作品タイトル不明
第五百二十五話 徹底的に煽ろう
「ゆくぞシップー!!」
「なーーー!!」
雷のステップを踏みながら風の如き速度でシップーがジンライを乗せて部屋の中を駆けめぐる。それをアダマンチウム製の巨大なランスと盾を持ったタツヨシくんケイローンが追いかけていく。
(さすがに追い付かれはせんが直線では距離が狭まる。なんという速度だろうな)
ジンライはケイローンの速力に舌を巻く。もっとも下半身はヒポ丸くんなのだと考えれば、その速度も頷けるものではあった。
「シップー」
「なーーーっ!」
ジンライの声にシップーが鳴いてUターンする。
シップーはタイムロスなくジンライの意思を読み取り動くことができるのだ。人猫一体。ひとりと一匹は一個の存在となって迫るケイローンへと突撃していく。
「ぬぉっりゃあ!!」
そしてジンライは突き出されたランスをシップーに避けさせ、そのまま自分はカウンターの一撃を見舞った。
放った技の名は『風神槍』。ハイヴァーンでは失われた槍術であり、弓花から遅れはしたもののジン・バハルより会得した技だ。ケイローンの懐で暴風のような闘気が膨れ上がり、ケイローンは吹き飛ばされてそのまま壁に叩きつけられた。
(ふむ、なかなかに厄介か。問題なのは破壊できぬということだな)
ジンライはダメージもなくすぐさま立ち上がったタツヨシくんケイローンを見ながら、再び二本の槍を構える。ベビーコアを破壊すれば動きは止められるが、それでは風音が泣いてしまう。かといってジンライとシップーだけでは動きを止めるのは難しい。さて、どうしたものかとジンライは考える。
「グォオオッ」
「にゃーーー!!」
そして、部屋の片隅ではまだ倒れていない兵やベネット、さらにはベネットの操るゴーレムジャガーを相手に狂い鬼やユッコネエが戦いを開始していた。
ヒヒイロカネ製のゴーレムジャガーの速度はユッコネエには及ばないが、しかし五体という数は驚異だ。もっともユッコネエの直感があればその対処は不可能というほどではなかった。
「にゃーーー!」
迫るゴーレムジャガーにユッコネエは振り向きざまに高熱ガスを浴びせてその動きを封じた。金属が溶けて動きを停止したのである。
「何?」
ベネットが目を見開くが、しかし一方では動きの鈍そうな狂い鬼もゴーレムジャガーの一体を破壊していた。ユッコネエからのスキル『情報連携』により、狂い鬼にもゴーレムジャガーの動きは把握できていた。
ユッコネエとしては狂い鬼とのタッグなど「にゃにゃっ」という気分でいっぱいなのだが、主である風音の指示には逆らえない。そして狂い鬼とのタッグ戦闘の訓練はここまででかなりの時間に及んでおり、ユッコネエの意思に反してコンビネーションは抜群であった。
「凄まじいですね」
その様子をクーロが封印の間の中から見ている。遠目から見ていればジンライたちの実力はよく分かる。
ジンライたちは相手を殺す気、破壊する気で挑んでいない。甘いとも言えるが、それだけ余裕であるという事でもあった。
「あれがライルたちの……お爺さん」
ナイラが呟く。ずいぶんと若返ったとは聞いていたが、それにしてもハイヴァーンで以前に出会ったときの老人の姿とは違いすぎていた。
「オーリングの方々も来ているようですよ」
クーロの言葉に「え、本当?」とユズが尋ねる。そのユズにクーロは頷きながら天井を見た。
「ええ、そしてカザネさんとワルギレオ兄さんも今……」
クーロの目が細まる。戦いは塔の頂点で決するとクーロには分かっていた。そして風音とワルギレオもまた、教祖の間で対峙していたのであった。
◎セフィロの塔 教祖の間
『まさか、この正体がバレるなんてね』
ワナワナと震える風音に、ワルギレオは笑う。
「ふっ、ほかのモノはごまかせても俺には通じない。俺には最初から分かっていた。」
(こいつ、天才かッ!?)
風音はそう思うが、ワルギレオが知ったのはつい先ほどであり、ベネットに教えてもらったからであって現在も確証なく口にしていたのだから、乗せられた風音が勝手に認めてしまっただけである。
『けど、どうあれやることは変わらないよ』
「なるほど。戦う気か、この俺と」
ロクテンくんが黄金の翼をはためかせて宙へと浮かび上がる。そして風音の意思を受けてワルギレオに向かって特攻する。
「やれっ『ダンシングドール』」
同時にワルギレオが声をあげ、後ろの天幕からアダマンチウムの装甲を纏った黒い人形が飛び出した。
『まさか、人形?』
「そういうことだ。初代王の残した遺産、それだけでも十分に強力ではあったが」
人形の振るう双剣をロクテンくん阿修羅王モードで受け止めるが、瞬時にその姿が消えた。
「お前が小娘に与えた人形の動作のパターンをベースにさらに進化したのだ。かつての初代王の操っていたスペックに追いついた」
(回転……蹴り?)
消えたのではなく回転。あまりの速さに目が追えなかっただけ。そして蹴りがロクテンくんにぶつかろうとしたとき、瞬時に不可視の壁がロクテンくんから全方位に放射された。
「ほぉ?」
その壁によってはじき出された『ダンシングドール』がクルクルと回転し、弾丸のような速度で壁に叩きつけられる。
『人形があったことには驚いたけど、速いだけじゃあ私には勝てないよ』
ロクテンくんの中の風音がそう返す。緊急回避用の全方位『マテリアルシールド』の発動はただの物理攻撃の力押しでは抗せない。
そして、壁に叩きつけられた『ダンシングドール』はそのまま床に落ちたが、すぐさまシャキンと立ち上がった。
(けど、ダメージはなし……ではないか)
人形の動きが若干鈍っているのは見ていて分かる。関節部分に負荷がかかっているのだろう。であれば、もはや驚異ではないと風音は考える。
『じゃあ、こっちも本気で行くよ』
風音はそう宣言して六本の腕と両足を伸ばし、そのまま人形に向かって飛んでいく。
「速いな」
ワルギレオが目を細めて集中する。しかし、背後を壁に遮られた『ダンシングドール』ではロクテンくん阿修羅王モードの『天翼八斬』、いや翼の攻撃も加わった『天翼十斬』は防げない。
『うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃッ!』
風音の叫び声と共に斬撃が『ダンシングドール』に向かって降り注ぐ。
スペル『フライ』を使って宙に浮かび、六本の剣と両足、さらにはスキル『ウィングスライサー』により凶器と化した翼を用いた十の刃の同時攻撃。それが絶え間なく続く斬撃地獄はまるで削岩機のように壁ごと『ダンシングドール』を破壊していく。手や、足が、首が吹き飛び、そしてその行動が完全に不可能な状態となったとき、ワルギレオは動いた。
「ゴーレムハックッ!」
『えっ?』
気が付けば周囲に奇妙な術式が張り巡らされていた。それはワルギレオの固有スキルとでもいう能力。ゴーレムを解析し、ゴーレム使いからその操作を奪い取る、彼だけの『力』だった。
「その鎧、マッスルクレイを用いたゴーレムだな。それもお前もどちらも俺のものにしてやろうッ」
ワルギレオがそう叫んで術を発動させた。
「わははははははは……は、は?」
術の発動を感じ取り、ワルギレオは勝利を確信する。だが、その顔はすぐさま驚愕のものとなる。接続されないのだ。目の前のロクテンくんに。
「ゴーレム……ハックが効かない?」
『効かないねえ』
ワルギレオの表情を見て、ロクテンくんの中の風音がニタリと笑った。タツヨシくんケイローンにも通じたワルギレオのゴーレムを奪う術が効かなかったのである。
ロクテンくんは通常時の第六天魔王モードではリビングアーマーではあるが、現時点では風音の義体としてゴーレムとして動いている。しかし、ワルギレオの術は効果を現さない。
『ゴーレムを奪う力だっけ? それがあるからそちらのーワルギレオくんはゴーレムマスター教会のー、なんばーわんにーなれたんだっけー?』
風音がここぞとばかりに口を開いた。煽っていくスタイルである。
『うんー、そうなんだー僕ワルギレオー。ちんけなー泥棒技でー褒められてー、ふんぞり返ってるのーー』
全く似てない物まねをして風音が自分でブフォッと噴き出している。ワルギレオの顔に青筋が浮かんだ。腹立たしいことこの上なかったのだ。
『けどーご自慢のー技がー効かないって事はー私のーゴーレム使いとしてのー力の方が上ってことだよねー。ああ、これ重要』
なお、実際のところアーティファクト『 無限の鍵(インフィニティ・キー) 』でハッキングできないようにロックをかけているので厳密には風音自身の力ではなかった。
タツヨシくんケイローンを奪取された経験から、風音はジンライの義手などを含め己のゴーレムにはすべてこのロックをかけていた。故にワルギレオには風音のゴーレムを操る手段はもうない。風音はワルギレオの顔が怒りと驚きに歪んでいくのを見て、さらに仕掛けていく。
『あ、落としちった』
ぺたんとロクテンくんの装甲の隙間から余りにもわざとらしく本が落ちた。恐ろしく作為的ではあるがワルギレオはその本のことを尋ねなければならなかった。本の表紙に書かれている文字を捨て置けなかったのだ。
「なんだ、それは?」
『私が造ったゴーレム使い用のグリモア』
風音の言葉にワルギレオが噴いた。
ゴーレム使いが権力を握っているトゥーレ王国。その中でもゴーレムマスター教会の権力が絶対的である理由は洗礼の間というゴーレム使いを生み出すグリモアフィールドを独占しているためである。しかし、教会の権威を覆すシロモノが目の前にある。
『もう大量に生産中でねー。ミンシアナにはすでにこれで何人もゴーレム使いが生まれてるわけ。あーごめんごめん。見せるつもりはなかったんだけど、見せちゃったわー。私の凄いとこ見せちゃったわー』
風音の言葉に、ギリギリと歯ぎしりしながらワルギレオが尋ねる。
「どういうつもりだ? お前の目的は一体なんなんだ?」
『えーとね。ゴーレムマスター教会ナンバー1の座かなー』
そして風音ははっきりとそう告げた。ワルギレオの顔が呆気にとられる。
『色々と考えたんだけどさ。ソレが一番『あんたに嫌がらせになる』と思ったんだよねー』
その言葉にワルギレオは今度こそ絶句した。
「嫌がらせ? それだけか。それだけでお前はそこまでするのか?」
あまりにも理不尽な話だとワルギレオは感じた。だがもう風音の言葉には冗談の色はない。
『そこまでさせるほどあんたは私たちを怒らせてくれたからね。で、気持ちの上で同じぐらいの怒りを与えるにはどうしたらいいかずっと考えてたんだよね』
相手に最大限のダメージを与える方法を風音はずっと考えていた。なにしろ相手は実質的な一国の最高権力者だ。上手くケイローンを取り戻して、ユズたちを救い出せたとしても、相手にとってはそれほど大したことではないかもしれない。それにマッスルクレイなどについても引き続き抗議と嫌がらせも続けてはくるだろう。だから風音には根を絶つ必要があった。そして風音は続けて言い放つ。
『それにさ。そこまでしないと止まらないよね。あんたは?』
「貴様ァアアッ!!」
ワルギレオが恐ろしい速度で走り出した。そして、ロクテンくんへと向かって懐から双剣を取り出して斬りかかる。
(速い。いや、この動きはッ!?)
その唐突な攻撃に風音は驚きの顔をするが、対処できないほどではない。ロクテンくんを動かし十の刃でワルギレオの剣を止め、動きを止めるために手足を切り裂いた。しかし、その感触は金属と木のソレであったのだ。
『え、人形ッ?』
風音はその感触を先ほど破戒した人形と同じものだと気付いた。
『ハハハハハハッ、馬鹿がっ』
さらには聞き覚えのある声が奥の天幕の中から響き渡る。目の前で斬ったはずの男の声が別のところから響いてくる。
(今のは偽装の人形? そしてあの中にはッ)
『そうか、分かった。貴様は俺の敵か』
天幕から響く声には深い怒りが込められていた。そして、天幕を突き破って巨大な木の人形がロクテンくんへと突撃する。
『ならばもう良い』
『これが守護兵装!?』
風音が目を見開いてその姿を凝視する。
守護兵装『クルミワリニンギョウ』。その胸のクリスタルの中にいるワルギレオが血走った目でロクテンくんを睨みつけながら、飛びかかる。
『さあ、決着をつけようかカザネッ!』