たちを追い詰めていた。
『ぉぉおおおお、マオウバズーカ・ 天球爆殺(ワールドエクスプロージョン) ッ!』
それを油断と見た風音がロクテンくんの最後の手段を発動させる。それは阿修羅王モードでのカザネバズーカだ。魔王アスラ・カザネリアン最大火力の必殺技であり、まるで巨大な牙のような炎の竜巻が『クルミワリニンギョウ』へと激突する。
『よっしゃあッ』
マオウバズーカにより『クルミワリニンギョウ』はそのまま50メートルは飛ばされ、塔近くの建物をも破壊して土煙が舞った。
『やっ……たぁ?』
だが、風音は目を丸くしてその光景を見ていた。舞い上がる土煙の中で『クルミワリニンギョウ』は平然と立っていたのだ。見る限りダメージもないようである。
『うそぉ。まるで効いていない?』
『いや、さすがにこれは届いたぞ』
驚愕している風音に対しワルギレオもその顔には驚きがあった。確かに今の攻撃は『クルミワリニンギョウ』の防御を突破してダメージを与えていた。しかし、ワルギレオはすぐさま笑みを取り戻す。今のが風音のもっとも強力な技であるならば、もう『クルミワリニンギョウ』を倒す手段はないとワルギレオは考えたのだ。
『これで終いか? ならば、やはり俺の勝ちだな』
そして、余裕を見せるワルギレオに風音は唸る。
『風音……』
弓花の声に不安が宿っていた。
『アーチ呼ぼうか?』
『使えないから』
風音は即答した。
(しっかし、ここまで圧倒的とは……『見習い解除』で 魔力の川(ナーガライン) の供給を絶てるかも分からないし、こうなりゃダブルで仕掛けるしかないか)
そこまで考えて風音は今度こそ覚悟を決めた。
『弓花、ごめん。ちょっと行ってくる』
『え、風音?』
その言葉に弓花が呆然とする中、風音は突如としてロクテンくんから飛び出した。
「スキル『見習い解除』発動ッ!」
そして風音の言葉によりスキルが発動し、天より光が降り注いだ。
『なんだ。貴様……それは?』
それは魔力の光だった。『クルミワリニンギョウ』と同じく 魔力の川(ナーガライン) が接続されたのである。
ワルギレオが驚きの顔で見ている前で、続けて風音の姿も変化していく。
頭の左右から大きな角を生やし、天使の翼とドラゴンの翼の二対をはためかせ、背に光輪を、そして猫っぽい尻尾と耳が現れた。変化した風音はワルギレオを睨みつける瞳を虹色に輝かせながら、牙の生えた口でワルギレオにこう告げた。
「時間がないから一気に決めるよ」
風音はゴーレムメーカーを発動させるべくウィンドウのスキルリストを開く。そして風音がゴーレムメーカーの保存データの中から選択し発動させたデータ名は『天空都市カザネーランド』と書かれていた。
その直後、崩れたセフィロの塔を中心として王都イプシロンに激震が走った。