軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十一話 温泉饅頭を食べよう

◎トルダ温泉街 ルイーズホテル 中庭

「ぐぐぐぐぐぐ」

振動で風音がプルプルしている。

「どう、どうなの風音?」

横にいる弓花はどこか心配そうに見ている。

「ぐぐ、ぐうだよ弓花」

その弓花に対し風音はにっこりと笑って自分が無事であることを伝える。

「肩、腰、足。その辺りに手を加えて加減を調整してる。元々は拘束用のゴーレムだけどこいつは効くねえ。う、つうう」

風音が今手掛けているのはデフォルトの拘束用ゴーレム・メイデンちゃんの改良型でマッサージチェアのマサさんと名付けている。

「あれ風音?」

風音の顔がちょっと歪む。

「む、強すぎて、ぐ、あがががが、痛い」

「ちょっと風音、大丈夫?」

「いたいいたいいたたたたた、か、解除ッ」

風音がゴーレムを解除する。とたんに風音の座っていた椅子がボロっと崩れた。

「うう、失敗。やっぱり加減が難しいよ弓花」

かなり涙目の風音が弓花に言う。

「まあ本物はそこらへん改良に改良を重ねて商品として出しているわけだからさすがに即席でどうにかなるもんじゃあないわね」

弓花もガッカリした顔で崩れた椅子をみる。

『何をしているのだ、あの娘たちは?』

「さて、よくは分からんのですが、どうも人工的に身体を揉んでくれるゴーレムを造ろうとしていたようですな」

少し離れたところからジンライとメフィルスが見ている。

『珍妙なことを考えるものだな』

「ですな。とはいえ、あの高い柔軟性こそが彼女たちが強い秘密なのかも知れませんが」

『なるほどのぉ』

「けどうちのホテルの庭であんなもの造られても困るんだけどね」

『まあのぉ』

3人がそうこう言ってるうちに風音がゴーレムを動かし、崩れた岩を元の位置に戻していく。もっとも崩れたままなので崩す前とは形も変わってしまうのだが。

ちなみにティアラは一人で温泉に行っている。どうも温泉をもっとも気に入ったのは彼女であるようだった。

◎トルダ温泉街 ルイーズホテル Sクラスルーム 翌日

「それでは第6回パーティ会議を始めます!」

風音が口を開いた。周囲には弓花、ティアラ、ジンライとさらにメフィルス(小鳥獣)を抱えたルイーズがいた。ちなみに第5回は王都に向かう際に二手に分かれた日の前の夜である。そのときはハナビの件でジンライが猛烈に怒ったので風音は涙目で司会進行をしていた。

「えー前回からメンバーも増えています。正式メンバーとなったティアラにオブザーバーのお爺ちゃんに」

ティアラが名前を呼ばれて満面の笑顔で微笑む。

「あとルイーズさんも本日より新規参加です。で、ホントに来てくれるの?」

会議を開いた理由は、ここから先のこともあるがルイーズが一緒に行くと言い出したことが発端だった。

「もちのロンよ。メフィルスにジンライくんがいて、あたしが行かないなんてズルいじゃない」

ちなみに年齢は風音15歳、弓花15歳、ティアラ17歳、ジンライ58歳、メフィルス62歳で平均33歳という熟練パーティくらいのかなり高い平均年齢だったがルイーズ126歳が加わったことで一気に平均49歳にまで跳ね上がった。気分は老練パーティである。

「ルイーズさんは主に防衛魔術や回復魔術が主体で、サポート用の召喚も行えるんだって」

「召喚のことでのティアラちゃんへの指導もバッチリよ」

『召喚を学ぶなら余一人で十分よ。ルビーグリフォンなら余が一番上手く扱えるというのに』

「あんたの教えだと威力重視で偏っちゃうもの。女の子なら召喚獣はもっと繊細にね」

そう言いながらニギニギするルイーズの手が妙に艶めかしい。

「ワシは文句は言わんよ」

と、言ったのはジンライ。

「正直、ルビーグリフォン戦では防御系の遣い手がいればと何度も思ったものだ」

そのときに思い浮かべていたのが、ルイーズだった。ジンライはあの風音のムチャをサポートできる人間が必要だと考えていた。

「じゃあそういうことで決定で」

風音は締めくくる。

「続けてウィンラードへ戻る途中をどうするかということだけどね。当初の予定通り本日は温泉ざんまいで休日。そんで明日はせっかくだから少し寄り道してダンジョンにちょっと挑戦してみようと思うんだ」

そう言いながら風音はジンライを見る。こと戦闘に関することならジンライの判断を仰ぎたい風音だった。

「今ここでその話が出たという事はルイーズ姉の差し金だろうな」

「差し金だなんて酷いわ。あたしはちょーっと手頃なのが近くにあるからどーお?って聞いただけよぉ」

「別にいいんですがね。カザネ、ダンジョンにはどの程度潜る予定なんだ?」

実のところ、オーガ討伐の催促がギルドから届いている。

「二回ぐらいかな。どういうものか体験したいだけだし、二日入って翌日は休んで、それから出発ってところ」

「そこからウィンラードまでにちょうど良い温泉街があるのよ」

それが狙いだろうなとジンライは思ったが口には出さなかった。メフィルスも然りである。

「分かった。だが帰りにオーガ狩りをしておきたい」

オーガキラーの称号……というよりは義務感とギルドに対しての配慮を考えると、それは加えたかった。

「うん。分かった」

風音も異論はないようで、即答で返す。

「うん? オーガってカザネたちずいぶんと危険な魔物を狙うのね」

そこにルイーズが口を挟む。

「そうか、ルイーズ姉は知らないのだったな」

ジンライはルイーズの反応に頷く。

なにが?……とルイーズは首を傾げるが、ジンライは「見ていれば分かりますよ」と言って会話を終えた。

◎トルダ温泉街 中央広場 石碑前

「温泉饅頭、美味しいねえ」

「うん、そうね」

風音と弓花は揃って街で売られている特産品を口にしていた。

風音はホテルに向かう途中に見かけたその饅頭が気になっていた弓花と二人で饅頭を買って食べていた。なおティアラはまた温泉に行っていた。

「叔父さんが温泉好きでさ。よくお土産でもらってたんだよねえ」

「あんた時々お裾分けってんで教室でくれたっけ」

弓花が懐かしそうにそう口にする。

「本当にここまで同じものを造るのは大変だったんだろうな」

「一からずいぶんと頑張って作ったんだろうね。出来上がったものを食べたとき、どんな顔してたかな」

「きっと私たちと同じ顔してたと思うよ」

「そうかな」

弓花が泣いていた。風音も泣いていた。この街の中央広場にある石碑を見て二人は泣いていた。

トルダ温泉街。

その街が作られたのは約600年前になる。

それまではこの地方に温泉という文化はなかったのだという。

お湯が湧き出ていることで一部冒険者たちは好んで湯に浸かることもあったが周囲の魔物を警戒してのことだったので普通の人間が楽しめるものではなかったのだ。

そこに遠い国から来た異邦人が「だったらお湯の湧き出る場所に街を造ってしまえばいいじゃない」と言って作り始めた。異邦人は高ランクの冒険者で様々な知識と旅の途中で手に入れた巨万の富を使って街を建設していった。

当初、温泉などというものを知らぬ人々はそれを忌避していたが、これもまた異邦人の人脈で様々な英雄や王侯貴族などを客として呼び寄せることで認知度を高めていくことに成功する。

そして異邦人はやがてこの国の王女に見初められ、旅の功績もあってこの国の王となった。紅玉獣の指輪もこの異邦人によって王女にもたらされたものだということだった。

王の名は『タツヨシ・ツルーグ・ツヴァーラ』。タツヨシ王はこの街に石碑を置き、自らの言葉を伝え残していた。

『いつか来るかもしれない同胞よ。故郷を同じくせし異邦人たちよ。

私はここで様々を成し、様々なものを得た。

残念ながらかつての世界には戻れなかったが、だが後悔のない人生だったと言えよう。

そして私は恐らく神の言葉を聞いた。ここは私たちの世界だと。

ならば私たちはここで生き抜く権利を持っている。

もしかすると今は辛いかもしれない。或いは死ねば元の世界に帰れると思うかもしれない。だが、私は君たちに楽しめと言いたい。

ゼクシアハーツを知るものよ。私はここにいた。ここで生きた。それはゲームではない。現実だ。

世界を楽しみ、人生を楽しめ。私たちは飛ばされたんじゃない。

ここにたどり着いたのだ』

そう、書かれていた。その意味するところはこちらの世界の人間には不明だろうが風音達には痛いほどに分かる言葉だった。そしてその文が書かれた石碑の下にはこの世界のものではない文字が刻まれていた。

P.S TATSU☆YOSHIを知る人へ

ゆっこ姉か、風音か、やす君か、JINJINへ。

そこらへんの誰かが見てくれることを望んで書いときます。

ごめん、帰れなかったよ。

色々やったけど無理だった。

ダンジョンの先は僕たちの世界ですらなかった。

だけど僕は幸せだった。きみたちもそうであってほしいと思う。

ささやかだけど贈り物を遺しておきます。

BY 剣井 達良

風音は涙をボロボロとこぼしながら、その書かれた日本語を読んでいく。その文は確かに風音のよく知る人物の文章だった。あの気弱そうな小太りの彼のものだった。

そしてすべてを読み終わった後、風音はポツリと呟いた。

「600年は遠すぎるよ達良くん」